初デート。をプロデュース


※結婚前の段階



月島は、尾形に相談した。仕事についてではない。
月島は、今度の休みに、ようやく交際まで漕ぎ着けた相手・祐季との初デートが出来る、かもしれなかった。
向こうも休みで、しかも予定がないことは、直接LINEで聞いて確認済み。

「俺からわざわざ確認されたんだから、あっちも今度の休みにデートするんだろうと、大体予想はしてるはずだ。問題は、デートの場所だ」

真面目な顔して悩んでいる月島常務を前に、尾形はズゴココココ、とわざと大きな音を立ててストローを吸う。

「んなもん、好きな場所行けばいいじゃないですか。付き合ってる相手となら、どこだって楽しいし嬉しいですよ。うちの嫁さんなんかそうですもん。俺もそうだし」
「いや、だが初デートだぞ……。今回もし失敗した場合、俺はフラれる。そしたらもう、生きていけそうにない……。この年にして、引きこもりになってしまう……」
「いやどんだけ命がけなんですか。引くわー」

ていうか、なぜこの人はわざわざ俺に相談持ちかけるんだ、とも思ったが、よくよく考えれば鶴見社長に相談するのは気恥ずかしいだろうし、鯉登専務は交際相手いない上に青いボンボン。営業課の杉元や白石は絶対囃し立てるから論外。
……尾形しかいないのだ。

いつもなら少しからかって遊ぶところだ。しかし、いい年してまるで恋愛初心者のようにピュアで真剣な月島を見て、たまには真面目に乗ってやるか、と尾形は決めた。

「お家デートの路線はナシなんですか」
「えっ、デートって家でやれるもんなのか? 映画館行ってひとつのポップコーンを二人で共有したり、プリクラ撮ったり、そういうのが定番だと前に雑誌で見かけたが……」
「その雑誌、一体いつ読んだものですか」

戸惑う月島を見つめる尾形の視線は、やや冷たい。

「家だとなんか、雰囲気が盛り上がりそうにないな……」
「そうでもないですよ。一緒に映画見たり色々話したりすればいい雰囲気になりますし、泊まりだと更に盛り上がりますよ」
「んーーー……やっぱり出かけたい。家に泊まるのはまた次に回す」

すぐに却下せず、悩んで次に回したということは、お家デートは本人的に悪い案ではなかったようだ。

「なら無難に遊園地か水族館ってとこじゃないですか」
「そこは映画館じゃないのか」
「映画館入って映画観て、約2時間で出て、そのあとの時間はどうするんです。いいとこラブホコースでしょうが、月島常務と彼女の性格と現段階での雰囲気からして、映画館出て『じゃあまた……』って解散するのは目に見えてますよ」
「…………」

月島は何も言い返せなかった。その通りとしか思えなかったから。
流石、よくわかってる。人事課の主任を務めるだけあって、人のことをよく見てる。

「遊園地か水族館……。どっちが正解なんだ……」
「お二人の性格からして、遊園地ではしゃぐ感じは想像出来ないんで、水族館がいいんじゃないですか?」

月島は見た目も中身もおっさんな雰囲気があり、ジェットコースターだコーヒーカップだとテンション上げて盛り上がるようには思えない。
祐季も祐季で年齢に対して精神の若さがあまり感じられず、観覧車だソフトクリームだと、別に遊園地でなくても良くないか?的な感じになりそうだ。
この二人が行けば、せっかくの遊園地要素が死ぬ。ほぼ間違いなく、死滅する。

「しかし水族館はなぁ……ただ水槽の魚見て回るだけだろ」
「正蔵寺は、なぜこんな夢のない男を選んだのか……」
「は?」

これはなかなか骨の折れそうな相談だ、と尾形は早々に頭痛がしそうだ。


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「この前ね、月島さんから今度の休みの予定を聞かれた」
「えーーーっ!! それデート決定じゃないですか!!」

昼休み、鬼頭夏也乃改め尾形夏也乃は、テンション爆上がりだった。

「やっぱデートなんかなー」
「絶対デートですよ!! デート誘うための確認ですよ!! それでデートじゃなかったら月島常務は左遷です!!」
「ペナルティーが重すぎる」

しかし彼女とその新郎ならやりかねないな、と苦笑いしつつも、祐季はニヤつきが止まらない。
なんせ、本当にデートだとしたら、初デートなのだ。喜ばずにはいられない。

「どこでデートなんだろ。お家デートでお泊まりとかいいな」
「初デートですよ!? せっかくならどっか出かけましょうよ! ランドとかUSJとか!」
「うーーー……人混みがなぁーーーーー……」
「何おばあちゃんみたいなこと言ってるんですか!」

祐季は人混みが苦手だ。前後左右、北も南も東も西も人がいる、混雑した場所が苦手だ。
中学時代に一度だけランドに連れて行かれたことがあるが、あまりの混雑ぶりに、来て早々「早くお土産買って帰りたい」と弱音を吐いたことがあるくらいだ。

「だったら水族館はどうです? そこなら人で混むことはなさそうだし、控えめな照明と静かな空間で手を繋いで歩いて回れるし、大体カフェかレストランがあるから、少し疲れたらお茶出来ますし」
「水族館は雰囲気落ち着いてて好き。けど群れで泳ぐ魚見てると、どうしても美味しそうに見えちゃって、これはどう食べると美味しいのかなって考えちゃう……。月島さん、引かないかな……」
「水族館やめましょう」

……結局、二人は動物園での初デートとなった。
虎やライオン、キリン、象といった大型の動物に二人して大興奮したり、鳥がいるゾーンでは、よその子供数人と一緒になってオウムに「うんこ! うんこ!」と言葉を教えている祐季の姿を、二人分の飲み物を持って戻って来た月島が目撃。
ようやくオウムが「うんこ」と喋り、子供と一緒に喜ぶ祐季を見つめる月島の表情は、穏やかだった。

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