先生を追いかける


 

※倉持が教育実習生



『失礼しまーす』

「げっ。また来たのかよサボり魔」

『これはサボりではなく、嫁候補としての出勤というか、修業というかですね、』

「お前の本業は学業だろうが」

『もっちー!大丈夫だよ、あたしが嫁になるから!』

「困ってねぇからさっさと帰りやがれ!」




グイグイと押されて、強制的に保健室から追い出されてしまう。
ひどい、と上目遣いしてみるも、あん?やんのかコラ、とヤンキー口調で言われてドアをピシャリと閉められる。

はぁー、今日もだめだったか。




もっちーこと倉持先生がこの高校にやってきたのは三週間前。

保険医の教育実習生としてやってきた倉持先生は、まだ若くてそこらの先生より断トツかっこいい!
全校集会で紹介されたとき、ざわついたのはほとんど女子の声だったと思う。

そんなもっちーに一目惚れしたあたしは、毎日、必ず1回は保健室に寄るようにしている。




「倉持先生ー!次体育で怪我したらよろしくねー!」

「おー怪我したら見てやるけど、怪我すんなよー。女なんだから無茶すんなー」

「俺のこともお願いしやす!」

「ヒャハ!男は唾つけときゃなおるっつーの。甘ぇ!」




そういって笑顔で男子生徒の頭をわしゃわしゃ撫でる先生の姿ときたら、もう。

女子生徒にはもちろん、男子生徒からも人気者。
親しみやすいあの性格は先生に向いていると、生徒として思う。生意気ながら。




でも。




『先生、あたし怪我した』

「まーたお前かよ」

『お前じゃないです、苗字名前!名前で呼んでもいいよ!』

「あーうるせぇ。で、どこ怪我したんだよ」

『胸だよ』

「はぁっ!?」

『もっちーが冷たいからハートが傷ついた』

「治療方法はありません、さいなら」

『つーめーたーいー!!』




そう、先生はあたしに冷たい。気がする。
もしあたしにだけ冷たくする理由があるとすれば、それは何となくわかっている。




『あたし、先生が好きなんだけど!だから付き合いたい!』

「お前な…」




先生はモテモテだけど、女子の目は大体が、イケメンだから、とか、ノリがよくて面白いからっていう理由で先生に群がっている感じ。
そんな中で、あたしはそういうんじゃなくて、本気。
本当に倉持先生のことが好き。

それをわかってるから、きっと他の生徒よりも冷たくされるんだと思う。




『まいいや。また明日も来るからね!覚悟してろよ、もっちー!』

「お前は保健室をなんだと思ってんだ!」

「倉持くーん!っと、」

『ぎゃ!!』




前見てろよガキ……って呆れるもっちー。むむ、ガキ扱い。そして頭上からは、お馴染みのはっはっはっていう笑い声。




『御幸さん、すみませんっ』

「苗字さんはまた倉持先生のところにきてたのかな?」

「またっていうな」



このゴールデンコンビは!
倉持先生と、野球部の外部コーチをしてる御幸さんは高校の時からの仲らしく、よく二人でいるところを見かける。

高校時代は二人してすごかったらしく、でもお互いに自分のことを話す方ではないから具体的にどこが凄かったのかわからないでいる。

ただお互いに、あいつは凄かったっていうもんだから、何かしら凄かったんだと思う。




「帰るところ?」

『はい。もっちーが全然相手にしてくれないんで帰ります』




御幸さんは、またな!って素敵な笑顔で声をかけてくれたけど、もっちーは相変わらずツーンとしてる。

いいさ、明日またリベンジするから!









今日は少し雰囲気を変えてみた。

前に御幸さんから聞いたのは、もっちーはグラマーでセクシーな女の人が好きだと。生憎、グラマーからは程遠い体つき。泣ける。
なので、せめてセクシーに見えるようにメイクを変えてみた。リップも色を赤っぽいものにして。

髪は少し巻いてみたし、スカートも短めに。セーターは少しだぼっとさせたものを買って萌え袖を意識。

いつもとちがうあたしにクラっときちゃう作戦です!




『もっちー!』

「ったく、また来……」




保健室のドアを元気よく開けて、笑顔で挨拶!
固まるもっちーに、きたきたきたー!と内心ガッツポーズ。




「……」

『もっちー気づいた?』

「あー。なんつーかいつもと違う、か?」

『そう!ちょっとだけイメチェンしてみました』




くるりとまわって、少し首を傾げてみたり。




「女ってすぐ雰囲気かわんのな。感心感心」




なかなかいい反応じゃない?
コロッといっちゃうかんじ?




『ねぇね、少しは意識した?』

「あー……」




もっちーの言葉を待つ。




「何期待してんのか知らねぇけど、俺からみたらどうしたってお前は今生徒だからな?」

『っ』




お前を異性としては見ていないと。あくまで、生徒だ、という牽制。

なーんだ。




『…これじゃあ、いつまでも届かないままじゃん』

「は?」

『どんなに頑張ってもっ、先生はあたしを異性として見てくれない。だったら、こんなこと何も意味ないっ!』

「こら、でかい声出すな!」




ほらね。あたしが怒ったって、本気で伝えたって、先生はいつもあたしを生徒扱いだ。

わかってるよ、相手にしてくれないこと。




『やだ!もういい、ふて寝する!ベッド使うからね!』

「おまっ、バカなこと言ってないで帰れ!授業あんだろ!」

『嫌!』




もっちーの手を振り切って、ずんずんとベッドの方へ進む。




「わがまま言うなガキ!」

『あ、ほら!またそうやってガキ扱い!』

「ガキはガキだろうが!いいから教室戻れ!」

『いやだってば、あっ!』

「おい、ひっぱんなっ、うわ!」




先生があまりにもしつこくて、思いっきり腕を振り切ったら、勢いあまってベッドに突っ伏すように寝てしまう。
とっさに引っ張った先生も一緒に、なだれ込むように。

あたしの上に先生が覆い被さるようにいる。

な、なにこのシチュエーション。
チャンスだよ。こんなおいしい状況は絶対にモノにしたい。



『せんせ……』

「っ、んだよその声。煽ってるつもりかよ」

『そうだよ?ね、これでも異性として見れない?こんな体勢だよ』

「っ」

『ガキはこんなことしない。それにね、ここベッドだよ』

「!?」

『倉持先生……』




あとちょっと、そんな気がする。と思った矢先にあのお馴染みの声が。




「倉持くーんいるー?俺ちょっと怪我したからさー」




御幸さんの声。なんてタイミングに!ばかやろう。
どうしよう、と一人焦っていると、
立てよ、ともっちーに腕を引っ張られロッカーに押し込まれる。




『な、なんで隠れっ』

「シッ。大人しくしてろよ」




バタン、と閉められ外の光がなくなる。てか、なんで隠れなきゃならないのー!?




「失礼しまーす」

「怪我ってどこだよ」

「ちょっと血が出た。絆創膏貰えればいいわ」




御幸さんが怪我をしたらしい。
聞いてた感じ手をすって血が出たとか。大したことではないみたい。

てか!よくよく考えたらこのロッカー、もっちーの私物入ってるけど!いつも着てるコートかかってますけど!いい匂いなんですけど!!

もっちーに包まれてるみたい……。
そんなことを思っていれば聞こえてくる会話にドキッとして耳をすます。




「倉持、苗字さんはー?」

「今日はいねぇよ」

「あっれー、珍しい。この時間帯にいるイメージなんだけど」

「まあ、気まぐれだろ」




どうやらあたしの話をしているらしくて、ちょっとドキドキする。




「倉持もさ、大変だな!あの子お前に完全に好意持ってんだろ?結構マジなやつ」

「どうだかな」

「いろいろと大変だろ?」

「大変っつーか、迷惑だな」




う、そ。

はっきり聞こえた。迷惑って。


やっぱり、そうだったか。異性として見てもらおうと必死にやってきたけど、空振りか。おお空振りだ。一人相撲もいいところだった。

わかってはいたけど、はっきり言われるのはやっぱり、つらい。


てかもっちーもひどいよ。あたしがここにいるって知ってて、そういう風に言ってるわけでしょ。
そっか。これを気に痛い目見たから諦めるだろうって。そういう作戦か……。


ばかもっちー。




狭くて暗いロッカーの中で、涙を耐えながら会話が終わるのを待つ。




「迷惑ねぇ。だからさ、真面目なんだってお前はさ」

「は?」

「いくら大人の事情とは言っても、いずれ理性が効かなくなるだろ。俺がもし倉持の立場だったらアウトだね、アウト」

「簡単に言いやがるなお前!」

「気になってる子が、毎日毎日、一途に保健室に来られたらノックアウトでしょ〜。俺ならそこのベッド使ってヤるね。立場とかお構いなしに」




ん、今なんて言った……?気になってる子?




「行動の前に頭が働くんだよ、いろいろと」

「まー大事にしたい気持ちもわかるけど。…本音は?」

「チャンスがあればぶち犯してるっての。そこのベッドの柵に手縛り付けて口押さえつけながらガツガツやる。けどな、抑えてんだよ」




もっちー?
なにいってるの、もっちー?




「期待を裏切らないね、倉持くん。俺だったら、体操服半脱ぎにさせて動かせない状況にして犯すけどな。苗字さんの体操服姿やばいだろ?」

「おい、苗字で変なこと想像してんなよ」

「嫉妬ですか倉持くん。でもまだお前のじゃないだろ?俺、狙っていい?狙い打ち〜」

「あいつは、やらねぇよ」




なんという会話……。
そして、頭がパンク。おまけに顔があつい。
もっちーの言葉にドキドキと胸がうるさい。どうしよう、心臓静まって!

しばらく、聞いていられないような話(体位とか)していて、それを終えたら、御幸さんは保健室を出ていった。

つかつかとロッカーに近づく足音。
がちゃりと、開けられる。眩しい光と共にもっちーの、すごーく悪い笑顔。



「おい」

『っ』

「どうした?顔真っ赤だぜ、名前」

『なっ、名前はじめてっ!もっちーもしかしてからかってるの!』

「は?今の話聞こえてたろ。からかってるようだったか?」

『っ、』

「どうなんだよ」

『先生、ロッカーからでたい……』

「質問に答えてからな」

『からかってるように、聞こえなかった』

「ならよし。で、俺はあと一週間で実習も終わり。つまり普通の大学生になるわけだけどよ」

『っはい、』

「立場とかよーいろいろあって。ここじゃできないこと、するつもりだけど、覚悟できてんだろうな?」

『っ』

「言っとくけど、煽られたの相当きたからな。実習終わりのこの日、予定あけとけよ、名前」

『っばかもっちー!』




ロッカーの中で顔を真っ赤にしたあたしは、もうなにも言えませんでしたとさ。

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