忍足侑士との関係
気づくと、微睡の中にいた。
他の生徒は下校を既に始めていて、ローファーや上履きの音が忙しなく聞こえている。
あれから、話せてないな
ちら、と窓の外を見る。
窓際で後ろから2番目の席からテニスコートを覗くと、ラケットを振る彼の姿を捉えた。
敏捷性に富んだ足元と、揺れる髪の毛から垣間見える冷静な目線が、堪らなく私を魅了する。
忍足侑士は、隣のクラスの美青年である。
彼の周りはいつも人が多く、ましてや成績上位でテニス部レギュラーの彼を女子が放っておく訳がない。
彼の低音から発せられる関西弁は何とも艶やかで、同学年では飽き足らず先輩や先生までも虜にしてしまう具合である。
そんな彼と私がなぜ接点をもてたかというと、
図書館という場所のおかげなのだ。
そもそも閉鎖的な空間が好きで委員に立候補したものの、最近は専ら忍足侑士が本を借りることを楽しみにしている自分がいた。
今、彼の目には私だけが映っている
そんなことを考えてしまうくらいには彼だけを見つめていた。
ただ、会えるだけで良い。
言葉を交わさなくても気持ちが満ち足りた。
はずだった。
「名前さん、いつもおおきに」
甘く掠れる声が耳をくすぐった。
忍足侑士が、あの、忍足侑士が話しかけてくれたのだ。
途端に私は自分の頬が熱を持ち始めるのを感じ、
何も言葉を発せられないまま、こくこくと頷いた。
それが、きっかけだった。
私のいる図書館に忍足侑士は顔を見せに来るようになった。
その度に「名前さん」と呼ばれるのが嬉しくて、気恥ずかしくて、甘酸っぱい気持ちでいっぱいになっていく。
忍足侑士にとっては特段変わらない、普通の日常であったとしても、
私にはそれがまるで神様からの贈り物のように感じた。
ある時ついに「忍足、くん」と呼んでみた。
向こうは「ん」と軽く返事をし、その瞳が私を捕らえた。
眼鏡の奥に潜む穏やかで鋭い眼差しに心拍数が上がる。
貸し出し受付の机を挟んで暫し見つめあった後、「なんやどないしたん」と笑った。
どうしよう、何か、何か話さないと。
そう思ってつい「この本、おすすめ、です」と手元にあった本を掲げて口走った。
忍足くんは「へえ」と呟くと私の手からそれを取り、まじまじと見つめ中身をパラパラとめくると、「今度読んでみるわ」とまた笑いかけた。
他の生徒は下校を既に始めていて、ローファーや上履きの音が忙しなく聞こえている。
あれから、話せてないな
ちら、と窓の外を見る。
窓際で後ろから2番目の席からテニスコートを覗くと、ラケットを振る彼の姿を捉えた。
敏捷性に富んだ足元と、揺れる髪の毛から垣間見える冷静な目線が、堪らなく私を魅了する。
忍足侑士は、隣のクラスの美青年である。
彼の周りはいつも人が多く、ましてや成績上位でテニス部レギュラーの彼を女子が放っておく訳がない。
彼の低音から発せられる関西弁は何とも艶やかで、同学年では飽き足らず先輩や先生までも虜にしてしまう具合である。
そんな彼と私がなぜ接点をもてたかというと、
図書館という場所のおかげなのだ。
そもそも閉鎖的な空間が好きで委員に立候補したものの、最近は専ら忍足侑士が本を借りることを楽しみにしている自分がいた。
今、彼の目には私だけが映っている
そんなことを考えてしまうくらいには彼だけを見つめていた。
ただ、会えるだけで良い。
言葉を交わさなくても気持ちが満ち足りた。
はずだった。
「名前さん、いつもおおきに」
甘く掠れる声が耳をくすぐった。
忍足侑士が、あの、忍足侑士が話しかけてくれたのだ。
途端に私は自分の頬が熱を持ち始めるのを感じ、
何も言葉を発せられないまま、こくこくと頷いた。
それが、きっかけだった。
私のいる図書館に忍足侑士は顔を見せに来るようになった。
その度に「名前さん」と呼ばれるのが嬉しくて、気恥ずかしくて、甘酸っぱい気持ちでいっぱいになっていく。
忍足侑士にとっては特段変わらない、普通の日常であったとしても、
私にはそれがまるで神様からの贈り物のように感じた。
ある時ついに「忍足、くん」と呼んでみた。
向こうは「ん」と軽く返事をし、その瞳が私を捕らえた。
眼鏡の奥に潜む穏やかで鋭い眼差しに心拍数が上がる。
貸し出し受付の机を挟んで暫し見つめあった後、「なんやどないしたん」と笑った。
どうしよう、何か、何か話さないと。
そう思ってつい「この本、おすすめ、です」と手元にあった本を掲げて口走った。
忍足くんは「へえ」と呟くと私の手からそれを取り、まじまじと見つめ中身をパラパラとめくると、「今度読んでみるわ」とまた笑いかけた。