先輩とわんこ
『くっらもちせんぱーい!』
「チッもう来やがったか!」
「はっはっは!愛されてんな」
「笑ってんじゃねぇ!」
『御幸先輩ずるい!倉持先輩とじゃれていいのはあたしだけですよ!邪魔です!めがねだけおいて消えてください』
「いや意味わかんねえってそれ!てか先輩だぞ俺。倉持、こいつの教育どーなってんだ?」
「知らねえよ!」
『今日も素敵です!』
今日は、なんだか無償に先輩にあいたくなってしまって、いつもは1限目の休憩時間に会いに行くんだけど、朝練終わりのところに突撃した。
「名前!朝から元気がいいなー!」
『沢村!えへへ、今日もあたしは倉持先輩に愛を囁くべく、』
「そこ、邪魔」
『ヒッ』
沢村との友情劇場を繰り広げようとしたところを切り裂くような悪魔の声。もっとも苦手な、ラスボス的ポジションに君臨する男…。
「何?」
『イイエ、何もありやせん。小湊大先輩』
「様、付けは?」
『小湊大先輩様…』
「わかればいいけど。朝からうるさいから、早く自分のハウスに帰りなよ」
『…わん』
「さっすが亮さん!犬を追い払うのがうまい!俺も見習わないとな!」
『見習わないでください!あと、犬じゃなーい!』
*
ぐぬぬ。朝から先輩にあおう作戦は失敗に終わったか。大魔王・小湊先輩の邪魔さえ入らなければ…。
はっ!つまりは、倉持先輩が一人になる瞬間を狙えばいいんだ!名案だ、天才だ、これだ。きたな!我の時代!
「で、なに?俺に相談しにきたの?てゆーか眼鏡のこと許してないからね、俺」
『眼鏡はどーでもいいんです!よくよく考えたら倉持先輩が一人になる瞬間なんてほとんどないんですよ!御幸先輩がいるから!つまりはですね、邪魔なんです!』
「お前協力してほしいつって俺のとこ来たんだよな?」
『はい!』
「はい!じゃねーよ!ならもうちょっとしおらしくしろっての!」
『しおらしい、というと、ヘナヘナ〜ってかんじですかね?海の中のワカメてきな動き?』
「だめだわ、お前。スコアブック途中だったから帰る」
海の中のワカメの動きを忠実に再現すべく、両手をあげてゆらゆらして見せたら、御幸先輩は帰ろうとしてしまう。引きぎみに。
そんな先輩の腰にタックルを決めて引き留める。
「痛ぇっ!お前はりつくなっての!」
『だって、御幸先輩しかいないんだもん!放課後の部活向かう瞬間しか狙えないもん!お願い!』
「だーっ!わかった!」
『チャンス作ってくれますか!』
御幸先輩は、あたしを無理矢理ひきはがすと協力してくれると、頷いてくれた。やや強行策な気がしたけど、問題ないさ。
作戦としては、部活に行くまでの道の途中で、一人になった倉持先輩を空き教室に連れ込む。
単純だけれど、 倉持先輩はいつも御幸先輩といるから一人になってくれればこっちのもん!
いざ、作戦決行。
空き教室でスタンバっている姿は少しあやしいけども…。
『き、きた!』
大きなエナメルを抱えながら一人で歩いてくる、愛しいツンツン頭。
もう少し、もう少し、進んだら…
『とつげきーーー!!』
「どわっ!?」
『捕まえた!』
エナメルを思いっきり引っ張り、空き教室に連れ込むことに成功!
でも力が強くなりすぎて二人して倒れこむ。もちろん、あたしが先輩を抑え込むように。
「っおい!お前、いきなり」
『こうでもしないと二人であえないし、強行策です!』
「ったく……。どけよ」
『え、嫌です!今日は伝えたいことあって、せっかく一人のところをつかまえたんですから、』
「聞こえなかったか?どけよ」
『!』
いつになく、とげとげしくて、なんなら少し怒ってるような倉持先輩。こんな姿は今までどんなに付き纏ったって見たことなくて、本気で嫌がってるよう。
「どかねぇか?」
『だってまだなにも、』
「じゃあ、こっちも強行だな」
『え、うわ!』
さっきまで、あたしの下にいた倉持先輩が今度は上になり、見下ろすようにして、後ろにあった教壇に背中を押し付けられる。
『せんぱ、いっ、背中いたい…』
「どうする?今は俺の方が有利だな。」
『なんか、怒ってますか…?』
「…別に。つか、んなとこに男連れこんでんじゃねーよ。襲われたらどうすんだ」
『先輩のこと好きだからこうしたんだもん。襲われても、いい』
「嘘つくんじゃねぇよ。本当は御幸の野郎が好きなんだろ?」
え?なんで御幸先輩?
『…。』
「図星かよ」
ちがう、あたしが好きなのは、
ずっと…
「聞いたんだよ、さっき。お前と御幸が抱き合ってたってな。口では俺が好きとか言ってやがったけど、本当は違うんだろ?この際だから、はっきりしておけよ。別に怒りゃしねーからよ」
いつもより、よく喋る先輩。
でもちがうのに。こんなこと話すためじゃないのに。
呆然とするあたしをよそに、まぁいいやってエナメルを持って教室を出ていこうとする。
あれ、こんなはずじゃ…。
「なんだよ、離せよ」
『違います勘違いしてます…』
「何が」
咄嗟に、先輩の腕を掴む。
だってこのままじゃダメな気がして、先輩にも会いに行けなくなる気がして。
『御幸先輩には、協力してもらっただけです、から。違うんです、あたしは倉持先輩がずっと好きで…』
「この期に及んで嘘かよ」
『本当です!なんで信じてくれないんですか!そんなにうっとおしいですか!そんなに、わたしのことはっ、きらい…ですか?』
泣いちゃだめだ、そう思えば思うほど、喉は痛くてあつくなるし、視界がぼやけてくる。
視界がぼやけるなか、倉持先輩は真っ直ぐにこっちを見てる気がして。その目に引き込まれるようにじっと見つめる。
「嫌いだよ」
『っ』
「御幸に尻尾ふるお前は嫌い」
『…え』
そう呟いて、掴んでいた倉持先輩の腕を力なく離すと今度はその手をつかまれる。
嫌いだ、って言いながらも、腕を引かれて何故か先輩の腕の中。しっかりと筋肉のついた、たくましい腕に包まれている。夢?
『せんぱい?』
「お前なんか嫌いだ。うるせぇし、どこにだって現れやがるし」
『言ってることと、やってることが違う…。混乱しちゃうじゃないですか。なんで抱き締めるんですか?あたしのことなんて嫌いなんでしょう?』
「うるせー口答えすんな」
『…じゃあ、好きってことですか?あ、あたしは先輩のことが好きです!』
「…知ってるって」
『倉持先輩は?あたしのこと、』
「好きだ、名前」
『っ』
「っ、わかったらもう他のやつに尻尾ふんじゃねぇぞ!」
顔を真っ赤にして、出ていこうとする先輩の後ろ姿が本当に可愛くて。
『倉持先輩っ!』
「んだよ、」
『だいすきっ!!』
「おわっ!飛び付くな!」
前途多難の恋はようやくハッピーエンドです!
いやいや、まだまだこれからです!ね、倉持先輩?
***
「よー御幸。ここんとこだけどよ、」
「わかったら、他のやつに尻尾ふんじゃねぇぞ!だっけ?」
「は!?おま、なん」
「倉持くん、かーわーいーいー」
「あいつか…。絶対ぇスパーリングだな。てめぇいつまでも笑ってんな御幸!!」
book /
home