この前の一件くらいで懲りる奴じゃない事は重々承知だ。

「だからってあれから3日後にサボるってなに…」

喉元過ぎればなんとやらとはよく言ったものだと思う。多分またあの木のところにいるんだろうなぁと穂を進めれば案の定そこに白い天パが見えた。今回はびっくりさせてやろうと声はかけずに木に登りかけている最中、妙に下が騒がしくてちらりと視線を落とせばそこは何やら一悶着ありそうな雰囲気で。

「よっ、と…!」
「!!」
「な、何者だ!?」

考えるより先に体が動いてその渦中に私は文字通り飛び込んだ。しんと静まり呆気にとられるなかで先に口を開いたのは大勢を弾き連れたガキ大将っぽい子。わなわなの震えながら木刀をこちらに向けた。

「おい!お前だお前!!そこの女!高杉の知り合いか!?」
「別に…唯の通りすがりです。あぁ…高杉、くん?は知り合いじゃないです」
「ハァ!?」

その子につられるようにして他の取り巻き等も徐々にざわつき始め、じろりと嫌な視線に包まれる。

「たった2人にこんな大人数…卑怯だとは思わないの?」
「そんなの関係ねェ!!それに喧嘩に女がしゃしゃり出てンじゃねぇよ!帰れ!!」

ぷちんと、この言葉に私の中の何かが切れる音がした。あぁ駄目だ、と思う私の肩を長髪の子が叩き止める声をかけているが随分と遠くに聴こえる。一歩踏み出し今にも仕掛けるぞと言うまさにその時目の前に真剣が降ってきて地面を砕いた。

「ギャーギャーギャーギャー、やかましいんだよ発情期かてめーら」
「!」
「稽古なら寺子屋でやんな。学校のサボり方も習ってねェのかゆとりども」
「ぎっ、」

聞きなれた声、見慣れた真剣、人物を当てるには十分な要素に確信を持ちながら声のする方を見上げるとやはりそこには思い浮かべた通りの奴がいた。

「しらねェなら教えてやろうか」
「だっ誰だ、貴様はァ!!」
「寝ろ」

銀時は容赦無くガキ大将の顔面をクッションに見事に降りてきた。そんな銀時が、さりげなく私の前に立つようにした行動に心臓がきゅっとなる。

「…それにお前もなに一丁前に喧嘩に首突っ込んじゃってんの」
「けど、私も…」
「名前」

名前を呼ばれてもうそれ以上なにも言えなくなった私が一歩下がるのを確認した銀時はそれでいーの、なんて言いながら笑い前を向いた。

「侍がハンパやってんな。やる時は思いきりやる、サボる時は思いきりサボる。俺がつき合ってやるよみんなで一緒に寝ようぜ」
「誰が寝るかァ!!許さんぞ貴様!!」

ワッ、と一斉に銀時に向かって木刀を振りかぶり危ないと思ったのも束の間、全員の後頭部に何処かで聞いたことのある痛そうな鈍い音が響く。それから揃って倒れたその向こうに見慣れた人物が拳を一つ笑顔で携えていた。

「…銀時、よくぞいいました」
「!」
「そう…侍たる者ハンパはいけない。多勢で少数をいじめるなどもっての外」

青ざめる銀時につられるように私の背中もゾワっと何か冷たいものがはしる。やばいと本能が告げている、そんな感じがした。

「ですが銀時」
「っ、」
「君達ハンパ者がサボリを覚えるなんて100年早い」
「ぶべら」

コツンと言う可愛い音とは裏腹に地面にめり込む勢いの拳骨を脳天に食う銀時。早々目の当たりにしないであろう光景に絡まれていた2人も唖然としていた。まるで顔に何だこいつと、でかでかと書いているかのように。

「名前あなたもですよ」
「せ、先生…」
「曲がった事を正そうとするその心意気は良いことです。ですが後先考えずに行動するのは良いとは言えませんよ」

てっきり私にも拳骨が飛んでくるかと思って目を瞑っていたが先生の手は脳天ではなく肩にぽんと優しく置かれただけで少し拍子抜けした。それからそっと、お転婆なのも良いですがもう少しだけおしとやかにもしましょうね、なんて言われて頬が熱くなった。

「喧嘩両成敗です。…君達も早く彼等を連れて学校へお帰んなさい、小さなお侍さん」

先生のその言葉にそう言えばと彼等の存在を思い出した私はくるっと振り返った。すると髪の短い方の男の子とばっちり目があって彼の目が一瞬驚きそれから戸惑いに染まる。

「ごめんなさい!邪魔しちゃって。見てるだけじゃいられなくて…」
「!い、や…別に…気にしてねェ」
「よかった…!じゃあまたね」

彼と2、3言葉を交わした所で先生に名前を呼ばれた私は置いていかれないように慌てて後を追った。ズルズルと引きずられる銀時に一応大丈夫?と声をかけてみたが返事はなかった。

「…あ…あれは」
「そうかあれが噂にきいた…」
「近頃 白髪の子供と見慣れない少女を連れた侍が私塾をひらき、金もとらずに貧しい子供達に手習いを教えてるときいたが、あれが松下村塾の吉田松陰…」

あ、名前聞きそびれたなぁなんて思う私達が去った後でそんな会話が繰り広げられているなんて思いもよらなかったが、何となくまた会うだろうとそんな予感だけはしていた。

「……つーか、へんな女」
「そうだな…変わった女子だった…綺麗だったが…」
「…………」
「?何だ?高杉、お前はそうは思わないのか?」
「……別に」


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