ベランダ立って胸をはれ

「うんうん、それは五条が酷いな」

家入さんが頷いてくれて、もう、それだけで報われた気になれる。
もっと頷いて……もっと肯定して!!

こうして居酒屋で酒を飲みながら泣きつくように…いや、泣きついてるか。とにかくこうして相談しているのは、まあ…………五条さんが原因で。

一級呪霊を祓う任務に向かってもらって、あの五条さんだからあっという間に祓ってしまったわけだけど、電話で一言「終わったよ」とだけ私に伝えると、報告書を書くことなく別件だとかで音信不通。
報告書を書いて提出するまでが仕事です、と言ってやりたい。というか何度も言ってやってるんだけど、彼はその辺がテキトーだ。
なんなんだあの人。一級呪術師で教師で、高専時代の私の級友で、五条さんの秘書でもあるかやの先生から蹴り技喰らって欲しい。《無限》のお陰でどうせ当たらないんだから、せめてビビれ。

五条さんはよく、

「振り回されるのももう慣れてるだろ?」

って笑って言うけれど、

「いや、慣れませんよ……!」
「泣いていいぞ伊地知」

ジョッキをつい強めに音立ててテーブルに置いてしまったけど、家入さんは指摘しない。優しい!
これが五条さんだったら、眉間に皺を寄せながら不満を垂れてくるに違いない。

「……ところで伊地知」
「は、はい」

優しい家入さんの雰囲気が少し変わった気がして、思わず背筋を正してしまう。

「仮にも私は女だからさ、こうして居酒屋の個室で二人きりってのは、もう少し考えた方がいいよ」
「えっ、けど私は家入さんのことはそういう風には……」
「うん、私にも伊地知にもそんな気がないのはお互いわかってるけどさ、奥さんからしたら充分不安要素だから」

家入さんがニッと口角を上げて顎で示すから、その先に視線をやると、そこには私のつ、妻……わー、言っちゃった恥ずかしっ…じゃなくて。
その、つ、妻の、かやのちゃんが立ってて。

「か、かやのちゃ」
「しょーこねえ、いじっちゃん連れ帰りますね」
「おーう」

ヒラヒラと手を振る家入さん。御礼を言おうと彼女に御辞儀したところで私の手を握る力が強くなって、かやのちゃんからぐいぐい引っ張られて、あれよあれよという間に外に出された。

な、なんだか機嫌が悪い、ような。

「あの、かやのちゃん」
「…………」
「えーと……怒ってます、か?」
「……そうね、怒ってるかも。いや怒ってる」

ひぃ、と情けない声が漏れたことは、許して欲しい。

「五条先生関係の相談をしてたんでしょう? しょーこねえに」
「え、あ、そうです。あっ! でも家入さんにはその、相談に乗ってもらっていただけで、私はかやのちゃん一筋だし、別にやましいことは何も……」
「そこは怒ってない。浮気の心配なんてしてない。私が怒ってるのは、」
「!」

振り返ったかやのちゃんは、私の手を取ったまま、もう片方の手を私の腰に添えた。
う、うわー、この格好って……私が女側じゃないですか? 私、完全にリードされる側じゃないですか?
キュンと胸が高まっちゃう私の馬鹿ッ!

「……私が怒ってるのは、相談を私じゃなくて別の人にしたってこと」
「あ……」

真剣な眼差しのかやのちゃんかっこいい……益々惚れてしまっ…じゃなくて!
ああっ、鎮まれ私の心臓!!

「私はあなたの奥さんで、あなたは私の夫なのよ、潔高くん」
「ッ……! そ、そこで名前呼びはズルい」
「二人の時は呼んでるでしょ」

あーっ、その微笑み……最早女神ですよ、かやのちゃん……!

「好きィ……!」
「潔高くんは可愛いなぁ〜、ふふ」
「……酔ってるからだよ、多分」

はぁーーー、もう五条さんの件はどうでもいいかなー。なんとかなる、うん!
私にはこんなに可愛くてかっこいい嫁がいるんだ。五条さんにはいないけど、私には、いる!

「幸せだー……」
「酔ってるなぁ〜」
TOP