episode 22
死を告げる看護婦 母の想いA


「悠ー、お昼何食べる?」

“姉ちゃんへ  母さんに会いに行ってくる”

「載ってませんように…載ってませんように…」
「呪いの看護婦を保健室で霊眠させた。霊眠方法は、“患者さんの病気はもう治りました”と二回唱えること。でも、呪いの看護婦は実は死神だって言う人もいる。こんな簡単な方法で、本当に霊眠させることができたのか…少し、心配」

「…悠!」



「ごめんね赤司くん。なんだか一人じゃ心細くて…」
「いや、気にしなくていいよ。それより、悠は本当に聖ロザリオ病院に行ったのか?」
「…うん、間違いないと思う。お母さんが入院してた頃、休みの度に行くのを楽しみにしてたから」
「そうか。――由美、少しだけ昔の話をしてもいいかい?」
「え?」
「僕も小学生の頃、百合子さんと同じ聖ロザリオ病院に入院していたことがあるんだ」
「そうなの…?」
「昔は少し身体が弱くてね。半年程だけど入院をしていて、そこで百合子さんに出会ったんだ」
「うそ…お母さんと、赤司くんが……じゃあ、赤司くん何か聞いてない?呪いの看護婦のこと。お母さん、中学生の頃に呪いの看護婦を霊眠させてるの。でも、どういうわけかまた現れて、悠を狙ってるみたいなの」
「どうして悠のとこばかりに出てくるのか、私…それが心配で」
「私っ…病院とか、看護婦さんとか、思い出したくなかったから…ずっと呪いの看護婦なんていないって思ってた…。私が悠のことをちゃんと信じていれば、こんなことにはならなかったのかな」
「そういえば、入院していた頃噂を聞いたことがあった。夜になると看護婦の巡回があるんだけど、その巡回が終わった後にもう一人看護婦が病室に来るらしいんだ。そして、その看護婦がやって来た病室では、必ず容態が急変して亡くなってしまう患者が出るって」
「当時は、それがとても恐ろしかった。だけどある日、こんな事を言ってくれる人がいたんだ――…」


『あら、ごめんなさい。びっくりさせちゃったのね』
『…いえ』
『大丈夫?手が震えてる』


『うふふ、止まった』
『夜の病院って気味が悪いもんね』
『ええ。最近変な噂もありますし、喉が渇いて飲み物を買いに来たんですけど、なんだか…怖くなってしまって』
『そう…でもね、もう大丈夫よ』
『あ、りんごジュース好きなの?』
『え…まぁ、どちらかと言うと』
『うちの息子も大好きなの』


「――そのとき、初めて百合子さんと出会ったんだ。君に似て、笑顔の素敵な優しい人だった。そしてその翌日から、看護婦の噂がぱったりと止んだんだ。もしかすると百合子さんは、病院に出没していた呪いの看護婦を霊眠させたのかもしれない」
「…でも、あのときの百合子さん…一瞬、とても寂しそうな顔をしていた。何故あんなに寂しそうだったのか、今でもよく判らないんだ」




「…母さん、やっぱり居ないな」
「ユーリ。母さん、最後にお見舞いに行った日に、りんごジュースを買ってきてって言ったんだ。俺買いに行った。そしたら…」



『うー…もう、少し…』
『どうしたんだい?』
『お金は入れられたんだけど、ボタンが…』
『はい』
『あっ…ありがとう!』
『どういたしまして』



「買うのにもたもたして、戻ってきたら…姉ちゃんが、外にいて。医者や父さんの声だけが中から聞こえてて……」
「母さん、そのまま居なくなったんだ」
「…言うな」
「俺、そのりんごジュース一人で飲んだんだ」 「それ以上言うな!」



「ユーリ、腹減ったな」
「あいつ…!」
「悠!!」
「姉ちゃん…!」
「姉ちゃん逃げろ!コイツは…!」
「悠に指一本触れたら、私が許さない!」



「私だって、お母さんに負けないんだから…!あんたなんか、霊眠させられるんだからね!」


「由美、霊眠の呪文を」
「患者さんはもう治りました、患者さんは…もう治りました!!」



「――悠、大丈夫だ。心配すんな、コイツは大丈夫なんだ。ただ知らせていただけだ…思い残すことが無いようにってな」



「霊眠、したの?」
「…姉ちゃん、あれ」



「これ、お母さんの手紙…!いつこんな手紙を…」
「…そうだったのか。あの看護婦は、死神なんかじゃない。もうすぐ亡くなる人に、それを教えに来ていただけだったんだ。家族に最後に伝えたいことを…確かに伝えられるように。…百合子さんは、あの看護婦に教えられたんだと思う。“もうすぐです”って…だからあの時、あんなに寂しげな顔をしていたんだ」

――もう大丈夫よ。

「でも、その手紙は由美達に渡らなかった。だからあの看護婦は、手紙を届ける為に悠のところへ――…」
「由美!悠!…心配したじゃないか」
「…父さん」
「お父さん。お母さんの手紙が見つかったの」



――悠へ ごめんね。ママ一生懸命頑張ったの。でも、ママよりも病気の方が強かった。 ママはこれから、遠い国へ行きます。そこは手紙の届かない、宇宙のもっと向こうの遠い国。だから、もう悠に会うことはできないの。 でも、その国にひとつだけ届くものがあります。それは、あなたの声。ママに会いたくなったら、心の中でママの名前を呼びなさい。そうすれば、あなたとママの心はきっと繋がるの。それでももし泣きたくなったら、思いっきり泣いていいのよ。我慢しなくていい。そうしたら、ママはあなたの心の中にハンカチを送ります。
――由美へ あなたは強くて優しい子だけど、時々嫌なことも我慢して頑張ってしまうわね。頑張るのは悪いことじゃないけれど、自分の気持ちに正直になるのも大切よ。 真っ直ぐに前を見て、歩いて行きなさい。そうすれば、あなたの通った道が素晴らしい道だったと、大人になって気付くでしょう。
――パパへ こんな事になってしまってごめんなさい。でも、もしもう一度生まれ変わってくる事ができたら、私はやっぱりパパと出会いたい。そして、由美や悠と出会いたい。 その日までどうか待っていてください。
最後に悠。いつかまた、一緒にりんごジュース飲もうね。


「父さん見て、届くようになったんだ。前は届かなかったのに」
「これ一緒に飲もう。給食も…一緒に食べよう」
「…そうだな。一緒に食べような」


「っ…お父さん!」


《後書きスペース》


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