特別な楽しみ方

「《メッセージ》。アインズ君、デミウルゴスから大そう貢ぎ物を貰うのだけれど、ナザリックの資金は大丈夫なんですか?」
「えっ…そうなんですか!?」

寝室で寛いでいると、急に入った《メッセージ》に応答したアインズは驚愕した。
確かにデミウルゴスにはfirst nameさんをナザリックに引き入れるよう指示したが、そう言ったやり取りについては聞いていなかった。
慌ててコンソールを呼び出しナザリック内のアイテムや資金を確認する。が、もちろんその量は減ってなどいない。

「安心してください。確かにどれも高価そうな逸品ですが、ユグドラシルのアイテムではないですよ。」
「そ、そうですか…」
「その反応だと、ナザリックの財で買ったものって訳でもなさそうですね。とすると、デミウルゴスは何か副業でも?」
「そうなんですかね、うん、デミウルゴスは優秀ですし…。」

わずかに溜息を吐く気配をfirst nameは感じ取った。
たしかに、ナザリックのNPCは数多く存在する。一々全員の行動など把握できないだろう。
事実自分自身も、側近であるジンの動向は大体把握しているが、この国の領民、一体一体自ら作り出したこの国全土に配置されたの領民全員の動向などは把握していないのだ。

「ちなみに、いったい何を貰ったんですか?」
「薔薇の花束に始まり、ドレスに靴、ネックレス、ピアス、髪飾り、最近は化粧品まで手を出して、前回は口紅を頂きましたよ」
「ええ…、というかデミウルゴス、そんなにfirst nameさんのところに通ってるんですか」

あまりの熱意に無いはずの目が回る錯覚を覚えた。
一体どうやってそれを買いだしているのやら。

「まあ、一応伝えておきましたからね!ないとは思いますが、ナザリックの資金が減っているようでしたらお返ししますのでご連絡ください」
「お気遣いありがとうございます」
「それでは、あの、今日はたぶんデミウルゴスの来る日なので…それでは!」

プツリとそこで《メッセージ》は途切れた。
え、何。今日もデミウルゴス、first nameさんのところへ行ってるの…?

__________

ドレッサーの椅子に腰かけながら繋げていた《メッセージ》を切り、first nameは一つため息をついた。
どうやらこの贈り物達はアインズの指示ではなく、デミウルゴスの自発的行動のようだ。とはいえ、アインズがfirst nameに友好的なのは間違いないだろう。
どうも伝え方を間違えてこうなっているようにしか思えない。

「貰ったものはちゃんと使わないと失礼よね」

そう呟くfirst nameの手には先日受け取った口紅が握られている。
あからさまに高級そうな黒い装丁に上品な紅。
着け心地、発色もその様相に相応しく、唇に華やかさが灯った。

「first name様、デミウルゴス様がお越しになりました」
「分かったわ。客間に通しておいてちょうだい」
「かしこまりました」

再度鏡で服装をチェックする。
誰にでもなく、よし、と呟いて、first nameは部屋を後にした。

__________

客間に到着すると、椅子から立ち上がったデミウルゴスが深々と頭を下げた。

「ご機嫌麗しゅうございます」
「デミウルゴスも元気そうで何よりよ。いつも言っているように、そんなに畏まらなくていいから…さあ、座ってちょうだい」
「流石は領民より絶対の信頼を得る御方、…慈悲深さの限りでございます」

ニコニコといつも通り笑顔を見せるデミウルゴスであるが、その尻尾はかなり上機嫌に揺れていた。
first nameもこの世界に転移して初めて尻尾を得て理解したのだが、尾は肉体以上に感情が表に出やすい部分だ。たぶん、きっと、デミウルゴスも今は機嫌がいいのだろう。

「前回の訪問時にお持ちしたルージュをお使いくださっているのですね」
「ええ、似合うかしら?」
「それは勿論!私の目に狂いはありませんでした。いえ、たとえ私の選択に不備があったとしても、たかが化粧品ごときがfirst name様の美貌を覆せるはずがございません」

デミウルゴスは恍惚とした表情で、そう賛辞を述べた。
それがお世辞の類ではなく彼の本心であることは火を見るよりも明らかであった。

「…そんなに褒められちゃうと、少し照れるわ」
「first name様は謙虚でいらっしゃる…。以前、アッシュールバニパルという至高の御方がたにより集められた書物庫にて拝読した「白雪姫」のようです。真雪のような白い肌、黒檀のように黒い髪、炎のように赤い唇、この世界で最も美しい」

今日はなんだか一段と褒められるなとfirst nameが思っている一方で、デミウルゴスは日々自分の贈り物により身を飾るfirst nameに喜びを覚えていた。
勿論、献上したもののすべてを今身に着けている訳ではない、だが首元に輝くネックレスも以前デミウルゴスが献上したものだ。
緋色に彩られた唇は、first nameの赤の瞳と合わさりとても魅力的だ。

「さあ、私の話はいいから、今日はどんなナザリックのお話しを教えてくれるのかしら?」
「失礼しました。それでは本日は、守護者の連携強化を目的とした草食系モンスターとの戦闘を行った際の話を」
「楽しみだわ」
「ええ、きっとご期待に沿っていただけます」

__________

「――と、最後はアインズ様の神業ともいえる魔法によりモンスターは消滅いたしました」
「流石アインズ君ね、魔法では彼に敵わないわ」
「first nameも魔法詠唱者なのですか?」
「近いと言えばそうかしら?私は幻術師よ」

軽い気持ちで聞いたデミウルゴスは、意外にもはっきりと答えられた回答にしばし口をつぐんだ。
そして、これは職業クラスを明かす程度には信用されたのだという歓喜が胸にあふれた。

「左様ですか…っ、first name様の甘美な幻術の中で死ねるのでしたら、歯向かう者もさぞ本望でしょう」

さて、時間もそろそろ過ぎた。毎回去り際と言うのは名残惜しいものだが、それもまた仕方のないことだ。
デミウルゴスは居住まいを正すと本日はお暇することを伝えた。

「また、次週のこの時間にお邪魔致します」
「ええ、待っているわね」

玄関まで見送られ、そして最後にデミウルゴスは内ポケットから小さな小箱を取り出した。
透明な箱の中にはポーションのような容器が入っており、中には上品な赤い液体が入っている。

「最後になって恐縮ですが、これをfirst name様に」
「これは、マニキュアかしら?」
「はい、ほんのささやかな気持ちです」
「高価なもの装飾品は止めるように言ったけれども、毎回何かをプレゼントしてくれなくてもいいのよ?」
「いえ、私がお贈りしたいのです。貴女様を飾る一つに私の手が加わっていることこそ…、喜びなのです」

縋るような眼差しを受け、何時もの通りfirst nameはデミウルゴスからのプレゼントを受け取ることとなった。
承知したことを見て取ると、デミウルゴスの表情が分かりやすく、ぱぁっと明るくなる。

「first name様。もし、よろしければ…次回訪問した際に、私に御身の御爪を飾らせては頂けないでしょうか?」

ブンっとデミウルゴスの尻尾が風を切った。間を置いてfirst nameの尻尾も同様に風を切る。
デミウルゴスの顔と、自分の手の中のマニキュアとを見比べる。
数回それを往復して、first nameはようやく一つ頷いた。

「ありがたき幸せ!」
「その代り、次は献上品はなしよ?奉仕してくれるその労働を以って気持ちを受け取るわ」
「む、そう…ですか。いえ、私にとってはご褒美で…、いえ、そうおっしゃるなら、承知しました」

感情に合わせて動く耳が可愛い。なんて思いながらfirst nameはデミウルゴスを観察した。
予想していたよりも彼はいろいろと分かりやすい。そんなところも惚れた弱みか好ましく思っていた。

「それでは、7日後を心待ちにしております」
「ええ、気をつけて帰ってね」

宵闇にデミウルゴスの翼が立てる羽音が鳴り響く。
自分とよく似た翼を見送り、first nameは人知れず手に収まった本日の献上品を胸に抱き寄せた。

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