据え膳では御座いません

※ちょっとえっち



「榊葉ちゃん」

太宰さんが私の名前を呼ぶ。こういう時は大概、良くない事が起こると、私は既に熟知していたが、相手は五大幹部の一人で、私は幹部直麾部隊の隊員でしかないから、逆らう事など出来る訳がないのだ。
一間置いて、私は太宰さんの方に振り向く。彼は柔和な笑みで私を手招いていた。他人からみたら機嫌の良さげなその表情だが、私から見たら死刑宣告の何物でもない。恐る恐ると太宰さんの手招く儘に近寄れば、彼は包帯で巻かれた腕を私の腕に絡ませる様にして手を繋いだ。

「うふふ。君にね、贈答品があるのだよ。私と一緒においでね」
「あの、私まだ紅葉様に報告を」
「嗚呼、大丈夫だよ。既に別の子に頼んだから」

いつの間に。否、きっと私を見つけた時にはもう先手を打って私を直帰出来る様に仕組んだに違いない。そして私が逃げられない様にしっかりと腕を絡めたのだろう。こうなって仕舞えば袋の鼠。何をしようと、何を云おうと、太刀打ちは出来ないのだ。私は早々に諦めて、太宰さんに誘われるが儘に拠点を後にしたのだった。



中原がセーフハウスに戻ると、玄関に並んだ男物の革靴と、ふた回りも小さいサイズのパンプスを見つけた。大凡、太宰と榊葉であろうと見当はついていたので、特に驚きはしなかった。何故自分のセーフハウスに彼らが居るのか、その疑問はかなり前から諦めていた。太宰が榊葉を引っ張ってきたに違いなく、それを防ぐとこなど自分も一緒にいる彼女も出来るはずがないと早々に諦めたからだ。むしろ、最近は彼らが此処にいない事の方が少ないので、中原のセーフハウスと云ってはいるものの、実際は三人の住処となりつつあったのだった。
中原が部屋へと入ると、いつも通り我が物顔でソファに座る太宰と、太宰の前に立たされて居る何故か下着姿の榊葉が目に入った。中原の存在に気づき、太宰はやあ!と明るく楽しげに、扉にいる中原に手を挙げた。

「お帰り中也。みてこの榊葉ちゃん。可愛いでしょ」

可愛い。確かにそれは同意できるがしかし、と中原は額を抑えた。
白いレース生地と大量のフリルを基に、赤いリボンで装飾された上下の下着と、これまた白いニーハイソックスと白のガーターベルト、おまけに首にも揃いのレースとリボンのチョーカーまでついていて、完全に風俗店のコスプレにありそうな品で着飾られた榊葉は、男の視点から見るに魅力満載な姿ではあるが、小さく震える自分よりも年下の少女に興奮よりも先に憐憫が勝るのは道理であろう。
それを仕組んだ当の本人はあっけらかんと至った経緯を話す。

「この前遊んだ女の子が色違いを着ててね。バリエーションを見たら、この赤色が榊葉ちゃんに似合うんじゃないかなーって思ったのだよ。矢っ張り私のセンスは間違いなかった!」
「どうしたらそういう思考になるんだよ手前は」
「えー?でも中也も好きでしょ、こう云うあからさまなの」

自分だけ常識人振らないでよ。そう云いたげな視線を太宰は中原に向ける。中原はぐっと言葉に詰まった。それが示す意味を太宰は良く分かっているから、にんまりと意地悪く笑って、目の前に立つ榊葉の腕を引いて、自分の元へと倒れさせる。小柄な榊葉の体は簡単に太宰の腕の中に収まってしまい、太宰でも受け止めることに苦はなかった。

「うふふ。でも中也がそんなに云うなら仕方ない。私だけで楽しんじゃおうかな」
「ひっ」

榊葉は小さく悲鳴を上げる。太宰の指先が、彼女の露出した腰と腹部を滑っていくと、彼女の声に合わせて薄く白い腹が波打ち、縋る様に太宰の肩を掴む指先に力が入った。そんな彼女の様子に気を良くした太宰は、下着の縁に指を引っ掛け遊び始める。

「榊葉ちゃん、此処引っ張ったら取れちゃうね」
「ゃ、やめ、て、くださ」
「この下着可愛いものね。もうちょっと良く見せて欲しいなぁ」

よいしょ、と。抱き上げる様に榊葉の脇に両手を差し込み、簡単に持ち上げられ、榊葉は太宰の腿を跨ぐように降ろされた。丁度、榊葉の胸部が太宰の眼前に晒され、下着姿の羞恥心と先程の些細な愛撫で榊葉の顔は赤く染まっており、余計にレースとフリルの白さが際立つ。じっと見つめる太宰の視線に耐えきれなくなり、榊葉は叫ぶ様に懇願する。

「もう勘弁してくださいっ」
「えー?」
「ちゅうやさぁん」
「……」

彼女にとって、唯一の救いである中原に助けを求める為、彼女は中原の方を向く。しかし、いつもなら返答があるはずの中原は無言で、何か考える素ぶりをした後太宰の上に乗る彼女を抱き上げ米俵のように彼女を肩に抱えた。助かった、と安堵する榊葉だが、漸く口を開いた中原の言葉によって絶望に落ちる。

「おい太宰。隣でヤんぞ」
「えー?中也シないんじゃないの?」
「誰がんなこと云った」
「ちぇー。私が買ってきたんだから、最初だからね」
「まあそれくらいは譲歩してやらァ」
「ま、ままままってくださ」

言葉を言い切る前に、中原の腕から逃れようともがく前に、太宰に口付けられたことで榊葉はその力を無くした。太宰の舌がきつく結んだ唇の隙間に差し込まれこじ開けられれば、彼女の体から力が抜けていく。咥内の歯の羅列を撫でられ、舌を吸われ、最後に甘噛みをされた所で、目的の場所、隣の寝室の寝台の上に放り投げられる。スプリングが軋む音を立て、二人は寝台の上に登る。薄暗い室内でも分かる程、二人の瞳は爛々と、獲物を捕らえた獰猛な獣の瞳をしていた。その視線に、榊葉の腹の奥がぐずりと重く疼く。それは此れからの行為を期待しているのだと、嫌でも榊葉は思い知らされた。結局、否定はしながらも、彼女はいつもこうやって二人に流されてしまうのであった。
今度は中原が彼女の唇に齧り付き、太宰は彼女の身体を愛撫し始め言葉にならない言葉が喘ぎ声に変わっていく。果たして眠れるのは何時になるだろうかと、榊葉は頭の片隅で考えたものの、快楽の波に攫われて理性と思考は簡単に消え去ったのだった。



「ねー榊葉ちゃん。今度はこれ着てみない?タキシード風だって」
「馬鹿野郎。こっちの黒が良いだろ」
「えーそれだったら紺じゃない?」
「なんでアンタらあんな言い合う癖にこんな時だけ仲良しなん……?」