《最強》の友達

※ミョウチキリンコンビ同居後設定で、五条は31歳。ゆき先生は33歳。
※かやの先生の人体の維持が、やばくなってくる時期。("しめ縄黒焦げ"の兆候がはっきりする直前。)





ぐでんぐでんに赤ら顔で伸びた状態で、硝子に膝枕してもらっている友。(硝子は相変わらずの調子でグビグビやってる。)
それを見て「誰?」って思わず言っちゃった僕、間違ってないよね。
みんなそうなるよ。うん。

「え、何これ。いつもの何倍飲んだらこーなんの? それともスピリタスやけ飲みした?」
「いや。スピリタスは飲んでないし、アルコール摂取量はいつもと同じだ」
「どういうこと? 加齢で弱くなった?」
「いや」

状況の整理が出来てない僕に、硝子はポーチから空のピルケースを取り出し説明した。

「アルコール量が増幅する試薬を盛ったんだ」
「…………なんで?」

え。え。
……え? 待ってちょっと、硝子の意図がわからないよ。高専時代から読めないとこあったけど、は?
「薬盛った」って、説明が説明になってないよ。更に混乱させただけじゃん!

「いや、その……飲んでも飲んでも全く酔えないからさ、少しでも酔った気分を味わいたかったんだ。だが胃袋の限界以上に飲むことは出来ないだろう」
「それで、摂取したアルコールを増幅させる薬を作ったのね」
「そうそう」

酒に強い人ってよく、「いくら飲んでも酔わないから、ほろ酔いの感覚がわからない」とか言ってるけど、ホントなんだな。
ふざけやがって。

「けどそれをなんでゆきに飲ませたの?」
「私に効果が見られなかったから、他人で試したかったんだ。ゆきならある程度強いから、うってつけだろう?」
「…………結果は?」
「ご覧の通り」

赤くなった顔で硝子の腰にしがみついて、膝に頭を乗せて眠りこけるゆきの口からは、よだれが垂れてる。
飲み食いと美人が好きな彼女のことだ。大方、硝子に誘われて二つ返事でホイホイついて行って、つまみにでもこっそり混入されたんだろう。

今日、夜に硝子の家で飲むことは知ってた。
同居するにあたって、「食事の用意をするのに困るから、外食とか外泊する予定があれば、前もってカレンダーに書き込んでおくこと」というルールが設定されたから。
お互い仕事があって、特に僕は忙しい。だから別に各自好きに食べてもいいんだけどさ、二人揃ってる時は出来るだけ一緒に食べたいんだよね。
友達と食べるメシって、なんか美味いもん。

「このザマだからさ、同居人の五条を呼ぶのが筋ってもんだろ」
「誰のせいで"このザマ"になったと思ってるの」
「責任は取るよ。多分二日酔いが酷いだろうから、明日は私が勤務する。五条は非番だろ。看病よろしく」
「へいへい……」

お前高専時代、僕と傑を「クズども」って言ってたけどさぁ、硝子も割とクズだろ! 得な性格してんな!






「ほら、うちに着いたよ〜」
「ただいまぁ〜」
「ハイハイおかえり〜」

全く、呑気なものだよ。
硝子の家からタクシー乗って、降りたらおんぶしてロビー入ってエレベーター乗って帰宅して……。
その間ずーーーっと寝てたろ! いびきかいてたし、呼びかけても返事なかったし! あと、全体的に酒臭い。
あーあ、さっき膝を貸してた硝子のパンツが被害受けてたから、僕の背中もきっと、よだれまみれだ……。
洗濯で落ちるだろうけど、なんかやだな。

とりあえずソファーに寝かせて、手を洗うために一旦手洗い場に行って、ついでに部屋着に着替えた。(服は案の定、よだれまみれだった! 硝子の服のクリーニング代を渡すべきか迷ったくらい。)

リビングに戻ったら、ゆきは寝てた。(照明が眩しいのか、ソファーの背もたれのとこに顔をつけて光を遮ってる。)

「ちょっと!! 何寝てんの!? 起きてよ〜!」
「ここで寝まふ!!」
「風邪引いちゃうから駄目です!」
「引いたら薬飲めばいいやろ!」
「"いいやろ"!? 方言出てるんですけどこの人ォ!」

ゆきは確か……九州出身だったかな。普段敬語だからわかりにくいけど、アクセントが微妙に東京じゃないんだよね。

「って、今はそんなのどーでもいい! 寝るんならベッドで寝なさいよ!」
「頭痛いっちゃからあんま叫ばんで下さい!! せからし!!」

「せからし」ってなんだっけ。えーと、あ、「うるさい」って意味だっけ? 僕よりゆきのがうるさいじゃん!
……って、それもどーでもいい!

「ベッドで寝なよ。それだけ元気なら自分で行けるよね?」
「行けん無理おんぶ」

はぁーーーー!?
もぉーーーーーー全くもって世話が焼ける友達だよねぇー!! 元凶は硝子だけど、無警戒だったゆきもどうかと思うよ僕は!! うん!!

時計を見たらもう日付変わってた。はあ……。

またやっとこさおんぶして、せっかく着替えた部屋着によだれがついてないことを祈りながらゆきの部屋に向かう。
ドアノブ押し下げたら足でドア開けて、僕のより狭いベッドに転がす。
そのまま布団かけようとしたら、思いっきり手首掴まれた。

「……何?」
「一人で寝かせる気なん」
「いやいや冗談でしょ。子供じゃないんだから……」

僕、31歳。ゆきは33歳。
友達同士でもきつくね? 多分女子同士でも、一緒に寝るのは20代までだと思うよ。

「このベッド狭いから、190cmオーバーの僕は寝られないかな〜」
「じゃあ悟さんの部屋連れてけや」
「ちょっと〜!? この酔っ払い、ガラ悪いんですけどォ!!」
「狭いベッドで一緒に寝るか、そっちの馬鹿デカいベッドで一緒に寝るか、好きな方選んでいいですよ」

どっちにしろ一緒に寝るのは決定かい!

「いや、でもさ〜……君、酒臭いんだよね〜……。匂いが移ると困っちゃうからさ〜」

なんとか許してもらおうと、それっぽい理由を言ってみた。
そしたら泣かれた。エーーーー!! うぉわっ! ボロッボロ涙流れてる! ハクからおにぎりもらった千尋かよ!!
ナニコノヒト、キャラカワッテンデスケドー!?

「……やのちゃん、も、もう、多分、ながくな…くて……」
「! 気づいてたの」
「ん。……しめ、縄じゃ…も、抑えるの、むずかしッ…から……」
「……そうだね」

ゆきが"やのちゃん"と呼ぶかやのは、そろそろ人の形を保つのが限界だ。
高専時代にまずってから約10年、夜蛾学長お手製のしめ縄で人のまま生きてこられたけど、一級呪術師として戦ってきたけど、もうすぐそれも終わりを迎えそうだ。

「別れ、がつら…い、んで……出来るだけ……距離、取ろうって、したんで、す。やけど、そんなん無理ッ…で……」
「……うん」

方言混じりに、(もう泣いてるけど)泣くの我慢しながら言うから、珍しいのもあって。
なんか、「聞かなきゃ」って思ったから、掴まれた手首の痛さも忘れて動けなかった。

君の言う通り、ここに来たばかりのゆきは、あまりみんなと仲良くなりすぎないようにしてて、情が移るのを避けてる感じだったよ。
最初から無理なことだったのか、途中からすっかりみんなと打ち解けちゃったけどさ。僕みたいな性格悪い奴とマブダチになって、挙句ルームシェアしちゃうしさ。

「なな、みさ…も、おらんくなって……やのちゃッ、も、おらんくなるんは、嫌、で……」
「うん」

そうだね。ゆきはなんやかんや、仲間のことが好きで、大切なんだ。
七海が死んだと聞いた時、「そうですか」としか言わなかったけど、それしか言わなかったんじゃなくて、それしか言えなかったんだよね。

かやのがいなくなったら、君は一体どんな顔をするのかな。

「さとるさ、は……わたッ…しを……置いていかないと、思いたい、です。でも、絶対なんて、ない…から」

なんでかやのの名前が出たのかいまいちピンとこなかったけど、今ので納得した。

「うん。この世界において、"ずっと一緒"なんて優しくて甘い、都合のいい約束はしてあげられない。"必ず守ってあげる"とも言えない」

呪術師は、死ぬ時は一人だ。
死に際に大切な人に看取ってもらえれば万々歳。
どこかの覇王みたいに「我が生涯に一片の悔いなし」と言って終われたら、さぞ幸せだろうね。

死ぬ側もだけど、死なれる側もそう。
大切な人の死に目に会えれば運が良い。
亡骸と会うことすら叶わないことは、決して珍しくない。

僕とゆきだったら、まず先に死ぬのはゆきだろう。
……ゆきが死んだら、僕は、どんな顔をする? 何を考える? 何か考えられる?
僕の中で、親友と呼べる存在は傑だけだ。今も昔も、これからも。
けどゆきも、僕にとっては大切な友人で、悪友で、まあ……大切じゃなかったらそもそも、ルームシェアなんて申し出ないよ。
一緒にいて「楽しい」って思える貴重な存在だ。

「……他の奴らは"絶対"なんて言えないけどさ、僕は言えるよ。《最強》だから」
「…………」

…………ん? なんか、船漕いでない?
頭カックカックしてない?

「聞いてる?」
「……安心…したら、なんか眠い。寝ます」

マジ?
え、えー……。いい話したのに? 寝る? 普通こういうシーンで寝る?
五条悟が話してるんだよ?

てかさぁ、さっきまで「一緒に寝ろよ」って圧かけながら、か弱い僕の手首握り締めてた奴がさー、フツーに寝ようとしてんの、なんか腹立つんですけどー。

「……お、お願いの仕方次第では、一緒に寝てあげないこともないけどォ〜?」
「…………」
「大チャンス!! ホラこれ大チャンスだよ!! あの五条悟と同衾出来ちゃう〜! キャッ!」
「…………」

ねえ待ってねえこれマジで寝た?
んだよ! 一人で寝れんじゃん!! 嘘つきッ……!
僕の純情弄んだ罪は重いんだから…ッ…!

「…………はー。明日は二日酔いの介護か」
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