嫌よ嫌よも好きのうち


・鯉登くんは中尉、月島さんは曹長にそれぞれランクアップしています。
・子供は長男、次男、三男の3人。









「最近、妻の祐季に避けられているのだが……月島曹長、なぜだろうか。」
「……さあ、私に聞かれましても。」

夫がわからないこと、それも夫婦のことを、なぜ他人である自分が知っていないといけないのだろうか、と月島は思ったが、口にはしなかった。偉い。

「何か、奥方様に嫌われるようなことを仰ったかなさったか、ではないですか。」
「それがな、全く身に覚えがない……。」

鯉登はここのところ、真剣に悩んでいた。

「特に、閨事が出来ぬのが非常に辛いのだ。」
「んごふっ! げふっ!!」

啜っていたお茶を器官に入らせてしまい、むせる月島。「この奇天烈薩摩隼人は突然何を言い出すんだ」と思いながら口元を拭う。

「最後にまぐわったのはふた月前くらい前か……?」

知るか、と脳内で暴言を吐く月島。
結局その場で原因はわからず、今日の仕事も疑問を抱き続けたまま、ただ時間だけが過ぎていった。









仕事が終わり、家へ戻った鯉登。
妻の祐季は「お帰りなさい」と出迎えて、目を合わせずにそそくさと部屋へと向かう。
外套を脱いだり部屋着に着替えたりをいつものように妻に手伝ってもらいながら、鯉登は家が静かなのを不思議に思った。

「……息子たちはどうした?」
「ああ、それが今日と明日、杉元くんの家に泊まることになったんですよ。」
「はぁ!?」
「大丈夫ですよ、学校の宿題はちゃんとやると言っていますし、杉元くんもちゃんとさせると約束しましたし。」
「いや、そういう問題じゃなか!」

あまり仲が良いとは言えない杉元のところに、倅3人が世話になる。
すぐにでも連れ戻そうと思った鯉登だが、待てよ、と思い直す。
これはいい機会ではないか、と。

「…なぁ、祐季。」
「はい。」
「最近、おいを避けちょるな?」
「!」

一瞬目を見開いたのを、鯉登は見逃さなかった。

「避けてはいないですよ。」
「じゃっどんさっきから、いや、ここんとこ目も合わさん。」
「…………。」
「ないかおいが祐季を怒らせっようなことをしたんやろうか?」
「…………。」

何も答えず、気まずそうに目を伏せる祐季に痺れを切らした鯉登は、その肩を押し、組み伏せる。

「もう、ふた月もまんじゅをしちょらん。」

いい加減溜まっているのだ。鯉登は、もう限界なのだ。
その豊かな胸に吸い付きたくて、焦るように着物の合わせに両手をかける。

「やっ! 駄目、です……!」
「!」

頬を手で強く押され、鯉登は驚く。
今迄、祐季がこんなに強い力で抵抗したことは、ない。
恥ずかしそうにはするが、祐季が鯉登から夫婦の営みに誘われて断ったことはなかった。

「…………おいんこつが嫌いか。」
「え、や、違います……。」
「じゃったらないごて……!」
「…………その。」
「…………。」
「……髭が…。」
「髭?」

確かに今、鯉登は髭をたくわえている。中尉になったため、少しでも威厳を示そうと伸ばしたのだ。
その髭がどう関係あるのかと、鯉登の頭には疑問符が浮かんでいた。
続きを促すように目で訴えられ、観念して祐季は口を開いた。

「髭が、その…………当たるかなー、と……。」
「…………。」

ガバッ!!
鯉登は勢い良く祐季の胸元を開いた。

「えっ!! なんでですか!!」
「わいが興奮させっようなことをゆでど。」
「興ふ…あッ……!」

一体何がそんなに興奮させる起爆剤になったんだ、と訳がわからず考えるも、鯉登から与えられる刺激が強すぎて考えがまとまらず、ただ喘ぐことしか出来ない。

「久しぶりなんじゃっで、祐季にはとことん付き合うてもらうど。」



翌日、打って変わって上機嫌な上官を見て、月島は安堵したとかしなかったとか。
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