眉目秀麗・文武両道・高身長・高収入。
この世の男が喉から手が出るほど欲しい、大体のものを持つ男であり、加えて品が良く紳士的なため、想いを寄せる女も数知れず。
それが、花沢勇作その人である。
嘘みたいにいい物件の勇作は今、
「百合さんは今日もお綺麗ですね」
「え……ほ、ほんと?」
「この勇作、嘘はつきませんよ!」
「勇作おじ様……!」
……勇作は今、姪っ子を口説いていた。
「いやあ、本当に、目に入れても痛くないとはこのことなのでしょうね! あまりにも可愛くて、百合さんを私のお嫁さんにしたいくらいです!」
「やめて下さい勇作さん」
心底嫌そうに顔をしかめる兄に、勇作は爽やかな笑顔を向ける。
娘を見れば、頬を染め、ポーッとしながら勇作を見つめており、これは早く手を打たないとまずい、と尾形は眉間のシワを深くした。
「……あ〜、百合。お前、最近仲がいい坊主がいるよな? 名前は確か月島ほま」
「やめてッ!!」
なんとか勇作から意識を逸らそうとしたのが裏目に出た。
つんざくような、ほとんど悲鳴に近い声を出し、百合は尾形を睨みつけた。
「お父さんってなんでそんな無神経なの!? 最低!!」
「あっ……」
そのまま泣きながら部屋にこもられてしまい、尾形は呆然と立ち尽くす。
気まずい空気と、魂が抜けたように微動だにしない尾形。
勇作が気を遣い、
「あの、私、百合さんのとこに行って来ます」
と、姪の後を追いかける。
夏也乃が尾形の肩をポンポンと叩き、和馬が
「おねーちゃん、泣いた」
と言うと、尾形の目尻から涙が一筋、スーッと流れた。
「おとーさん、泣いた」
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その頃勇作は、ベッドに突っ伏し泣いている百合の頭を優しく撫でていた。
「勇作おじ様、私のこと嫌いになった?」
「なぜ?」
「だって、大きな声でお父さんを怒鳴って困らせる悪い子だもん」
嫌わないで欲しいという気持ちが涙声に含まれており、勇作は微笑ましい気持ちになる。
「百合さんは悪い子なんかじゃありませんよ。あにさ…父様を困らせたと、ちゃんと自分で理解出来ているじゃないですか。偉いですよ」
「私はあに様から直接指摘されなければ、困らせたことになかなか気づきませんから」と勇作が苦笑しながら言うと、百合が顔を向けた。
「勇作おじ様でも、お父さんを困らせることがあるの?」
「恥ずかしながら」
「……もしかして、私たちが困らせるんじゃなくて、お父さんが困りやすいだけ?」
「ふふ……そうだとしても、それを父様に言ったら駄目ですよ?」
勇作につられて百合も笑みをこぼす。そして、小指を差し出した。
「このことは、私と勇作おじ様だけの秘密ね」
「……はい!」
尾形は知らない。
他人より地雷が多めだと、百合と勇作に見破られていることを。
百合と勇作は知らない。
尾形がリビングで妻の膝を枕にしながら、「近親相姦は駄目だ……近親相姦だけはやめろ……」とうなされていることを。