「は、…はくたく、さま」

重苦しい音を立てながら開いた扉から姿を現したのは今にも倒れそうな名前本人だった。

「え、ちょ、名前ちゃん?!」

慌てて駆け寄り支えようとしたものの、間に合わず店の中には凄く痛々しい音が大きく響いた。その音を聞いたのか外で芝刈りをしていた桃タローくんが顔を出す。

「白澤さまー…また飛ばされたんです、か…って、え!名前さんっ?」
「あ!桃タローくんいいところに」

気を付けながら倒れたまま気を失ってしまった彼女を抱えるとかなり熱い。額に手を当てなくとも熱があるのは一目瞭然、しかも結構な高熱がありそうだ。僕の腕の中でぐったりとしている彼女に心配そうに視線を送る桃タローくんに支持を出し、どうやら今日は店仕舞いだなと1人心の中で呟いた。



***



布団に寝かせ熱を測ってみればなんと40℃越え、いくら鬼とは言えこれはきついだろう。

「まったく…」

苦しそうに声を出す彼女の氷枕を変え頭に触れようと手を伸ばしている最中、ぱちりと開いた瞳と目が合った。

「あ、目覚めた?」
「…目覚めて見るのが貴方か…」
「名前ちゃんって熱があっても変わらないね、僕、一応君を看病してるんだけど」

そう言えば少しつり上がった細い目がまんまるに開かれる。驚いているのがすぐ分かった、そして直ぐにばつが悪そうに目線をそらす。

「不覚だ…薬だけ貰って帰るつもりだったのに」
「正に医者の不養生だね、‥とりあえず今日は泊めてあげるから安静にしてなよ」
「………、」
「…何かな?その物言いた気な目線は。僕だって病気の君に手を出す程落ちぶれちゃいないよ…」

まだ何か不服そうな彼女の額のタオルを変えると冷たくて気持ちいいのか表情が少し和らいだ気がする。そんな彼女の瞼を閉じるように手を添え促す。

「さぁお喋りはこのぐらいにして、もう寝なよ」
「…気にいらないけどそうする」

こんな時まで強情な彼女に笑みがこぼれた。起きた時の為に薬膳粥でも作ろうかと思っていたら目元を覆っていた手を重ねられる。

「名前ちゃん…?」
「白澤さまの手、冷やっこい…気持ちいい」

そう言う彼女に一瞬ぴしりと自分の体が固まるのを確かに感じた。そんな事とはつゆしらず彼女は僕の手を重ねたまますやすやと眠ったのだろう、規則正しい寝息が聞こえる。徐々に彼女と同じ様に頬が熱くなってきたのを感じへたへたと椅子に座り直した。

「まったく…」

熱に苦しむ彼女には不謹慎であったが密かにこの発熱に感謝をした。
薬も飲ませたし吉兆の印である僕が付いているから明日にはもうよくなっているだろう、だからあと少しだけこの幸福感に浸らせてもらおうじゃないか。



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