ダンブルドアの死後、不死鳥の騎士団のメンバーの数人が姿を消して校内を見回ることになっていた。
私、リーマス・ルーピンももちろんそのうちのひとりだった。妻と産まれたばかりの息子をおいてこの任務につかなければならないのは少し不満でもあった。なにせ息子は産まれたときから髪の色がくるくると変わる。妻はそれに加えて2歳か3歳ごろから顔の一部をーー鼻なんかをーー変えることができるようになったらしい。今でもじゅうぶん見ていて飽きないがそんな息子もはやく目にしたいものだ。
「お久しぶりね」
そんなことを考えながら歩いていると声をかけられた。"目くらまし呪文"をかけているはずなのに私が見えるのかと思いながら振り向いた。
「君は......」
振り向いた私の目の前にはずいぶん懐かしい姿があった。
「結婚したのね」
彼女はちらりと私の左手を見て言った。声も話し方もすべてが懐かしく思える。
「そうさ。でもあまり変わってないだろう。とくに顔なんかね」
20年ほど前のことだが私は彼女が好きだった。そういえば人狼であるということを打ち明けたのもそのころだ。とくに好意を隠しもしなかった。彼女は笑っていた。はじめは本気にはされなかった。でもついに彼女はわたしも好きよと言ってくれた。ほんとうに懐かしい思い出だ。
一押しのハニーデュークスのチョコレートを取り出して食べるかと聞くと彼女はあのころのように少し頬をふくらませて笑った。
「食べれないのわかってるくせに」
リーマス・ルーピンは死んだ。ホグワーツ最後の戦いで勇敢に戦って死んだ。そして彼の妻も死んだ。ヴォルデモート卿も死んだ。死喰い人も何人も死んだし生きているものの多くはアズカバンに送られた。ハリー・ポッターつまりイグノタス・ペベレルの子孫はイグノタス同様に死の手から逃げおおせた。
死喰い人であっても関係なく多くの人の遺体がホグワーツの大広間に寝かせられていた。永遠の別れを惜しんで泣く人も多くいた。
「死んだのね」
何ヶ月か前に結婚したのねと言った口調とまったく同じふうに彼女はリーマス・ルーピンに言った。
「変わってないって言ったのに変わったのね」
リーマス・ルーピンはもちろん目を開けない。
「あなた死んだらずっと一緒にいられるって言ったのよ」
リーマス・ルーピンはもちろん身じろぎもしない。
「でもあなたは結婚したからこっちには来ないのね」
リーマス・ルーピンにはもちろん彼女の声は聞こえない。
「わたしはずっと変わってないのよ」
リーマス・ルーピンはもちろん起き上がることはない。
「愛してるわ」
彼女は何ヶ月か前リーマス・ルーピンに会ったときのようにふわりと浮いて大広間から出ていった。彼女の銀色は壊れた天井から差す太陽の光で何ヶ月か前リーマス・ルーピンに会ったときよりも薄くきらりと輝いていた。
「彼はゴーストにはならないのね」
何ヶ月か前リーマス・ルーピンに会ったときのように少しふくらませた彼女の頬にひときわきらりと光るものが伝った。