どうせ汗で濡れるし。


普段遊びに行く時もよく写真を撮る子だとは思っていたが、その日の彼女はそれはもう、いつも以上にシャッター音を鳴らしながら張り切っているように思えた。

「……やのちゃん。」
「なんですか?」

なんですかと聞きながらも、やのちゃんと呼ばれている彼女・尾形夏也乃は撮影を続ける。

「なんか、いつもより張り切ってるね?」
「張り切る?」
「いやっ、気のせいかもしれないんだけど、やたら私ばかり撮ってるような気がして……。」
「気のせいじゃないです。」
「え。」

気のせいだろうという、鯉登祐季の希望はすぐに姿を消した。
夏也乃は笑みを浮かべたまま、今度はローアングルからの撮影を始める。

「え、あの、やのちゃん!? えらい下から撮るね!?」
「見えそうで見えない感じが萌えるんです!!」
「景色! 景色見よう!?」
「絶景ですね!」
「スカートの中が!? え、見えそうで見えないのが萌えるって今言ってなかったっけ!?」

今、二人は観覧車の中にいる。
景色に集中しようと頑張っている祐季であるが、とうとうスカートの中にスマホを差し入れるという痴漢行為を始めた夏也乃に慌てる。

「ちょっ、それもう痴漢だから……!」
「ちゃんと約束通り、下にスパッツや短パンはかずに来てくれました?」
「え? あ、うん……。」
「パンツだけです?」
「うん? う、うん。
(なんだろう。パンツはいてるのに、まるでノーパンでいるかのような妙な恥ずかしさが……。)
……けどあれだね、いつもはスパッツはいてるから、それがないとスースーするね。」

そう言いながら脚をもじもじさせていると、夏也乃はスマホを持った手を、笑顔でスカートの奥に進める。

「ヒッ!?」
「フラッシュ撮影だからちゃーんとパンツの柄まで撮れ」
「撮ってどうするの!?」

顔を赤らめながら必死にスカートの中から手を追い出そうとするが、場所が場所なだけに、あまり動くとスカートがめくれてあられもない姿になってしまう。

「恥ずかしがる祐季さん萌え……! はぁはぁ……。」
「どうした!?」

そんなこんなで景色はほとんど楽しめないまま、二人が乗っている箱が下まで回りきってしまう。

「次はソフトクリーム食べましょ!」

そう言いながら手を引く夏也乃。

(まぁ……やのちゃんが楽しそうだからいっか!)

楽しいことは楽しいし、祐季はもう、今日という日を楽しむことに決めた。









「今回の成果でーす!」

そんなメッセージの後、共有アルバムに大量に投入される、祐季が笑顔で写っている画像の数々。
そしてトークページに、2分程の長さの、画面がやや暗い動画が送られてきている。

「? なんだこれは。」

再生してみれば、見覚えのある女性用のパンツと、もじもじする脚と、恥ずかしがる祐季の声。荒い呼吸音は、恐らく尾形夏也乃のものだろう。

「!?」

戸惑う鯉登。
動画の下には、

「旦那さんだし嫁の下着は把握済みだと思いますけど、こういう痴漢っぽいのってお好きですよね?」

……というメッセージが。

「キエエエエエッ!!!!」

旦那・鯉登音之進は、寝室で猿叫を上げた。
嫁の祐季は今、風呂に入っている。彼女が上がったら、ドライヤーで自分の髪を乾かしてもらうのが習慣だ。

「こんな動画を見た後で、一体どんな顔をしてその時間を過ごせばいいんだ……!」





……結局、嫁のスカートの中の映像ですっかり興奮してしまった鯉登は、風呂から上がっていつものように夫の髪を乾かそうと近づいた祐季を強引に抱き寄せてキスをし、ベッドへ直行したのは言うまでもない。
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