妻に花を贈ってみる


「尾形上等兵。西洋には、自分の妻に花を贈る習慣があるらしい。」
「…………。」
「贈ってあげたらどうだ。」
「…………。」





尾形は初めこそ「くだらない」と思ったが、思い返してみれば妻に花を贈ったことは一度もない。
撃った鳥や鹿、うさぎ、それから手に入れた酒など、何を贈っても喜ぶ妻なので、別に花でなくても良さそうなものではある。
が、いつもと違うものを贈るのもいいかもしれない、と尾形は思った。
女性が一般的に喜ぶものでも贈ってみるか、と。

「え……え!? 今日って何かお祝いの日でしたっけ?」

花を二輪差し出した尾形を見て、妻・夏也乃の第一声。

「祝い事がないと贈っては駄目なのか。」
「え、いえ……。別にそういう時じゃなくてもいいんですけれど……。」
「なら受け取れ。」
「ありがとう、ございます……。」

無愛想に見える、雰囲気も何もない渡し方だが、初めて夫からこういう華のある感じの贈り物を貰ったため、夏也乃の頬はほんのりと赤くなっている。
その表情を見て、尾形は僅かに目を見開く。

(こういう一面が見られるのなら、苦労して森を探し回った甲斐があるってもんだな。)
「嬉しい……! 百之助さん、ありがとうございます!」
「……貰ったら御礼、だよな? 夏也乃。」

ありがとうと言ったけど、と一瞬ポカンとした夏也乃だが、無言で何かを訴えている尾形を見て、「ああ」と笑顔を浮かべる。
尾形と距離を詰め、その頬にキスをした。すると何か不満だったのか、尾形は素早く夏也乃の後頭部に片手を回し、唇を重ねる。

「ガキじゃねぇんだ。そこは口だろ。」

そう言って、尾形はしてやったりな笑顔を見せた。
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