「くっそ…ありえない」
「文句言ってねぇでとっとと入れ、寒ぃ」

学校が終わっていざ部活に行こう、そう思い同じクラスである蛭魔と校舎を出たそれは正にその瞬間だった。ザァーっとゲリラ豪雨のような雨が2人を打ち付ける。瞬間的なものの筈なのにそれは酷く2人は慌てて部室へと向かったが、もう既にびしょびしょの濡れ鼠。制服は絞れそうなぐらいで水が落ちる。

「雨降るなんて聞いてない…」
「さっさと拭けよ、風邪ひく…ぞ」
「ん、ありがと…蛭魔?」

投げつけられたタオルを受け取りお礼を言おうと蛭魔の方を向けば何故か固まる彼の姿がそこにはあった。不思議に思い近付こうとすると思いっきり顔を逸らされる。それにムッとし詰め寄るとベシンと何かを投げ付けられた。

「ぶっ…何すんの!って何で体操服…」
「着替えろなまえ。…どうせ何も持ってねぇんだろそれ着とけ」
「…な、なに急に蛭魔が親切とか怖い。はっ!だから雨が…」
「……ピンク」
「?ピンク…?なに、が」

そこである事に気付く。そう言えば今日はこの前のまもりや鈴音ちゃんと一緒に買い物に行って選んだピンク色の…。

「っ!!!!!」
「……」

そこまで思考回路が追いついた時には一気に顔に熱が集まる。彼の視線はやはりそこに向いていて、慌てて体操服やらタオルを前に抱えていると小さく舌打ちが聞こえた。この野郎…

「…変態」
「雨は俺の所為じゃねぇ」
「…ムッツリ」
「なまえ、お前死ぬか」
「だいたい何で体操服持ってんの。今日体育なかったじゃん」
「置いてた。いいから早く着替えやがれ」
「え…くさそう」
「着てねえ。殺すぞ」

たわいのない言い合いをしていると流石に冷えたのかブルッと体が震えた。すると彼は何故か扉の方を向いてばつが悪そうに眉間に皺を寄せた後ご自慢の長い足で部室から出て行こうとしていた。

「べ、別に後ろ向いてりゃいいじゃん。…外冷えるよ」
「っせぇ…とにかく着替えとけ」

そう言い残しバンッと勢い良く扉を閉め出て行ってしまう。外はまだ雨も降っており、冷えているのは蛭魔も同じはずで、何時もなら殆ど気にせずそっぽを向いて私が着替えるのを待つだろうに何故か珍しい行動をとった事が引っかかりつつも有難く着替えようと濡れた制服を脱いだその時、外から聞き慣れた声がした。

「やべー!雨すげぇなセナ!」
「そ、そうだね…早く部室行かないと風邪引きそう」

セナとモン太だ。これはやばいと思い慌てて着替えようとするも蛭魔の体操服は結構大きく少し手間取ってしまう。こんな事なら鍵てもかけてりゃ良かったと後悔していたらこれまた聴き慣れた声と音が。

「…テメーら部室入る前にグラウンドにいる糞デブの手伝いして来い」
「あ、じゃあとりあえず荷物置いてから…」
「荷物なんざその辺に置いさっさとグラウンド行きやがれこの糞チビ糞猿!!」

銃声を響かせながらそう言って時間稼ぎしてくれであろう蛭魔の行動に2人には申し訳なかったが、不覚にもきゅんとしてしまった。急いで着替え終てそっと扉を開けば外の壁にもたれかかる蛭魔がそこにいた。

「遅え」
「ごめんごめん」
「寒ィ」
「あとでコーヒー奢ったる。それと今日は夕飯食べにおいでよ、暖かいものにする」
「…なまえが作んのか」
「そう。今日当番だし」

話ながら部室に入る蛭魔はすっかり冷たくて、何だが申し訳なくなる。自然と頭が下がってくるとそれに気付いたのかぽんぽんと頭を撫でられた。

「不味かったらぶっ殺す」
「そんなこと言って…私の手料理好きなくせに」

すると今まで撫でられていた手でべしんと叩かれた。相変わらずその手は冷たい。

「蛭魔、蛭魔」
「んだよ…着替えっから向こう向け」
「ありがとう」
「……調子のんな、糞◯◯」

笑ながら素直に礼を言えば一瞬固まり分かるか分からないかぐらいに頬を染め、今度はげしっと長い足で蹴られてしまった。照れ隠しだな、と思いながら私は着ている体操服から香る蛭魔の香りにドキドキしていた。

「洗って返せよ」
「へーへー」

ユニホームに着替えた彼は再び扉の方へ向かっていた。ガラリと開ければ雨はいずこへ、お日様が顔を出している。そしてグラウンドの方からの先程の私達に負けないぐらいびっしょりな3人のチームメイトが此方に向かって来ていた。
着ている体操服に対する突っ込みが入るまできっと後少し。



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