好きとか嫌いとか、難しいことは分からないけどただそばにいたいと思うのは駄目なことなのだろうか。ずるい事なのだろうか。
「名前」
もしもそうだとしても、私は貴方が私の名前を呼んでくれる限り隣にいたい。ただそれだけだった。
***
「ぎ・ん・と・き」
「げっ……」
それは良く晴れた日、こんな日に机に向かうなんて馬鹿みたいだと思うが先が俺の足はここいらで一番高い木の上に陣取る。丁度いい感じに風が吹き自然と下りる目蓋に抗うことをしないでいた、それはそんな時だった。
長い髪を風にたゆたわせ、木の下から俺の名を呼ぶ女。
「やっぱりここにいた。サボっちゃ駄目だよ」
「っせぇよ、テメーは母ちゃんか」
「違うよ」
「!?」
いつ音も無く登って来たのだろうか、隣にはにっこりと満面の笑みの名前。その笑顔はどこか先生にも似ている。ね、戻ろう、とその顔で言われるのに俺はめっぽう弱かった。
「先生にげんこつくらうの嫌でしょ?」
「……しゃーねぇなァ」
今回だけは彼女に免じて、と木から飛び降りたがなかなか後に続く音がしなくて振り返ると未だに木の上に名前がいた。
「なーにやってんだお前、帰ンじゃねぇの?」
「…………、降りれなくなっちゃった」
てへ☆なんて語尾についてそうなその物言いに盛大に俺はため息をついた。仕方ないから、松陽のげんこつは痛いから、だから俺は腕を広げた。あくまでも仕方ないからだ。
「?」
「なに?じゃねぇよ。ほら、飛べ」
「……銀時じゃ無理でしょ…?先生なら出来そうだけど…」
「どうにもお前はいっぺん殴られてぇらしいな…俺だって女1人くらい余裕だっつーの、なめんな」
その言葉を言った後はっとあることに気付いたが、先程と同じような満面の笑みの名前が迷いなく腕に飛び込んでくるのを俺はもう受け止めるしかなかった。してやられた、そう思いながら俺は腕の中の温もりごと後ろに倒れ込んだ。
「っっ…だめじゃん…銀時」
「っ…名前お前…」
それから顔を見合わせてどちらからともなく笑った。 俺の頭に付いた葉っぱにへらへら笑う名前の頭にぐしゃぐしゃっと手を入れると、なんとも間の抜けた声で静止が入ってまた笑う。あぁ、いいな、なんて思いかけた俺の視界に不意に見慣れた笑顔が覗いてすぐにやばい、と頭が切り替わる。俺の上に乗ったままの名前も何かに気付いたのだろう青ざめていた。
「2人とも相変わらず仲がいいですね」
「……」
「……」
「銀時、名前」
おんなじたんこぶを頭にこしらえて寺子屋に戻った俺らが、その日1日噂の餌食になったのは言うまでもない。
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