内緒にする理由


 


付き合ってること、内緒にしてほしいと言ってきたのは紬だった。
なぜ?と不思議に思うところもあったけど、ずっと好きだった人と付き合うことになったんだ、わがままは言わないと、内緒にすることを決めた。

でも、我慢には限界ってあるよね。




「丞サン、やっぱりモテるッスね。ファンレターの数も多いッス」

『だねー。整理するのも大変だ』

「まータクスってかなり男前だし、冬組でも一番なんじゃね」

「名前、仕事忙しいのに、手伝わせちゃってごめんね」

『心配しないで!こっちは終わらせてきたし。それよりいづみ監督こそ、整理はあたしたちに任せて、劇場の様子みてきたら?』



冬組の公演が始まり、春夏秋組と積み上げてきた努力のお陰あってかファンレターの数もかなり多くなってきた。

今は、ワンワンコンビといづみでファンレターの整理中。




「ごめん、じゃあお言葉にあまえて劇場の方見てくる」

『任せてー』

「いってらー」



しばらく3人で整理をすることに。
丞さんも多いけど、紬も多いよ。充分すぎるくらい。




「やっぱ大人の魅力ってやつッスかね」

『冬組は年齢が高めだもんね』

「ねーねー、名前ちゃんはさ、誰が好みなん?」

『えっあたし!?』

「そーそ。この際だし、ずっと整理してても暇だし、恋愛トークしちゃお」

「それ賛成ッスー!」




参ったな。この二人といればそういう話になるよな…。
どうしよう、と悩んでいると後ろから救いの声が。




「おい、名前が困ってんぞ」

「がっつきすぎだろ」

「テンテン!セッツァー!」




助かった…。質問攻めから逃れられる。
二人に、内心感謝しながら、どうしたの?と聞けば、いづみに手伝うように言われたとの事。

あれやこれやと、メンズトークに紛れながら整理を進めていった。









整理も終わり、冬組のみんなへ渡すことに。




『あ、紬…さんに丞さん!』

「おう」

「おつピコー。ファンレターの整理終わったよん」

「ありがとう」

「お二人ともモテモテで、羨ましい限りだったッスー!」

「ま、俺には叶わねーけど?」

「ふん、当然俺もお前には負けてねぇ」

「芸能人はずりーだろ」




二人を囲んで、ファンレターの話をする。

ちら、と紬を見れば言い合いをする天馬と万里を見て苦笑いをしていた。




「タクスー、モテモテだねー!やっぱモテるのは硬派かー。カズナリ・ミヨシの恋愛メモに書き込みっと…」

「おい、呼び方やめろ」

「クールで少し天然?なとこもポイントが高いはずッス!世の女の子は硬派な男が好みなんスね」

「いや、今時のオンナには、紬さんみたいな男が人気らしいぜ。草食系っての?」

「えっ?」

「そういや、俺もドラマで共演した女優に言われたな、紬さんが一番タイプだって」

『!』




天馬の言葉に、どくり。今の…、




「ちょっ!は、テンテン!なんで女優さんがつむつむのこと知ってんの!?」

「紬サンも芸能人だったッスかー!?」

「えっ、俺は一般人だよ!」

「あー、ここのやつらの写真見られた。たまたま冬組のみんな写っててそれで」

「へぇーその女優、イイの?」

「俺は好みじゃねえけど世間からの支持は高いな。清楚系で通ってるし。あ、連絡先知りたいとか言ってたな」

「ええ!つむつむマジラブチャンス到来!?ずるーいー」




ちょ、っと待って。女優さんて…。
勝てるわけないじゃん。この前、天馬と共演したってことはあの人気の女優さんだよね。




「紬さん、どーすんの?天馬が間繋いでくれっから連絡先聞いておけば?」

「いや、はは。俺は…」




万里が紬に言う。紬は曖昧に返す。
曖昧に、ね。もやもやする。




「なになにー?つむつむフリーっしょ?贅沢言ってると、チャンス逃すよー」

「えっと…」

「紬、はっきりしておかないと面倒だぞ」

「知っといて損はねぇだろうし、教えとく?」




我慢の限界だ。




『いいんじゃない?あの女優さん有名だし、清楚系なんでしょ。紬ともお似合いってかんじだし。お互いにいいなら、いいんじゃない?』

「は、名前…?」

「あんた、紬さんのこと呼び捨てにしてたっけ…?」




思わず声をあげてしまってからは、遅い。万里と天馬が不思議そうに言う。
一成と太一にいたっては何が起きたかわからないと、言わんばかりの顔。

やってしまった。




『っ』

「あ、名前チャン!」




居たたまれなくなって、駆け出したら一成の声が聞こえたけど無視。




とりあえず誰もいないところに逃げ込む。
あーやっちゃった。




『内緒って約束なのに…』




でもだって、やっぱりいい気はしないよ。だってあたしは紬の彼女なんだから。
彼女、なんだよね?内緒にしたいってやっぱりそういうのが嫌だって事なのかな。




「見つけたぜ名前」

『っあ!』

「はい、確保な」




まずい!そう思って走り出そうとすれば立ちはだかる、セレブ高校生組。
厄介な二人につかまってしまった。




「さっき、面白いくらい殺気だってたけど、あれなによ?」

「紬さんのこと呼び捨てってのが引っ掛かるな」

『うう、』

「おっと、逃げようとすんなよ」

『!』

「これから洗いざらい話してもらうぜ」

『ご、拷問だ』

「ふん、大人しくしてれば早く終わるぜ?」

「そうそう。オトナシク、な」

『いやっーー!!』




両手首を捉えられた様は、悪いことをしたかのよう。




『…お願い、何も話せないの』

「ふーん、なんで?」

『それも言えない』

「この状態でだんまりかよ」




背中には壁、右手は天馬に、左手は万里に掴まれているから逃げ場がない。
だから泣きそうになるこの顔を隠すことができない。




「って、なんで泣きそうな顔してんだよ」

「俺らが泣かせたみたいだな。つーか名前の泣き顔って…。悪くねぇな」

『っ』

「同感。それ誘ってんの名前?」

『な、ちが』

「違わねぇだろ」




二人が悪魔に見える。た、助けてー!だれかー!




「天馬くん、万里くん。離してあげてくれないかな?」

『紬、さん…』

「お!王子様のお出ましだな」

「へいへい、あとは二人でごゆっくり」




まさかのタイミングで紬が。

身の危険を一瞬感じたけど、あっさり引いていった高校生はこういうのに慣れているんだろうなと思った。




「名前…」

『…』

「あんな顔、したらダメだよ。高校生の男の子に」

『…お説教ならいらないです』

「……」

『……』




なんで。なんで紬が怒ってるの?
怒りたいのはあたしなのに。




『…』

「ごめん…。さっきのこと、はっきり断らなくて」

『もういいよその話は。良いんじゃない?紬のタイプでしょ』

「……嘘つき」

『っ』

「それに俺は名前のことが好きだから、他の女の人の話は関係ないよ」

『だって、付き合ってること内緒にするりゆうが、わからないんだもん…。自信だってないし』

「うん、うん。全部俺が悪いんだよ」




そういって、紬の中に包まれる。
頭を撫でられて、ぽんぽんと優しく体にふれる。
紬の匂い、あったかい。




「自信が、なくて…。俺なんかが彼氏でいていいのかなって」

『…え』

「演技も男らしさも、丞には劣るし、天馬くんや万里くんみたいなこれといって得意な自信もない」

『っ』

「名前の彼氏は、おれなんかでいいのかってこわくて、」




苦しそうな紬の声に、初めて聞くことができた気持ち。





『そんなの知らない、それこそ関係ない。あたしが好きなのは紬なの』

「!」

『それだけじゃだめ?』

「名前、ありがとう」

『紬…』




優しく微笑んだ紬が、頬を撫でて…。それはキスの合図。
自然と目をつむる。




『紬?』

「……」




一向に来ない感覚に、不思議に思って目を開ければ、紬の少し意地悪な笑顔。




『つ、つむぎのばかばか!恥ずかしい!』

「ははっごめん、つい可愛くて。見ていたかったから」

『知らない!』




ふい、と横を向く。
ずるい。あたしばっかドキドキしてて。

もう絶対向いてやんない、なんて思って左を向いていたけど、ちゅ、と右の口端にキスされる。

びっくりして紬の方を見れば、




「はは、引っ掛かった」

『んっ』

「ん、可愛い」




彼はどこまでもずるい人。
降り落ちるキスは今までの寂しさを埋めるには充分なものになっていった。

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