飲みニュケーション@

五条が連れてきた人物からは、およそ感情と呼べるものが感じ取れない。
私も学生の頃はよく「目が死んでる」だの「お前それでも人間かよ」だのと、クズ共から言われてきた方ではあるが、ゆきよりは感情豊かだったと思う。

五条によるゆきの「肝試し」に同行した伊地知からは、「一般人とは思えないくらい、躊躇いなく呪霊を祓った」と聞いている。
普通はわけのわからない化け物と戦えと言われれば恐怖を感じるものだが、ゆきはパパッと祓った。
その辺からして常人離れしている。

それと、五条はクズだが女にモテる。たとえクズでも高身長・高収入・高レベル顔面の持ち主だからだ。呪術界の女なら事情を知っているから、気が引けるのはわかる。だが一般人の女なら、10人中10人が振り返るスペックの持ち主だろう。
しかしゆきは、距離感バグってるアイツからどれだけ肩をバシバシ触られても頭を撫でられても顔を近づけられても、頬を染めるどころか眉ひとつ動かさない。

反転術式ではないが、術式が術式だから一応治療は可能だと、アイツは私にゆきを寄越した。
《拒絶》タイプの術式だよと聞いて、私は合点がいった。恐らく彼女の感情が乏しいのは術式の影響が及んでいるからだろう、と。
検査の名目で色々調べさせてもらったところ、やはり呪力の一部がゆきの感情を抑え込み、《拒絶》しているようだ。
長くこの世界に身を置いているから、私も一般人の普通の生活に詳しいわけではないが、ここまで感情が静かだと色々浮いていたのでは、と推察した。

五条としては、それだと困るらしい。

「たとえ死ぬ時は一人だろうと、ゆきも一応先生なわけだし、学びの庭で青春を謳歌している若者の前で"お人形"でいられるのは……ねー!」

そう言って肩をすくめる五条の向こうでは、今年入った一年、それからパンダに囲まれ固まるゆきが見える。

「助けに入らないのか?」
「僕が入っても同じだよ。ってことは、入らなくても同じってことだろ」
「感情が下手に出ない方が、立ち回りの面では有利だと思うけどな」
「まあね。けどゆきの場合、せっかくいい術式を持ってるのに感情を抑え込むため、呪力の一部が回されてる。そこが解放されればもっと強くなるよ。今は精々祓えて準一級呪霊だけど、一級や特級を相手にするのも夢じゃない」

クククと笑う五条は、実に楽しげだ。

「硝子、今夜の飲み会だけど、ちゃんとゆきも誘っといてよ。僕は伊地知とかやのを誘うから。あ、歌姫は誘っても誘わなくてもどっちでもいいよ」
「…五条、伊地知にはもう少し優しく接してやれ」
「は? 面倒くさ。なんで野郎に優しくしないといけないの」

心の中で伊地知に合掌しながら、私は今夜何を飲むか、について考え始めた。
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