再開の始まり
昔、近所に住んでいた4つ下の幸ちゃんという可愛らしい男の子に、演劇をやっているから来てほしいと千秋楽のチケットをもらった。
あの場所からは引っ越してしまったので、もう何年もあっていなかったけど、元々、親同士の仲が良くひょんなことから連絡をもらい、そこから幸ちゃんとも連絡を取るようになった。
舞台のポスター写真を送って貰ったけど、相変わらず美人さんで、少し気が強そうな所は変わらなそうだった。
公演前に少しあえる?と言われ、指定された通りに、もじゃもじゃ頭の支配人さんに幸ちゃんの知り合いと伝えると、聞いております!と快く案内してくれた。
『あ、幸ちゃん!』
「久しぶり」
『お、大きくなったねー。あたしより背も大きいし…って、衣装すごい!』
「俺が作ったんだから当然でしょ」
『え!幸ちゃん衣装も担当なの!?』
「そうだけど。…それより、ねえ」
腕組をしながら、少しむっとした表情をする幸ちゃん。むっとした顔も可愛らしい。久しぶりのはずなのに、違和感を感じないから不思議だ。
そんな幸ちゃんの衣装をまじまじと見る。お、お腹が見えてる!細身だけど、少し引き締まった体に、可愛かった幸ちゃんも、男の子だなあと感心してしまう。だけど、それよりも、
『幸ちゃん、こんな露出してたら襲われちゃうよー。気をつけてねほんと』
「……」
『幸ちゃん?』
「あのさぁ」
幸ちゃんは急に、あたしの両肩を掴んで、さっきより更にむっとした表情で見つめてくる。
「その幸ちゃん、て呼び方やめてくれない?」
『え、でも昔からの癖だし、なかなか…』
「やめられない?」
『う、うん』
「じゃあいいよ。それ言うたびに罰ゲームね」
『え、え!?』
「今から開始だから、よーいスタート」
『ちょ、幸ちゃん!』
「はい、一回」
『う、うう。一体何をすれば…。そんなにお金持ってないよぅ』
幸ちゃんは昔から、人を追い詰めるのが得意だったからこわい。あたしがバカなだけかもしれないけど、年下の幸ちゃんには良いように遊ばれてたっけ。かなしいかな。とほほ。
「お金もいいけど、取り立てじゃないから。公演まで時間あるし、罰ゲームの内容は帰るときのお楽しみ。言ったらつまんないでしょ」
『…はい』
じゃ、また後で楽屋呼ぶから。なんて可愛らしい笑顔で去っていった。
*
公演が始まると、さっきのことなんて忘れてしまっている位、すごく良かった。
幸ちゃんも、本当に立派に輝いていたし、あの有名な皇天馬と対等に渡り合っているのは感動ものだった。きっと仲良いんだろうな…。
興奮冷めぬまま、楽屋に行くと、幸ちゃん含め全員が笑顔で抱き合っていた。少し、うるっとしてしまう。
「あ、名前」
『幸ちゃん、すごく、すごくよかったよ。こんな素敵な舞台に呼んでくれてありがとう』
「当然。いろいろあったけど、稽古、頑張ったから」
『幸ちゃん…』
その表情から、今までいろいろなことがあったんだなと思う。きっと、楽しいことばかりじゃなかったはずだよね。
「幸の彼女?」
「わあ!千秋楽に彼女さんなんて、幸くんカッコいいなー」
「ゆきの彼女にも、スーパーさんかくあげるよー」
「すみー、ゆっき〜の彼女困惑しちゃうからさんかくはしまって」
幸ちゃんと話していると、周りが、がやがやと騒ぎだす。個性溢れるメンバーだな。
『幸ちゃんがいつもお世話になってます。役者さんの皆さん本当に素敵でした。おつかれさまでした』
「えへへ。ありがとうございます!僕、幸くんにはいつも助けられて、感謝してるんです」
『そうなんだ。幸ちゃん、昔から面倒見いいから』
「で、ゆっき〜の彼女さんはいくつ?」
『えっと、』
彼女ではない、なんて、答えようとしていると、腕を引かれ皆さんとの距離ができる。
幸ちゃんが強引に引っ張っているから。
「行くよ」
『え、あ』
「幸」
「なに」
「頑張れよ」
「うん、ありがと、天馬」
二人は仲が良いんだなーなんて思っていると、関係者以外は絶対に入れないであろう、倉庫に連れられる。中に入ると、すぐに壁に背中を押し付けられて、幸ちゃんの表情は今までに見たことのないものだった。なんて表現したらいいのかわからない。じっと見つめていると、罰ゲーム。と言う。わ、わすれてた。何回言ったっけ…。あー!癖ってこわい!
「五回も言ってた」
『そっか…で罰ゲームは、ん!』
「ちゅ、一回」
ななななな!罰ゲームの内容はどんなものだろうと聞こうとすれば幸ちゃんにちゅーされて喋れない。えっと、ええ!ちゅー!?キス!?
『んぅ』
「んっ、二回」
『んんっ、』
「っ三回、」
頬を優しく撫でながらキスをする幸ちゃん。その姿を見ていると、やめて、なんて言えなくて。ただただ、その綺麗に整った顔を見つめては、目を瞑ることしか出来なかった。
「今日、呼んだのは成長した所を見てもらうため」
『え?』
「近所に住んでいた、ただのおチビとはサヨナラするため」
『それって、どういうっ、んん』
「…ん、四回。一人の男として見てもらうため、意識させるため」
『ゆき、ちゃ』
「最後…、嫌だったら逃げて」
真剣な眼差し。幸ちゃん、こんな顔するんだ。どんなに可愛くても、やっぱり男の人。
『や、じゃない、です』
「なんで敬語なわけ」
『だって、なんか、わかんないけど…ドキドキしてるし』
「そう、じゃあ、」
『んぅっ!』
「んっちゅ、は」
『あ、ゆきっんん、ふ』
今までのキスとは違う。 幸ちゃんの舌が絡み付く。どうしよう。ドキドキがとまらなくて、ふわふわした気持ちになる。
力が抜け、壁に預けていた背中もずるずると下へ落ちていく。へたりと座り込んでしまう。
『も、限界っ』
「大丈夫?」
『ゆ、幸…、幸くん』
「なに?もう幸ちゃんって呼べなくなっちゃった?」
『っ』
優しく笑う姿に、ドキドキ。図星をつかれて、動揺してしまう。あんなことをされて、もう前のように見れない。成長ってこわい。
「でもね、名前。こんなの序ノ口。俺のこと好きになるまで、たくさんつきあってもらうから」
『っ』
久しぶりの再開が、まさかこんな事になるなんて思ってもみなかった。
だけど、不思議とこの感覚は嫌じゃなくて、もっと幸くんを知ってみたくなり、振り回されるのも悪くないかも、なんて思ってしまった。
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