添い寝券 前編
※ドラマCDネタバレ有(閲覧は自己責任でお願いします)
我々守護者はナザリックのために働き、至高の存在に仕えることこそが最高の喜びである。
しかし慈悲深くも我らの主は、我々の働きに対し給金を支払うと、そして給金を貰えばどのようなことに使うかを知りたいとおっしゃっている。
ならば我々のなすべきことは、御方の期待に沿えるような給金の使い方をお伝えすることである。
「これは…デミウルゴス様、あの、いくつか不適切と思われる用紙が入ってるのですが…」
「どれ、見せてください。……アルベド、シャルティア、そういう提案は良くないと思うよ」
「アインズ様の身体が目当てのような商品が入ってるのは…不適切なのでは?」
「そーだよ!アインズ様に対して失礼だと思わないわけ〜?」
ユリの困惑した呟きに、オークションの手が止まった。
「アインズ様との添い寝券」確かに皆が欲しがる品であることは間違いないが、果たしてそれが受け入れられるものなのか。
大いに疑問が残る所である。
「だいたい、これはアインズ様への単なる提案に過ぎないんだよ?これをアインズ様が許容なされば一回目が体験できるってだけでしかないのに」
「お姉ちゃん…それ、どういうこと?」
「分かんないかなー?この提案と、実際アインズ様がお認めになるかは別問題ってこと!」
「えっと、つまりあんまり変なお願いは、アインズ様がお認めにならないってこと?」
「そうだよ、マーレ」
「ナルホド、過ギタ願イハ拒絶サレルカラ、分ヲ弁エタ方ガ、賢イトイウコトカ」
「はっ、そっかっ」
「そ、そんなぁ…」
崩れ落ちる2人を尻目に、守護者たちは欲は人の目をくらませるのだと心の中で思った。
その中で、ユリだけは未だ一人浮かない顔をしていた。
「浮カナイ顔ヲシテイルガ、マダ何カ、問題ノ品デモアッタノカ?」
「コキュートス様…、それが…、」
「うん?何々…first name様添い寝券…?」
皆の視線が一手にデミウルゴスに集まった。
やれやれ、といった顔でデミウルゴスは悪びれもなく構えている。
さっきまでアルベド達に説教をしていた人物とは思えない事実に、本人たちが一番に食って掛かった。
「デ、デミウルゴス!おんし、他人のことを言えんでありんすよ!!」
「そうよ!私たちはまだしも、貴方…そ、添い寝だけな筈ないでしょう!」
「そうでありんす!ああ、first name様にご無体を働き…む、無理やりするつもりでありんしょう!」
詰め寄るアルベドとシャルティアなどどこ吹く風で、デミウルゴスは事もなく告げた。
「さあ、どうでしょうね。添い寝もその先も、first name様がお認めになるかが全てですので」
「いいえっ、シャルティアのようなアホならいざ知らず、貴方は油断ならないわよ、デミウルゴス」
「ちょっと、アルベド!どういう意味でありんすか!?」
「あー、確かにデミウルゴスなら危ないねぇ」
「お姉ちゃん、どういうこと?」
「マーレにはまだ早いよ」
まさか自分の友人がアルベド達と同じレベルのお願いをしていたことに驚きを隠せないコキュートスであったが、一瞬間を置いてみると少し冷静になった。
デミウルゴスに限ってfirst name様が願いを却下する可能性を考えないはずがない。何か別の思惑でもあるのではないかと。
「まあ、君たちの提案同様、私の提案も却下される可能性が十分あるわけです。そう目くじらを立てずともなるようにしかなりませんよ」
「くっ、それもそうね」
「さあ、ユリ。待たせたね。オークションを再開しよう」
余裕の笑みでデミウルゴスは自分の席に着く。
ユリは困惑しながらも、オークションを再開しようと用意に取り掛かっていた。
上機嫌に揺れる尻尾を見るに、疑問を留めることができずコキュートスは小さく耳打ちした。
「デミウルゴス。一体何ヲ考エテイルンダ」
「くくっ、まあ見ていてください。何も私は本気でfirst name様と同衾できるとは思っていませんよ」
「???」
オークションが始まった。
__________
当然、皆が手元に持っているのは自身が提案したものばかりであった。
アインズ様とのガチバトル券を手に入れ自分は満足であったが、結局デミウルゴスの真意は分からないままだった。
オークションが解散し、各自持ち場に戻ろうと席を立った後、コキュートスは改めてデミウルゴスを呼び止めた。
「デミウルゴス、結局オ前ノ真意ハ、何ダッタノダ?」
「ああ、添い寝券と王都お散歩券かい?」
「ソウダ。ソノ2ツノ組合ワセニ、一体ドンナ意味ガ有ルノダ?」
メガネの奥で宝石の瞳が獲物を捕らえたように光ったような錯覚をコキュートスは覚えた。
この知略により一体どのような意図を携えているというのだろうか。
「そもそも、今回の給金の件はアインズ様からのご提案です。つまり、今回の提案でfirst name様が何か協力する必要は一切ありません」
「フム」
「ですから、ただ普通のご提案をするだけでは、一旦保留とされる可能性が高いのです」
「ナルホド」
「そう、そこでです!」
我が友が興奮している。
コキュートスは少々引いた。
アルベドやシャルティアの場合はある意味慣れてしまったが、いつも理性的な分、デミウルゴスの場合は余計に引いてしまうのは否めない。
「無理なお願いを先に提示することで、一方のハードルが低い方の願いくらいは聞いてあげようという心理が働きます。慈悲深いfirst name様のことです、きっと、私との王都お散歩券、もとい一日デート券をお認めになる筈っ!」
「ソノヨウナ意図ガ…」
「ああっ、麗しの御方と共に一日を過ごせると思うとっ!そうです、かねてよりアインズ様がご提案なされていた【有給】というものもここで使えば良いのではないだろうか!」
「我ガ友ガ幸セソウデ、何ヨリダ」
欲は人を盲目にする。恋もまた然り。
コキュートスは一つ悟りを開いて、その場を静に去った。
__________
帰還したアインズは早速ユリから守護者の欲する報告を受けていた。
部屋の応接椅子には、せっかくなのでとfirst nameも同席している。
「さて、続きは…アインズ様、添い寝券?」
「あら…ふふっ、アルベド達かしら?」
「冗談だよな?え、ユリ…これは、冗談だよな?」
「何々、添い寝券、食事券、あーん券、ガチバトル希望券、と。皆アインズ君が大好きなのね」
ニコニコ笑うfirst nameにアインズは、他人事だからとため息をついた。
どう返答、もとい断れるのかと考えていると、近くに控えていたナーベラルが進言した。
「恐れながら、これらは全て素晴らしい提案かと存じます。至高の御方と時間を共にできること以上の喜びはございません」
「そうよアインズ君。可愛い我が子達のお願いなのだから、聞いてあげればいいんじゃないの?」
「他人事だと思って…」
「あの、first name様…」
沈黙を保っていたユリが言葉を発した。
手元には二つのメモが残っている。first nameが静かに促すと、何度も口を開いては言葉を飲み込んでから、ようやくユリは続きを発した。
「first name様にもご提案が2件ございます」
「あら、私に?」
「はい。その、first name様と添い寝券、first name様と王都をお散歩券の2点でございます!」
沈黙の間、アインズには一度精神の沈静化が起こった。
first nameはたっぷりと数回瞬きをし、その意味を咀嚼しようとした。
誰が?というのは少々無粋かもしれない。守護者の中であれば、この提案はおのずと絞られる。
「えっと…」
デミウルゴスと、添い寝?デート?
彼がそれを望んでいるというのだろうか?いや、ナザリック一の知恵者である彼のこと、私の気持ちを察してその二択を提示している可能性も否めない。
いいのだろうか?いや、少し冷静になってきた。あの耳と尻尾で王都デートができるのだろうか?あれ?無理なのでは…?
「添い寝だったら(変身スキルも必要ないし)良いかもしれないわね」
言葉足らずな仲間のせいで、アインズはまたもや精神の沈静化が起き光るのであった。
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