そんな真夜中

ゆきが死ぬ夢を見た。

たかが夢だ。いくら最強と名高い僕の夢だからと言って、それが100%正夢になるなんてことはない。

でも、されど夢。こんな世界だ。いつ死に別れてもおかしくない。
僕とゆきなら、先に死ぬ確率が高いのはゆき。僕は強いから大丈夫。
ゆきの術式がいくらユニークでも、僕ほどの戦闘力はない。

・・・・・・なんだか不安になってきちゃったなぁ。らしくもない。

隣では、そんな僕の気持ちなんか気づくはずもないゆきがスースー寝てる。

・・・なんか腹立ってきた。

「ねー、ゆき」

起きない。ショートスリーパーの僕と違って、コイツは呼ばれたくらいで起きるタマじゃない。

「ねー、ゆきってばー」

揺さぶってみた。

「んんー・・・・・・」

これで起きないって、はぁ。
ゆきが死ぬとしたら、寝てる間に襲われた時だろうな。
うん、心配だ。

揺さぶり続けていると、目が潰れたままのゆきが振り返る。不細工!

「なんれすかさろるさん」
「僕の名前もまともに呼べないなんて、相変わらず寝起き酷いねぇ」
「トイレならひとりぇ行ってくあさい」

違うし。トイレくらい言われなくても一人で行けるし。

「オナるなら別の部屋行ってくらさい」
「違うから! オマエ僕のことなんだと思ってんの!? ねーゆきちょっと僕とお話しない?」
「しません寝ます」

ひっどい! それでも僕の親友かよ!
あ、ちょっと寝る姿勢整えないでよ!

「ねー、明日お休みでしょ? 少しくらい付き合ってくれてもいいじゃん」
「んー・・・・・・どうしたんですか、やけにしつこいですねおおよしよし」
「・・・僕のことそんな子供みたいに扱って頭撫で回すの、ゆきだけだよ」
「おおよしよし」

僕は夜泣きしてる赤ん坊かよ。

「まーいいよもう。そのままでいいから聞いて。・・・ゆきが死ぬ夢を見たんだよ」
「なるほどー。悟ちゃんはそれで不安になったんでしゅねー」
「怒るよ」
「申し訳ございませんでした」

謝りながらも頭を撫で続けるところは最早流石だよ。

「けどこの世界にいる以上、いつ私が死んでもおかしくないじゃないですか」
「そうなんだけど、ねー」

僕がゆきのことを大切に思ってることは、呪詛師は勿論のこと、いくらあの馬鹿な腐れミカン共でも気づいているはず。
人の弱味に漬け込むことが得意な連中だからね。

だから真っ先に狙われるのはゆきだ。僕の弱点になり得る存在。
まあコイツもそこそこ強いわけだし、術式がトリッキーだからそう簡単にやられるなんて思っちゃいない。
思っちゃいないけど・・・・・・。

「・・・・・・二度と失いたくないんだよ」

アイツみたいに。

「そうですね〜。悟さんて、存外ぼっちが嫌な寂しんぼですからね」
「ぼっちが平気なヤツなんて、そういないでしょ」

失って初めて知った、"孤独"。
いつもそこにいるのが当たり前だった存在が消えて、ぽっかり穴が空いたような感覚。

・・・僕は、いざ失うまでアイツのことをわかってるつもりだっただけで、本当の意味ではわかっちゃいなかったんだろう。

だからこそ、今度は失敗したくない。

「悟さんは時々、遠くを見ますよね」
「え」
「そんなに心配しなくても、私はこうして悟さんを見てますよ。あなたが捨てない限り、命ある限り、そばを離れません」

だから安心して暴れて下さい。
そう言いながら頭を撫で続ける僕の親友。

愛ほど歪んだ呪いはない、というのは僕の持論。
けど愛がなければ生きていけないのが、悲しいかな「人間」という生き物。

傑とは別の、僕の唯一無二。
僕はこの存在を手放せそうにない。

「さて、明日・・・日付で言ったら今日ですけど、悟さんは仕事です。そろそろ寝ましょう」
「ほっぽり出して一緒にスイーツ食べに行きたい気分」
「パッと行ってパッと祓って来て下さい。そしたら付き合います」
「僕眠くない」

とびきり可愛い表情(ポーズ付き)をしてみせたのに、背中を向けられてしまった。
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