Next door


その街の中央には、大きな紫陽花が聳え立っていた。いくつもの花を1つにまとめた様は、紫陽花の花束に見えなくもない。しかし大きさだけなら高層ビルを優に3つはくっつけたかのようなその姿は、どちらかといえば、花というより巨木か巨大きのこだろう。メインの花の塊から段違いにに5つ、茎には花のまとまりがついていた。
青・紫・ピンク・白と濃く淡く、花びらが色づいている。
無論、自然界の植物ではない。その建物の名前はオルタンシア。見た目の通り、紫陽花である。
花の塊の内部が部屋になっており、そこにはずらりと本が並べられている。
書籍の貸し出し、そして販売も行う、図書館兼書店である。

そしてもう1つ忘れてならないのは、沖合に浮かぶ海上レストラン、バラティエだ。
尾頭つきの、ファンシーな魚の形をした船で、基本的には街の沖合に停留しているか、近場を回って客を楽しませている。たまに、何日か航海をしながらの営業も行なっているらしい。
そこで働くコックたちは、戦うコックさんと呼ばれ、腕に覚えのある者ばかりである。そこらのチンピラより、よほどチンピラだとの噂まである始末だ。
多少扱いが難しいことが難点だが、本も出せば雑誌にも載る、有名人たちなのだ。
もちろん料理の腕も超一級。毎日昼夜問わず、多くの客が押し寄せる大人気店である。

これは、そんな街に引っ越してきた1人の女と、そのマンションの隣の部屋に住む、色々とダメかもしれない男のお話。

more & more