ミョウチキリンフレンズ

12月24日。
毎年この日が近づくと表情が変わる友が気がかりで、けど聞いても笑える話ではなさそうだしと、指摘はあえて避けてきた。

12月24日は世間一般ではクリスマスイヴというやつで、主に恋人や夫婦が存分にイチャイチャするおめでたーい日。
そんな日を、私は五条悟と意気投合して以来、毎年彼のお宅で過ごしている。
《グッドルッキングガイ》な彼とクリスマスイブに二人きりと聞くと、特に若い女性の方々は何か下世話で破廉恥な想像を膨らませるのでしょうが、誤解しないで下さい。
正蔵寺祐季と五条悟ですよ。男女だなんだの前に、この両名ですよ。普段の残念ぶりをよーくご存知の人は、私たちに"そういうこと"が起こり得ないとおわかりですね?
残念そうな顔をされたそこのアナタ。妄想お疲れ様ですとっとと帰ってどうぞ。

まあ、私みたいなミョウチキリンには彼氏なんて一生縁がないだろうから、この友が誰か嫁さんゲットして所帯持つまでは、こうしてミョウチキリン同士、それはミョウチキリンなクリスマスイヴを面白おかしく過ごすのだと思ってる。

で、今年もこうして五条悟のお部屋に招かれているわけで。
様子がいつもと違う五条悟だけど、不自然にヘラヘラ明るく振る舞うところ以外はいつもと同じ。
無駄に広く無駄に豪華なキッチンで並んであれこれ話しながら凝った料理を作るのは楽しいし、オーブン待ってる間にババがバレバレのババ抜きしたりリバーシ遊んだりするのも楽しい。

「今日はさ、親友の命日なんだよね〜」

こっちが遠慮していることに気づいたらしい向こうが唐突にネタばらししたものだから、これまでの遠慮はなんだったのかと少しだけ拍子抜けした。

「…………」

口いっぱいに頬張るポテサラを噛む動きを止めていることに気づいて、慌てて咀嚼を再開させる。

「命日なのに明るく言うなよーってツッコミはないの?」
「え、あー……ツッコんでいいものですかね」
「いいのいいの! しみったれるの嫌だから、ツッコミ入った方が気が楽」
「命日なのに明るく言わないで下さいよー」

変にかたくならないよう気をつけたんだけどバッチリ伝わってしまい、「ガッチガチじゃん!」と笑われた。チクショウ。

2017年の今日は、五条悟の親友・夏油傑が《百鬼夜行》を決行した日で、五条悟が命日にした日。
高専の生徒が呪詛師になった一連の話もあれやこれや語られて、卒業生ではない部外者の私が気安く聞ける内容ではないなぁと思った。

「……そんな大事な話、私に話して良かったんですか?」
「聞かせたかったんだよ。友人だからさ」
「そう言われると悪い気はしないなぁ〜」
「へへーん!」

親友の命日という重要な日に、女の子でもショーコさんでもなく、ミョウチキリンな私と過ごすことを選んでくれていることも、嬉しい。
なんでも出来てなんでも持ってると言われる《ナイスガイ》なヘラヘラ男は、存外ぼっちが嫌らしい。

「よーし、今日は食いますか。オールで付き合ったげますよ。ついでに泊まってもいいですよね」
「えっ! いいの!? いつもは高専に帰っちゃうじゃん!」

子供みたいに目ん玉キラキラさせて純粋に喜ぶ友人、可愛いじゃないか。30歳超えてるくせに。

「ミョウチキリン特典です」
「何それ」
「やー、友達の家にお泊まりっていくつになってもワクワクもんだなー」
「ミョウチキリンて何? 僕のこと?」
「ホラホラせっかくのミートローフが冷めますよ。食え食え」

不満げな顔で睨んでくる友は、分厚く切り分けたミートローフが盛られた皿を押しつけられると、不満げな顔のままミートローフを頬張る。
ハムスターみたいで可愛いな、30代の野郎がよぉ。

「美味いですか?」
「美味いデス……」






「げっふ……失礼」

日付が変わるまで飲み食いし続けたため、腹がはち切れそうだ。ゲップを出さないと、気持ち悪くて吐いてしまう。

「ゆきってほんとに女?」
「この立派なおっぱいが見えねーんですか」
「あーうん、女だねわかったわかった。そんな堂々と胸張らないでよ」

女だってゲップするんだよ。後学のためにも覚えとけ《グッドルッキングガイ》。
本格的に片付けるのは明日に回すことにして、リビングの広いスペースに簡単な寝具を二人分並べる。
ここからは楽しい楽しいお喋りタイムだ。

「修学旅行みたーい」
「学生時代に戻ったみたーい」

2人揃って両肘ついて顎を乗せ、ニッタニッタ笑いながらふざけ合う。
私も五条さんも30オーバーだけど、心が若けりゃいーんだよ!

「五条さんは一般教科だと何が好きですか? 私は国語です!」
「あれ、こういう時って確か、好きな人がいるかいないかの話をするんじゃねーの?」

そりゃ映画やドラマの中や、普通の恋する若者はそうでしょうよ。
ミョウチキリンの自覚がないのかこの男。

「じゃあ聞きます。恋愛対象として好きな人、いるぅー?」
「いなぁーい! ゆきはぁー?」
「いなぁーいけど、ショーコさんや歌姫さんに迫られたらやぶさかではないですね……」
「キャッ! やだぁもお〜、ゆきったらえっちなんだからぁ」

なーにが「キャッ」だよ。

「この前かなりスタイルのいい美人な女性とホテルに入るの、たまたま見ちゃいましたよ。五条さんのがよっぽどえっちだわカマトト野郎このこの〜」
「やだ〜もぉ〜やめてよぉ〜」
「やだ〜五条悟子ちゃんったら赤くなっちゃってか〜わ〜い〜い〜」

……修学旅行生って、こんなオネエみたいな感じで恋愛トークするんだっけか。
まあいっか。楽しいから。

「……ねえ、ゆき」
「はい?」
「ゆきだけはさ、ずっと変わらず、僕と友達でいろよな」

顔ごと隣を見たら、真剣な色だけど、どこか不安げに揺れている碧い瞳があった。

「あと、すぐじゃなくていいんだけどさー、いや、出来たらすぐがいいんだけどさー……。僕のこと名字じゃなくて名前で呼んで欲しいんだよね。そっちのがこう、友達っぽいじゃん」

名前呼びのが友達っぽい、ね。
この人でも、そういうこと考えるのか。どう呼ぶかなんてこだわりなさそうなのに。
……ああ、そうか。きっと夏油さんくらいなんだな。この人を「悟」と呼ぶ人物は。
最強なのに、いつだって余裕ぶっこいてるのに、横柄でわがままで、常識もデリカシーもないようなトンデモ野郎なのに。

「じゃあ呼んでやりますよ。悟さん」

名前を呼んだ途端、友は布団から飛び上がってピョンピョン飛び跳ねながら「わー!! やったー!!」と叫び、全身で喜びを表現。
190cmオーバーの大男が飛び跳ねる姿は、なかなか大迫力で結構怖い。
クリスマスプレゼントでSwitch貰った子供か。
騒ぐ時間帯考えなさいよ。

「うーわー!! 一気に友達感が増した!!」
「呼び方ひとつでそんな変わるー?」
「変わる変わる!!」
「サトちゃん」
「それは薬局感があるからやだ」

そのまんまがお望みらしい。

「名前呼んでくれたってことは、僕と友達フォーエバーはオッケーなんだよね!?」
「言っときますけど、私じゃきっと、夏油さんの位置にはなれませんよ。穴を埋められるかどうかもわかりません。……それでもいいなら」

小指を差し出すと、悟さんが満面の笑みで自分の小指を絡めた。
指切りなんて、まんま《呪い》みたいな行為だというのに、躊躇いなくやっちゃったなぁ、この人も私も。

「いーよいーよ! やった!! これで僕たちはズッ友だー!!」
「アホでミョウチキリン同士、仲良くしましょーね」
「アホでミョウチキリンなのはゆきだけじゃん」
「聞き捨てならんなぁ〜」

小指の力を全力込めて締め上げると、悟さんは痛がって、わざとらしく「エィィーン」と泣いた。

「じゃあじゃあ、僕とゆきはここでルームシェア決定だね〜! あ、引越し作業は僕も手伝うから安心して!」
「…………ん?」

「あんな薬品臭い保健室よか快適だよ良かったね!」とニコニコ笑うそこの《ナイスガイ》さん、ちょっと口閉じてくれ。

「なんでルームシェアなんですか」
「え? ズッ友だから。あ、家賃が心配? 僕が全部払うからゆきは光熱費だけでいいよ!」
「いやいやいやいや、家にズッ友がいると、女の子お持ち帰り出来なくなりますて!」
「ゆきが?」
「私はお持ち帰りしません!!」

私がいつ女の子をお持ち帰りしたよ!!
お持ち帰り出来るんならしてみたいわ!! あ、けどどうせならお持ち帰りは、するよりもされてーかな。
じゃなくて!!

「私が部屋にいるのに女の子とイチャイチャして喘ぎ声聞かせてくるのは勘弁願います」
「それは楽しそうだけどゆきに嫌われると困るからしない! これからは、女の子とはホテルとか外でイチャイチャする。はい解決ぅ〜!」

「ゆきもここに女の子連れ込んでイチャイチャしたりしないでよ?」と抜かすこのマイフレンドの鼻の穴に、チューブわさびやチューブからしを注入してやりたい。
私はお持ち帰りしないっつったろーが!

おかしいわ〜。この人おかしいわ〜。
ミョウチキリンの中でもトップクラスでズレッズレでネジ飛びまくってるわ。《ミョウチキリンキング》とお呼びしたい。

けど、「まあこの人と一緒にいるの楽しいし、ズッ友だからいっかな〜」と思って最終的には頷いた私も、きっとおんなじくらいミョウチキリンのズレッズレだ。
TOP