性悪女と性悪男
「それでその、もしよかったら…俺と付き合ってください!」
『30点かな』
「え?」
『ごめんね、君にはまったく興味ないの。ていうか同い年?』
「っ!噂って本当なんだな…性悪女って」
『早く行ったら』
「可愛くねー女!顔だけってことはよくわかったぜ!」
うるさい。声がでかいし。
ついさっきまでは、好きだとかなんだとかいって、結局はこれでしょ。
しかも告白の場所に図書室って…。
あたし文学少女じゃないんですけど。
名前も知らない男は大声で何かを言いながら出ていった。早口すぎて何いってるかわかんなかったけど。
外見だけで近寄ってくる。
優しそうだね、何でも受け入れてくれる大人の余裕がありそう、等々そんな理由で好きになられる。それは勝手に想像されたあたしなわけで。
残念ながら、こんな性分。
思ってるような、大人の女性でもなんでもないの。
『馬鹿みたい。30点付けてあげて損したわ』
「ぷっ、くく」
『!』
図書室には人の気配なんてまったくなくて、そんなときに何処からともなく声が聞こえる。誰?
「悪りぃ。思わず笑っちまったよ」
そういって、姿をみせたのは御幸一也だった。
他人に興味がなくても知っている。うちの学校では野球部が有名らしく、よく校内集会とかで表彰されている。加えて、女子にモテるそうで、野球部の中でも1、2位を争うほどの人気があるらしい。
『盗み聞きとか趣味悪』
「たまたまな。大声で話してるから嫌でも耳に入るっての」
『聞いてたんでしょ?あんたも性悪女とでも思った?まぁ、見た目だけで判断するようなやつならこの先話すこともないよね』
そういうと、御幸一也は驚いたような顔をしていた。
「思うも何も、最初から性悪女だと思ってたよ俺は」
『は!?』
「わっるい成分がにじみ出てんだよな〜。あ、別に悪いことだとは思ってねぇよ。そういうのって人として大事なことだろ?」
なに、コイツ。
見え透いたような言い方。初対面でこんなに言われたのは初めてだ。
壁に背を預けてケラケラ笑う御幸一也の足元すれすれに足を蹴り入れる。壁とあたしに挟まれる御幸一也は一瞬驚いたけど、すぐにおどけて見せる。むかつく。
「足ドンっての?実際やられるとドキドキすんのな」
『馬鹿にしてる?』
「馬鹿にはしてねぇよ」
『なんかさ、あんたのヘラヘラ笑ってる顔見てると苛々してくる。全てお見通しです〜て顔が特に。見てて、苛つく』
「へぇー言うねぇ」
そう呟いた御幸一也の目がギラリと光った気がした。
そう思った瞬間に、投げていた足を持たれて、今度はあたしが後ろの本棚へ背中がぶつかる。
『い、た…』
「それ、結局お前も他の奴と同じじゃねーの?」
『……』
「見た目だけで判断、知りもしない相手を勝手に決めつける、同じじゃん」
『っ、一緒にしないで!あと足離しなさいよ!』
「やだね。それは俺の自由」
『性悪男ね、あんた』
「誉め言葉どーも」
今だに足を持たれてるし、背中は本棚に押し付けられてるから痛いし、あたしよりもずっと背の高いコイツは頭上に手を持ってくる。
逃げ場がない。
『ちょっと、どいてよ。もう満足したでしょ。身動きとれないし、この体勢やだ』
「動けないようにしてるからだろ。よくよく考えたらおまえこんなとこ見られたらまずいだろうな。学校一人気者のアイドルがまさかこんなに風に見下ろされてるなんてさっきの奴も思いもしないだろうな」
『だからっ、離してっていってるじゃん!』
「反抗するんだー。圧倒的不利なこの状況で?いいの?」
『っ』
まただ。この顔、苛つく。
『っとに、性悪男』
「そんな性悪男から性悪女へ忠告でーす」
『なによ』
「気が強いのはいいけど、女なんだから簡単に足を投げ出すなよ。だから身動きとれねーんだからな。あと無防備すぎ」
『ちょ、やめ!太もも触んないでよ、やだっ!』
「これより先だって進められる。悪い男はたくさんいるんだぜ?なあ、わかってる?」
『…っ』
「わかった?」
『わかっ、た』
最悪だ。こんなやつに、あたしが。
そう思ったら悔しくて、ギロリと御幸一也を睨み付ける。
「ったく全然わかってねーじゃん。それは男を煽ってんの。あーあ、もう知らね」
『うるさ、んん!』
なに、これ。
なんで御幸一也の顔が目の前に…。
キス…されてる?
『んんっ、さいあく!』
「俺さ、お前みたいなの征服すんのすげー楽しいのよ」
『は、なにいって…』
「だからさこれからも楽しませてくれよ、名前ちゃん。性悪同士、仲良くしようぜ」
『最低、』
「あれー、俺今のよくね?80点くらいは貰えるだろ」
『10点よ、あんたなんか!』
「そっか。じゃあもっと頑張らねーとな」
『っ、』
「点数あげるまで、付き合ってくれるんだろ?逃がさねぇからな」
そういってまたキスをされる。
とんでもない、性悪男に捕まってしまったと思う。
逃げられない、そう思った。
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