「何処に行かれたのかしら…」

長い廊下を1人で進みつつ自分の婚約者である殺生丸を探すなまえ。今日は一緒に少し遠くまで出掛ける約束をしていたのに、と寂しげな表情を浮かべながら歩を進めれば前から見慣れた顔と声がした

「おぉ、なまえこんな処におったのかえ…探したぞ?」

声に振り返れば其処には上品に美しく歩く殺生丸の母である御母堂様がいた

「其れは御手を煩わせ申し訳ございません…っ」
「よいよい、そんなに気にするでない其れより着いて来い、お主に話があってな」
「は、はい」

小さい頃から殺生丸の許嫁として御母堂様とは顔を合わせることがあったがその雰囲気ゆえ中々慣れず何時も緊張してしまう。そんな事とは露知らず目に見えて上機嫌な御母堂様をに殺生丸の事は気になったがそのまま後ろを着いて行った。


***


「え、っと…これは…」

目の前に広がる煌びやかな着物の数々、そしてそれと私を交互に見ながら楽しそうにこれでもないあれでもないと一人で笑顔を浮かべながら楽しんでいる御母堂様。

「あの…」
「ん?あぁ、お主には紫が似合うかもしれんな」
「いや、その一体」
「何時もそんな着物ばかりではつまらなかろう?たまにはこの私と共に着飾ってみんか」
「ですが…」
「おぉ!これも良いなぁ」

…この親子はどうしてこうも人の話を聞かないのだ
小さくため息を付きつつもすることもないし何よりこんなに楽しそうにしている御母堂様は滅多に見ない。少しぐらいこうしているのも悪くない…かもしれない

「なまえはどう思う?」
「そうですね…こちらの方がいいかと」
「流石だな目が高い‥それは私が闘牙から貰ったものでな」
「!!…それは素敵なはずですね」
「なら着てみてはどうだ?」

御母堂様の言葉に一瞬思考回路が停止する闘牙様から貰ったものなら大切なものだろうそんなのを着るわけにはいかない。

「いえ、そんな訳には!」
「よいよい、きっと似合うぞ?殺生丸の奴もなまえに惚れ直すかもしれんなぁ…」
「ご、御母堂様っ!」

そんなことを言われればかぁ、っと頬に分かるぐらい熱が集まってしまう。そんな私をからかうようにしながら着ていた着物をいともたやすく脱がせあれよあれよと言う間に着付けていく。

「ほぅ…どうやら私の目に狂いは無かったらしいな似合っているぞなまえ」
「そう、ですか…?ありがとうございます」
「折角だ、紅も引いてみらんか?」
「い、いえ!紅など私には似合いませぬ…」
「そう謙遜するでないぞ‥ほれ、こちらを向け」

じりじりと寄って来る御母堂様を拒むこと等私に出来るわけなくやはり先程と同じようにされるがままの状態だった。

「綺麗じゃ、あやつには勿体無いのう」
「…御母堂様の方がお美しいですよ?」
「世辞などいらぬ、ほれ早速見せて来い」
「え、?」

と言われると同時に背中を押された。咄嗟の事に襖の方に倒れそうになるもほぼ同時に襖が開きそこに立っていた何かに受け止められる。

「……」
「せ、殺生丸さま!」

そこにいたのは殺生丸だった。こんな至近距離で見つめられては心臓に悪い…その目線に耐え切れず私は顔をそらしてしまった。そんな様子を奥でにやにやしながら眺める御母堂様を少し恨めしく思っていたら殺生丸にぐっと手を引かれた。


「殺生丸様!?」
「黙って付いてこい」
「…まったく、無愛想な息子よのぉ」

困ったように御母堂様を見れば笑顔で"自信を持て"と言っていた。何を、と聞こうとしたがそれは叶わなかった。

「…グスグスするな」
「は、はい!」

2人がが去って行った後そこにはいつの間にか闘牙がいた。襖に寄りかかりながら楽しそうに笑を浮かべる御母堂に話しかける。

「澄ましていてもやはり殺生丸も男よの…」
「惚れてる女子なら尚の事、だろ?」
「…流石はお前の息子だのぉ」
「……」


***


長い廊下を無言で歩き御母堂の部屋から大分離れたところでやっと足が止まる。長い沈黙に耐え切れず話を切り出そうとした時だった

「せっしょ、!」

ぎゅ、っと抱き締められた。いきなりのことに対応出来ずにいると上から声が降ってくる。

「…何故そんな格好をしている」
「え、あぁ…御母堂様に、ですね‥」
「……母上か」

殺生丸の様子が気になり顔を上げようとすれば頭を胸板に押し付けられた。…なぜ

「顔を…上げるな」
「何故ですか?」
「何ででもだ」

暫くそのままでいたら不意に頭の手が退けられ今度はくいと顎を長い指で上げられた。真っ直ぐこちらを見つめる殺生丸と目が合う。

「せっしょうまる、さま…?」
「似合っている」
「っ‥!」
「…綺麗だ」

頬が赤く染まりどんどん胸が高鳴る。好きな人にそんなことを言われれば誰だってそうなるだろう。頬に手を添えられ徐々に殺生丸との距離が縮まる。鼻と鼻がくっつきそうになり慌てて目を瞑る。

「…っ」

優しく口づけをされ胸が弾む。触れるだけのそれでも十分に幸せだった。

「なまえ…」
「なんでしょう?」
「安易にこのような格好はするな」
「なぜ、ですか」
「…私の言うことが聞けぬのか」

別にそういうことではない…だが、やはり理由は気になる。

「…教えて、もらえませんか…?」
「………」
「だめですか…?」
「…駄目だ」
「意地悪ですね‥殺生丸様」

これ以上聞いてもきっと答えてはくれないだろう。ならば潔く諦めよう‥気になるけどいつか教えてくださる日を夢見て私は今日もあなたをお慕いし後ろを付いていきます。

ALICE+