創造主達はお疲れです

アインズの執務室で2人はようやく一息ついた。手元には未完成の地図とナザリック防衛計画の報告書。
これらについて話すというのは勿論建前で、アインズはようやく落ち着いて素の自分で会話ができることを噛みしめていた。

「アインズくんって結構役者なんですね」
「やめてくださいよ!本当、NPCの皆の期待を裏切らないために必死なんですから…」
「私はジンにちゃんと話してますよ?リアルのこととか」
「えっ、正気ですか?どんな反応だったんです」
「最初は可哀そうなくらい動揺してましたけど、リアルに帰るつもりはないから安心してって言ったら、そのあとは全然平気みたいですよ」

ジンの動揺したところを思い出したのか、少し楽しそうに話すfirst nameを見て、アインズはちょっとだけ引いた。
自分も不死者の属性に引きずられているように、first nameも最上位悪魔という属性に引きずられているのだ。うっとりした表情は悪魔に相応しく、美しさの影にサディスティックなものが見え隠れしていた。

「でもまあ、うちのジンはカルマ値0ですからね。私が人間でも「はい、そうですか」ですみますが、ナザリックは厳しいですね」
「そこですよねぇ…。もとは人間何て知れたら途端に反逆されそうで…」
「あの忠誠心を見る限り、そんなことなさそうですけど」
「あの忠誠心だからこそですよ!裏切られたって感じたときの反動は大きいんじゃないかって」
「うーん、悩ましいですね」

フカフカの椅子にfirst nameは腰かけ、天井を見上げた。
アインズの言っていることは尤もなように感じる。何より自分はウルベルトから聞かされたナザリックの知識しかない。彼はどうも自分の作ったNPC、デミウルゴスがお気に入りで事細かに教えてくれたものだ、と懐かしく思った。

「とりあえず、リアルのことなんかは口にしないようジンにも言っておきますね」
「よろしくお願いします」
「他に何か知っておくこととかあります?ウルベルト君から聞いた知識くらいしか、ナザリックのことは知らないので」

first nameは手に取ったナザリック防衛計画に目を通しながら質問した。
中々上手く考えられているのではないか、と企画・進行に目を通し終え書類を机に返した。

「それですが、一度ナザリック全体を見て回られてはどうですか?とはいえ、今日は集まってもらいましたが、普段は出払っている守護者も多いんですが」
「良いですね。無理にとどまってもらうことはないですが、皆さんと話してみたいです」
「では決まりですね。案内は誰がいいとかありますか?」

暗にデミウルゴスがいいか、とアインズは聞いていた。
というのも、first nameをナザリックに引き抜くよう自分が命じたのは、他でもないデミウルゴスにである。
初めは自分の屋敷を離れるのは気が進まない、と言っていた彼女を、それはもう何度も何度も何度も、あの手この手でデミウルゴスは計略し、そして今に至るのだ。
気心の知れた、とアインズは勝手に思っている、デミウルゴスとの方が気は楽なのではないか、といった配慮であって、決してアインズはデミウルゴスがfirst nameに並々ならぬ恋愛感情を抱いていることなど全く知らない。

「…アインズさんがそういうなら、頼んじゃおう…かな///」
「それがいいですよ!」

そして、アインズは鈍かった。当然である、リアルの世界ではキスも碌にしたことがない男だ、女心など分かる筈がない。
少し照れたようにfirst nameが頬を赤らめる仕草や、上機嫌そうに揺れる華奢な尻尾が何を意味するかなど、この男には理解ができないのであった。

「と、ところで!私のお屋敷がある街は今まで通り私が統治することでいいんですよね?」
「それは勿論ですよ。しかし不思議ですね…街の人はずっとfirst nameさんがその地を統治していると思ってるんですよね?」
「ええ、私の感覚では、サービスが終了して急にあの街へ飛んだはずなんですが…。街の人は人間種なのに、私だけ異形種なんですよ。寿命も違うのにどうやって来たんでしょうね?」
「異形種であることも認識されてるんでしたっけ。もしかすると、思った以上に転移後のユグドラシルは種族差に寛容なのかもしれませんね」
「あんなに懐いている人たちを裏切るのは悪魔といえど忍びないですし、向こうのお屋敷と定期的に行き来する生活になりそうですね」
「そうしてください」

話がひと段落着いたところで、執務室のドアがノックされた。
アインズが入室を許可すると、セバスとジンが紅茶を持って入ってきた。
礼儀としてアインズの前にも置かれるが、飲めるはずもない。これは暗にfirst nameのために用意されたものだろう。

「ありがとう、セバスにジン」
「とんでもございません、first name様」

恭しくセバスが頭を下げる。
確かこの執事は、たっち・みーさんが作成したNPCだな、とfirst nameは記憶を手繰り寄せた。ウルベルト君はよくたっち・みーさんの話をしており、内容はともあれ実は仲がいいのではないかとfirst nameは密かに思っていたものだ。

「first name様。もしよろしければ、お部屋の調整を俺とセバスで行おうかと思っております。場所、広さ等の指定はございますか?」
「そうだったわね。そうね、ウルベルト君の部屋に幾つか共用アイテムを置いていた気がするから、彼の部屋の近くで用意してちょうだい」
「かしこまりました」
「…差し出がましいようですが、一つ質問をさせて頂いてよろしいでしょうか?」

主人からの命令にジンは一礼をした。
同じく一例をしていたセバスは、ややあって、少しためらいがちに言葉を紡いだ。

「ええ、何かしら?」
「first name様はウルベルト様と深い仲だったのでしょうか?」
「んんー??」

当の本人を差し置いて、思わずアインズの方が変な声を出してしまった。そして一度光った。
執事の目は真剣そのもの。first nameはというと、既に半分笑っている。

「いえっ、はは、ごめんなさい…そう思うわねっ、フフ」
「セバス、first name様が苦しそうですよ、やめてください」
「甚だ見当はずれであった、ということですか」
「何と説明すればいいかしら…そうね、少しの間同じ親元にいた、と言ったところかしら?兄弟同然だと思っているわ」

現実では同じ孤児院出身で、先にfirst nameが養子としてその場を離れたのだが。
アインズにリアルのことは隠すと言った手前、至高の四十一人、悪魔が孤児院?と説明の苦し紛れである。

「なんと…!」

勿論勘違いされた。
かくして、セバスの中では、ウルベルトとfirst nameは異母もしくは異父兄弟であると認識されたのであった。

「大変失礼を致しました。どうぞこの至らぬ執事の非礼をお許しください」
「いいえ、構わないわ。誤解されたままなのも良くないしね」
「寛大なお心、感謝いたします。しかしそのようなご関係であるとは…一層お喜びに、いえ、敬服するシモベもございましょう」
「そんなに畏まらなくて良いのに」

セバスは心の中で独りごちた。セバスは執事特有の聡さを以って、デミウルゴスの僅かな変化に気付いていた。彼はfirst nameに思いを寄せていると。
彼の敬愛する創造主と、思いを寄せる女性が、まさか血のつながりがあるとは。
守護者随一の忠誠心であるデミウルゴスを思い描き、セバスは少し不憫に思った。おそらく彼は、創造主への畏敬の念と、自身の心の板挟みとなるだろう。
何かと自分と反りが合わない彼であるが、セバスは決してデミウルゴスを嫌っている訳ではなかった。

「それではfirst name様、先にお部屋の用意をしておきます。お越しの際は俺にメッセージを飛ばしてください」
「ありがとうね、ジン」
「失礼いたします」

ジンの言葉に連れ添い、セバスも執務室を後にした。
これからのナザリックは少々面白いことが起きそうだ、と心に刻み込んだ。

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