ヘビースモーカーなんてもんじゃない、終われば次、次、次…切間なく吸い続ける彼はチェーンスモーカーだ。もう日常の一部になっているのだろうサンジくんのそれを止める気はなかったがせめてもう少し減らしてほしいと言うのが本音。体に害があると言うのは煙草を嗜まない私でも知っている。吸ってる仕草が絵になるもの、美味しそうに吸ってるところも見てきたから知ってるし、海と煙草の残り香のするその腕の中に囚われることも嫌いじゃない。けど心配なものは心配なのだ。

「ナナシちゃん〜♡デザッ……えっ!!?」
「え、あ、サンジくん」

まずはそんなに手放せなくなる様なものなのか私自身で試してみよう、彼と話すのはそれからだと思い物資調達で降りた島でこっそり買った煙草。サンジくんお手製の夕飯に舌鼓を打ったあと彼が片づけに勤しんでいるであろう時間を狙ってこっそり試してみようと思っていたのにこんなあっさり見つかるなんて。でれっとしたいつものそれで声をかけてきた彼は目ざとく私の手の中にある煙草に視線を移しぱっと驚いた顔をした。

「レ、レディ‥それ…」
「あー…前降りた時に買ってて、試してみようかな〜って…あ!ちょっ!」
「これよりおれ特製のデザートのほうがいいよ。ね?」

困った様に眉を下げた彼はすっといとも容易く私の手の中から煙草を奪い去る。身長差がそこそこあるので頭上に上げられてしまえば取り返すことは容易ではない。くっ…足だけじゃなくて腕も長い…!取り返そうと試みてみれば逆に抱きすくめられてしまった。

「…デザートはたべる、けど、それは返して」
「難しいお願いだなァ。こんなの体に悪いよ?」
「喫煙者な女はいや…?」
「んなことはねえよ、煙草吸ってても吸ってなくてもレディは素敵だが…それとこれとは…!」
「…サンジくんいつも吸ってるじゃん」

悔しいので距離を縮めそう言えばうッと言葉につまるサンジくん。その隙を見逃す私ではない、バツが悪そうに顔をそらしたサンジくんが燻らせていたそれめがけて手を伸ばた。買ったの方には手がと解かなくてもこっちならと言う私の行動はさすがに予想外だったのか、あっさり奪えてしまった煙草をそのまま咥えた。あ、これ関節キス?とか思っているとサンジくんも同じことを考えたのか驚いていた顔が徐々に色づいてゆく。

「っ、っごほ、ごほ…〜ッ」
「!!大丈夫かい?!ああ…ほら…無茶するから」

吸い込んで、思い切りむせた。こんなものサンジくんはずっと…しかもあんな美味しそう風に吸ってるの?初体験の煙草に困惑するばかりの私の涙を彼がそっと拭いじゃあこれは返してね、と言い指から煙草は攫われていった。

「一気に吸い込むんじゃなくて、少しずつ吸って…煙を楽しむんだよ」

さっきまでのサンジくんはいずこへ、取り返したそれをゆったりと見せつける様に燻らせる。それはあまりにも絵になってどきり、と心臓が動く。私の気持ちなんて全て見透かすような視線に射抜かれて目が離せない。こんなに近いんだ、自分でも分かるこの鼓動ももしかしたら伝わってしまってるのかも。今度は私が朱色に染め上げられる番の様だった。ふうと吐き出された煙に思わず肩が揺れる。

「関節キスしちゃったなァ♡」
「……サンジくんそんなに煙草が好きなの?」
「?………はっ!もしかしてナナシちゃん妬い…」
「体が心配なの。サンジくんの。ずっ〜と煙草吸ってるから」
「え、」

大きく開かれた目と視線がぶつかる。仲間の体の心配はするくせにそう言う反応するもんだから、困った様に頬をかいて君は優しいねなんて言う彼の頬を軽く叩いた。…優しいのはサンジくんの方だ、本当にこの人は。

「そうだなァ…癖になってるっつーか、煙草ねえと口寂しいっつーか…」
「……ふーん」
「あ、いや!まあナナシちゃんがそう言うなら努力はしてみるさ」

困らせたいわけじゃないのも、体が心配なのも全部が本音だ。大事な思いれとかもきっとあるんだろうな。焦ってわたわたするサンジくん、今日はいつもに増して表情が忙しなくて…まあ多分そうさせているのは私なのだろうけど。かわいくてかっこよくて、優しくて、そんな彼と少しでも長く一緒にいたい私のエゴにも嫌な顔をしない、そんなサンジくんのせめてなにか役に立てればいいのに。

「サンジくん」
「なんだい?」

少しかかとを上げてふいをつく。咥え煙草とは反対側、少しだけ唇のはしに触れるくらいの場所をめざして顔をはこぶ。ずいぶんとかわいらしい音が鳴って少し恥ずかしくなった。

「へ……」
「減らせた日は教えてね。…今度はちゃんとするから」
「……君ってひとは…」

真っ赤であろう私を眦を下げ見つめるサンジくんは咥えてたそれの火を消して再び腕の中へ導く。彼の鼓動もずいぶんと早くてつられる様に鼓動がはずむ。紫煙と海と先ほどまでいたキッチンの香りがする、私の好きな彼の香り。自分から仕掛けたとは言え漂う空気になんだか変に緊張してしまっていると、耳元で「前借りはありかい?」なんて言うから肩の力が抜けてしまう。あーあ、本当にこの人が好きだなあと思っていたらナナシちゃん、と甘く名前を呼ばれ誘われるがまま顔を上げた。

「おれは幸せ者だね」

心底嬉しそうに、破顔した彼に私はよわい。
 

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