うちはイタチがアカデミーに入学した時のことは今でも覚えている。同期に才能の片鱗を見せる生徒は確かにちらほらいた。だが、彼は全てにおいてあまりに突出していたのだ。
うちはで、天才で、けど驕らなくて家族思いで。そんな彼のことだアカデミーになんて入学した日には噂にならないはずがないわけで、親が仲が良かった≠スだそれだけでうちはイタチの幼馴染である私≠ヘ幾人もの女の子から渇望を集めた。周囲の大人からはどんなに勉強を重ねても、修行を積んでもイタチと比べられた。それでも私が彼のそばを離れなかったのは、離れられなかったのは彼に淡い恋のような憧れのようなものを抱いていたからで。そして声をかけても上辺だけ、決して内側には入れてもらえない子たちを横目に少しの優越感に浸るため。そんな私だって偶然が重なった結果、たまたま他の子より彼と過ごした時間が少し長かった子にしか過ぎないのに。

***

「みょうじさん」

何人かの女の子を引き連れ取り囲むように立っているのはくのいちクラスのリーダーの様な子だ。可愛くてそこそこ成績もよく自信家な彼女は入学早々に私と一悶着起こした子だ。一族を不安にさせないため、天才うちはイタチの隣に居続けるため、努力を重ね続けた私は実技も座学もクラスで1番。そんな私が気に食わなかったのだろう、ペアになってやる演習の際派手にやり合い先生にもこってり絞られたのは記憶に新しい。それから一方的に向けられていたギスギスした雰囲気は幾分か落ち着いていた。

「なに?」
「イタチくん、今日見かけないんだけど…何か知らない?」
「……今日は、確か弟と何かするって言ってたから多分すぐに帰ったんじゃない?」
「そう。わかった」

イタチの所在を聞くともう後は私に用事はないのだろう、踵を返しいつもたむろしている席の近くへと戻って言った。私もそろそろ帰ろう、そう思い帰り支度をしていると不意に今度は別の子から声をかけられ頭を上げた。あぁ、見たことある子だ。

「あ、あのねみょうじさん。これイタチくんに渡して欲しいの…渡すだけでいいから」

ほとんど押し付けるように渡された封筒。返すスキもなく取り巻きの中に戻って行く背中に出かけたため息を飲み込み、それをかばんに入れ教室を後にした。
多分イタチはサスケにつきっきりだろうからきっと家の近くいるだろうなあなんて考えながら道を歩いていると案の定どこかへ向かおうとしている2人の姿が視界に入った。予想が当たったことに少なからず喜んでいるとどうやら向こうも私に気付いたらしい、イタチの手を引いて少し駆け足気味にサスケが向かってきた。

「なまえ!」
「サスケ、いつも呼び捨てはよくないと…」
「いいよ。それより今日はどこかに行くの?」
「修行!兄さんが見てくれるんだ!」

楽しそうにそう言うサスケが私にも一緒に来ないかと手を引いてくるので誘われるがまま私は2人に並んで歩き出す。ちらりとイタチへと視線を向けると目があった。付き合わせたことを申し訳なく思っているのだろうか、眉を下げすまない、と声に出さずに彼はそう唇を動かした。そんな顔しなくていいのに。私は平然を装い大丈夫、と同じ様に返しつつ心の隅を少し弾ませた。

ここには何度か来たことがあった。イタチと一緒だったり、サスケとだったり今日の様に2人そろってだったり。そう言えばひとりで来たことはなかったなとぼんやり考えているとなまえ?と声をかけられた。

「どうした?」
「あ…いや、ちょっと考え事してたの」
「そうか。…珍しいな」

カン、カンっとまとにクナイが当たる音が何度も森の中に鳴っている。サスケは真ん中に当てようと夢中だ。いつの間にか隣に座り訝しげにそう私に問いかけるイタチの顔をみてはっと今日のことを思い出した。

「そうだ…私イタチに渡さないといけないものがあったんだった」
「?…なんだ?」
「……はい、これ」

一瞬だけカバンの中からそれを取り出す時手が止まった。チリとどこかが痛んだような気がしたからだ。ゆっくりと手紙に合わせていた視線をあげるて思わず驚き後悔した。目をまんまるにしそれを凝視する彼がいたからだ。じくじくと痛みが広がった。そんな自分も嫌だった。

「なまえ、その…これは」

別に告白されるの初めてじゃないだろうにどうしてそんなに…。宛名もない、表に何も書いていないシンプルだが可愛らしい淡い色合いの封筒が恋文だなんて聞かれなくても一目瞭然だろうに、恐る恐ると言った様子で私の顔を見るイタチ。手紙の差出人がひどく羨ましくなった。勇気がだせなくて仲のいい幼馴染≠ノ収まっている私に人伝とは言え一歩踏み出した彼女をそんな風に思う権利などないのに。

「くのいちクラスの、ほら、イタチも一度は見たことあると思うよ。よく話しかけて来る子の後ろにいる子」
「…………あぁ」
「…わかってないでしょ」
「すまない」

いつの間にか普段通りの表情に戻っていたイタチは私の手からそれを受け取り裏側に目を通しそのまましまった。手間をかけたなと言うイタチはそれ以上に何かを言いたげにしていたが、それをたずねる勇気も私にはなかった。とどのつまり私は自分の思いを伝え何かが変わってしまうのも、無条件で隣にいられる権利を失うのも怖いだけのただの臆病者。このままずっと何てことが無いのは理解しているのに今の幸せを手放せなかった。

「なまえ…?やっぱりお前どこか悪いんじゃないのか…」
「…風邪かな、今日は帰るね」
「おい、なまえ…送るから」
「いい。サスケの修行みてあげて」

これ以上もうこんな気持ちを抱いている顔を見られたくない。きっとひどい顔をしているだろう。けど明日にならいつも通りの顔でいられる、そう思って私は足早にその場を後にした。

次の日教室に入るなり、目元を赤くした件の女の子が私にお礼を言ってきた。どこか納得がいってなさそうにしながら私に投げかけられる言葉を聞き流しつつ律儀な子だなと思った。いつもの様に取り巻きに戻りその中で声をかけられている姿を横目に席に着いた。こんな風に素直になれる子なら何か変わっていただろうか、臆病じゃない私ならイタチとも…。
チャイムの音ではっとなる。真っ白なままの紙、その日の授業は頭にない。

***

「なまえ」

驚いた。驚いて二度見して視線を逸らした。

授業が全て終わった後もなんとなくふらふらと歩いているうちに初めて私はひとりでここに来ていた。誰もいない練習場はしんと静かでちょうどいいなと前と同じところに腰を下ろした。アカデミーに入ってからと言うものずっとこんな感じだ。そばに居たいのに近くなる程自分が好きでなくなる。こんなままではそのうち親からも叱られそうだ、それでも何度も理想に耽け勇気を出せず足踏みしたまま。耐え切れず雫が落ちたその瞬間声をかけられたのだ。誰にも言わずに来たのに、いるはずのない声が耳に馴染む。

「い、たち」
「!何があった。それとも何かされたのか?」
「…ちがう」
「じゃあ…」
「…………」
「…俺には言えないのか」

肩に手を置かれ一段と距離が縮まる。止まれ、止まれと強く思ってもイタチが目の前にいるという事実がそれを許さなくて、ぽろぽろと次から次へと溢れ出た。少し戸惑い気味にイタチがそれを拭うので思わず肩が揺れた。

「すまない、…だがなまえに泣かれると、その…」

そんな風に優しい言葉をかけないでほしい。…期待をしてしまうから。いやな女なんて思われるくらいなら変わらない仲のいい幼馴染のほうがずっといい、何も始まらないままでも。

「……私…てっきりイタチは、あの子と恋人になるのかと思ってた」
「…?…あぁ…。俺はあの子のこと何も知らない…だから断った」
「そう…」
「……おれは、」

ぐっと肩に置かれた手に力が込められた。心臓が忙しなく鼓動する。怖くて仕方なかったが顔を上げると真剣な、ちゃんと話をしてくれる時の顔をしたイタチがいる。何かを相談した時に馬鹿にするでも興味なさ気でもなく、いつも真剣に聞いて言葉をくれる時の顔。何時もと違うと言えばどこか緊張をはらんでいるような気がすることだけ。やめて、これ以上期待させないで。私はこのままでもいいの。

「イタ、」
「俺は、あの手紙…お前からだと思ったんだ。出す時戸惑っていた気がした…最近様子がおかしかったし……そうであって、欲しいと思った」
「え……」

優しくそれでいて恐る恐るといった様子のイタチの腕の中に私は収まっていた。頭が真っ白になって涙が止まった。そのかわり聞こえてしまうのではないかと思うくらい心臓が激しく音を立てていた。夢だろうかとも思ったが抵抗しない私にイタチが腕の力を少し強め、隙間がなくなる。この感覚は夢じゃない。ここに来ても臆病な私はなけなしの勇気で、戸惑いの象徴でもあった空に浮かぶ腕をイタチの背中に回す。

「…俺は、なまえがすきだ」

ぽろりと今までとは違う涙がこぼれた。


*imagine that 倉/木/麻/衣 「恋.に恋.して」


ALICE+