レッツ!活動写真!


「お前の本気はその程度なのか!? もっとお前の理想を私に示せ!!」

少女アシリパは眉間にシワを寄せてすごむ。

「…………。」

すごまれた月島軍曹は、不服そうだ。(普段からこの男は大体険しい顔をしている。)
大真面目な雰囲気なのだが、いかんせん月島の格好がいつもと違うアイヌの女性の服装なので、真剣味は半減している。
月島軍曹は無言でその場を立ち去ると、しばらくして戻って来た。……乳を大きくして。

「よし!! やれば出来るじゃないか月島!! だいぶ女らしく見えるぞ! さっきより奥さんみが増したぞ!」

乳のでかいヒゲ面の"女"を前に、アシリパは満足そうだ。

杉元一派と鶴見一派が取り敢えずしばらくは合同で活動しようということになって、早1ヶ月。
アシリパは「活動写真(未来でいう「映画」)」の撮影にすっかりハマっていた。
今度撮影する話は、

【アイヌの若い女(未亡人)が、年下の和人に見初められて2人は結ばれる。
和人の正体は、以前罠にかかっていたのを女に助けられたオオカミだった。】

…といった内容のものだ。
それでアイヌの若い女役を、アシリパ監督は何を血迷ったのか月島軍曹にやらせてみたところ、巨乳でガタイがいいヒゲ面のアイヌ女が出来てしまった。

「軍曹の理想の奥さんって、乳でかいんだね……。」
「まぁ、実際乳あるよね。軍曹の奥さん。」

そう話しながら白石と杉元が月島の嫁・祐季(の胸)をチラ見すれば、ヒゲ面アイヌ女が険しい表情で2人を睨む。
そんなやり取りは露知らず、祐季は北海道アイヌの少年・チカパシと樺太アイヌの少女・エノノカ、それから鯉登少尉も加えた3人とのかくれんぼに夢中であった。

「うーん、なんか思ってたのと違うな……。月島、元の服に着替えていいぞ。」
「…………。」

監督に下がるよう言われ、若干眉間のシワを普段の2割増しくらい増やしながらも、月島はすごすごと着替えのために立ち去った。

「じゃあ次は尾形! お前が奥さんだ!」

監督に指名された尾形は、月島以上に不服そうな態度を見せる。

「なんで俺が女の」
「ひゃーく! っしゃあうらァ!! 探すぞおらァ!!」
「!?」

背後で、100まで数え終えた鬼・祐季が大声を上げたので、一瞬自分の名前を呼ばれたと勘違いして怯える尾形だったが、怯えたことに気づいたのは、妻の夏也乃だけだ。

「もーいーかい!!」

鬼の問いかけに、どこかからか「もーいーよー」と声が返る。不敵な笑みを浮かべながら声のした方角へずんずんと進む鬼の姿を見て、杉元が思わず「怖っ」と呟く。
「アシリパを追って背後から迫って来たお前の方が怖かった」と尾形は思ったが、言えば文句を言われるのは目に見えているので黙っておいた。

「……祐季ちゃんさ、普段は大人しいけどたまーーーに湯を沸かしたように性格変わることあるよね。」
「見つけたァ!!」
「ギェヤァアーーーーーーッ!!!!」
「キャーーーーーーッ!!!!!!」

白石の言葉のあとすぐに、鬼の叫びと子供の甲高い叫びが轟く。

「え、何? ただのかくれんぼだよね? 見つかったら殺されるやつなの? 祐季ちゃんだよね? あれ軍曹の奥さんの祐季ちゃんなんだよね?」
「たまにああなるが、別段問題はない。」
「……夫婦揃って疲れてんじゃないの?」

杉元と月島が話している間にも"恐怖のかくれんぼ"は進行し、最後にけたたましい猿叫が響き渡ってようやく終わりを迎えた。
見つかってしまった3人と鬼の祐季が、こちらに向かってゆっくりと合流する。
チカパシとエノノカは「怖かったけど楽しかった!」と満面の笑みで祐季とそれぞれ手をつないでいるが、鯉登少尉はどこか顔色が悪い。

「月島ァ。」
「はい。」
「今日だけ相部屋にしろ。私と月島は同室だ。」

唐突に少尉から、軍曹である自分に同じ部屋に泊まれと言われ、月島軍曹は思わず「は?」と返した。

「"は?"ではない! 今日だけでいい! 私と貴様は相部屋だ!」
「もう大人なんですから、お一人で眠れるでしょう。」
「月島ぁん!!」

ごねる鯉登と渋る月島を見た杉元と白石はのそのそと近づくと、2人してうんうんと頷きながら、

「察してやれよ軍曹。このボンボン、かくれんぼが怖くて一人で眠れないから一緒の部屋がいいんだと。」
「やめろ杉元一等卒!!」
「母ちゃんと一緒じゃなきゃ寝れねぇってよー。」
「*****ッ! ******!!!!」

怒った鯉登少尉が逃げる杉元と白石を追い回すのを見て、月島軍曹はため息をつく。

……結局、月島は鯉登と同じ部屋で寝ることになり、祐季はチカパシ・エノノカ・アシリパというアイヌキッズと同じ部屋になってとても嬉しそうな顔を見せ、月島は少し寂しそうな顔をしたとかしなかったとか。
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