見学報告会
ナザリック地下大墳墓玉座の間には、アインズを初めとし守護者一同が集まっていた。守護者は頭を垂れアインズからの言葉を待っている。
「皆、面を上げよ。デミウルゴスよ、傷は完治したか?」
「はい、アインズ様より頂いたポーションにより、全快致しました。我が失態へのご慈悲、感謝申し上げます」
「良い。あちらは攻撃特化の暗殺者だ。私たちが来るまで足止めをしていたことを、寧ろ評価しているのだ」
「なんと…!身に余る光栄」
再びデミウルゴスはアインズに向かい深く頭を下げる。内心、やれやれと思いながらも、アインズは話を切り出した。
「さて、お前たちも既に聞いているだろう。先ほど一人、ユグドラシルPLが発見された。アルベド、説明を。」
「はい、アインズ様。つい先ほど、デミウルゴスの牧場に侵入者が入りました。その者は私たちと同じく、PLに創造されたNPC。そして、私とアインズ様がデミウルゴスの元に駆け付けたのと時を同じくして、あちら側のPLも姿を現されたわ」
アルベドが、賊に対して敬意を払った物言いをしたことに、事情を知らないアウラやマーレ、コキュートスは一瞬首を傾げた。
その中でもマーレは目ざとく、デミウルゴスがどこか機嫌よく口角を上げたことに気が付いた。はて、デミウルゴスは賊に手傷を負わされたのではなかったか?
「その方はfirst name様。至高なる四十一人が1人、ウルベルト様と親交が深かったお方よ」
「ウルベルト様と…!」
「何ト。ソノヨウナ 方ガ、コノ地ニ オラレル トハ」
「あの…それなら、えっと…どうしてデミウルゴスは…怪我をしたんですか?」
「マーレ、少々手違いがあってね…。first name様の統治されている領民を誤って羊の一匹に入れてしまっていたんだよ。それを取り返しに来たシモベと不本意ながら戦闘になったという訳さ」
どこか楽しそうに話すデミウルゴスの言葉に違和感を覚えたのは、この中ではアウラだけであった。アインズを含めそのほかの守護者は、創造主たるウルベルトの影を感じることができ、感極まるものがあるのだろうと結論付けた。
さて、話が一通り終わると、アインズは口を開いた。
「それでは、first nameさんに対する今後のアクションを決定したいのだが、皆、何か意見はあるか?」
「アインズ様、私はその場にいなかったので分かりんせんが、first name様のご様子はいかがであったんでありんすか?その…領民を傷つけられて怒ってらっしゃった…とか」
「ふむ…。実のところ、彼女は二三言言葉を交わしただけで、シモベの…ジンと言ったか。彼と帰ってしまったからな」
「特に攻撃は仕掛けられませんでしたし、今後の対応次第で十分良い関係を築けるのではないでしょうか?」
アインズの言葉に、アルベドはそう続けた。
アインズの記憶の中にあるfirst nameは、話の分かる理性的な女性であったように思われる。こちらの非礼さえキチンと詫びれば、今回の件も許してくれるのではないだろうか。それに、初めてPLに会うことができ、さらに知り合いだったことに、アインズは内心浮かれていた。支配者ではなく、英雄でもなく、素の自分と同じ目線に立てる人物を何としても自身の陣営に引き込みたい、と考えたところで結論は決まっていた。
「皆に命じる。first name・last nameをナザリックへ迎え入れるのだ。無理やりではなく、彼女との信頼を築き自らの意思で我がナザリックへ属することを選択するよう、説得を行うのだ」
「アインズ様!」
「何だ、デミウルゴス」
「僭越ながらその大役をこのデミウルゴスにお任せいただけませんでしょうか」
「ほう、賛成してやりたいところだが、お前が行って勝算はあるのか?」
「はい、朧げではありますがfirst name様のことは記憶しております。それに、この度の非礼は改めて私の口から謝罪申し上げるのが筋かと愚考致します」
「なるほど一理あるな。ならばこの件はデミウルゴスに一任しよう。皆よ、異論はないな」
アインズの決定に異論を唱えるはずもなく、守護者たちは頷いた。
デミウルゴスは自身の幸運と、アインズの寛大なる判断にいっそうその忠誠心を厚くするのであった。
__________
そして、デミウルゴスはヘルセレム国へ入国する門の前に立っていた。
何も彼はただ律儀に入国審査をするためにここにいるのではない。と言うより、門の脇に入国ゲートがあるわけでもなかった。
入れないのだ。何度試してみても、あらゆる城壁から侵入を試みても、入国したはずがいつの間にか外へ向かって歩いている。初手から行き詰まり、デミウルゴスは頭を抱えたくなった。
「まさか謁見するまでにこのような関門があるとは…。人の一人でも近くを通れば支配の呪文で…いや、それではますますfirst name様のお怒りを…」
「傷の調子は如何でしょうか」
「……ジン、と言いましたか」
「ええ、記憶に留まり光栄です」
背後を取るのが趣味なのかと、舌打ちしたい気持ちを抑え、デミウルゴスはジンに向き直った。
お互い笑顔だが笑っていない。
「立往生しているのを見かねて、要件を伺いに参りました。如何なされましたでしょうか?」
「first name様のご領民とは知らず、無礼を働いてしまいましたのでお詫びをと。伺おうとしたのですが、国の中にすら入ることができませんで…こちらのトラップを解除願うことはできませんでしょうか?」
ジンはなるほど、と一つ頷き、申し訳なさそうに、といってもデミウルゴスの目から見れば表面上のみなのだが、言葉を続けた。
「申しわけありません、こちらの結界はfirst name様直々に発動なさっている国防の要ですので、解除することはできません」
「それは失礼。ではどのようにして入ればよいのですか?」
「そうですね……。まずは謝罪の意を込めて花束など用意すればどうでしょうか!」
「はあ?」
「ええ、そうすれば私たちはデミウルゴス様をこの国に<歓迎>いたしますよ」
勿論大嘘だった。
実際はこの<招かれざる者の排除>と名付けられた結界は、国民の1人が入国を許可すれば人を入れることができるため、今の言葉でデミウルゴスは入国ができるようになっているのだが、そんなことを知る筈もないデミウルゴスは、ただただ眉間に皺を寄せることしかできなかった。
「そう…ですか。花、参考までにfirst name様は何がお好きですか?」
「薔薇がお好きですよ」
「ではそのように用意を行いましょう。明日の14時にお邪魔致します。そうお伝えください」
「かしこまりました」
一先ずヘルセレム国に背を向け背中からはやした羽を広げると、デミウルゴスは牧場の方へと飛び去った。
かの執事の言動には少々納得いかないが、first nameに花を捧げるというのは、改めて考えると何とも魅力的なことだ。薔薇の数は?どのような飾りつけがいいか?色は?
徐々に高揚していく気持ちに、デミウルゴスは誰もいないのに、はっと気づき咳払いをした。そう、これはアインズ様から与えられた命令なのだ。個人的な感情により浮かれていてはいけない。
「まずは、王都一の店で最高の物を見繕わなければ」
デミウルゴスは行き先をリ・エスティーゼ王国へと変えると宵闇へと紛れていった。
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