村に行く
「荷物はこれで全部ですか?」
「ええ、ありがとう。本当に全部持ってもらっていいの?」
「…これくらい大したことありません」
first nameが作った薬を丁寧に包み、結城はそれを鞄に入れた。液体の薬もあり、多少の重さは感じられたものの、結城にとってはこの程度で疲れるほど軟ではない。
困ったように笑いながらも、最後には「ありがとう」と言ったfirst nameの言葉に対し、結城は彼女の役に立てたことが嬉しく感じられた。
「それじゃあ、逸れないようについてきてね」
「分かりました」
__________
森を抜けると舗装された道があり、それを辿ると村にはじきに到着した。
ちらほらと村人の姿もあり、結城は自分が知る村よりは人口が多いように感じた。通りを歩けば食事処や宿泊施設、長旅の馬を休める小屋など、いろいろな施設が並んでいる。
しばらく歩くと商店が立ち並ぶ一角に入り、first nameはその中の一軒の扉をたたいた。
「もし、こんにちは。薬を売りに来ました」
「ああ、first nameかい。中にお入り」
扉が開くと中年の女性が顔を出した。first nameの顔を見ると中へ手招く。
first nameは結城にも促して扉をくぐった。
「そろそろ解熱の薬がいるんじゃないかと思って持ってきました。他にも凍傷の薬と、あかぎれの薬。後はいつも通り頭痛腹痛の薬なんかも」
「ちょうど必要になってた頃だったから、助かったよ。お代はいつものレートでいいかい?」
「もちろんですよ。贔屓にしてくれてますから」
「贔屓ねえ…ま、最近はややこしい奴らがなりを潜めてるからいいんだけど」
銀貨の数を数えながら女将は、やれやれ、とばかりに呟いた。
結城はその言葉が気になったが、迂闊に言葉を発するのはどうかと考え、それを飲み込んだ。
銀貨をfirst nameに手渡し、そして本題だとばかりに女将は結城に目を向けた。
「で、この子は一体どうしたんだい?first nameが子供を産んだなんて聞いてないけども」
「晃っていうのよ。うちでしばらく預かることになったの」
「晃です。よろしくお願いします」
怪訝そうに見ていた女将だが、結城の流暢なドイツ語を聞くと、意外そうに返事を返した。
「随分と綺麗に話すじゃないかい」
「フフッ、そうね。私も初めは驚きましたよ」
「そうかい…。まあ、厄介ごとには巻き込まれないようにしな」
「心配してくれるのね。ありがとう」
店を出る気配を察し、結城はfirst nameの後に続いた。
また頼むよ、という女将の声に小さく頭を下げると2人は再び扉をくぐった。
__________
先に買い物を済ませようというfirst nameの提案で2人は食品の購入を行った。日持ちのする干し肉や野菜、チーズなどが鞄を満たす。
買物中、結城はfirst nameがお金を払う様子を見ながら、金銭相場や基準を頭に叩き込んでいた。いずれは自分一人で買い出しに来ることができれば、first nameの役に立てるのではないかと、心の中で思っていた。
そして、一通りの買い物を終え、2人は昼食を摂るべく食堂に座っている。
「せっかくだから家では作れないお肉や魚のお料理を頼んでね」
彼女は特にメニューを見る気がないらしく、結城が勧めてもニコニコとメニューを返してくる。
仕方なく中身に目を滑らせる。どれも文字としての意味は理解できるが、食べたことがないためいまいちピンと来ない。
それより、first nameが作ってくれたシチューの方がずっとずっと美味しいもののはずだ。
「決まりました。注文してもいいですか?」
ウエイターを呼ぶとしばらくして注文のメモを持った少女がやってくる。
赤毛の少女は結城を見ると不思議そうに結城の顔を見つめる。実は食糧調達の時にも同じようなことが何度もあり、結城としては既にうんざり仕掛けていた。
「はい、何にしましょう?」
「子羊のシチューを1つ」
「あと、魚のソテーとサラダと…晃君はもっと食べた方がいいわ、こっちのお肉も一皿お願い」
「かしこまりました」
結城が遠慮する間もなくfirst nameは注文を追加した。
少女が厨房へと駆けてゆく。何となく照れくさくてfirst nameから視線を逸らした結城は、ふと周囲の客の視線がこちらを伺っていることに気が付いた。
1人2人ではなく、皆あからさまにではないが、こちらを伺っている。
「晃くん」
「……はい」
「気にしちゃだめよ」
「ですが…、もしかして俺のせいですか」
そう言った結城の言葉にfirst nameは小さく首を振った。
「私が1人でもいつもそうだから、気にしないで。離れに住んでいる人に興味があるのよ」
視線が一瞬逸らされた。何かあえて話そうとしないことがあるように、結城には感じられた。
first nameが村に住まない理由。本当は気になるのだが、結城はそれ以上詮索ができなかった。
「おまたせしました」
目の前に料理が運ばれてくる。この話は終わり、とばかりにfirst nameは結城に食事を勧めた。
結城の食べる様子をfirst nameはニコニコと見つめていた。少々食べずらさを感じながらも結城は初めての料理を口に運んでいく。
「大きくなるにはたくさん食べないとね」
「今でもfirst nameさんと同じくらいの身長はありますが」
「晃くんはもっと大きくなると思うわ」
「そうでしょうか?」
結局のところ追加した分も食すことは難しくなく、2人は食事を終えた。
「先に支払ってくるから待っててね」
「わかりました」
first nameはそういうと会計のため、席を立つ。
first nameのことだから、また荷物を半分持つと言い始めそうだと思った結城は、荷物を取りやすい位置に引き寄せ待つことにした。
そうしていると、結城の元へ一人の客が近づいてきた。
「お前、あの魔女とはどういう関係なんだ?」
「……どちら様ですか」
「攫われたんならハッキリ言った方がいい。あれが人間じゃないのは村中みんな知ってることだ」
訳が分からず、結城は男の顔を見返した。
過ごした時間はまだ短いが、first nameは優しく博識なだけで、人間じゃないとは意味が分からない。
怪訝そうに見返してくる結城に焦れたのか、男は再度気をつけるように言うとその場から去っていった。男が消えるとすぐにfirst nameの声が結城の耳に届いた。
「行きましょう」
「あ、…はい」
「どうしたの?」
「いいえ、何でもありません」
咄嗟に結城は今あったことをごまかした。
やはりfirst nameには何か結城のまだ知らないことがあるようだ。それを暴きたくもあれば、彼女自身から離されるまではそっとしておきたい気持ちの両方を結城は自覚した。
謎を解くからにはそれ相応の代償が必要である。と頭の中の自分がそう呟いた。
代償がいったい何なのか。彼女から見放されることにつながるのではないか。どのようなカードがあるのか、まずはテーブルの上のカードを確かめる必要がある。
この日から、結城は密かにfirst nameについてあえて情報を収集することを選択した。
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