「オイ、これで全部か」
「あー…いやもうちょいある」

事の始まりはこうだ。そろそろ買い足さないとなあと思っていた備品の数々…後回しにすればするほど他のもとなるのは分かっていたが学校、偵察、練習メニュー、作戦、蛭魔の手伝い……数えだしたらキリがない。キリがないのだ…だから…だから仕方ないのだ。そろそろ本当にやばいと思い書き出してみるとまあすごい。1人じゃとても回りきれないが出来れば今日中に済ませたかった。という事で非常に申し訳なかったが部員の中から付き添いと言う名の荷物持ちを募ったところなんと、蛭魔が行くと言いだしたのだ。あまりに驚いた結果すごい怒られた。だっててっきり栗田かムサシが来てくれるものだと思っていたのだから面を食らったのだ。と、まあこういう感じで私は現在進行形で蛭魔と共に買い出し中で。

「お前ちゃんと仕事しろ!こまめに補充しとけこの糞#name3#!!」
「……返す言葉もないです」

今日は悔しいが下手に出るしかない。文句を言いつつ全て終わるまでちゃんと付き合ってくれるらしい蛭魔に私は正直なところまだ驚いているのだ。極々たまにみせる優しさ的なあれが出血大サービスしてるな…なんで思っていたらそれを見抜かれたのかジトッとした視線が向けられてあははととりあえず笑って返した。

「碌でもない事考えてんじゃねぇぞ」
「そんな事っ」
「…………」
「あ、…あります」
「…で?あとどれくらいだ?」

そう言われてリストを思い出しつつふと、何だかこれデートみたいだななんて考えてるしまって思わず足が止まった。え、あれ。

「?…おい、何止まってんだ」

そう言えばここのところ忙しくてろくに2人だけって時間もなかった気がする。今も何だかんだ言いながら重たい荷物は全て蛭魔が持ってくれていて、私の手には軽いものだけ。あれ?そんなはずは。気付いてしまったのが運の尽きだろうか、次々につい自分の良いように思考が進むのに比例するかのように頬が熱くなってきた。見られる前になんとかしないと。

「おい」
「へっ!?」
「……あぁ?」

そう思ったのもつかの間、目の前の悪魔は返事の出来ない私の顎を掴んで上を向かせた。流行りの顎クイとかそう言うのじゃない普通に痛かったのだがそれどころではない…きっと私の顔は今真っ赤だろう、怪訝そうな視線に益々恥ずかしさが募った。

「…いや、これは、その…っ」
「なんつー顔してんだお前はよ…」
「〜〜ッ」
「……安っすい女」

呆れたようにわざとらしいため息をひとつこぼした蛭魔は何故か私の持っていた荷物をふんだくると、ひとりスタスタと歩き始めたではないか。置いていかれないように慌ててその後を追う。本当に今日は一体なんなんだ!?機嫌がいいのか悪いのか分からない。

「おい、なまえ」
「!…な、なに」

唐突に名前を呼ばれ思わず肩が揺れる。たまにしか呼ばないのに珍しい…。だが名前を呼んだだけで体は前を向いたまま相変わらず歩みは止める気配すらなくて。

「今度の試合終わったら気になるっつーアレ行くぞ」
「…?」
「…………クラゲ」
「!は?いいの…?」
「行くのか、行かねぇのか」

少し前に雑誌に載っていた水族館の催し物だ。そう言えば何気なく行きたいって言ったような気がするのだが、まさか覚えていてくれたなんて。

「〜〜行く!絶対行く!!絶対勝って行こう!」
「当たり前だろ、じゃなきゃ行かねぇ。お前も精々頑張ってサポートするこったな」
「分かってるって!」
「…ほう?…こんなに仕事溜め込んでた奴がよく言えたもんだな?」

それを言われると耳が痛いななんて思いつつ隣を歩く。荷物は結局全て蛭魔が持ってくれたままだ。手持ち無沙汰に後ろ手を組む。少しくらいなら浮かれてもいいかな。

「なまえ」

私の家までもうあと少しだと言う所で不意に距離が縮まった。人通りもほとんどないと言うのにすっと耳元に蛭魔が近付いて来て何かをこそっと話す。

「−−…」
「……なっ、」
「ケケケッ…」

ずるい。けどたまにはこういう振り回され方をするのも悪くない気がする。ようなそんな日。

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「次デートする時はめかしこんで来いよ」


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