放心演技

「ホラ見てばあさ〜ん。大きなつづらを貰ってきたよ〜?」
「あらあらおじいさん。どうして死亡フラグを持ち帰って来てしまったのかしら」
「待てや欲深クソジジイ!! そこは小さいつづらだろーがァ!!」
「このじいさん、言動が若すぎないか?」
「おばあちゃん、メタ発言やめて!?」

おじいさん・五条と、おばあさん・ゆきの演技を途中までは大人しく眺めていた一年トリオだったが、とうとう限界がきたから一斉にツッコんだ。

「ばあさ〜ん、最近の若者は怖いねぇ……」

怯えた子犬のような顔で主に野薔薇を見ながら、おばあさんにしがみつくおじいさん。

「…アナタさっきからばあさんばあさん言ってますけど、『お』をつけなさいよ白髪の若作りジジイ」
「お、ばあさん」
「喉に餅詰まらせて、川をどんぶらこしたらいいのに」

暗に「土左衛門水死体になれ」と言っているおばあさんゆき先生を、虎杖が青ざめた顔で見ている。

「俺、こんな老夫婦にはなりたくねぇ……」
「旦那選びでまず失敗してんじゃん」
「確かにな」

ドン引いたり、可哀想なものを見るような視線を向ける若者に、おばあさんは口元に手を当てて「ほほほ」と笑った。

「見合い結婚だから、まさかこんなデリカシーのないクズだとは思わなかったのよ」
「え〜? でもなんやかんや『一緒にいて楽しい〜!』って言ってたじゃ〜ん! TDLも行った仲じゃ〜ん!」
「ジジイがジジイしてないんだけど」

野薔薇から「年寄りらしくない」と指摘された五条だが、「だって僕若いもん」ととんでもないことを抜かしたため、何のための演技指導だと総ツッコミを受けることとなった。

「アナタたち、ごめんなさいねぇ……。あとでスマブラで懲らしめとくから」
「ばあちゃんは声とか雰囲気はばあちゃんなんだけど、言葉のチョイスがばあちゃんらしくねーんだよなぁ……」
「あらまあ、私みたいなおばあちゃんがゲームで遊んだら、おかしいかしら……?」
「おかしくはねーけど……いや、おかしいか。これ『舌切り雀』だろ? スマブラまだねーよ。じいちゃんもさっきTDLがどうとか言ってたけど、TDLもねーから!」

虎杖のツッコミは、いつだって冷静だ。

今回は「演技」の授業が行われている。
一般人と接触する必要がある任務なんかで、とっさに詳細を伏せて、その場をやり過ごさなければならない場合があり、必ずしも補助監督が助けに入れるとは限らないため、演技力を少しは身につけておいて欲しい。
それに、接触する相手は一般人だけでなく、呪詛師ということもある。
……というのが、五条先生からの指示。

「もうこれ老夫婦じゃなくて、ばあちゃんと孫じゃね」
「あらあら、こんな手のかかる顔だけの孫なんて私にいたかしら……」
「おばあちゃんたらひどぉ〜い! 大事な可愛い可愛い孫の顔を忘れるなんて〜!」

「認知症〜?」と言いながらローアングルで覗き見てくる"孫"に対し、「さっさと出てって、道中尽〈ことごと〉く、Uターンラッシュに巻き込まれてくれないかしら」なんて朗らかな顔で宣〈のたま〉う祖母。

「てかばあちゃん、さっきから『スマブラ』だの『Uターンラッシュ』だの、世界観ぶち壊しなんだよなぁ」
「虎杖、諦めろ。五条先生と友達になるような人だぞ」
「今のゆき先生は悪ノリモード入ってんだから無理無理」

そんな3人を見て「ほほほ」と笑うおばあちゃん。

「相変わらず可愛い孫たちだこと。あんまり可愛いから、舌を切ってあげたくなっちゃうわ」
「こえー!!!!」
「可愛いから舌を切りたくなるってどんな心理!?」
「声は優しくても、発言が呪詛師のそれですよ!!」

"孫"3人は戦慄した。そんな反応を見ても尚、おばあちゃんは微笑みを向ける。
おじいちゃん兼孫も、何が面白いのかケタケタ笑いながら嬉々として言った。

「舌切り雀ごっこしよーぜ! 悠仁たち3人は雀役な!」
「この二人、狂ってやがる……!」

「呪術師は総じてイカれている」と五条は言い、ゆきは「パンピーよりも呪術師のが好き」と言っていた。
五条一人だけでも「呪術師はおかしい」と思える充分なサンプルになるのに、そんな五条と友人関係になったゆきもおかしいのだ。

「呪術師はクソです」という七海の言葉をなんとなく思い出した虎杖は、後日七海にこの日のことを伝えた。
すると七海は小さくため息をつき、

「五条さんと正蔵寺さんは、二人揃ってようやく大人一人分です。単体だと大人になりきれていないガキなので、多めに見てあげて下さい」

と、中々な言葉を吐いた。

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