二の次
「今日は大学の仲間たちとフットサルに行くから無理だ」
『じ、じゃあ来週の金曜日は、』
「ああその日は紬と観劇だ」
『そう、忙しいね…』
「悪いな。じゃ行ってくる」
丞と付き合って数ヶ月がたちました。私の猛烈アタックでようやく恋人というポジションをゲットしたわけだけど。付き合ってから恋人らしいことなんて1つもしてない。休みだってほとんどあわないし、せっかくあっても丞の予定が多過ぎて時間のすれ違い。キスだってまだしてないし、もちろんその先だって…。これって付き合ってるって、言わないよね。むしろ避けてる…?
『はぁー』
元々、芝居について、特にストイックな事をわかっていたし、二の次でいいって思っていたけど。ここまでとは思ってなかったな。だったら別れる?なんてそんな簡単に言えればいい。残念なことに今はまだまだ離れられそうにない。
*
「えっ、名前ちゃん今日お休みなの?」
『う、うん。休みだよ』
「…丞、観劇は俺一人でいくよ」
「なんでだよ」
「なんでって、せっかく二人休みなんでしょう?どこかに行ってきたらどう?」
紬くんのお察しの良さに感激して、涙が出そうになる。グッジョブ!
しかし、いくら第3者が気を回してくれたとはいえ、当の本人がどうか…。って、黙っちゃってるよ。これは悩むというよりも、なぜ元ある予定を無くしてまで?ってそんな感じの顔だ。わかりやすいやつめ。
『……』
「……」
『ありがとう、紬くん。でもいいよ、観劇行ってきて』
「でもっ!」
「紬、いいんじゃないの?名前ちゃん、暇ならボクと遊んでよ」
『え、東さんもお休みなんですか?』
「そうなんだよね。予定がなくてさ。てわけで、丞、いいよね?」
「…いいんじゃないか。別に俺が決めることじゃないだろ」
東さんからのお誘いで、よし!これで暇をなくせる!って思って嬉しくなったけど、丞の態度。やっぱり好きっていう感情が見えないな。どうでもいいっていうのが伝わってくる。寂しいな、ほんと。
「ふふっ、ボクたち二人で歩いていたら恋人同士に間違えられそうだね」
『へ、あ、そうですよね。年齢も近いですし…?』
「……」
東さんに、肩をつかまれてグッと引き寄せられる。い、いいにおい。じゃなくって!急にどうしたんだろう。美形な人と並ぶと、自分の不細工さが更に際立ってしまうからあまり近くに来ないでほしいなー。なんて言えないけど。
「じゃあ行こっか名前ちゃん。今日は楽しい夜を過ごそうね?ボク、久しぶりだから少しセーブできるか心配だけど」
『セーブ?』
「っ」
「今日帰せなかったらゴメンね、丞」
「東さんっ、いい加減にしろ。名前をそんな風に扱うつもりなら俺だって黙って、」
「おやおや。せっかくの休日に恋人を放っておく男が悪いんじゃないかな。取られても文句は言えないよ」
「っ」
あ、あれ。ここにきて東さんの意図がわかってしまった。お誘いしてくれたのも、きっとこうするため…。丞をチラリと見ると、ぐっと何かを堪えている感じだ。せっかくだけど、東さん、ごめんなさい。
『あ、東さん!お気遣いありがとうございます。けど、いいんです。丞の中で、お芝居が一番だってことわかってるし、自分が二の次ってことも充分わかってますから…!』
「っ」
「ふふっ、だってさ丞」
「あはは…」
「名前、ちょっと来い」
『た、丞!?』
強く腕をひかれ、引っ張られる。あ、れれ?なんかさっきより怒っている気がする。
どこへ行くのか、外に出て行こうとする。
『ま、待って!どこいくの丞』
「お前はどこへ行きたいんだ」
『え?』
「どこでもいい。付き合ってやるから言え」
『……』
「おい」
丞は、どこかに連れていってくれる様子。だけど、こんな無理矢理行ったって面白くもないし、意味がない。そんな風に思ったら足が止まる。はやく動け、と腕を引っ張られるけど絶対に行かないと、そこに留まる。
『いいよ、そんな。無理されても…』
「……」
『戻ろう?』
「二の次、じゃない、お前は」
丞がポツリと話す。
「悪い。名前に甘えてた…。自分のことばかりでお前のこと、考えてやれてなかった」
『丞…』
「東さんのおかげで目が覚めた。ここのカンパニーは男所帯だからな、いつ横から取られるかわからない」
『大丈夫だよ、私は丞のことしか見てないから』
「っ」
『まぁ、でも、たまには構ってくれないと余所見しちゃうかもー。ね、たーちゃん?』
「っ、努力する…」
頬をかいてる姿が見れたから、今日は許してあげようっと。
book /
home