二人羽織


もし、あなたが上司から「何か一発芸をやれ」と命令されたら、何をするだろうか。

鶴見中尉に一発芸をやるよう命ぜられた鯉登夫婦が選んだのは、二人羽織であった。

「おい祐季、私は何もわからんぞ!」
「大丈夫です。音之進さんはただ座っているだけでいいので。」

言われるがままの鯉登と、半纏をかぶって指示を出す祐季。
鯉登の目の前にある机には、熱々の煮物がこんもりと盛られている。

「それではご覧あれ!」

そう大声をだして半纏で鯉登を包み、両手だけ出して、右手に持った箸で煮物を適当につまみ、鯉登の顔面に持って行く。

「キエエエエエッ!!!!」

今、鯉登はパニックに陥っている。
ひとつ目の要因は、熱々の煮物が鼻に当たっていること。
ふたつ目の要因は、妻のやわらかな乳房が、己が背中に容赦なくむにむにと押し付けられていることである。

「ゆっゆゆゆゆゆゆ祐季!!」
「あ、位置が違いますか? こっちかな……。」
「キエッ!?」

祐季が動く度に、背中に当たっている胸が形を変えるのがわかる。嫌でもわかってしまう。
最初はなんだなんだとただ、見たことのない新しい見世物に興味があって見ていただけだった第七師団の面々は段々と、「鯉登少尉が我慢出来るか否か」について興味を抱くようになっていた。

「…出来ない方に10銭だな。」
「尾形がそっちなら、ぼくも出来ない方に15銭。」
「それだと賭けにならねぇだろ。」

尾形と宇佐美の上等兵2人が賭けだすと、周りは益々盛り上がりを見せた。
観客側の盛り上がりと比例するように、鯉登の性欲も盛り上がっている。
色が黒いため断言は出来ないが、確実に赤くなっているであろう鯉登少尉の顔色を観察しながら、尾形の妻・夏也乃は口を開いた。

「ゆきさん、あれを素でやってしまえるのがすごいですわよねぇ。」






……結局、鯉登は我慢出来ずに祐季を抱き上げ、鶴見中尉に一礼して足早に宴会場を去って行った。
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