Day1
「こんばんは」
ぞくり、と鳥肌が立ちそうな少し掠れたその音に、反射的にドアに鍵をかける手を止めて声のした方を向くと、オトコマエが隣の部屋から出てくるところだった。寝起きなのか気怠げな瞳に色気を宿す金髪のオニイサンだ。
「こ、んばんは」
一瞬つまったものの、どうにか言葉を押し出し軽く頭を下げた。
ああ、なんでわたしったらこんな適当なカッコしちゃってるんだろう。
――A.それは仕事が終わってさっさと着替えたからです。部屋着のスウェットに。
しかも手にゴミ袋なんか持っちゃってさ。運命の出会いもなにもあったもんじゃないっての。
いや、でもこんなオニイサンはなんかやだ。
と思ったけど、出てきたオニイサンの手にはゴミ袋が2つ。あら奇遇。
わたしが3日前にここに越してきたときには、このお隣さんは留守だった。それから1度も顔を合わせたことがないどころか物音ひとつしなかったから、どこに行ってたかは知らないけど今日帰って来たところなんだろう。
同じように持ったゴミの袋に親近感を持ちながらそんなことを考えていたら、その色男が目の前にいて肩が跳ねた。ご丁寧にも背を丸めてわたしに視線を合わせてくれている。
「どうかしたかい?」
「い、いえ!!」
「そ?んじゃ名前、教えてもらえるかな、お隣さん?」
薄い唇が弧をかいて、瞳が細められた。
普段のわたしなら、名前聞くときは自分から名乗るものじゃないの?、とでも思いそうなものなのに、そのときは不思議といやな気がしなかった。
これが、わたしと彼、サンジさんとの出会いだった。