「鬼灯さまってやっぱり良い方ねぇ」

この診療所の常連であるお婆さんは診察が終わった後急にそう話し始めた。ニコニコと笑みを浮かべながら話してくるその姿に嫌な予感がする。あぁ、この顔は…

「元々仕事のできる凄い方だとは知っていたけれど…それだけじゃなくてとっても優しくて素敵な方なのねぇ」
「…はぁ、」
「名前ちゃん…鬼灯さまいいじゃない」

結婚、と耳打ちしてきたお婆さんに私は内心でひっそりため息を吐いた、またかと。確かに周りの友達や知り合いから結婚したと言う報告を何件も受け取っていた。ご祝儀も馬鹿にならないと思ってはいたが自分自身は結婚する気なんてさらさらない。それに相手もいない。そんな事を知ってか知らずか、ここに診察に来る世話好きな奴らは事あるごとに私に結婚を進めてきていた。だがここであの彼が出てくるなんて思っても見なかったので少し驚いた。

「鬼灯、さま、ですか…無理ですよ私じゃ」
「あらー…そうでもないかも知れないわよ?」
「?…どういうことですか?」

何やら意味深な言葉と笑みを浮かべてもう帰らないと!なんて言い出したお婆さんを私は止める事ができず、あっと言う間に診療所から出て行ってしまった。少し気にはなったがカルテを見ながら次は20日後だからその時にでも聞けば良いかと、それまではきっと平和な日が続くだろうと思っていた。



***



「鬼灯くん、なにをしたの」
「さて…何のことでしょう」

先ほどから何度このやりとりを繰り返したのだろうか、彼の隣にいた閻魔大王はこの空気に耐えられなかったのだろうゆっくりご飯たべてからで良いからね鬼灯くん、と言い残しそそくさと食堂を後にした。静かにゆっくりと苛立っている私をよそに目の前の彼はしれっとみそ汁を飲んでいた。

「埒が明かないでしょ、諦めて白状しろ」
「…言いがかりは止めて欲しいですね。私はただ偶然貴女の周りの方がお困りのようでしたのでお手伝いをして、少し雑談しただけです」
「その雑談の内容に問題があるんでしょうが…!」

そう、あれからと言うものあのお婆さんだけでなく私の周りの極卒やら友達やらはては親までもが目の前の彼との結婚を進めて来るではないか。これは何かあるそう思いきっと元凶であろう鬼灯の元へとやってくれば、案の定彼の仕業だったらしい。

「おや、何か問題がありましたか」
「あるよ。いや大有りだから…」

白々しい態度をとる彼にもうため息しか出てこない。なぜこんなにも私に何かしかけてくるのかと、色々考えてみたがさっぱり検討が付かず一人悩んでいると彼が口を開いた。

「私外堀から埋めるタイプなんですよね」
「…?」
「どうです?周りの方も進めていますし諦めて私と結婚しては」

さらっとそういった彼の言葉に私はやはり頭を抱えるのだった。



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