苦手なタイプ
二つ下の沢村が苦手だ。
真っ直ぐで、嘘をつかない綺麗な心を持った少年。まさに物語の主人公となる人物だ。多分きんとうんに乗れてしまうくらい綺麗な心を持っていると思う。
そんなジャンルの彼から遠いところにいるのが、私。人目を気にして、いつからこうなったのかひねくれた考え方。
自分と違う沢村に対して、苦手というより嫌悪感を抱いていた。
野球部のマネージャーをしていた為、嫌でも関わらなくちゃいけなかったけど、引退すれば沢村とも関わりがなくなる。
そう思っていた。けど、
「あ!名前先輩!」
嫌悪感を抱いてる私とは正反対に、沢村は、週に2、3回ほど目の前に現れては、今日の部活はこうだった、ああだった、と話をして去っていく。
嵐のように。
それでも最後には必ずこう言って帰るもんだから、反応に困る。
「いつでもいいんで、顔だしてください!俺、名前先輩がいるとやる気でるっす!」
ま、俺はいつでも本気ですけどね!ガハハ!なんて大きく笑う後輩に驚く。
「また沢村?」
『あ、亮介』
「なつかれてるね?どうやったらあれくらいの忠犬になるわけ」
『知らないわよ…』
クスと、笑う亮介にひどいなぁと思う。
『嫌いなこと知ってるくせにさ』
「本当に?」
『本当に』
いやよいやよも好きのうちってやつじゃない?なんて亮介に言われたことがあるけど。好きなわけ、ないから。
*
昼休み、購買で昼食を買いに。亮介とじゃんけんで負けて、パシり。なんかいつも負けている気がする。
途中で、大きな笑い声が聞こえてくる。嫌いな、声。
どうやら同じクラスの女の子と話しているようだった。
分け隔てなく、平等。
沢村は誰に対してもこういうスタンスだ。
うん、やっぱり嫌いだ。
「あ!名前先輩!」
気づかれないようにサーっと通ろうとすれば、大きな声につかまる。
さっき話してた子といればよかったのに。わざわざそういうことする辺り、ため息が出る。
「購買ですか!俺、かわりに買ってきますよ!」
『いや、大丈夫だから』
「じゃあせめて、教室まで送りやす!」
『いいから』
「クリス先輩にもあいたいんで!」
待ってやす!と。
あーもういいや面倒くさい。
結局、購買に並んでる間まで沢村もずっといて、どっと疲れが襲ってくる。
早く、教室に戻りたい……。
「先輩行きましょう!」
『うん』
「あ!沢村〜この前の本なんだけどさ……」
「あ、すまん!それは…」
また別の子に声を掛けられる。
随分と様々な女子と交流があるな。天然タラシってやつ?
話につかまる沢村を置いていけば、急いで追いかけてくる。
『行ってくればよかったのに』
「いや!せっかく名前先輩といれるんで!あっ、これはその、」
『いいってそういうの。お世辞どーもありがと』
「お世辞じゃないっす!本当に名前先輩といれて嬉しいんです!俺、先輩のこと、すす、すきなんで!」
だれもいない廊下で叫ぶ沢村。
『それ、他の子にも言えるんじゃない?』
「えっ」
『別に私だけじゃなく、沢村ならどんな女の子でも大丈夫でしょ。さっきの子とかいいんじゃない?』
ひねくれて、相手を怒らしてしまうような言い方。
私の悪い癖だと思う。でもこんな言い方や考え方になってしまうのは沢村にだけだから。
うつむいていた沢村から絞り出すような声が聞こえた。
「っんだよ、それっ」
バッと顔をあげたとき、いつもと違う見たことのない表情をしている沢村に思わずどきりとしてしまう。
「ちょっと来てください」
腕をつかまれて、人気のないところまで連れていかれる。
『痛っ、沢村!はなしてよ!』
「…」
だれも通らないような階段の踊り場で、隅のほうに追いやられる。
『ちょっと!』
「俺、倉持先輩に教わりました。言葉で通じないなら、行動で示せって」
『っさわむら、』
「言葉じゃ通じないってことで、いいんすね?」
『っ』
いつも真ん丸な目をして、子犬のようにしつこく着いてきて。
こんなに鋭い目を向けられたのは初めてだ。
金縛りにあったかのように、その場を動けない。
「なんで驚いてんだよ。あんたのせいなのにっ」
『っ、やぁ!』
突然、耳を甘噛みされる。
びっくりして沢村の肩を押そうとすると、その両手首をつかまれて動けなくなる。
噛んだところをなめられては、また噛まれる。
それはもう、しつこく、ずっと。
『さ、ぁむらっ、んぁ!』
「っなこと、い、のに」
『えっ』
沢村が、何か言った気がして耳を傾けるけど、
「っ、すっげー声だしてんなって思って。俺のこと嫌いなくせに」
『っ』
冷めたような顔をしているのに。それよりも苦しそうな顔。
こんな顔をさせてしまっているのは?誰のせい?
さっきの沢村の言葉はきっと、
“こんなこと、したくないのに。”
『沢村、』
「っうるさい」
『きいて、』
「あんたの話はきかない」
『っ、もう名前で呼んでくれないの、沢村?』
「っ!」
大きく見開かれた目に涙がポロリと落ちた。私をつかんでいた手もゆるむ。その姿を見ていたら、思わず手を伸ばしてしまっていた。
『沢村、ごめん』
「なんで謝ってんすか。先輩は何も悪くねー。悪いのはっ、俺だ」
『ちがう、ちがうよ』
「せんぱ、い」
沢村をぎゅっと抱き締める。
『沢村に、嫉妬してたんだよ』
「おれ、に?」
『明るくて、誰にでも優しくて、いっつも笑顔じゃん。私とは違って。良いものを全部持ってる』
「……名前先輩は、わかりにくい」
『っ』
「でも誰よりも、他人思いで。どう言っていいかわかんないすけど、自分より他人を優先するような所があるから…。俺はすぐ自分のことで一杯になって、それで御幸先輩にも怒られるけど、先輩に、頼ってほしいって思った」
沢村は一生懸命に私に伝えようとしてくれている。
真っ直ぐで、強い。
私はなんにも伝えずに、沢村のことを勝手に嫌って、自分の性格に苛々して八つ当たり。子供もいいところだ。
『沢村、わたし』
「うっ!泣きそうになってる!?すいやせん、名前先輩!俺がこんな無理矢理……。ほんっと、もうこんなことしないっすから……」
『っき、』
「でも、俺は名前先輩のことが好きだから、前みたいに話しかけに行きたい。
たまには、行ってもいいですか?め、迷惑にならない程度にしますんで!!」
『好き、』
「へ」
『沢村が好きなの!』
「!?!?」
やっと素直に言えた。
胸の突っかかりがとれて、晴れたように心がスッキリする。最初から素直に認めれば良かったのかも。
びっくりして、顔を真っ赤にしている沢村。状況が読めないみたいだけど、追い打ちをかけるように……、本気だってわかってもらうために自分からキスをした。
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