アド街出ようぜ的なノリ

「「何これ」」

「女子会しまーす☆」とLINEで呼び出されて来てみれば、そこには言い出しっぺのかやのとは別に、なぜか五条がいた。

ハモったゆきと歌姫を見てケタケタ笑う二人。

「なんっで……! なんで!! コイツが!! 女子会に来てんだよ!!」
「わたすィー、五条悟子だヨ? 28歳、独身どぅえ〜す☆」
「どっかの馬鹿と瓜二つだな!! てか馬鹿本人だろ!!」

歌姫に胸倉掴まれ前後左右に揺らされながらも、ぶりっ子ポーズを崩さない五条悟子28歳。

「思っくそ野郎だけどいいんです?」
「やっだぁ〜! 野郎じゃないわよ! ゆきチャンたら冗談キツいんだからぁ☆」
「やぁだ〜! 冗談キツいのは五条さんの方じゃないのぉ〜☆」
「あらやだぁ〜! ちょっとぉ、アタシのマブダチったらノリが良すぎじゃなぁ〜い? けどぉ、ホントにマブダチだったらぁ〜、ちょっとこのヒス女から助けてくれないかしらぁ〜!」

それを聞いたヒス女こと歌姫が、更に勢いを増して前後左右にガクガク揺らし続けるのを、マブダチことゆきは、ニッコリ笑って眺めた。
五条は悟った。「あ、コイツ、僕を助けるつもりないな」と。

「全員揃ったんで今日の説明しまーす! 歌ねぇと五条パイセンはそのままの姿勢で結構です」
「ねぇ、そろそろさっき食べたロールケーキ吐きそうなんだけど」
「汚っ!!」

ようやく解放されたところで、かやのによる説明会が始まった。

【歌姫先生とゆき先生を、最高の女子に仕立て上げちゃうゾ☆計画】

「……あ、ちなみにこのクソダサタイトルの考案者は五条パイセンなんで。私じゃないんで」

しっかり保身するかやのに、五条からはブー!と親指下げてのブーイングが沸き起こるが、しっかり無視されて説明が続けられる。

「まあよーするに、お二人の私服センスのレベルを上げてやろうって話です!」
「アンタも大概失礼なんですけど!?」

すかさず歌姫からのツッコミが入る。

「私の私服のどこがセンスないってのよ! てか、私が何着ようが関係ないでしょ!? ねぇ、ゆき!」
「えっ、いやあ……オシャレするのは楽しそうなんで別に」
「そ、そう……」

歌姫は味方を失ったことで、逃げ道を断たれた。
こうなった今、自分だけ帰るのは気まずい。

「でもオシャレするだけなら、かやのだけでいいじゃない。なんでコイツがいるのよ」
「スポンサーだからです!」
「えっへん!」
「ああ、ATMね」
(( ATM…… ))

歌姫は本当に五条が嫌いなんだな、と、かやのとゆきが改めて感じた瞬間である。





前もって二人の服を買い揃えてあるらしい。
部屋の隅に置いてあるたくさんの袋やら箱やらは今回使うものか、と歌姫は呆れた。

「じゃあまず歌ねぇから! えーっと……これとこれと……これもですね。ハイ! では隣の部屋で着替えますよー!」

紙袋にビニール袋を複数持たされた歌姫は戸惑いを見せながらも、言われるがまま、かやのに連れられて着替えに向かう。

しばらくして姿を見せた歌姫は、前結びシャツにスキニージーンズで、スレンダーなボディーの良さを引き出している。髪型はポニテで、サングラスとキャップ帽がキマってる。

「似合ってんじゃん!」
「敬語を使え!!」

五条こうはいからヘラヘラ顔で褒められた歌姫は、照れる素振りすら見せず、ブチギレた。

「でも似合ってるのはホントですよ!」
「歌姫さん、かっこいいですよ」
「え、そ、そう?」

女性陣からの褒め言葉(言ってることは五条と同じ。)には頬を染め、満更でもなさそうな歌姫せんぱいの姿に、五条は首を捻った。
そして何か納得した様子で頷くと、歌姫を指で指しながら言った。

「あー、歌姫ってもしかしてレz」
「先輩に指向けんな!!」





次に歌姫に渡されたのは、白いレースの膝丈ワンピースに、白くてつばの広い帽子、白いサンダルという《清楚》なイメージの3点セットだ。
(部屋の向こうからは、「これを私が着るの!?」と悲鳴に近い抗議の声が聞こえた。)

「可愛いぃぃーーーッ!!」
「えっ」

口を両手で押さえながら興奮する友人を、隣の五条は信じられないものを見るかのように見ていた。

「ほら〜、やっぱ可愛いんですよ! 良かったですね歌ねぇ!」
「そっそそそそんな、かっ、可愛くなんか……」

歌姫はストレートな感想に、顔というか体全体が茹で蛸みたいになっている。

「ホント、良かったね歌姫。僕だってここまで数値の高い『可愛い』貰ったことないのにさぁ〜」
「"数値の高い『可愛い』"ってなんなのよ」
「ハイハイそこのGT、嫉妬しない!」

身長差を利用しての圧力をかけるGTを、かやのが引き剥がす。

「ねー、僕のが可愛いよね」
「ハァァァァ歌姫さん可愛いぃぃぃぃ直視できねぇガチ天使ぃぃぃ! いや、女神ィィィィ……!」
「…………」

友は畳に倒れ込み、未だ歌姫の神々しい御姿に興奮中だ。
五条は「スーーーッ」と息をして、少し間を置いて再び歌姫に詰め寄ろうとしたため、かやのがどうどうしながら宥める。

「五条パイセン、アンタ『可愛い』より『かっこいい』って言われたい派では……」
「ヤダ!! 褒め言葉全部欲しい!!」
「とんでもねぇ業突く張り!!!!」






「さて……いよいよ鬼門ですよ五条パイセン」
「そうね」
「どゆことだよ」

手を取り合ってアワワと震えるかやのと五条。
ゆきは、頭上に疑問符並べて余裕の佇まいだ。

「一緒にスイーツ食べに行く時の私服はどんなです?」
「センスは悪くないと思う」
「でも、仕事着は?」
「悠仁がくれるらしい、変な二文字やら変な四字熟語がプリントされたTシャツに、白衣合わせてる」
「「ヒィィィ!!」」

悲鳴上げてガタガタ恐怖に怯える二人に、ゆきが心外だとも言いたげな顔を見せる。

「私服のセンス悪くないならいいじゃないですか〜」
「仕事着のせいでプラマイゼロです!!」
「マジか」

ワッ!と泣き崩れる五条にショックを受けるゆきの肩に、元の巫女服に戻った歌姫がポンと手を乗せた。

「おっぱいもお尻も大きくて形が良い、いい体なんで、メイド服やバニーコスも考えましたが……どう考えても不従順メイドに凶悪バニーちゃんが出来上がるんで、ホント、苦労しました」
「ミニスカサンタも考えたんだけどさ〜、良い子たちに跨って殴りつける姿とか、サンタが来た家に侵入してプレゼントネコババする、"ろくでなしサンタ"のイメージしか浮かばなかったんだよね〜」
「なんでコスプレの方向に持ってったのよ……」
「いや、体の良さを手っ取り早く活かせるのってコスプレじゃん?」

知らねーよ。
歌姫は呆れたが、ろくなメイドやバニー、サンタにならないことに関しては、なんか納得してしまった。
けど隣のゆきが悲しそうな顔をしていたので、黙っておいた。

「仕事着は白衣が隠してくれてるんでいいですけど、パンツスタイルだと下半身がエッティな感じになっちゃうんで、今回はワンピース選びました!」
「ゆきを見ても全然ムラムラしないけど、何も知らない体目当ての野郎が見たらえっちかもしれないもんね!」
「そうですね。ちなみに私はイライラしました」
「五条ちょっと黙ってろ」
「謝んなさい五条悟!!」

女性陣から袋叩きを受けた五条だが、身体的ダメージは受けていない。

ゆきを着替えさせるにあたり、「五条と二人きりは嫌」という理由で、歌姫まで着替える部屋について来た。
(五条がなんとなく興味本位でしれっとついて行ったところ、かやのに蹴り出されてしまった。)

「アンタ何食べたらここまで胸大きくなるのよ……。ぐぅっ……やわらかい……!」
「えー……ロールケーキに大福にパンケーキにタルト、シュークリームですかね」
「……私の胸が小さいのって、甘いの苦手だからかしら」
「お胸とお尻が大きいと、コンプレックスに感じる人が割といるって聞いてるんですけど、ゆきねぇの場合気にするどころか、頼まれればビキニだって着ちゃいますよね」
「これでしおらしかったら男なんてイチコロなのに……。あの馬鹿といいこの子といい、どうしてこうもアンバランスなのかしらね」
「歌姫さんだってブチギレなければ、美人で可愛くて小柄で生徒想いで優しくて大和撫子って感じでいい女じゃないですか〜」
「言っておくけれど、私がブチギレるのはアレにだけだから」
「うーん……まー、ゆきねぇはアレです。悪戯・悪ノリ大好きな男子高校生みたいなところをなんとかするのと、一般的な女子の恥じらいを身につけると……化けます」
「恥じらいくらいありますよ! 流石に人前で全裸は恥ずかしすぎて無理です」
「ゆき先・生?」
「ハヒィ!!」

…………楽しそうだなーと、五条は部屋の前で、女子の話をBGMに四肢を投げ出し、大の字で仰向けになっていた。

(ゆきのおっぱいが大きい原因がスイーツなら、僕の背が高いのもスイーツ効果?)
(歌姫は確かに胸が貧相だけどさー、そこまで胸大きくなくてもかやのんは美人というか、色気はあると思うよ、うん。全然僕に優しくないし、戦闘スタイルが凶暴なゴリラだけど)
(そういやあ、ゆきの恋愛遍歴は聞いたことないなー。彼女の術式目当てだろうけど名家の呪術師からデート誘われてるの、何度か見たことあるな。でもスイーツ食べに行けるとわかった時しか受けてないみたいだし、それじゃ"デート"じゃなくてただスイーツゴチになってるだけじゃん……)
(僕の顔が効果ゼロって時点でもう、難易度高すぎるんだよホント。もしかしてアレ? 恋愛感情ない代わりに、呪力と術式が強いパターン?)

あれやこれや考えているうちに着替えは終わり、隣の部屋に続く襖が開き、ブラウン寄りのオレンジ色をしたワンピース姿のゆきが立っていた。

「ゆきが女の子になった!」
「五条パイセン……もう2、3発喰らっときます?」
「アッ、イエ、スミマセン」

迷いなく土下座した"あの"後輩に、歌姫はかやののすごさを再認識した。

「シャツワンピースを第二ボタンまで開けて、中には見せインナー着せる! 胸の大きさはあえて主張しないのがポイントです。あと細めのベルトでウエストを縛り、くびれを作ることで腰回りを細く見せます!」

かやのの見事な説明が披露されてる中、五条はゆきの周りをグルグルウロウロし、ん?ん?と不思議そうにする。

「買ったの、この色だっけ? ライトブルーじゃなかった?」
「ああ……ライトブルーよりこっちの色のが似合うと思ったんで、こっそり取り替えておきました」

しばしの間。

「な、ん、で、そんなことするの!?」
「こっちのが結果的に似合ってるんだしいいでしょ別に。大体ライトブルーって、五条パイセンの瞳の色じゃないですか! どんだけ自分大好きなんですか!? 主張が激しい男は嫌われますよー!」
「ファッキ…ファンキージジイのことは嫌いになっても、五条悟のことは嫌いにならないでね☆」
「どさくさに紛れてうちの学長disってんじゃないわよ!! あとアンタ今、ファッ○ンて言おうとしたな!?」

最初から最後まで叩かれまくりの大炎上な五条悟マイフレンドを眺めながら、ゆきは「次はこの服を着てスイーツを食べに行きたいな〜」と考えていた。
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