チェリー鯉登


株式会社鶴見酒造の本社の経営部、それもあの鶴見社長と繋がりのある鯉登平二氏の息子である、鯉登音之進常務。
女子社員たちからは「貴公子」と呼ばれており、人気がものすごく高い。
(鯉登常務をよく知る人物たちからは、「"奇"公子」の間違いだろと思われている。)

その鯉登常務が、広報部の正蔵寺のハートを、猛アタックの末に見事射止めた。
本社の社内では、2人が交際を始めて一週間以上経った今でも、その話題で盛り上がっていた。

広報部の正蔵寺といえば、色が白くて赤い眼鏡をかけているのが特徴的で、しっかりしているように見えて結構抜けているのが魅力的。
そう口を揃えるのは、ある程度歳を重ねたオジサン社員たちだ。
(中には「正蔵寺さんになら頬を踏まれて罵倒されてもいい!」と言う変た……個性的な趣味を持つ社員もいるらしい。※宇佐美による証言)

「鯉登ちゃんと付き合ってもう一週間くらい経つのにまだやってないんですか!?」
「うん……。」

仕事が終わって、今日は金曜だからと鬼頭は正蔵寺を自宅に呼び、2人で酒盛りをしていた。
惚気話のひとつやふたつを聞かせてもらおうと張り切って、グイグイと迫った鬼頭……夏也乃が知ったのは、鯉登と正蔵寺……祐季がまだ致していないという事実であった。

「私誰かと交際したことないし、付き合ったら当たり前のようにするもんだと思ってたんだけど、音之進さんとは食事に行ったり買い物に付き合ってもらったり、映画を観に行ったりするくらいで……。」
「お泊まりデートとかありますよね?」
「まだお互い、相手の家に行ったことなくて……。
家がどこにあるのかすら知らないのよねー。何度か家の前まで送ってもらったことあるから、向こうは私の家を知ってるけど。
手も繋いだことないんだけど、私は手汗がすご」
「手を!! 繋いだことがない!?」

「カァーーーッ!!」と高めの声を上げると、夏也乃はこいつはヤバイぞ、と眉間にシワを寄せる。

「手を繋いでないってことは、チューもしてませんよね!?
そういう雰囲気にならないんですか!?
映画観て、家まで送ってもらって、別れ際にするでしょ!!」
「えーと、普通に手を振って、おやすみなさい言って別れる……。」
「それは!! 普通じゃないです!!
それが普通なのは幼稚園児までデス!!!!」

「どこまでピュアなんだよ!!」と、呆れるを通り越して、2人の行く末がものすごく心配になってくる夏也乃。

「今日と明日!! 私が男をメロメロにするテクニック伝授するんで!!
次にチェリー鯉登に会う時に実践してください!!」
「"チェリー鯉登"!?」








次の週末。
鯉登から水族館に行かないかと誘われたので、誘いに応じて水族館デートをしたものの、先週に夏也乃からあれこれと仕込まれた祐季の心臓は、バクバクと暴走していた。
お陰で、水族館で何を見たのか殆ど覚えていない。

あちこち一緒に見て回り、すっかり日が暮れたので、そろそろ家まで送ろうと言って鯉登が背を向けたその時だった。
祐季は、鯉登を後ろから抱き締めた。

「ゆッゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ!!!!!!」
「(えーと、確かここで……!)
カエリタクナイデス!!」
「(何かアクセントがおかしい!!)
い、今もしかして…………か、帰りたくないと、そう言ったのか……?」

返事の代わりなのか、抱き締める力が強くなった。
付き合ってから一度も触れたことがないのに、普段は大人しい祐季が、鯉登にしっかりと抱き着いている。
(しっかりと抱き着いているものだから、その両胸のやわらかさも"チェリー鯉登"には丸わかりである。)
今、お互い顔が赤くなってるに違いない。









後日、祐季は夏也乃に、初体験の報告をした。

「どうでした?」
「めちゃくちゃ痛いし、痛いから時間が長く感じたし、い、一回じゃ済まなかったし、今週末また音之進さんの家に泊まることになったんだけど、また痛かったらどうしよう……。」
「(味を占めやがったなあの坊ちゃん。)
ま、まぁ、一度入っちゃえば、次からは痛みより気持ち良さを感じられるはずですよ!」
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