これからもよろしく日曜日

「蛇穴!その包帯どうしたんだい!」
「おい!テメェ俺が帰ってからヘマしたのかよ!ざまァねえな!ケケケ」
「堂庵さん。すみません、少し油断しました。残党はきっちり絞めたので問題ありません」
「俺は無視かよ!」
「はぁ…お前がちゃんと雑魚を狩ってたらこうならなかったんだけどなぁ?」
「他人のせいにするなよなーっ」
「思ったより蛇穴が元気そうでよかったよ。名前ちゃんも手当ありがとう」
「大袈裟ですよ、包帯を巻いただけで。大したことなくて良かったです」

珍しく日曜日は朝から3人全員がアジトにそろっていた。
包帯の取れていない蛇穴さんを見ると、堂庵さんと狐久里さんはビックリして、おのおの蛇穴さんを心配した。
3人のやり取りは何だか微笑ましくて、ニュースで見ていたNBの印象とかけ離れているからどうしても憎めない。

「堂庵さん。名前の今後なんですが、一つ提案いいでしょうか」
「うん?いいけど…本人の前でその話って大丈夫なのかい」
「そーだそーだ。デリカシーないぞ蛇野郎ー」
「茶化すな。それに本人も聞いておくべきかと思ったので」
「私もですか?」

3人にコーヒーを渡しながら、空気を読んで部屋を出ようと考えていた私は、蛇穴さんの意外な言葉にパチパチと目瞬きをした。
コーヒーを受け取った蛇穴さんは砂糖が3杯も入っている其れを澄ました顔で一口飲み、自分の隣の空いているスペースに座るよう視線で促した。
蛇穴さんの様子は私が良く知る穏やかなもので、今から私にとって重大な宣告がされるような緊張感は感じられず、促されるまま蛇穴さんの隣に腰かける。
蛇穴さんはそれを横目で見ると、たっぷり1拍呼吸を置いて言葉を紡いだ。

「名前を俺の助手としてここに置こうかと思います」

__________

蛇穴さんのトンデモ発言に一番騒いだのは狐久里さんだった。

「はあー??お前急に何言い出すんだァ?やっぱ頭打って可笑しくなっちまったのか?」
「お前に騒がれる筋合いはない。モルモットの餌やりも試験管の洗浄も碌にできない狐と違ってこの子は優秀なんだよ」
「あんなチマチマした瓶洗うのは性に合わねーんだよ!」
「だからお前には頼んでないだろう。毎回機材を割られる身にもなってみろ」
「狐久里は皿洗いしてもよく食器を割るよね」
「げっ、堂庵さんもそう思ってたンすか」
「ハッ、繊細さを良く学習することだね」
「てめーは一言多いんだよっ」

蛇穴さんに突っかかっている割に、私に対するネガティブな発言はする様子がない。堂庵さんも驚きはしたものの、おおむね否定するつもりはないのか2人の口論を穏やかに見守っている。
たった1週間でこんなにも受け入れられていることが意外で、戸惑いを隠しきれない私を察してか、堂庵さんが笑いかけた。

「俺は蛇穴がそうしたいって言うなら反対するつもりはないけど…名前ちゃんはどう思ってるのかな」
「そーだぜぇーっ、蛇野郎の助手なんて嫌だってんなら堂庵さんがいるときに言わねえとだぜ!」

狐久里さんの発言に一睨みすると蛇穴さんもこちらを向いた。3人の視線が私に集まる。
家を失って、職も失う原因になった元凶たちが、今はどうしてか私に選択肢を与えようとしていて、それが何だか可笑しくて笑ってしまった。

現実には答えなんて一つしか選びようがない。
そして、もしほかの選択肢があったとしても。正義のヒーローがあらわれて私をここから連れ出したとしても、心はこの選択肢を選ぶに決まっている。

「蛇穴さんがそう仰ってくれるなら、これからもよろしくお願いします」

__________
________
_____

「名前ちゃん、最近蛇穴を見かけないけど、ずっとラボに籠ってるの?」
「堂庵さん!お疲れ様です。今日で3日目…ですかね。食事だけは無理やりとってもらってるんですが、流石にそろそろ休んでもらいたいです…」
「大丈夫?俺がマイク使おうか?」
「はははっ、堂庵さんもそんな冗談言うんですね、やめてくださいよ」

うーん、別に冗談じゃないんだけど、そう思っているなら黙っておこう。
「今日こそ寝てもらいます」と意気込む名前ちゃんに「頼んだよ」と返して俺は彼女の背中を見送った。
あれから名前ちゃんは蛇穴の助手としてアジトにいてもらっている。襲われたら困るから外出は俺たちのだれかと一緒に行くことが多いが、たまに一人で外に出もしているようだ。
曰く、蛇穴お手製のスタンガンと催涙スプレーがあるから平気だとか。どんどん一般人からかけ離れていく彼女に苦笑しながらも、本人がそれでいいなら俺から何か言うのもお門違いかと静観を決めている。

「名前も甲斐甲斐しいよな〜。実験に没頭してる蛇野郎は5割増しで怖えーのに」
「そうでもないかもしれないよ」

寝食を忘れがちな蛇穴が食事だけでも摂っているのは破格の待遇だと思う。
それだけ蛇穴にとって彼女は特別な存在だってことだ。
チームメイトが幸せなら俺も幸せだ。はじめ狐久里が一般人を間違えて襲った時はどうしようかと思ったけれど、今となっては結果オーライだって不謹慎にも思ってしまう。
「確かに蛇野郎って名前には優しいよなー」と狐久里がつぶやいた。クスリと笑って「そうだね」と続けようとしたとき、階段からトタトタと足音が聞こえた。

「あのっ、蛇穴さんが床で寝ちゃって…2階に運ぶの手伝っていただけませんか?」
「床は止めとけよ…」
「身体痛めちゃうね。分かった、俺と狐久里に任せておいて」
「ったく、しゃーねー奴だな」

どんどん俺たちの生活に馴染んでいく君。
3人だった仲間に1人が追加され、俺たちにも少しずつ変化を与えてくれる。
君と蛇穴がどうなっていくか、俺は少し楽しみで。不器用な君たちがもっと近づいてくれればいいのに、そう願わずにはいられないんだ。



novel top