甘味と芝居と私
「…もぐもぐ」
『……』
「…もぐっ」
久しぶりに会った彼は、ずっと昔から夢であった芝居というものに、最近になって関わることができたらしい。毎日稽古にも励んでいるみたいで、忙しいし、なかなかうまくいかず苦労している様子。それでもどこか楽しそうな彼。
私の方はと言えば、彼の昔からの夢を、彼が劇団に入ってから知った。
2年の付き合いになる。それでも知らなかったその事実に、何とも言えない気持ちにかられた。
『芝居、楽しい?』
「…もぐっ、ああ」
『そう』
元々口数が多い方じゃない。告白したのも私からだった。
「俺に関わるな」
「消えろ」
「目障りなんだよ」
好きだから付き合ってほしい、と言うたびに返ってきた言葉たちは、本当は彼なりの優しさだって気付いてた。
だから諦めきれなくて、ずっと想いを伝え続けた。
最終的には彼が折れて、そのおかげで彼女になれたわけだ。
その見た目にはあわない、甘味をひたすら食べ続ける彼を見て思う。
私は、もう必要ないかもしれない。
芝居をする彼にとって、邪魔な存在になるかもしれないから。
『…十座』
「…なん、!」
『ん、甘すぎる』
「…悪いか」
『んーん。そんなところも好き』
「……ちっ。んなこといきなりすんな」
『だって、言葉より、行動する方がよっぽど伝わるでしょう』
「…なんで泣きそうなんだ」
あ、バレてるのか。
十座ってばどこまでも優しいんだな。
『いつでも切り捨てていいよ』
「…は?」
『私は、十座の一番じゃなくていい。邪魔になったらいつでも別れていいから』
「なにいって、」
『もしかしたら、別れた方がいいかもしれない』
「……」
『十座の夢…、お芝居の邪魔になるっ』
その先は言わせてもらえない。
顎を掴まれて、思いっきり十座の方へ向かされて、キスされているからだ。
『っん、は』
「っは、」
何度も、何度も。
角度を変えられて、苦しくて、胸を押しても離れない。
こんなに求めてくれるのは、珍しい。
最後のキス?
『はぁっ、はっ』
「っ、…なあ、両方は贅沢か?」
『っはぁ、両方?』
「名前も芝居も」
『っ』
「両方持つことは、俺にはできないのか?だめなことか?」
『そ、じゃない…』
わかってなかったのは、私だった。
こんなにも真っ直ぐに見てくれる彼を信じられないわけがない。
『これからも十座の彼女でいいの?』
「ああ」
『よかった…』
「これから先も、ずっとだ」
無口な彼から出た言葉は、どんな甘味より甘い。そんな気がする。
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