ズッ友でいるのも大変だよ

今日は珍しくなんにも仕事がない、フリーな日!
だからついつい嬉しくて、僕は友人のゆきが寝起きしている保健室までダッシュで向かった。
(途中、夜蛾学長が「廊下を走るな!!」「教師だろ!!」ってなんか叫んでた気がするけどそんなの関係ねぇ!!)

高専の外で部屋を買うなり借りるなりすればいいのに、わざわざ高専の中、それも仕事場の保健室に部屋作るってもう、おかしいよね。
まあそれはそれとして、

「ゆきー!! おはよー!! 今日はスイーツ巡りする約束だよゆきー!!」

一応相手は女性だから、部屋の中に勝手に入る真似はしない僕はなんて紳士なんだろう。ほんと、非の打ち所がないナイスガイだよ。

しばらくノックしたけど返事がない。
んー、相変わらず朝に弱いなぁ。
どうせベッドで体をチュロスみたいにねじらせた体勢で寝てるとか、ベッドから落ちてるとか、そんな感じだろう。「寝相が著しく悪い」って前に硝子が言ってたもん。
そんなんで彼氏と寝られるのか、と呆れちゃうけどそもそもゆきが彼氏とイチャイチャしてる姿が想像出来ない。キャラ崩壊もんだよ。読者が混乱して、問い合わせのお便りがメールボックスに溢れるレベル。

硝子が夜勤だった場合、翌日の午前の治療は余程手に負えないケースを除いて、ゆきが請け負うことになってる。でも昨夜の硝子は夜勤じゃない。つまり今日は、叩き起こしてオッケーってことだ。僕との約束があるわけだし。
しょうがないなー。面倒だけど、スイーツ巡りという大事な任務を達成するためにも、ここは粘り強くいこう。
諦めたら試合終了ですよね、安西先生!!

「ねーゆきー!! もう朝だよー!! いつまでも体チュロスで寝てないでさぁー、体をチュロスにするんじゃなくてさぁー、チュロス食べようよー!!」

反応なし。けど五条悟は生徒思いで友達思いのパーフェクトヒューマンだからね。何が何でも起こしてみせる。
やれやれ全く世話が焼ける友人を持つと大変だ! もう30歳なんだからさ、僕より年上なんだからさ、しっかりしてよね!

「ゆきー!! 今日何の日か覚えてるー!? 五条悟とスイーツ巡りするという祝日レベルなビッグイベントの日だよー!!」
「うるさぁーーーーい!!!!」

返事がきた。けど「うるさぁーーーーい!!!!」って子供かよ(笑)
はぁー、どんだけ寝起き最悪なんだよ。僕みたいなグッドルッキングガイが起こしてやってるんだよ? それに対して「うるさぁーーーーい!!!!」って返す女の子は本当に女の子なの?
まーだからって、キャッて顔赤くしながら恥じらう彼女は想像出来ないんだけどね。

「ねぇー!! 早くスイーツ巡り行こうよー!! 悟ぅ、あまり待たされるの嫌いだなぁ〜!」
「約束10時!!!! 今8時ィ!!!!」

ププッ。
言葉が単語だけになってる。余程眠いんだなぁ〜。
うん。時間より早いのは否定しない。でも大人でしょ? 朝8時には起きてろよ。
そもそも僕と約束してる日なんだからさぁ、普通楽しみすぎて「前日夜から眠れません」パターンに陥ってて欲しいもんだよ。

「起きないんなら入っちゃおうかな〜! 五条悟、不法侵入で夜蛾学長に怒られちゃうなぁ〜! 知ってる? 僕、いざって時のためにマスターキー持ってるんだよねー!」

……返事がない。視た感じ、どうやら寝ちゃったらしい。

「ええぇ〜……」

普通ここで寝る?
でも二度寝されたら、10時までに起きてもらえるか不安だな。
仕方ない。うん。仕方ないよね。これは「いざって時」に含まれますよね夜蛾学長!

このまま薬品臭い保健室で待つのは嫌だし、マスターキーで部屋に入った。
女性の部屋とかそんなん関係ないね。女性うんぬんの前に友人だもんね。

部屋の主がまだおねむだから、カーテンも閉めてあって明かりのついてない真っ暗な部屋だけど、ゆきの気配は感じるし、真っ暗だろうと僕には視える。
何度か来たことあるけど、ゆきの部屋は「女の子の部屋」って感じじゃない。ファンシーとは言いがたく、いい匂いもしない。
いくつかある本棚には専門知識の図鑑や雑誌が並んでいる。(得意なお菓子作りのレシピ本、お寺や神社関連の本、女の子がいっぱい載ってる図鑑に、鉄道関連の本、漫画家やイラストレーターの画集などなど、雑多だ。)

「オタクの部屋だよなぁー」

整理整頓は出来てるんだけど、女の子感がない。こういう部屋って彼氏としてはどうなんだろう。あ、彼氏いないか。

「クケケケ!!」
「おわっ!?」

突然下からアッパー繰り出されて思わず避けると、足元に人相の悪いコアラのぬいぐるみがいた。
……夜蛾学長の呪骸だろコレ。
どうやら、ゆきが寝てる間だけ動くセキュリティーポリスコアラらしい。

「うわぁー、頼もしいねー……」
「キケケッ!!」

これは早く起きてもらわないと。
ゆきは虫のように毛布にくるまった状態で、ベッドの下で寝ている。
友達が凶悪コアラに襲われてるのにおねんねとか正気かよ!!

小さいし、掴んでしまえば手も足も出ないだろう。
そう思って手足をまとめて掴むと、このコアラ……首を勢い良く伸ばして頭突きしやがった。《無限》効果で喰らわないけどさ。

「クケッ!!」
「ゆきコラ起きろよコラー!!」
「カカカッ!!」
「コアラちゃん壊しちゃうぞ!!」
「ケケケ、ケ……」
「!」

凶悪コアラがくたっとなり、ゆきが起きたことを知る。
コアラを放り捨ててベッドの下を注視していると、2本の白い手が伸びてきて、這う音と共に髪の乱れた女がズルズルとゆっくり這い出てきて、僕は「『リング』みたいだぁ」と思った。
あろうことかそのまま床で3度寝キメようとするから、両脇に手を差し込んで持ち上げると、髪の間からガンつけられた。

「スイーツ巡り行くんでしょ? 約束したじゃーん!」
「すいつ……」
「そうそうスイーツ!」
「ぷいきゅあ……?」
「キラキラプリキュアアラモードは放送とっくに終わりました!!」

完全に寝ぼけてる。けどコアラが動かないから起きてることは起きてる。
壁にかかった時計を見ると、9時になっていた。

「ホラホラ支度して! そんな格好で東京、それも五条悟の隣は歩けないよ!」
「…………」
「………………あ、もしもし野薔薇? ……うん、え? いや違うよそんな嫌そうな態度されたら五条先生泣いちゃうぅぅ…あっ! 待って切らないで!! …いや〜実は今日ゆきとスイーツ巡りなんだけどさぁ、ゆきが寝ぼけてて一人で支度出来ないから、野薔薇手伝って〜」

あーだこーだ文句と説教しながらゆきに着替えをさせたり顔洗わせたり化粧してやったりする野薔薇を見て、彼女に女子要素があってほんと良かったと思った。
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