SSS

サンダルフォン (2022/10/31)

「こんばんはサンダルフォン、いい夜だね」
「君か。その手にしているものは……?」
「お菓子の籠と、仮装用の帽子だよ」
「ああ……今日はハロウィンだったか。それで、なぜ被り物が二つもあるんだ?」
「こっちは君の分。今年は一緒に楽しまないかい?」
「俺に仮装をしろと? ……ナンセンスだ。人間にとっては俺の存在自体が怪物だろう」
「団長達にとってはそうじゃない、君は仲間だ。勿論私にとっても、サンダルフォンは怪物なんかじゃない。一緒にこの夜を楽しみたい、大事な人だよ」
「……そんな台詞、よく恥ずかしげもなく言えたものだ」
「本心だからね。ねえ、屈んでくれるかい?」
「……いいだろう」
「ありがとう……うん、よく似合っているよ」
「それはどうも。君の分を貸せ」
「ん? どうぞ……」
「――フ、君も中々様になってるじゃないか」
「……ふふ、ありがとう。それじゃあ改めて、ハッピーハロウィン、サンダルフォン!」
「ああ、ハッピーハロウィン」

シス (2022/10/12)

秩序の騎空団と十天衆がぶつかり、一つのマフィアが壊滅に至った事件から数ヶ月。
とある島のとある村、一番大きな建物の一部屋で、数人の男女が集まっている。

「こちらをお受け取りください」

この村の村長である老人から、重みのある袋を受け取る少年――グランサイファーを操る騎空団の団長。

「ありがとうございます!」

少年の隣に立つ蒼い髪の少女――ルリアがにこやかに返すと、村長は感心したように頷いた。

「流石はシェロカルテ殿の推薦された騎空団の方々だ。あの数の魔物を一日で倒してしまわれるとは……感謝に堪えません」
「ヘヘッ、なんたって今日は十天衆のヤツもいたからな!」

少年の頭上近くを浮遊する赤い小竜――ビィが小さな羽を羽ばたかせ、もう一人の人物へと近付く。

「…………」

少し離れた位置で壁に背を預けて腕を組むのは、エルーンの青年。
白を基調としたマントを羽織り、フードを目深に被り、さらにその表情は仮面の奥に隠されている。
その佇まいから放たれる覇気は、相対する者を威圧する。
十天衆が一人、格闘を司る拳闘士――シス。
先の事件では、彼が滅ぼした故郷、カルムの郷の生き残りと運命を掛けて対峙し、生きて仲間の元へと戻った。
その後の彼は十天衆として、また団長の仲間として、空の世界を渡り歩いている。

「彼がかの有名な十天衆の方ですか! お会いできて光栄です」
「…………」

興奮気味に手を差し出す村長だが、シスは微動だにしない。
見兼ねた団長がシスの仮面に手を伸ばすと、大袈裟なほど仰け反った。

「おい、止めろ! ……ッ」

その拍子に僅かに身動ぎしたシスは、そのままそっぽを向いてしまう。
ぎこちない空気に、村長が頭を下げる。

「申し訳ない、馴れ馴れしい真似をしてしまいましたか……」
「あー、コイツちょっと怪我してんだ」
「なんと、依頼の最中に?」
「はい。私を庇って……」
「そうでしたか……」

ビィとルリアの言葉に、目を丸くした村長は、ふと顎に手を当てた。

「でしたら、隣村に滞在中の道士様を訪ねてはいかがでしょうか。素晴らしい治癒の力をお持ちで、無償で治療してくださるのです」
「へぇ、そんなすげぇヤツがいるのか」


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中編のボツ。
討伐依頼のシーンから書こうとしてたけど要らんなとなって消してここから書き始めたけどこれも更にいらんなとなったやつ。

ルシファー (2022/08/24)

"ノロマ"、"クズ"、"売れ残り"。

大きな人は、私のことをそう呼んだ。
辛くはなかった。悲しくもなかった。もう、どうだってよかった。

"次の月までに売れなければ、お前を置いていく"。

空腹の苦しみも、体の痛みもなくなるのなら、いっそそれでもいいと思った。けれど――

「店主、これを寄越せ」

初めて聞く声、初めて見る人。
私を指さすその人を、ぼんやりと見上げる。
汚れ一つないローブと透明な肌、無造作に整えられた指通りの良さそうな髪、グローブに包まれた細い指、先のピンと張った綺麗なブーツ。
大きな人や私とは、全然違うヒト。

「星の民に支配された状況下において、同じ種族の人間を売買するとはな。これも"進化"の一種か」

冷たい声、冷たい空気。それだけでビクリと震えてしまうような。
大きな人は、ペコペコ頭を下げながら、私の首に繋がった鎖を引っ張る。

"さっさと立てノロマ"、"お前みたいな不良品を買ってくださるんだぞ"。

よたよたとそのヒトの前に連れてこられた私を、凍るような視線が見下ろした。

「お前は不良品らしいな」

私の目蓋を引っ張ったり、腕を持ち上げたりしながら、そのヒトは言葉を続ける。

「言語能力に不備。身体機能も最低、意思疎通も困難か」

骨と皮だけの腕、長い間震えることを忘れた喉、呼吸だけで精一杯の内臓。そんな私を、今まで沢山の人が触って、"いらない"と捨ててきた。

「研究材料として十分だ。空の世界が持つ"進化"の性質とやらを、お前を通して観察してやろう」

けれどこのヒトは、私の鎖を手に取った。

「来い。今日からお前は実験材料だ」

それがどういう意味なのか、私にはわからなかった。
けれどどうだってよかった。どこに行こうが、何をされようが、私にはとっくに何もなくなっていたから。

***

連れてこられた知らない場所で、そのヒトは私の首に繋がっていた鎖をすぐに壊してしまった。
それから知らない人が入れ代わり立ち代わり私のところへやって来た。最初の人が私のボロボロの布を剥ぎ取って、次の人が私をぬるま湯に放り込んで、また次の人が私を風で包むと、更に次の人が私に新しい服を着せた。
しまいに私の前には、いい匂いのする食べ物が運ばれてきた。その匂いが鼻をくすぐるだけで、口の中が涎でいっぱいになって、お腹がきゅうきゅうと切なくなる。
そのままじっとしていると、あのヒトがやって来た。テーブルの向かい側にどかりと座ると、すぐに口を開く。

「何故手を動かさない」
「……?」
「訂正する。それを食え、これは命令だ」
「…………」

手を伸ばして、お皿の上のそれを掴み取る。

「ッ、」

熱くてびっくりした私は、持ち上げたばかりの食べ物をテーブルに落としてしまった。もう一度掴み直して、今度は我慢して口に運ぶ。それは温かくて柔らかくて、食べたことのない味がした。さっきよりもお腹がぐるぐるして、もっと欲しくなる。そう思った時には、私はお皿の上の食べ物に手を伸ばしていた。

「はふ、もぐ……んぐ、ぷは」

目も鼻もぐちゃぐちゃにしながら夢中で齧り付いた。小さな手からこぼれた食べ物がテーブルに散らばって、着替えたばかりの服にも落ちる。

「どうやら必須の教養は山程あるようだ。栄養摂取の後、現時点のお前の評価付けを行う。フ……お前が何処まで成長できるか見物だな」

そんな私を見てそのヒトは、不思議と笑っていた。

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ファーさんの空の民育成計画。上手く形に出来なかったのでボツ。

ルシファー (2022/08/16)

「ルシファーって案外小さいよね。あ、背丈の話」
執務室の巨大な本棚の整理をしながらふと零した言葉に、椅子に腰掛けて書類に目を通していたルシファーが顔を上げた。
「……根拠は?」
「いや、この前ルシフェルとベリアルと並んで歩いてるの見かけた時に、二人に比べて頭の位置が低いなーって思って」
「その二機は長身の設計にした。アレらとの比較で類推するのは手法として誤っている」
といっておもむろに立ち上がるルシファー。
「……なぜ立ち上がるんです?」
「物事を一つの視点からしか捉えることが出来んのは愚者の行いだ。数値を見れば明白になるというのに」
つかつかと近付いてくるルシファー。
バン!!
大きな音を立てて壁ドンしたルシファー。そのローブの影に、こちらは頭まですっぽりと覆われてしまう。
「オワ……背が高くていらっしゃいますね……」
見上げたルシファーが口の端を釣り上げた。
「相対的にしか測れんお前に、たっぷりと教え込んでやろう。お前と俺の体格差についてな」

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フェスでキャストさんのファーさんとベリが並んでるの見たらファーさんちっちゃい可愛い!って思ったんですがいやいやファーさんも175cmあるべ……と思い直した話。

ベリアル (2022/08/12)

研究所の廊下を歩いていると、前方から此方に向かってくる人影が一つ。その形が明らかになって来た所で、ソレは足を止める。それから廊下の端によって、此方が近付くのを待つと恭しく頭を垂れた。
「御機嫌よう」
長身のソレが頭を下げると、逆立てた頭髪が視線よりやや低い位置に来る。白い肌、詰襟に隠れてチラチラと覗く首の筋、胸に添えられた手の、革手袋越しに浮き出た骨。
「…………」
ここの所長は、どういう意図があってコレをこのような外見にしたのか。せいぜい空の世界の管理機構でしかない物に、こんな大それた肉体など必要あるものか。
ふと首を持ち上げた男の、赤い瞳が此方を見上げたと思えば、じわりと細められた。白と黒のコントラストの中で、いやに目に付くその紅に、何かが背中を駆け上がるような感覚に襲われる。
「――なんだその目は」
「と、申し訳ございません。私の態度に非礼があったと言うのなら、慎んでお詫び致します」
苛立ちを表せば、その獣は再び頭を下げた。
「どうかご容赦くださいませ。私達は憐れな獣、貴方がた星の民には逆らわぬよう設計されているのです」
懇願するように、整った眉を下げる獣。
その表情の弱々しさに、再び背筋を何かが這った。
ああそうだ、コレは所詮天司長の影に隠れる程度のモノ。所長の後ろを着いて回るしか能のない獣だ。
「気を付けることだ。貴様程度の存在など、我等にとっては芥とて、少し意識すればそのコアを潰すことなど容易いのだからな」
「心得ております」
ひたすらに頭を下げ続ける獣に、じわりと高揚感が増す。
見目の整ったこの獣の、表情が歪む様を見てみたい。あの腹立たしいルシファーが創ったモノが、私の前に膝まづいて許しを乞うたならば、どんなに愉快だろうか。
「……ならば、これから私の言に従え。なに、唯の気紛れだ。直ぐに済む――」
その獣に向かって手を伸ばすと、獣はただ頭を垂れたまま従順に受け入れた。

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従順なフリしてほくそ笑んでるベリくん。
存在からしてえっちなベリくんに魅了されてキレながら私のモンにしてやる!ってなる星の民氏の話。その後何やかんやあって星の民氏はベリアルに利用するだけ利用されてポイされる。かわいそう。

ルシファー (2022/06/28)

「眠過ぎて死にそう」
「死ね」
「つ、冷たい」
「…………(ぴとり)」
「ギャッ冷たッ! 冷たいカッコ物理!! でも目ぇ覚めたありがとう!」
「五月蝿い(ボコス)」
「酷い!」


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古戦場と暑さによる睡眠不足が酷い。

ルシファー (2022/06/09)

肌寒さを感じて目蓋を持ち上げたルシファーは、寝室の天井を見上げる。日は落ち明かりも付いていない室内は薄暗くひっそりとしていた。
昼が短く夜が長くなり始めた季節、日中はまだ暖かいが夜は冷え込み始める。
人気ミュージシャンのリーダーとして忙しない日々を送る彼にとって、今日は久方ぶりの休日だった。天才といえど蓄積された疲労の解消には休養が必要だ。一日しっかりと体を休め、翌日以降の活動を予定していた彼だが、予定外の起床に苛立ちを覚える。
そこでふと気付いたのは、廊下から伝わる微かな音。いつの間にか帰宅していた同居人がバスルームを使用している音だ。
ルシファーは無言で体を起こし、のそりとベッドから抜け出す。
「あ、起こしちゃった?」
扉を開けると、丁度バスルームを後にした同居人とかち合った。
「夜は寒いよね。帰ってる間にすっかり冷えちゃったからお風呂いただきまし――ぷわっ!?」
何事か喋っているのを無視してその腕を引き、ベッドルームに引きずり込む。諸共ベッドに倒れ、両腕でしかと抱き寄せると、予想通りの温もりが訪れる。
「ちょっとルシファー!? 私まだご飯食べてない……ああもう」
目蓋を閉じれば、腕の中の温もりも大人しくなった。
「おやすみ、ルシファー」
微睡みに落ちる直前、耳に届いた何気ない挨拶に、触れ合った箇所とは異なる場所に温もりを覚えた。

ルシファー (2022/06/03)

急げ、急げ、急げ。
この小さな身体では速く走ることは叶わない。だから魔力を練って空を泳ぐ。元素の薄いこの地では動きが鈍る獣の体を必死に繰る。
空の異変、荒れ狂う星の獣たち。原因はエーテルの異常、即ちルシフェルになんらかの異変が起こっている。あの男が創った完全無欠の星晶獣が容易く滅ぶとは到底思えないけれど、現状が何よりの証左だ。
カナンへ辿り着き、神殿内に漂う気配のか細さに血の気が引く。掻き消えそうなそれを辿り、着いたのは中央の広間。

「ル――ッ!」

――首だ。
首だけが、そこにあった。残響をだけを残して、ぽつねんと転がっている。
震える指を伸ばして、その頬に触れる。冷たくなった表皮の生々しい感触に、思わず手を引いた。

「っ……」

ルシフェル程の存在を、誰がこんな風にしたというのか。
無造作に打ち捨てられた首、その光景にノイズが走る。

「……、……ぁ」

想起されるのは、二千年前――私の眼前で、同じ顔をした男の首が落とされる瞬間。あの時刃を振るったルシフェルが、今は酷く小さくなって、私の目の前にある。
どうしようもない既視感に襲われ、私は自身を抱きしめた。脳裏にちらつく、首以外を残して消えた男の影。いくら星の民とて首だけで活動出来ない。実行犯は別にいる。けれどもしかすると、あるいは裏で糸を引いたのではないかと、悪寒のような思考がまとわりつく。
――ルシフェルを斃す者は、彼以外に有り得ないと。

「ルシファー……」


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同郷者のその後をぼんやり考えると、ルシフェルと共に空の進化を見守りつつ自身も改造を重ねつつルシファーの消えた首を探し回ってるのかなぁと。空の世界の管理で多忙なルシフェルに代わりルシファーの首に集中するも見つける事は叶わず、そしてイベスト勃発からのこれ。part1の時はルシフェル任せで我関せずだったがpart2でベリアルが出てくると首おいてけと追いかけるついでに目的の一致でグラサイに身を寄せるとか。でpart3で復活したルシファーと再会する。なんやかんやで一緒に次元の狭間にインされてくれ。

サンダルフォン (2022/05/26)

「えーん仕事が辛いよママぁ〜!!!」
「誰がママだ誰が」
「ヨシヨシしてよぉ〜もうやだよぉ終わりが見えないよ何でこんなに忙しいんだよぉ全然進んでる気がしないよぉこれだから新年度はよぉ〜」
「ええいしがみつくな! 全く、きちんと座れ。そんな情けないところをルリア達に見られたらどうする」
「うっうっ厳しい……」
「…………ほら」
「う……? こ、くぉれは……サンちゃんお手製ホットミルク……?」
「それでも飲んで気を落ち着けるといい」
「ぷぇ……」
「……君が努力していることは知っている。その労力は決して無駄ではない。社会の一員として世の中に貢献しているのは素晴らしいことだ。君に与えられた役割を全うしているのだからな……今日もよく頑張ったな、お疲れ様(ふっと微笑む天司)」
「さ……サンちゃんんんんんんんん」
「だからしがみつくなと言っている!」
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リアルがとても辛いので自給自足マン。

ルシファー (2022/05/22)

「う、ウワァ〜! 実験に失敗してたまたま通りがかったルシファー様が女の子になってしまわれた〜ッ(説明)」
「……おい(デスボイス)」
「ヒンッCV〇井じゃ無くなって尚ドスの利いたお声ッアッ待って近いちっっっかい! イタッ蹴った! おみ足が細いっ!」
「貴様のような無能が何故未だ研究所に籍を置けるのか甚だ疑問だ。そこに座れ、その頭に何が詰まっているのか暴いてやる」
「すみませ、アッやっ、ホントに待ってくださいルシファー様、美少女フェイスをそれ以上近付けてはっしかも可愛い顔してそんな恐ろしい事を仰るなんて一部の人にとんでもないご褒美です危険です!」
「意味不明な事を喚くな。お前の言動は悉く考慮に値せん」
「あだだだだだ頭もげるもげる! アレッ? でもいつもより痛くない……」
「チッ、身体構造の変化による影響か。会議の時間も近い、お前の処理は後回しだ」
「え、その姿で会議出るんですか?」
「この後の予定は定例会議と実験、その後の報告書作成のみだ。全て支障はない。あるとすれば貴様の無能さだけだ」
「ぐえー……いや元から美しいからってそれは流石に、せめてローブのサイズは何とかしましょうさせてください! お待ちになってルシファー様ぁ!」

セキ (2022/05/15)

「ハァ……」
厨房で調理中の猫背の後ろ姿を眺めて、私はため息をついていた。
ムベさん、素敵だ……
あんなくたびれたおじさんみたいな風貌をしているのに、あれは世を忍ぶ仮の姿で、真の姿は失われつつあるシノビだったなんて……シブい、シブすぎるぜ旦那。もうムベさんの存在だけでご飯何杯でもいけちゃう。今日もイモモチが美味い。
「おーい、よそ見しながら食ってると零れるぞ」
「ハァ……ハッすみません」
向かいに腰掛けたセキさんから窘められたタイミングで、何度目かのため息をついた私の箸からご飯が転げ落ちた。いかんいかん、食べ物を粗末にするとバチが当たる。
「ほら、こいつを使いな」
「ありがとうございます」
セキさんに手渡された布巾でささっと拭き取る。
「セキさん、弟子入りの方はどうですか?」
「中々奥が深いもんだね、イモモチもシノビも」
「どっちも極めるのは大変そうですもんね。それにしてもセキさんがシノビって、何だか想像できないな……」
「そうかい?」
印を結ぶようなポーズを取って、ニカリと笑うセキさん。うーん眩しい。
セキさんはコンゴウ団の長で、リーダーシップのあるハツラツとした人、という印象が強い。
それに対してシノビモードのムベさんと言えば、闇に忍んで姿を隠し、音もなく敵を仕留めるような、影のような人だ。本当にかっこいい……口元を隠した時の光の消えた瞳、すっと伸びた背筋、俊敏な動作で繰り出す技の数々……
「ハァ……」
「おいおい、またぼけっとしてるぞ」
「ハッ、すみません」
セキさんに呆れた顔をされて恥ずかしくなった私は、慌ててご飯をかき込む。
「しっかし、色男を前にしてよくもまあ他の男に目がいくもんだ……」
セキさんがボソリと呟いた声は届かなかった。

ベリアル (2022/05/12)

※下品。
※なんやかんやあって致した。

開始前に絶対優しくすると誓ったが夢主のあまりの可愛さに手加減を忘れたベリアル、息も絶え絶えの夢主が出来上がる。
「フゥ……最高だったよ妹ちゃ――(ヤベッやりすぎた)」
ドゴスッ。
「ヴッッ――」
生身の急所への容赦ない一撃。宇宙の果てで褐色肌にマスクをした美女が佇んでいる景色を見るベリアル。
「知ってますかベリアルさん、嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれちゃうんですよ。嘘吐きなお〇んちんは引っこ抜いちゃいましょうね……?(暗黒微笑)」
「……ッ……、……フハッ、さっきまであんなに乱れてたくせにその冷たい表情……最高かよ!(ビクンビクン)」
「何おったててるんですか? 気持ち悪いですね(足蹴)」
「ウッ♡(射精)」
「ウワッ(ドン引き)」

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欄外。
海を渡った妹ちゃんをすごい頑張ったベリアルが海外ツアーで追っかけてきたら妹ちゃんは普通に彼氏を作っててベリアルはハァ〜?ってなる。そういう男が好みならそうなりますけど!?ってめっちゃ妹ちゃんに合わせたりしてめちゃくちゃつくすがどっかのタイミングでクソヤバ女遍歴がファーさんからバレてドン引きされつつそれでも諦めないベリアル。妹ちゃんは各地を転々とするので彼氏とも自然消滅してて最終的に祖国に戻ってきてまあそこまでしてくれるならいいですよってベリアルと付き合い始めるといいね知らんけど。

ルシファー (2022/05/05)

「友よ、君は自身のことを蔑ろにする節がある。身の回りの世話を他者に介助してもらうべきではないだろうか。私が手伝うことができればいいのだが立場上難しい。それはベリアルも同じだろう。君が命じれば彼は無理にでもその時間を作るだろうが……それよりも、いっそ君の介助役として新たな天司を創造してはどうだろうか」
……などとルシフェルから申し立てられてしまっては、さしものルシファーも無視はできなかった。
ちょうど生成中のコアがあったため、その内一つを適当に再調整した彼は、繭の中にぞんざいに突っ込むと、さっさと研究室に戻った。
「こんにちは、マイマスター! この度は私を創造くださりありがとうございます! 私の役割は貴方の身の回りのお世話、何なりとお申し付けくださいませ!」
その結果がこれである。
扉を勢いよく開けたソレは、開口一番誰よりも通る大声で宣った。廊下を歩いていた研究者、庭先で浮かんでいた天司達、あらゆる者の視線を集め、生まれたての天司は破顔している。
ルシファーは、一目で失敗作だと直感した。その天司は、視界に入るだけで頭痛がする程の脳天気な顔をしている。世話役など形だけのつもりだったが、これが周りをうろつけば支障を来す。さっさと作り直してしまおうと立ち上がったルシファーだが、タイミング悪くルシフェルが通りがかっていた。
「友よ、私の助言を聞き入れてくれた事に感謝する。成程、これが君の介助役の天司か」
「……そうだ」
どことなく表情を柔らかくしているルシフェル。説明や再構築の手間を鑑みたルシファーは、そのまま着席するのだった。

ベリアル (2022/03/06)

「コンバンハ」
「あら……あなたは確か」
「ベリアルと申します。以後お見知り置きを」
「兄様の作品が何の用かしら」
「ご挨拶に。創造主の妹殿とあれば、しない訳にはいかないでしょう?」
「そう、ならもう用件は済んだわね」
「もう少しお時間をいただいても? 貴女という人に興味があるんです」
「私はないわ」
「おっと、そんなに急いでどちらへ?」
「兄様のところへ。詰まらない獣を寄越した意図を訊ねに」
「……フフ、そんなにお嫌でしたか。ああいや、そんなにお好きですか?」
「……何を言っているの」
「そのまんまさ、キミはファーさんのことが大好きなんだろ?」
「……だったら何か?」
「わかるぜ、ファーさんのあの歪みっぷりは無限にイキまくれる。最高の存在だ」
「…………」
「そのファーさんの妹なんて、いったいどんな歪みを持ってるのかと思って期待してたんだが……はぁーあ、ガッカリだよ。キミはファーさんと似ても似つかない」
「……どういう意味かしら。顔立ちは似ているとよく言われるけれど」
「外見をいくら着飾っても中身は空っぽだ。詰まらない人間だよアンタ。ファーさんにもそうやって突き放されただろ?」
「…………」
「ウフフ、いいねその表情。顔付きだけはソックリだ」
「最初の態度は何処へやったのかしら」
「これはこれは、失礼しました。けど、キミのその目……飢えて堪らないって目だ。オレが満たしてやろうか? 求めるならもっと、キミが満足するまで――っとぉ」
「黙れ、獣風情が気安く私に触れるな」
「ハ――」

ベリアル (2022/02/09)

仕事帰り、急な雨に降られてしまった。慌てて駆け込んだ軒下で、濡れた体を拭う。遠くが霞む程の土砂降りだ。うんざりして空を睨んでいると、バシャバシャと急いで駆けて来る影が一つ。
「失礼……フウ、参ったなコイツは」
男の人だった。ヒューマンにしては背が高く、スラリとした足を際立たせる黒いパンツと、引き締まったボディを強調する黒いジャケットを着こなしている。濡れた黒髪を掻き上げると、白い肌と赤い目が顕になり、どきりと心臓が高なった。そのまま目が離せないでいると、不意にこちらを向いた彼と、ばちりと視線がかち合う。
「んん……オレに何か、お嬢さん?」
「あっ、ごめんなさい! ええと、あの……良かったら、これを」
不躾に見てしまったことへの謝罪と、それに気付かれてしまった気恥しさを誤魔化したくて、手にしていたハンカチをそのまま突き出してしまい、すぐに後悔する。先程まで自分が使っていたものをそのまま渡すなんて、失礼にも程がある。
「ドウモ」
慌てて引っ込めようとして、けれどその前に彼の長い指に絡めとられてしまった。湿った布地も気にすることなくそのまま頬に運ぶと、彼のずぶ濡れの肌に私のハンカチが寄せられた。前髪の先からぽたぽたと滴る水滴、寒さのせいで色素の薄くなった唇。伏せられた瞳の睫毛にかかる水滴が、街灯の光を反射する。
本当にこの人は、同じ人間なのだろうか。造形物のような完成された美しさと、その所作の端々に纏う色気におかしくなってしまいそうだ。
「アリガトウ、お陰でマシになった。だが濡れそぼったコイツをそのまま返すのは気が引ける。せめて乾かす場所があればいいんだが……」
ふんだんに水気を吸ったハンカチが、彼の手の中でしんなりとしている。指を伝い落ちる水滴の跡が、まるで私を誘うよう。
「あ……いいんです、そんなの……」
吸い寄せられるように伸ばした手がハンカチに触れた――途端、彼の手が閉じられた。ハンカチと一緒に包み込まれてしまった私の手の甲を、冷たい指先が這う。その感触に、全身の熱が上がる。
「お嬢さん、キミさえ良ければ……ついでに家に案内してくれるかい?」
私を見詰める赤に、何も考えられなかった。
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ベリアルに身も心も住処も命も差し上げちゃうモブ女さんのイメージ。

ベルゼバブ (2022/01/25)

※短編「異世界バブさん」のプロット版。

※研究者殿とバブさんが現世に逆トリした。
ひとまず拠点を確保した二人。見覚えのない世界に戸惑いを隠せない。
「全く面妖な。元素の流れも魔力も感知できんとは……」
ぶつくさ言ってるベルゼバブに、研究者が服を差し出す。
「ベル、ベルゼバブ、一先ず情報収集に行くだろう。不自然に思われないよう、ここらの人間の格好を真似た方がいいと思う。だから、これ、用意したんで……着替えてもらえます?」
挙動不審な研究者、その頬はやや紅潮し目は爛々と輝いている。怪しさがすごい研究者にうたがわしい視線を投げ掛けるベルゼバブは、受け取った衣服を注意深く確かめる。
「………………貴様にしては突飛なものでは無いようだな。よかろう」
確かにさっきチラ見した人間達の装いと似たようなものなので、了承するベルゼバブ。グッと拳を握る研究者。
「ウッフ……私も着替えてくるので、終わったら暫し待っていてくれ」
そそくさと出ていく研究者。
〜着替えタイム〜
「スゥー……待たせたベルゼバブ。服のサイズはどうだろうか?」
ノックして入室する研究者。
「問題無い。しかしこのような薄布に装飾も少ない衣服なぞ……この国の人間は随分と貧相なようだな」
ジャケットを軽く引っ張るベルゼバブ。
顔を両手で覆う研究者。
「……っはぁ〜、最高……普段の惜しげも無く晒された胸筋も勿論最高だけどこのぴっちり目のハイネックで感じる胸筋の膨らみ……落ち着いた色のジャケットと合わせることで大人の着こなしを演出しつつ隠されたボディラインが故に首元のネックレスに目を引かれたかと思えば浮き上がる鎖骨が色気を孕む……美しい、美しいよベルゼバブ……はあ……何でも着こなせてしまうじゃないか」
溜息を挟みつつ高速で口を回す研究者。
「当然だ。余は絶対者として君臨すべき存在、どのような場所、どのような格好であれ、その在り方が翳ることはないのだ」
髪を掻き上げフンと鼻を鳴らすベルゼバブ。満更でもない。
「だが貴方の美しさは危険だ、下手に視線を集めてしまう。我々の常識が通用しない世界なのだ、いつ何があるともわからない。できるだけ隠密行動を心がけよう。というわけでこれを掛けてくれ」
研究者が懐からスッ……と取り出したるは眼鏡。
「御託を並べたところで貴様が見たいだけであろう。まあよい。装着を許可する」
やや屈んだベルゼバブの顔にスチャリと装着した瞬間、研究者が呻きながら膝から崩れ落ちた。
「ぬぅ!?」
「〜〜……、っ……は……は、はぁぁ……なんてこった完全に逆効果だコレ!! こんなんバブさんの美貌を強調するだけですやん最高!!」
胸を押えてプルプル震える研究者。嘆いているのか喜んでいるのかわからんテンションに陥っている。
ベルゼバブが眉を顰める。
「元よりこんなもので余の存在が覆るものか。気が済んだならもうよかろう、このまま出るぞ」
研究者を引っ張り上げるベルゼバブ。拠点の出口へ向かう。
「アーッ待って顔が近い! その顔は危険ですそれ以上はいけない!」
「ええい騒々しい、貴様が用意したものならば結果に責任を持て!!」
「ごもっとも!!」
騒がしい二人に近付く人影。
「聞き覚えのある声がすると思ったら……バブさん、それに研究者殿じゃないか」
ねっとりとした低い声。黒い髪に白い肌、赤い目をした長身の男。
「貴様……狡知が何故ここにいる?」
「ベリアルーーほう……」
ベリアルを見上げて一瞬固まった研究者だが、直ぐに冷静さを取り戻した。
ベリアルもまたこの世界に馴染むような格好をしていたのだ。両手に持ったテイクアウト珈琲、足の長さを主張するパンツに派手な柄のシャツを一枚だけ合わせた高難易度のファッション。それを着こなせてしまうのがこの男の末恐ろしいところである。
「玄関で何を騒いでいたんだい? 痴話喧嘩を見せ付けるとは妬けるねぇ」
「その不遜な口を閉じよ。余をこのような異世界に召喚したのも貴様の思惑ではあるまいな」
興味深そうに覗いてくるベリアルに青筋を立てるベルゼバブ。研究者は立ち上がって埃を払いながら返答する。
「それは多分世の需要のせい……いや気にするなベリアル、私が動転しただけだ。バブさんの眼鏡砲が直撃しただけなので。最大HPの50%無属性ダメージなので」
「フゥン? 重症だ」
「そうだネ」
「キミの嗜好は理解していたつもりだが、まだ偏りがあったとはね。オレのこいつはどうだい?」
ずいっと顔を近付けるベリアル、その顔面には眼鏡。しかし研究者は冷静だった。
「ああ、よく似合っている。流石といったところだ」
ベルゼバブとの反応の差に詰まらなさそうな顔をするベリアル。
「おいおい、バブさんの時とは随分と違うな」
「君の眼鏡は何度か見ているからな。いい加減慣れるというものだ」
イライラしながらやり取りを見ているベルゼバブ。さっさと出たい。
「フゥン、じゃあ……コイツはどうだ? キミのフェチズムに適うイイモノを見せてやるよ」
ベリアルがクルリと背を向け雑踏に向かう。研究者も後に続く。
「おい、勝手な行動を取るな!」
ベルゼバブもキレながら渋々着いていく。
ベリアルの歩く方向、街角のベンチに腰掛ける人物が一人。
「お待たせファーさん」
「遅い」
カップを持った片手を持ち上げたベリアルに、冷たい声を投げつけたのはルシファー。
「ファッ!?」
彼の服装も例外なく現代風になっており、電子の板まで装備している。その目元にはやはり眼鏡。
ビクンと全身を揺らした研究者ががくりと膝を着く。
「服装の説明、眼鏡について、そんなん勝てへんやん……!!」
完全敗北研究者、涙で地を濡らす。
「フハハハハ、イイねその反応、最高だ!」
メシアを褒められて嬉しいベリアル。煩わしそうに眉をしかめるルシファー、受け取ったドリンクのストローを口許に寄せながらベリアルを蹴る。
「煩い」
「イテッ」
わなわなと震えるベルゼバブ。
「ぐぬぬ……ルシファー! 貴様までここにいたとはな!」
「ほう……」
ピリピリと張り詰める空気。その真ん中で未だに悶えてる研究者。
「いつまで這いつくばっている、さっさと立ち上がれ!」
引っ張り上げるベルゼバブリターンズ。
「アッアァー! 近いッ目が潰れる! こんな美を間近で見るなんて背徳的な行為に体がついていけない!!」
「いい加減にせよ!!」
再び始まる漫才。
「…………」
顔を顰めたルシファー、無言で立ち上がりベンチを離れる。
「あれ、ファーさん行くのかい? その板は気に入ってくれた? 他にご所望はあるかい?」
ついて行こうとしたベリアルを、ルシファーの指が止める。
「お前はアレらを監視しろ。この妙な世界、迅速な情報収集は必要だが……同時にあの男の存在も無視できん」
「フフ……わかったよ」
狡知の堕天司はにやりと笑うと、影に溶けるように姿を消した。
その後別に特に何も無く現代日本を満喫しまくるベルゼバブと研究者なのであった。
果たして元の世界に戻れるのか……その結末は読者の心の中にのみぞある。イズミ先生の次回作にご期待ください!完

サンダルフォン (2022/01/18)

※謎の力でサンダルフォンが抱き枕クッションになった。
「ぬぁーーーー!?!?!?」
コンコン、ガチャ。
「おはようサンダルフォン、なんだか凄い声が聞こえたけれど ……おや?」
「ぬっ!? ぬぬぬっ!!(ササッ)」
「サンダルフォン、なんだか随分と雰囲気が変わったかい。いつもよりずっと小さくてモコモコしているね。触れてもいいかな?」
「ぬっ? ぬぬ……」
「ありがとう(ひょい)わあ、体重もずっと軽くなっているし、思ったよりフワフワだね。抱き締めたくなってしまうな(ぎゅっ)」
「ぬ……ぬぬぬっぬぬ、ぬぅ」
「そうかな? 今の姿もとても愛らしくて素敵だよ。この長い部分は耳かな? 羽の形も可愛らしいね(ニコニコ)」
「ぬぬぬ、ぬぬぬいっ(バタバタ)」
「そ、そうだねごめん。私と君は意思疎通が出来るけれど、このままだと団長や他の団員との連携が不便になる。元に戻る方法を探そう……」
バターン!!
「ちょっと待ったぁ!!」
「ぬぁーっ!?」
「団長? そんなに慌ててどう……その腕の中のものは……」
「ぬぃ(挙手)」
「ぬいぬう!?」
「ベリアル!?」
「そう、朝起きたら枕元にこれがいたんだ」
「この気配、間違いなくベリアルのものだ。でも彼は次元の狭間に飲み込まれたんじゃ?」
「そのはずだけど、これまでも僕の夢に干渉したり羽根を拾ったりと色々あったし……これもベリアルに関係するもの、もしかしたら本人が姿を変えたのかもしれない」
「ウフフ……(ニヤリ)」
「ぬいっ!?(ビクッ)」
「今の姿ならまだ押さえが利く。もしも元の姿を取り戻してしまったらまた何を企てるかわからない。だからこの姿のまま封じておきたいんだ。ということでサンダルフォン、君が元に戻る方法は暫くお預けで! それじゃこれ縛ってくるね!」
「ぬいぬい、ぬぬぬ……」
バタン、タタタタ……
「ぬいーーーー!?!?!?」
「……えっと……なんだか大変なことになってしまったけれど……どんな姿でも君は君だ、全力でサポートするよ!」
「……ぬぅ……」

---
届きました。

轟 (2021/12/28)

夜も深けた頃、部屋の中でぼーっとしていた私は、ふと窓をノックする音に気付いた。ホットミルクの入ったマグを口元に運んだ状態で固まっていると、再びコンコンと軽い音が鳴った。間違いなく、外に、何かいる。ちなみにここは三階である。エッなにこのホラーな展開……?と恐る恐る立ち上がって、マグをテーブルに置いて近付く。
そろっと捲ったカーテンの向こう側、雪が止んだ冬景色。
「起きてたか」
「轟くん!?」
雪の積もった夜闇に映える、真っ赤な衣装の轟くんがそこにいた。"個性"でつくった氷を足場にして、窓からひょっこり顔を覗かせている。な、なるほど、ホラーでは無かった。
「どうしたのこんな時間に、あとその格好……」
「ボランティアってやつだ」
何でもヒーロー科は授業の一環でボランティアに参加することもあるのだとかで、1-Aの皆がサンタさんとして街の各地にプレゼントを配っているのだそうだ。ということは今は仕事中……?
「手、出せ」
「?」
言われるままに差し出すと、その上にポンと置かれた小さな箱。クリスマスカラーの包装紙とリボンの施されたそれは。
「えっこれって……」
「……メリークリスマス」
それだけ言って口元を隠した轟くんは、そそくさと滑り降りていく。
「あっ、ちょ……ありがとうサンタさーん!」
夜なので控えめに、その背中にお礼を言うと、ちらりと振り返った轟サンタが小さく手を挙げてくれた。

鶴丸 (2021/12/25)

ここは審神者相談窓口。審神者相談窓口とは、日々悩みや事件の絶えない審神者が困った時に相談する政府の一部署の通称である。今日も鳴り止まないコール音に引っ張りだこにされながら、私はデスクで燃え尽きていた。
「か、過労死する……」
「はははその台詞毎日聞いてるぞ」
「笑ってるんじゃないこの野郎……」
ずるずるに滑り落ちた私の椅子の背もたれの上からひょっこりと顔を覗かせたのは鶴丸国永、私の刀である。窓口係は審神者ではない。けれど審神者と同じ力を持ち、このように刀剣男士を顕現させることも出来る。
「君、いっつも仕事に追われて俺にはちっとも構いやしないな。退屈で死んでしまいそうだぜ」
「そう思うならちょっとは手伝ってくれても」
「ははは」
「笑って誤魔化すな」
「せ、せんぱ〜い!」
こちらのデスクへ駆け寄ってきたのは、困った顔を全面に出した後輩だった。
「先輩、私が担当してる審神者さんが続々と体調不良を訴えてるんです。ど、ど、どうしましょう〜!!」
「体調不良?その審神者さん達の資料見せて」
「はい〜!」

---
メモ帳整理してたら発掘した。鶴丸とバディを組んで様々な本丸の謎を解決していく系だと思われる。途中からバディ相手を長義にして考えてた気もするが形にはならず。

ど空面子現パロネタメモ (2021/12/24)

現パロ夢設定
・ベリアル
パラロスのボーカル。アブナイ色気でファンを狂わしてきたが、ファーさんの妹に惚れてからキャラ崩壊気味。海外に飛んだ妹ちゃんと連絡取れてるような取れてないような…という微妙な関係だったが、ファーさんからポロッと今度の週末に妹ちゃんが帰国すると聞いて「オレ知らされてないんだけど!?」と動転した。

・ルシファー
バンドのキーボード。その緻密な旋律は奏でる度に一つの世界を創造する。世に変革を齎すレベルの天才だが、その才能は全て音楽に使われている。腐れ縁の研究者がいて度々研究室に誘われている。誘いを受けるつもりはないが繋がりを断つ気もないらしい。

・ベルゼバブ
バンドのベース。バンドの主役はベースだと主張するような激しい弦捌きにバンド全体の熱が上がる。弦も本人もよくキレる。動画配信サイトでパラロス公式チャンネルとは別に個人のチャンネルも持ってて結構な頻度で更新している。たまに生配信するとファンが熱狂してトレンドを総ナメしていく。実は幼馴染の女を長年探しているがそいつが男の娘専門成人向け漫画家をやってる事を知らない。

・サリエル
バンドのギター。MCでは口数が少なくぽやっとしているが、ひとたび弦を弾けばその超絶技巧で全てをかっさらっていく。ギャップがイイ、アリの観察が趣味なのが可愛いと大人気。

・アバター
バンドのドラム。中の人など kill you. えっもしかして全裸なのか…?

・サンダルフォン
喫茶店の従業員。パラロスとはなんの関係もない。とある常連客のことを気にしているようだ。

・ルシフェル
喫茶店の店長。パラロスとはなんの関係もない? ルシファーとよく間違われる。

・ルシオ
どっかの大企業の社長とか政界の重役とかなんかそういう権力者だと思う。ファフェのパパかもしれない。

好きな役柄を選んでね!
・ルシファーの妹ちゃん
・どこぞの研究者さん
・小さい頃美少女だと思ってた幼馴染のぞうさんを見てしまい性癖が歪んだ漫画家
・喫茶店の常連さん
・観葉植物

---
というメモが残されており……

ベルゼバブ (2021/12/12)

※研究者とバブさんが現世に逆トリした。
ひとまず拠点を確保した二人。見覚えのない世界に戸惑いを隠せない。
「全く面妖な。元素の流れも魔力も感知できんとは……」
ぶつくさ言ってるベルゼバブに、研究者が服を差し出す。
「ベル、ベルゼバブ、一先ず情報収集に行くだろう。不自然に思われないよう、ここらの人間の格好を真似た方がいいと思う。だから、これ、用意したんで……着替えてもらえます?」
挙動不審な研究者、その頬はやや紅潮し目は爛々と輝いている。怪しさがすごい研究者にうたがわしい視線を投げ掛けるベルゼバブは、受け取った衣服を注意深く確かめる。
「………………貴様にしては突飛なものでは無いようだな。よかろう」
確かにさっきチラ見した人間達の装いと似たようなものなので、了承するベルゼバブ。グッと拳を握る研究者。
「ウッフ……私も着替えてくるので、終わったら暫し待っていてくれ」
そそくさと出ていく研究者。
〜着替えタイム〜
「スゥー……待たせたベルゼバブ。服のサイズはどうだろうか?」
ノックして入室する研究者。
「問題無い。しかしこのような薄布に装飾も少ない衣服なぞ……この国の人間は随分と貧相なようだな」
ジャケットを軽く引っ張るベルゼバブ。
顔を両手で覆う研究者。
「……っはぁ〜、最高……普段の惜しげも無く晒された胸筋も勿論最高だけどこのぴっちり目のハイネックで感じる胸筋の膨らみ……落ち着いた色のジャケットと合わせることで大人の着こなしを演出しつつ隠されたボディラインが故に首元のネックレスに目を引かれたかと思えば浮き上がる鎖骨が色気を孕む……美しい、美しいよベルゼバブ……はあ……何でも着こなせてしまうじゃないか」
溜息を挟みつつ高速で口を回す研究者。
「当然だ。余は絶対者として君臨すべき存在、どのような場所、どのような格好であれ、その在り方が翳ることはないのだ」
髪を掻き上げフンと鼻を鳴らすベルゼバブ。満更でもない。
「だが貴方の美しさは危険だ、下手に視線を集めてしまう。我々の常識が通用しない世界なのだ、いつ何があるともわからない。できるだけ隠密行動を心がけよう。というわけでこれを掛けてくれ」
研究者が懐からスッ……と取り出したるは眼鏡。
「御託を並べたところで貴様が見たいだけであろう。まあよい。装着を許可する」
やや屈んだベルゼバブの顔にスチャリと装着した瞬間、研究者が呻きながら膝から崩れ落ちた。
「ぬぅ!?」
「〜〜……、っ……は……は、はぁぁ……なんてこった完全に逆効果だコレ!! こんなんバブさんの美貌を強調するだけですやん最高!!」
胸を押えてプルプル震える研究者。嘆いているのか喜んでいるのかわからんテンションに陥っている。
ベルゼバブが眉を顰める。
「元よりこんなもので余の存在が覆るものか。気が済んだならもうよかろう、このまま出るぞ」
研究者を引っ張り上げるベルゼバブ。拠点の出口へ向かう。
「アーッ待って顔が近い! その顔は危険ですそれ以上はいけない!」
「ええい騒々しい、貴様が用意したものならば結果に責任を持て!!」
「ごもっとも!!」

---
フェスで色々殴られて気が狂いまくったんですけどとりあえずメガネに完全敗北したので取り急ぎ眼鏡をメガネ眼鏡メガメガメガネ〜ガネメ!5メガネ!
まだ先を書いてるんですが長くなりそうなので綺麗に整えたら短編に投げます。こんなの投げていいのか?

ベルゼバブ (2021/12/05)

※謎の力でバブさんが抱き枕クッションになった。
コンコン、ガチャ。
「ベルゼバブ、次の研究所での定期会合だが……ん?」
「ぬ゙ーーーー!!!(怒)」
「ウワなんだこの奇妙な物体活きがいい!?」
「ぬっ!! ぬぬぬ!! ぬぬぬぬぬいっ!!」
「よく鳴くな。野生動物か?(ひょい)」
「ぬっ!?」
「(にぎにぎ)しかし生物にしてはフワフワしてるし、凡そ生命活動には不適なフォルムだな。む、微かに星晶獣の気配……」
「ぬっ、ぬー!!」
「色合いが何となく彼の髪に似ているな……もしや彼のファンからの貢物か? むぅ、私というバブさん第一人者がいながら不届きな奴がいたものだ」
「ぬぅ!?」
「だいたいなんだこの惚けた顔は彼の美しさが全く表現出来ていないじゃないか髪留めや頬の刺青を付けて彼らしさを表現したのは悪くないが彼のチャームポイントである肌の色や髪の長さ三つ編み鼻筋目尻の鋭さメイクの濃さ爪の長さそして最も大事なボディラインが全く表せていないこんなデフォルメではダメだだが彼を模した偶像を創るという点は悪くないな1/7スケールフィギュアとかいいかもしれないいや本人に言ったら怒られそうだこっそり作るかあとバブちゃん計画をそろそろ実行に移したいな今の実験場は全て監視されているし秘密裏に新たな島でも開拓するか(早口)」
「」
「この星晶獣(仮)についても調査が必要だな。幸いベルゼバブにはまだ見付かってないようだし、今のうちにこっそり回収しておこう」
「ぬっ? ぬぬっぬー!!」
「うわ暴れるな柔らかい。よく動くし実験場の一つでも与えてやれば……(さわさわ)むっ!?(裏返し)羽が付いてる!? 評議会にも漏らしていない機密情報なのに!!」
「ぬぬぬんぬ!!」
「くっ、なんてことだ。これは即刻破棄せねば……ちょっびちびちするな(にゅるんっ)ぶえっ(べちっ)」
ぼかーん!!
「!?!?!?」
「…………(シュゥゥゥ)」
「な、なにーーっ!! こ、これは……!? 今まで抱き締めていたクッションは?」
「言いたいことはそれだけか……?」
「……えっと……本人がなってると思えばたまにはこういうのも悪くないなと思いました(感想)」
「フハハハハ……混沌の闇に飲まれよ、ケイオス・レギオン!!」
「その技二千年前は未実装じゃないかなー!?」
どかーん。
爆発オチなんてサイテー。
---
ぬがゲシュタルト崩壊した。

ベリアル (2021/12/04)

「おーいベリアル(石)、バブさん殴りに行くから編成入って」
「ン? いいぜ特異点、この投影をコキ使おうがナニしようがキミの自由だ。にしても、あのバブさんを殴りにねぇ……特異点達が寄って集って必死に噛み付こうとするのを見るのも悪くない」
「いやソロで行くわ」
「エッ?! ソロで……イく……?」
「マルチで迷惑かけんの怖いし、ソロプレイしやすいしねバブさん」
「バブさんを前に? 特異点がソロプレイ? ふはっ、捻れすぎだろ! ヤバい、達する達する!」
「捻れてんのはお前の頭だよ」

ベリアル (2021/12/02)

ご都合星晶獣の力でベリアルと夢主の精神が入れ替わった。
「ウワーーーーーーー!!!!!!(果てしない絶望)(この世の終わり)(顔面蒼白)(阿鼻叫喚)」
「ウフフ……中々唆る表情をするね。オレの顔じゃなければ、だが」
「うっうっ最悪だ……ベリアルになったのも最悪だけどいやらしい笑みを浮かべた私が目の前にいるのも最悪最低だ……」
「おいおい、もっと気楽に行こうぜ? 幸い命に別状はないんだ、この状況を楽しもうじゃないか。試しにそうだな……オレと姦淫しないか?」
「断るそして死ね。もういっそ今の状態で身投げしたら色々と助かるのでは?」
「ハハハッ、オレの顔ってそんな表情も出来たんだな。けどそいつはオススメしないぜ? キミの体で生き残ったオレがキミとして悪さを働くことになる。死んだ後も名誉を汚されるのは趣味じゃないだろ?」
「キィーッ私の体で下卑た顔をするな! クソ、そういうことを言われると死ぬに死ねない! 一か八かこの体で団長に助けを求めるか……?」
コツコツ……
「おい、君らはそこで何を……ベリアル?!」
「やあサンディ」
「ウワーややこしい奴が来た!!」

ベルゼバブ (2021/11/30)

「バブさんってOLの格好似合うと思うんですよ」
「おい、その呼び方を止めろと何度言わせ――何だと?」
「バブさんってOLの格好似合うと思うんですよ」
「一言一句違わず繰返すだと……おーえる……聞き馴染みの無い単語だが意味は聞かぬぞ、即刻その話題を打ち切るのだ」
「そこで今回ご用意したのがこちら!(ゴソゴソ)じゃん!誰でも簡単社員制服セット(XLサイズ)!」
「余の言葉を無視することは許さぬ。というかなんだその衣装は、女物ではないか!」
「OLだから当たり前でしょう。どうですこのタイトスカート、絶妙な丈に調整し生地にも拘った逸品です! そして同じカラーで合わせるベストはボタン位置がちょうどバストの――」
「いい加減にしろ!(バリィ)」
「アーッッ! ひどい、オーダーメイドなのに!」
「阿呆、戯れも度が過ぎるわ」
「戯れだなんてとんでもない、貴方の魅力を最大限に発揮する為にシャツのサイズからリボンのカラーまで三徹して考えたのに! 私はバブさんの可能性を信じてるんだ!!!」
「口当たりの良い言葉で言いくるめようとしても無駄だ、というか貴様またしても徹夜したのか阿呆め脳がバグっておろう一度休息しろ!(ドゥン)」
「ぎゃー! ベッドへ強制送還は止め……スヤァ……」
「くっ……この女のコレは想定の範疇を超えていたか。否、余の慧眼に誤りなどない。ないのだ……!」

鶴丸 (2021/11/22)

「おかえりなさい、遠征ご苦労様でした」
「ただいま主。そら、こいつを受け取ってくれ」
「え?」
「驚いたか? 遠征先はちょうど桜の季節でな。君に手土産だ。ああ、俺の小遣いの内だから安心してくれ」
「…………」
「こいつを見た時、ふと君の顔が浮かんでな。しかし何でだろうな。この本丸に俺が顕現した時は既に散った後だし、それからまだ春は来てないだろう? 君と桜の組み合わせには覚えがないはずなんだが……」
「……、……」
「なあ主、君は何か心当たりが――って、おぉ?! 君、泣いてるのか? さ、桜は好みじゃなかったのか?!」
「……ふふ。いいえ、嬉しいです」
「な、なんだ、驚いたじゃないか。泣くほど嬉しかったかい?」
「はい……ありがとうございます、鶴丸さん」
「――……ああ、君によく似合うな」


---
どこかの本丸であったかもしれない話。
いい夫婦の日だから夫婦っぽい話を書こうとしたけど何も夫婦じゃなかった。

ギムレー (2021/10/14)

ゴソゴソガタガタ。
「……さっきから僕の周りで騒々しく何をしているんだい?」
「え? 何って……祭壇の設置ですが」
「…………、……それで?」
「それでって……恐れ多くも邪竜ギムレー様に供物を捧げようと。流石に人身御供はダメというか、アルフォンス達に必要とされているうちは自分を犠牲にしようとは考えないので、代用を用意させてもらえればと――」
「手」
「て?」
「いいから、左手を差し出せ」
「は、はい」
ガリッ。
「痛ァ! えっ噛んだ?! 薬指ちぎれるかと思った! 何故です?!」
「腹いせも半分あるけど、物分かりの悪い君に理解させるためだよ」
「腹いせ半分なんだ……いや、すみません何か失礼しましたか?」
「君は僕の半身になることを選んだ。その意味がわかるかい?」
「え、ギムレー様の半身って、要は第二の器的なことなのでは?」
ガブー。
「あだだだだ、二度も噛む?! タンマタンマ、本当にちぎれちゃう!」
「……フン」
「うへぇ、指の付け根に歯型がくっきり。あ、血出てきた……」
「契りを交わした人間は左手の薬指に指輪を嵌めるんだろう? 僕は人間の風習なんて興味はないけれど、この痕が何のつもりかくらい、鈍感な君も理解できるだろう」
「………………え、つまり……指輪の代わり……ってコト?! 半身ってそういうニュアンスだったんですか?!!」
「いちいち煩いな……その喉焼き切ってやろうか」
「それはご勘弁っ。いやでもそんな、ギムレー様人間嫌いじゃないすか。小間使いから器に昇格しちゃったかーとか思ってたのに! 人間と馴れ合うなど……とか言ってたくせに、イベントで浮かれちゃった挙句私に絆されたんすか? ラスボスの威厳は収穫祭で収穫されちゃったんです?!」
「本当に黙れ」
「すいませんでした」
---
2つ書いて満足した。

ギムレー (2021/10/13)

キラキラしゅいーん。
「あ……やったー! ようこそギムレー様!」
「……また君か、僕を呼び出したのは……しかもなんだこの格好は。獣の真似事をさせるだなんてふざけているのかい?」
「いやまさか、今は収穫祭シーズンなので、英雄の皆さんもそういう格好してもらってるだけです。とても真面目! 可愛らしいなんて思ってな……いことはないですが、とにかく普通の格好ですよ! ネッ!」
「……そうかい、わかったよ。余程僕に食い殺されたいようだね」
「いや失言はしましたが誤解です、ギムレー様マジリスペっす……イデデデデ力強い! エッ痛ッ、マジで噛むんすか?!」
「……煩いな」
「ごめんなさい殺さないで……へひ? くすぐった、んゅっ……ウワ変な声出――え、ちょっと待って何してるんです?!」
「噛みちぎってやろうかと思ったけど気が変わったよ。静かにしてもらおうか」
「えっ? えっっ?? ひぅ、待ってくださ……なんか、ヘンな、感じ、が……んうっ」
「……ふふふ。すっかり大人しくなったね」
「は……は……な、にを。召喚士相手に、こ、こんなっ……」
「嫌なら抵抗してみせなよ。最も、そうすれば僕の気が変わって、本当に食い殺すかもしれないけどね」
「こ……の、」
「冗談だよ。不本意だけどそれは出来ない、君との契約が生きてる限りはね。逆に言えば――この状況が成立しているのは、君が許容してるからだ」
「ッ!? そ、そんなこと……っ」
「ふうん? 口では強がってみせても、嫌な素振りは微塵も感じないけれど」
「ン――や……は、ぅ」
「――悪くない眺めだ。興が乗った。この姿に相応しく、君を食べてあげよう」
「ぴえん」
---
ハロウィンギム男が大変助平で大変なんですよこっちはぁ!!この助平!!!

轟 (2021/10/10)

「なあ、抱き締めてもいいか?」
「ヘンッ、エッアッ……ど、どうぞ……」
おずおずと両手を広げれば、轟くんが私をすっぽり包み込む。未だに慣れぬスキンシップ、轟くんの体温と息遣いがダイレクトアタック、心臓に5000のダメージ。しかし同時に湧き上がる幸福感が、じわじわとHPを回復していく。
行き場がなくてピヨピヨしていた両手を、そうっと背中に回すと、心無しか轟くんの腕の力が強くなる。
改めて思うと轟くんの腕、結構逞しい。毎日鍛えてるもんな……それにこの背中、私と比べてずっと広い……というか厚みがすごい……服の上からだとシュッとしててわからなかったけど、意外とガッシリしてて、筋肉の密度が伝わってくる……
ウンンンン、なんだかこれ以上はダメな気がする!
「轟くん、そろそろ、そろそろ限界です!」
その背中をタップタップ。すると少し体を離してくれた轟くんが、私の顔をじっと見詰める。
「もう少し、ダメか?」
ぐっ。その顔は反則だ。こんな試合勝ち目ないですわ……
「だ、ダメじゃないです……」
「ありがとう」
「ウッ」
口元を緩めた轟くんの、ほんのりと細められた目尻が、私の限界を容易く突き破っていくのであった。

ベルゼバブ (2021/10/04)

「おい、起きろ。余を前にしていつまで寝惚けた面を晒すつもりだ」
「うーん……胸筋が一つ……胸筋が二つ……ハッ?!」
「奇妙な寝言を吐きおって……このような場に閉じ込めたのも貴様の思惑ではあるまいな」
「なに? ここは……もしやエロトラップダンジョン?!?!?!」
「何だその低俗なダンジョンは――ぬぅ?!」
しゅるしゅる〜。
「触手風情が世の肉体を弄るなど二千年早いわ! ぐっ、妙にヌメヌメとまとわりつく……貴様ッどこに巻き付いてッ」
「ウホッ良い眺め……マスター、紙とペンを!(パチィン)」
「貴様何を悠長に、くお……忌々しい、何故余にばかり絡みついてくるのだ!!」
「触手も"理解"ってるんすよ、世の需要を……(カキカキ)」
「世界を掌握するのはこのベルゼバブに他ならぬというのにそのような需要など、あっ貴様服を剥ぐなというか布地が溶けて……アッー!」
---
バブさんと夢主がいたとして、エッチなハプニングに会うのはバブさんの方だろうなという妄想。

煉獄 (2021/09/27)

貴方の夢を見る。
色も形も朧気な景色の中で、貴方の姿が蘇る。
分厚い隊服、たなびく羽織、腰に差した日輪刀も、あの日のまま。
貴方の目は真っ直ぐにこちらを向いて、けれど唇は固く閉ざされて。
いっそ名前を呼んでくれたら、すぐにでも飛び付いてしまうのに。
無言で差し出された手。触れたら感じる温もり。
抱きすくめられて、貴方の匂いが蘇る。
黄昏の空、二人の影が紅に滲む。
ああ、永遠に閉じ込められてしまいたいと、叶いもしない願いを抱く。
目蓋を閉じて、目が覚める。
窓の外は暁の空、また朝が訪れる。
温もりも、触れた感触も、貴方の匂いも、泡沫の箱庭の中。
「煉獄さん」
口にした名は、もう届かない。
--
泡沫の箱庭まんま。良い曲。

緑谷 (2021/09/12)

何気なくつけたテレビに映ったのが見覚えのある人で、私はつい手を止めた。デクまたも活躍、なんてテロップと共に流れた映像には、期待の新人ヒーローデクの姿。
緑谷出久くん。私と同じ雄英高校出身の人。
同学年だったけれど、普通科の私は当然クラスメイトでもなくて。関わりなんて、廊下ですれ違ったりとか、食堂で見かけたりとか、それくらいだ。
ヒーロー科は何かと目立つから、私は向こうのことをすぐ覚えたけれど、きっと緑谷くんは私のことを覚えていないだろう。
私たちの学年は何かと騒ぎが多くて、魔窟だなんて言われてた。でも学年だけじゃなくて、世間そのものが大きく変わっていった。ヒーローの立場も、この国のあり方も、もうあの頃とは違う。数年前のことが、なんだか遠い昔みたいだ。
……一年の頃、ヒーロー科のインターンが始まる前、緑谷くんに声を掛けられたことがある。なんてことはない、私がハンカチを落としただけなんだけど。泣き腫らした目を隠したくて慌てて立ち上がったら手から零れてしまって、それを拾った緑谷くんは「大丈夫?」なんて心配そうな顔をしてくれた。
ただそれだけだった。それだけで、よかったんだ。
何でもない日常のひとかけら。今でも私は、その日のことを思い出す。

轟 (2021/08/29)

※映画ネタ、バレなし
「おかえりなさい轟くん! ワールドミッションお疲れ様でした!」
「ただいま。いい経験になったよ」
「大活躍だったそうですね! お話聞かせてください!」
「事件が解決できたのは俺だけじゃなくて、緑谷とか爆豪とか……皆の力があったからだ。あと現地の協力者もいた。ロディっていう、俺達と同じくらいの年のやつだ」
「ええっ、オセオンの人ですか?! しかも同年代……ヒーローというわけでもなさそうですね」
「そうだな。ヒーロー志望でもない、普通のやつだ」
「そんな少年の協力まで取り付けられるとは……轟くんの海外進出もm……アレ? そういえば轟くん、現地ではいったい何語で喋っていたんですか?」
「……そういやそうだな(首傾げ)」
「アレー???(首傾げ)」
---
不思議ですね。

サンダルフォン (2021/08/12)

扉を開くとカロンカロンと涼やかな音が鳴る。カウンターから顔を上げた青年が、私の姿に気付いて口元を緩めた。
「ああ、いらっしゃい」
「こんにちは、サンダルフォンさん」
ここは街の中心部から少し離れたところにある喫茶店。数ヶ月前からほぼ毎日通っている。
「注文はいつもので?」
「はい、お願いします」
無言で待つ間、カウンターの向こうから道具の音が小さく鳴る。それをBGMにしながら、初めて入った時のことを思い返す。
その時もサンダルフォンさんがカウンターに立っていて、私の入店と同時にカップを滑らせて割ったのが印象的だった。
かといってサンダルフォンさんはそそっかしいわけではなく、こうして珈琲を入れる所作も実にスマートだ。
「どうぞ。君のための至高の一杯だ、存分に味わってくれ」
「ありがとう」
手元に置かれたカップから漂う芳醇な香りを楽しみ、ゆるりと持ち上げる。一口含めば口内に広がる苦味と少しの酸味、こくりと嚥下すれば温かな液体が体の中に落ちる感覚がする。ほう、と一息。口の中に残っていた熱気が外へ逃げていく。
サンダルフォンさんの淹れる珈琲は本当に美味しい。彼は珈琲に並々ならぬこだわりを持っていて、日夜研究に費やしているという。その成果に違わぬ美味……と大層なことが言えるほど珈琲に詳しくはないけれど、私の味覚に実に馴染む。
このカフェは店長さんと共に始めたそうで、店内の雰囲気も良く、サンダルフォンさんのカップを扱う手つきも慣れたものだ。それを思うと不思議に感じるのが、初日にサンダルフォンさんがカップを取り落としたことだ。
「サンダルフォンさん」
「なんだ?」
「どうしてあの時、カップを落としちゃったんですか?」
「…………」
ぽろりと口にした疑問に返答はなく、手を止めたサンダルフォンさんは明らかにいじけた顔をしていた。
「そういうことは覚えているんだな、君は」
「す、すみません……揶揄うつもりじゃないんですけど」
「いいさ、わかってる。俺も少し動揺しすぎた」
「動揺、ですか?」
「ああ……」
それきり口を閉じてしまったサンダルフォンさんがなんだか遠い目をしているので、これ以上つっこむのもはばかられた。宙ぶらりんの心地をごまかすように、再び珈琲を口にする。
ほわりと広がる味わいは、どこか懐かしい。
---
転生現パロカフェ店員記憶持ちサンと記憶なし夢主。前世から夢主が好んでいたブレンドをお出しし続けるサンちゃん。

ベルゼバブ (2021/07/12)

バブさんがギャルになった。
"バブさんがギャルになった"……?なに?どゆこと?
「チッこのリップ発色がイマイチだな……所詮は小蠅の産物か」
「ちょっとバブさん聞いてよ、こないだソドミーした男がしつこく連絡してくるんだけどさぁ、ちょっと調子乗りすぎだと思わない?」
「気色悪い」
「だよねぇ。一回抱いたくらいで彼氏ヅラとかマジ厚顔みたいな?」
「貴様のことだベリアル。気色悪いわ」
「ええー酷くね?」

---
こんな不審なメモが残されてまして…

ベリアル (2021/07/06)

いっけなーい遅刻遅刻!私夢主、普通の高校生!2学期になって間もないのに寝坊しちゃってあら大変!食パンくわえて猛ダッシュ!あそこの曲がり角を曲がれば学校はもうすぐ……
ドカーン!!
「いったぁ!」
「おっ……と」
曲がり角を曲がった瞬間、微妙に柔らかいけどおおむね硬いものにぶつかった。というか見知らぬ人にぶつかった。
「ウフフ、随分積極的だね。食パン咥えてボーイミーツガール……古臭い手だが悪くない」
何だこの人。モデルみたいに背が高くて細くて足が長くて顔もいい。だがしかしシャツがパッツパツ。申し訳程度にボタンを留めてるけど、腹筋も胸筋もガバガバにさらけ出してるし、ズボンもえらいピッチピチなんですけど。なんかこっちみて舌なめずりしてるんですけど。こわっ。
「ところでキミ、ソドミーはお好みかい?」
「イヤー変態!」
ベチーン!!
「いっ……良い平手だ、マゾヒズムにゾクゾクくる!」
「イヤー!!」

***

キーンコーンカーンコーン。
「えー、というわけで、今日から転校してきたベリアルくんだ。みんな仲良くするように」
「フフ……ヨロシク」
「お前のような学生がいるか!!」
百歩譲って保健医にしろ。

轟 (2021/06/07)

「ショートと」
「夢主の」
「「ショートコント!」」

「ってなんでやねん!!!!」
「ツッコミが早えぞ、まだボケてねえ」
「いやこんなの出オチだよ!!」
「で……おち……?」
「ほらまたキョトンとした顔してこの子はー!!」

何者 -オマケ- (2021/05/07)

ざく、ざく。
喧噪響き渡る研究所の中、妙に耳につく地面を蹴る足音。ゆっくりと近づくそれは、私の前でぴたりと止まった。

「探したよ副所長殿、こんなところでお昼寝かい?」

しゃがんたのだろうか、近い場所から降ってくる、もったいぶるような口調の声。

「あーあ、キレイな中庭が汚れちまったな」
「…………」
「ウフフ、そう拗ねないでくれ。君が今の立場に不満を持ってたのは知ってる。けど、必要なことだったんだ。俺たちのボスがお望みだったのさ」
「…………」

返答がなくともお構い無しに、ぺらぺらと回り続ける男の口。

「島全土が酷い有様だったよ。まさか天司達が叛乱を起こすなんて。俺たち堕天司からも叛逆者が出た。可哀想に、ルシフェルが鎮圧に向かえば一溜りもないだろう」

一呼吸置いた後、大仰な溜息を吐き出した。

「はぁ、残念だよ副所長。君がこの叛乱の首謀者だったなんて」

動かない体の、指の一本が僅かに震えた。

「君の野心は中々ソソるものだったが、ファーさんには及ばない。君はここでゲームオーバー、その命をもって償ってくれ。そうすればファーさんも喜んでくれるさ」

最初から、そのつもりだったのか。私の研究を奪ったのも、天司達を研究させたのも、私を首謀者に仕立て上げるため。そして天司達に叛乱を起こさせ――その裏で所長は、自らの目的を果たす。
その目的とはなんだ。どこまで手が及んでいる、彼が叛乱に加わったのは――

「それが君の役割だ」

その言葉を最後に、私の思考は停止した。


---
夢主は何者か、に対するアンサー。叛乱の首謀者とするための駒。

鶴丸 (2021/04/11)

時間遡行軍の真意、政府上層部の暗躍、検非違使の狂騒……それら全てに決着がついた。この戦いが何をもたらしたのかは、歴史の一行に小さく語り継がれるのみだろう。それでも私達が戦った事実は存在していて、私達が失ったものも少なくはなく、得たものも確かにあった。
「……そろそろ刻限だな」
庭に出ていた鶴丸さんがふと漏らす。独り言にも近い小さな吐露は、縁側に腰掛ける私にだけ届いた。舞い散る桜の花弁に囲まれて、そよ風に翻る衣が共に踊っているようだ。科学技術の力で疑似的に組み上げられた庭園の風景は、美しい春を演出する。けれどこれは仮初の景色だ。役目を終えた本丸は、もうじき閉鎖する。私は審神者の任を解かれ、刀剣男士達は刀解される。今この本丸に在るのは、私と近侍の鶴丸さんだけだった。
「鶴丸さん」
声を掛けると、鶴丸さんが振り返る。私は正座して、深く頭を下げた。
「ありがとうございました。私の元に来てくれて。最後まで私を支えてくれて。貴方のお陰で私はここまで来られました」
審神者に就任してからこれまで、人としてあまりにも未熟だった私は、沢山の失敗をした。大事な刀を失って、審神者なんて辞めたいと思った事もあった。けれど立ち止まる度に、鶴丸さんが私を叱咤してくれた。
「なんだ、そんな畏まって。照れくさいじゃないか」
頭上に降る鶴丸さんの声。
「ま、俺は君の刀だからな。主に尽くす甲斐性くらいは持ち合わせていたさ」
「うん……ありがとう、ございました」
私は頭を上げられなかった。泣きそうになるのを必至に堪えて、酷い顔をしていたから。
少女だった私は、彼に恋をした。刀の神様への恋心なんて叶うはずもなく、当時は断られてしまったけれど。それでも鶴丸さんは近侍として私を支えて続けてくれた。感謝と寂しさが募って、目の奥がツンとする。
暫し無言の時間が続いた後、鶴丸さんが思い出したように口を開く。
「……なあ、主。共に行かないか」
その一言に、私は静かに息を呑んだ。
「俺も神の端くれだ。君一人を攫ってしまうことも出来なくはない」
風の音が止み、私の鼓膜には鶴丸さんの声だけが届く。
「君との暮らしは……ああ、飽きの来ないものだった。始めて会った時は驚く程幼かった君が、俺達の大将として成長していくのを見守る日々は、驚きに溢れていた。君なら、これからも俺に新鮮な驚きを提供してくれる――そう思ったんだ」
私は顔を上げていた。鶴丸さんの金色の瞳が私を真っ直ぐに見詰めている。いつからだろうか――それは、拙い子供を見守る瞳から、一人の人間を見詰める眼差しへと変わっていた。私の両目から雫が零れ落ちる。
「だから、共に逃げよう。この時代に駆け落ちなんてのも、中々乙なもんだろう?」
そう言って差し出された手。白く細長い指と鶴丸さんの顔を交互に見る私に、鶴丸さんが微笑んだ。
「俺は悪い男だ、君を苦難の道へ引き込もうとしている。無理矢理連れ去るなら君も言い訳が出来るだろうが、俺は卑怯にも君に選択させる」
細められた瞳が、試すように私を見る。
「さあ、選んでくれ。俺と共に現世の外へ転がり出るか、俺を刀解して政府の連中を待つか」
問われた私は息を吸って、吐き出す。そうして私は――

---
審神者に就任して最初はよわよわだった夢主が頑張ったり順調に強くなったり鶴丸に初恋したり他所の本丸のめちゃつよ審神者に中てられて焦って失敗して初期刀を破壊しちゃったりなんやかんや黒幕を倒したりして大団円を迎える話を考えてたけど書く力がなかったのでエンディングだけ書いたというアレ。

煉獄 (2020/11/29)

いっけなーい遅刻遅刻!私夢主、普通の女の子!今日から高校生活が始まってウキウキだったのに、放課後急な眠気に襲われて目を覚ましたらとっぷり夜も更けちゃってたの!今晩は早く帰ってきなさいってお母さんに言われてたのに、これじゃ門限に間に合わないよ〜!
ズル……
「えっ?」
電柱の陰に何かを見て、私は思わず足を止める。
ズル……ズル……
「……!」
それは、生き物と言うにはあまりにも不可解な形をしていた。二本の足、二本の腕、しかし肩の上に乗った首も、二つ。二つの額から凸凹な角が天へ向かって伸びている。浅黒い肌をして、大きな口から覗くのは、大きな牙。だらりと伸びた舌から、涎がぼたぼたと垂れ落ちた。
――鬼だ。
そう直感した私は一目散に駆け出した。現代の日本に鬼だなんて、おとぎ話でもあるまいし。混乱しながらも、自分の目に映ったものは確かにそこにあって、ただただ恐怖が脳を埋め尽くす。
「ガアアアッ!!」
背後からけたたましい怒声が迫る。ドタドタと乱暴な足音は、確実に私を追っていた。どうして、私はただ学校から帰っていただけなのに。どうして、あんなものがいるんだ。どうして私が、どうして――
「刀を抜け!」
「?!」
声が聞こえた。男の人の声だ。
「鞄の中だ、あるだろう!」
はきはきと私に指示するその声に、訳もわからず鞄をひっくり返す。バサバサと撒き散らされる教科書に混じって、見覚えのないものが転がり落ちた。
黒い鞘、黒い柄、片手で持つほどの長さのそれは。
「ゴアアアア!!」
「ッ!」
一瞬足を止めた私の背後に巨体が迫る。柄を握り、無我夢中で引き抜いた。――黒い刀身の刃が覗く。
「割れた頸の一本一本は細い。一度に払え!」
払えったってそんな無茶な!
「よく見ろ、鬼の動きは遅い。大振りの攻撃は十分かいくぐれる。懐に飛び込めばその刀でも首を落とせる!」
「……ッ!」
的確な指示だった。目を凝らして相手をよく見れば、確かに腕の動きはのろい。一撃、二撃を躱して、鬼の首に迫る。
ピンと糸が張った。
「っあああ!」
逆手に持った短刀を、思い切り振り切った。ぶちりと皮がちぎれる感触と、次いで柔らかな肉が裂ける感触。一瞬顔を顰めたけれど、二つ分の感触は、あっさりと通り過ぎた。ぼろりと首を落とした鬼が、その図体をぐらりと傾け、大きな音と共に背中から倒れた。
く、首……首切っちゃった!!
自分のしたことにワナワナと震えていると、倒れた鬼の体が末端から綻んでいく。
「きゃー?! 何これ! 何これ?!」
「首を落とせば鬼は死ぬ! 肉体も消える!」
再び聞こえた男の人の声。そういえばどこから話しかけてるんだろう。キョロキョロと周りを見渡すけれど、それらしい人影はない。
「俺を探しているのならば上だ!」
上? 言葉のままに見上げると、
「よくやった! 低級の鬼とはいえ、初めてにしては上出来だ!」
……確かに上だった。
上空に、人が浮いてる。黒い詰襟、黒い袴に赤いすね当て、炎のような模様の描かれた羽織、そして腰には刀。
「だがこれで奴らに目を付けられた。稀血の君は益々鬼に狙われるだろう!」
ぐるぐると円の重なったような瞳と、燃えるように逆立つ明るい髪。
「だが安心だ! 俺が鍛えてあげよう!!」
その人はこっちを見てるんだか見ていないんだか微妙な目線のまま、はきはきと喋っていた。その内容も分からないが、何より目に映る光景が意味不明すぎる。
「……な、は? あ、貴方はいったい……」
なんとか絞り出した質問に、その人は元気よく答える。
「俺は煉獄杏寿郎! 鬼を追う幽霊だ!!」
ゆうれい。
キャパシティオーバー。そして私は気絶した。
---
kmt世界が令和にまで進んだ時空で現パロ(?)JK夢主と幽霊煉獄さん夢。
現代社会の歪みが生み出した悪霊みたいなのを鬼と呼称していて、稀血とかも昔とは意味が異なってて、でも鬼を切るという概念は共通なので呼吸とか日輪刀が有効で…みたいな…モゴモゴ…

ルシファー (2020/11/01)

この頃所長の機嫌がすこぶる悪いと思っていたら、研究室に篭って一週間出てこない。どうにも実験が上手く行かずストレスを溜めているらしい。普段の所長は何をするにも無感動な御仁だが、最近注力している星晶獣……天司とやらの実験は彼の心を動かす程の代物らしい。評議会の面々が空の世界を管理したがるのにはいつもの事だが、所長が乗り気なのは意外だった。空の世界の特質である"進化"、それを司る存在……人の形を摸し、自立思考と戦闘力を備えた生体兵器。デザインに目を通したが複雑すぎて実装は不可能だと思った。だが所長はそれこそが自分の求めたものだとばかりにのめり込んでいる。正直あんなに一心不乱になっている所長は気味が悪い。いつもは全てが詰まらないとばかりに冷たい目をしているくせに。などと無駄な思考をしつつ、私は研究室の戸を叩いた。
「失礼します」
軋む音を鳴らして床を滑る扉、ばさばさと雪崩を起こす紙片の束、あちこち投げ出された本や紙の奥、机に埋まっている所長の姿が辛うじて確認できた。
「所長、所長……生きておられますか」
足場を探してふらふらと、ようやく辿り着いた机に運んできた盆を置く。
「所長、少し休憩しましょう。お茶を入れましたから」
所長は机にかじりつく勢いでペンを走らせていた。巨大な紙がみるみるうちにインクで埋まっていく。ミミズののたくったような文字は解読不能だが、中央に描かれた人体図と、背中から伸びる羽のようなものは理解出来た。その羽に幾つも付けられた注釈から、恐らく星晶獣のコアとなる事が読み取れる。所長の握るペンは止まらず、カップから上る湯気が冷める勢いだ。
「……所長」
「……」
「所長、休憩されては……」
突然ガクンと体が崩れた。所長の空いた手が私のローブの袖を思い切り引っ張ったからだと気付いた時には既に上半身は大きく傾き、眼前に青い――目?
「…………………、……?! ?……?!、!……!……??!!!」
……口が、塞がっ、……?! なん、何して……息! 長い! さ、酸素! 酸素!!
「……五月蝿い」
寝不足で顔色の悪い所長が、眉を寄せながら私を離した。私は開放された口からめいいっぱい酸素を取り込みながら、その場でへたり込む。
「はっ……な……? ……ッ?!!」
「フン……理論は完成した。後は実証するだけだ」
そうして所長は何事も無かったかのように立ち去って行った。後に残された私は、真っ赤な顔をしたまま呆然とするしか無かった。結局カップの中身は冷たくなっていた。

サンダルフォン (2020/08/10)

コンコン。
「まだ部屋にいるか? 今日は依頼の予定だったはずだが集合時間を過ぎているぞ。君が遅刻するなんて珍しいじゃないか……おい、出てこないのか?」
ガチャ。
(床に倒れ付す夢主)
「なっ?! いったい何があった! 君程の手練がいったい誰に……!」
「め……」
「め?」
「眼鏡……(ガクッ)」
「眼鏡?! おいっしっかりしろ! 目を開けろー!!」

---
あんなキョトンとした可愛い表情して丸眼鏡超似合う天司おる?

骸 (2020/06/09)

「待っていましたよ。今日が何の日か勿論ご存知ですよね。僕になにか渡したい物があるのではないですか?」
うわなんだこの南国果実。
学校の授業が終わって放課後、帰り道をぽてぽて歩いてた私の目の前に現れた骸はフフンと胸を張ってドヤ顔で仁王立ちしていた。6月9日、今日が骸の誕生日というのは勿論知ってるし、準備したプレゼントも帰りに寄ろうと思ってたから手提げ袋に入ってる。ここでそれを差し出せば骸は満足気にドヤ顔しながら受け取るのだろう。全て彼の予想通りというわけだ。……わけだがそれは面白くない。とはいえこの状況、彼の予想を覆すようなものを用意するのは難しく、どうせ黒曜メンバーに盛大なパーティでもしてもらうだろう彼は神経も図太いので在り来りなことでは驚かないだろう。プレゼントないです、とか嘘をついてもお見通し、むしろ彼の機嫌を損ねて大変な目に会いかねない。私ができる範囲での囁かな反抗……ふむ、あれにしてみるか。
一計を案じた私は無言でつかつかと骸に近付く。何かを察した骸はドヤ顔を潜め「おや」と零す。私が何をしようとしているのかは知らないが油断しきった態度だ。至近距離に近付いた私は徐に彼の胸倉を掴んだ。
「誕生日おめでとう」
ぎゅっと引っ張って、屈んだ骸の頬に唇を当てる。触れるだけのキスをして手を離すと、骸はぽかんとこちらを見下ろした。
ふふんどうだ、私からする事なんてほぼないからな。いっつも余裕そうにしてる顔を崩してやった……ぞ…………ぉ……………………いやいやなにしてるんだ私、なにしてるんだ私?!?!?!
自分の行いを自覚した途端顔が火を噴いた。
「あばばば今のは冗談でホントはプレゼントちゃんと用意してりゃ、してるから!!ほらこれっ……ギャッ」
噛んだし。プレゼント取り出そうとしたらその前に骸に抱きすくめられてしまった。ふわりという効果音に似合わないほど力強く、締めはしないが決して逃がさないという強い意志を感じる。これはまずい、非常にまずい。だらだらと吹き出す汗は冷汗なのか羞恥の汗なのか。
「ああ……嬉しいです。君からこんなに素晴らしいものをいただけるなんて。クフフ、ですが些か可愛らしすぎて僕には物足りませんね」
「ヒエッ……」
骸のねっとりとした視線が頬を突き刺す。赤くなったり青くなったり忙しない私の耳に唇を寄せ、骸は吐息混じりに零した。
「もっと、お願いできますね?」
その疑問に対する答えははいかイエスしかないらしい。
---
気付いたら書いてた。

心操 (2020/05/10)

「心操くん」
「……?」
「心操くーん」
「……なに」
「心操くん心操くーん」
「だからなにって」
「私の名前も呼んでみてよ」
「は?」
「呼んでみてよーそしたら返事するからさぁ」
「それがなんの……」
「絶対返事するから、だからそのう……心操くんの、思うままにして……ぃぃ……ょ……」
「!」
「ふわあはははやっぱ今のなし!嘘です忘れて!」
「あっ待…………クソッ」
---
下書きが残されていたので供養公開

サンダルフォン (2020/04/16)

「……ハッ?!」
「目が覚めたかサンダルフォン、突然頭を押さえて倒れてしまったから驚いたよ」
「ル……ルシフェル様?!」
「! 前世の記憶が戻ったのか……」
「前世? 俺は確か特異点等と共にルシファーを……此処はどこですか? 空の世界でもなければ星の島でもない」
「ここは……現代だ」
「現代?」
「現パロ……いや、転生パロというものか。サンダルフォン、君はあの大戦の折次元の狭間に飲まれ、気付けば当世に普通の人間として蘇っていたんだ」
「??????」
「ちなみに此処は君の生まれ育った家、私は君のお母さんだ」
「おか……お母さん?!?!?!?!」
「お父さんはルシファーだ」
「は?!?!?! 待ってください、ルシフェル様は……」
「この世界では結婚出産に性別は問題ではないよ」
「意味が分かりません!!」
「そしてこの家の隣には、君の幼なじみの少女が住んでいる」
ピンポーン。
「お邪魔しまーす。おはようサンダルフォン、またお寝坊さん?」
「なっ……君は!」
「ほら、いつまでもお母さんに甘えてないで。今日から新学期だよ、早く行こう」
「甘えてなどない! 新学期だと?」
「君は今をときめく高校生、幼なじみの彼女は小さい頃から毎日こうして君を迎えに来てくれていた。だが私は隣の家のおばさんという立場上深く問うことは出来なくてね。彼女が前世の記憶を持っているのかは不明だ。というわけで彼女の記憶に関しては君の采配に委ねよう。私としても当世でも君たちが仲睦まじくあるのは喜ばしい」
「は?! ちょっと待ってください!」
「ほらサンダルフォン、早くしないと遅刻するよ」
「いってらっしゃい」
「はい、いってきますおばさん!」
「い、いってきます……いやおばさんは止めろ!」
---
サンダルフォン総ツッコミ転生学パロラブコメ世界。ちな夢主の父ちゃんはバブさん。

サンダルフォン (2020/04/07)

「……………………」
「おや、おかえりサンダルフォン。なんだか身を捌かれた後のカツウォヌスのような目をしているね」
とある島に降り立ったグランサイファー。数人を供に団長が船を降りて数日、島から響く喧騒を聞きながら自室でのんびりしていたら、団長と降り立っていたサンダルフォンが顔面蒼白でフラフラと戻ってきた。
「あれが地獄か……」
どさー。
「わっ、と」
ぎゅー。
「……」
「おやおや」
無言でもたれかかったサンダルフォンにそのまま抱き締められる。
「何度叩き伏せても湧き上がる魔物……ひたすら奥義を放ち…飛来するカツウォヌス……肉ノルマ……血走った目の特異点……汁なら幾らでもある…………」
肩に顔をうずめながらブツブツと何事か繰り返すサンダルフォンは、ややノイローゼ気味のようだった。
「お疲れ様」
頭を撫でると、サンダルフォンのくせっ毛がもすもすと揺れる。半ば無意識にグリグリと押し付けられ、首筋をなぞる毛先がくすぐったい。何があったか詳しいことは分からないが、とにかく壮絶な戦場だったらしい。不謹慎だが、心休めるために真っ先にサンダルフォンが訪れたのがここなのは嬉しかった。やがて穏やかな呼吸音を立て始めたサンダルフォン、その体勢が崩れないように腕を回す。
バーン!
「サンダルフォンここに居たんだ!本戦始まったらまた出てもらうからよろしくね!」
「ゴハッ」
そこへ扉を豪快に開けて入ってきた団長、その言葉に吐血するサンダルフォン。
「大丈夫かいサンd……し、死んでる」
「きみも出てもらうから!!」
「え」

---
サンダルフォンと初めての古戦場。

轟 (2020/04/01)

「好きだ」
「……………………エッッッッ」
たまには休息日と春の陽だまりの中でのんびりしていたら、隣の轟くんが唐突に口を開いた。シンプルに一言だけ零すものだから言語として認識するのに時間がかかったし幻聴かと思って素で声が出た。振り向いた先の轟くんはひたすらこちらをじっと見詰め続けるので幻聴でないことが分かる。いや確かに私は轟くんとお付き合いをさせていただいてる身ですので、時折感じる轟くんの優しさに幸せを感じております日々を送っておりますが、唐突に、脈絡もなく、あそこの桜が綺麗に咲きましたねうふふなんて取り留めもない話をしていた最中に、すすすすすす……き……とか言われ…………あれ本当に?普段そういうことを口にしない轟くんがそんな唐突に言う?いや偶に轟くんどこから来たのか分からない発想をするときはあるけれど、いやでもこの流れ突然すぎない?今日なんかあったっけ…………アッ今日は4月1日、つまりエイプリルフール……?唐突に轟くんが述べた言葉は轟くんなりの嘘……う……そ……?????う…………な、泣いちゃう……
「うっうっ……わだじは好きでず……好ぎでじだ……ズビー」
「いきなりどうした。花粉症か?」
「ありがとな」と律儀に感謝を述べつつ心配してくれる轟くんは優しいなぁ。いやそうじゃなくて、こっちがいきなりどうしただわ。轟くんの一言のせいで混乱のあまり顔面ぐちゃぐちゃなんだわ。
「だって……き、今日はエイプリルフールだから……」
「そうだな。おまえこういうイベント好きだから、俺も何かしようと思って」
ほらやっぱりエイプリルフール〜〜〜〜〜〜〜〜さっきのはエイプリルフールの嘘〜〜〜〜〜〜〜〜〜辛い死にたい消えてしまいたい。なんでわざわざそんな嘘ついてまで……私を殺すためか……
「色々考えてみたんだが、嘘を考えるってのも難しいもんだな。どうやったらおまえが喜ぶか考えてるうちに、嘘をつくより直接伝えた方がいいんじゃねえかって思った」
……ん?
「普段あんま言わねぇし……けど……」
んんん???流れ変わったな?
「……改めて口にすると、照れる、な」
「ファッ」
轟くんの赤面に私は死んだ。

鶴丸 (2020/03/23)

雪が降る。人工物の紛い物。この空間を織り成すもの全ては人工物だが、審神者はこの雪景色を愛でていた。それが今、赤く血塗られている。喧騒、怒号、崩壊の音が本丸中に広がっていた。本丸の奥、まだ喧騒の届ききらない執務室には手負いの審神者、それを守るように扉の前に立つ鶴丸国永。
「私も焼きが回ったものだ。折れた刀が戻ってくるなどありえないというのに……同胞の骸から転移装置を奪うとは」
「反省は後だ、今はこの状況を……くっ、火の手が上がったか……!」
「鶴丸、早く逃げなさい。ここもいずれは飲まれるでしょう。いや、遡行軍が来る方が早いか」
「は、そうは行かないぜ主。何が来ようとここは死守する。君だけは必ず守り抜いて見せる!」
「分かってくれ、私を守った所で何も残らない。この力は最早失われつつある」
「それがなんだ、力を失おうが君は俺の主だ! 君に従い敵を屠る、それが俺達の役目だろう!」
「鶴丸……このまま私に付き従ったとて、おまえの傷を癒してやることも出来ないんだ。このままでは、共に潰えるだけだ」
「そんなことさせるものか! ああ、無様に死に晒すなんて、驚きに欠けるだろう? 必ずだ、必ず生かしてみせる! 君だけでも必ず……!」
「――鶴丸」
「だから主、こ――、な、に?」
どずりと鈍い衝撃がして、鶴丸は己の脇腹に視線を落とす。そこに深々と突き刺さるのは審神者が手にした小刀だった。しかし痛みはなく、傷口から血が溢れることも無い。
「おまえだけでも、生き延びてくれ」
「ある、じ、これは……この刀は!」
刀はずぶずぶと鶴丸の中へ沈み、その肉体に溶け込む。すると鶴丸の内から活力が漲り、体についた傷跡もみるみるうちに癒えていく。
「私の最後の力だ、受け取ってくれ……政府の、元へ……この事態を、伝えて……そして……何処か…、別の審神者の、元へ――」
手を離した審神者がふらりと傾く。最期に微笑んでみせて、ゆっくりとその目蓋を閉じる。
「――ダメ、だ」
瞬間、時空が歪む。人工的に生み出された亜空間に存在する本丸の全てが歪曲する。鶴丸の眼前で執務室が閉ざされ、光も、音も、空気も、全てを遮断する。
「あ……ぐ……あ、ああああああああぁぁぁああああああ!!」
叫んでいるのは、捻じ曲げているのは、鶴丸。全身から迸る力が執務室に注がれる。自分の全てを壊しても、この空間を、残った仲間を犠牲にしても、この内側だけは終わらせまいと。亜空間は崩壊し、襲い来る遡行軍も、本丸も、全てが砕け散った。僅かに残る正常な場所、執務室の近辺だけは雪が降り続いている。
「ここで終わるだなんて、驚きが足りないな主。必ず甦らせる、どんな手を使っても必ず……だから、待っていてくれ、必ず此処に戻ってくる」
莫大な力を放った鶴丸の体は、不思議と傷一つなかった。内側に残った一人分の温もりだけを抱きしめて、鶴丸は踵を返す。残された扉に、ただ雪が降り積もってゆく。
---
短編の国永の話。

鶴丸 (2020/03/07)

ここはとある本丸、その中庭。
つるりとなめらかに磨きあげられた巨大な石の上に、これまた大きな台座が設置されている。その上に大の大人が数人は乗れそうな大きさだが、今は何も無い。四方に立てられた灯篭と、何かの生き物を象った石像。刀剣男士が転移するための陣だ。
突如光を帯びる台座。面を這うように円形を元にした紋様が現れ、光はみるみるうちに強くなる。一際大きく輝いた刹那、辺りは白に包まれた。直後発生した旋風と共に靄が辺りを包み込み、視界が遮られる。やがて晴れた台座、その中心に、いつの間にか複数の人影が在った。

「主!」

手前に立った長髪の男――和泉守兼定が鋭い声で呼ぶと、庭の隣の建物が俄に騒がしくなる。ぱたぱたと軽い足音を立てて現れたのは一人の女性。この本丸の主の姿だった。彼等の姿を認めると、早口で和泉守と言葉を交わす。

「全員無事? 揃ってる?」

「ああ、第二部隊、全員帰投だ! で、主、こいつを頼む」

「その刀ね、報告の刀剣男士というのは――」

和泉守が抱える人物――報告によると刀剣男士に視線を移した途端、その言葉は途切れた。
一瞬止まった後、審神者はそろりと腕を伸ばす。和泉守に抱えられた男の乱れた衣服、頭にかかった布を払うと、土と血に汚れた白髪が現れた。

「つ……鶴丸国永?」

「呼んだか?」

恐る恐る吐き出された言葉を拾ったのは、屋敷からひょっこり現れたこの本丸の鶴丸だった。

***

場所が変わって屋内、本丸の手入れ部屋。
頬杖をついてむくれ面をしている鶴丸がじっとりと見つめる先には、もう一振の鶴丸国永を甲斐甲斐しく手当てをする審神者がいた。

「第二部隊の出陣先で破壊仕掛けの刀剣男士を発見して、拾ってくるように指示してみればそれが他所の俺だった、と」

尖らせた唇で器用に述べる鶴丸に見向きもせず、せっせと手を動かしていた審神者は、包帯を巻き終えたところで漸く振り返った。

「説明どうも、肉体の方は手当てしたから布団に寝かせてくれる?」

「……了解」

渋々指示通りに動く鶴丸。
その背中からあからさまな不満が滲み出ているので、審神者は軽く首を振った。

「なにを膨れてるの」

「俺の時は君、あんなに甲斐甲斐しく手当なんざしないじゃないか」

「貴方はあんな大怪我負ったことないでしょう」

「怪我の度合いの話じゃないぜ。ほら君、それだ!」

布団に寝かされた鶴丸国永。
その上に掛け布団をそろりと掛けた審神者は、苦しげに眉を寄せる鶴丸国永の顔に掛かった髪を流してやった。
その相手を慮った手つきを鶴丸が見咎める。

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ボツった短編冒頭。

大包平 (2020/02/14)

ダダダダダ……スパーン!!
「主無事か?!本丸が襲撃され重症だと……!」
「おかえり大包平、遠征ご苦労様」
「ああ、ただいま戻った……じゃない!大怪我を負った、と……?……負っていないな」
「うん、襲撃はないし、怪我は軽い火傷くらいだよ」
「そ、そうか……いや待て火傷だと?そういえば此処への道すがら、厨がやけに騒々しかった……ハッ、貴様まさか厨に立ったのか?!」
「あははーご明察」
「なっ、非番の連中は何をしていた!誰も止めなかったのか?!」
「皆が出払ってるタイミングを見計らって使ったからね。いやー畑から光忠がすっ飛んできた時は驚いたよ」
「くっ……久方ぶりの長期遠征だと思えば、裏にこんな策略が潜んでいたとは」
「あっはっは、溶かして固めるくらいだから大丈夫だと思って。なんで爆発したんだろ」
「反省しているのか!お前は火を扱ってはいけない星の元に生を受けたのだと何度も言われただろう!……はぁ、今回は俺の監督不行届だ。だがこれからはそうはいかんぞ、覚悟しろ主……!」
「そんな大袈裟な」
「大袈裟であるものか!この俺が顕現した直後に本丸を火の海に仕掛けたことを忘れていないぞ」
「うーんそれを言われると耳に痛い。分かったよ、今後はキッチンに立つのはやめます。本丸食事担当の悲しそうな顔も見ちゃったしね……でも残念……いや、なんでもないよ」
「む……何故そうまでして厨に立とうなどと思った?」
「何故ってきみ、今日はバレンタインだぜ?日頃の感謝や中々言えない想いなんかを贈り物に乗せる日だ。この本丸にいる女も私だけだし、きみらには感謝してもし足りないくらいなんだから。いや……結果的に皆に迷惑を掛けてしまった訳だし、手作りなんて見栄を張らずに市販品にすればよかったさ。材料もお詫びとして食事担当と駆けつけた刀達に渡してしまったし……手元に残したのはこれだけさ」
「む?」
「いつもお世話になってる近侍に、はい」
「…………フン、受け取れんな」
「なにをう」
「理由は分かった。その上で言う、俺の主ならば一度始めた事は最後までやり通すがいい!」
「ほう?」
「だが安心しろ、材料集め、食材加工、包装に至るまでその全てをこの大包平が介助してやる。特に火器は俺が扱ういいな絶対だ!その末に完成した品を謹んで受け取ろう。ただしそれはこちらも同じだ。俺がお前の介助をする即ち俺が作るも同然。ならばその菓子をお前が受け取るのもまた道理ということだ、分かったか主!」
「……あー……つまり、きみが手伝ってくれるから今から作り直せと。で、日頃の感謝の贈り物というなら、大包平から私へも大いにありなので、一緒に作った完成品を贈り合いたいと」
「ぐ……ぬ……簡潔に言えば……そうだ」
「ふふ、分かった。そこまで言われちゃやるっきゃないな。さーてまずは……光忠に頭を下げるところからかな……」
「この大包平に頭を下げさせるのはお前くらいだぞ主……」
「いやーいつも悪いね、私の近侍」

鶴丸 (2020/01/14)

なあ主、君がここにやってきたのは、今から数十年前のこの日だったな。幼子の君が初めて俺の目の前に現れた時にゃ、それはそれは驚いたもんだが、それからの本丸での暮らしは更に驚きの連続だった。歩くことも覚束無い君はみるみるうちに大きくなって、その度に新鮮な驚きをもたらしてくれた。
昔に比べれば、君もすっかり落ち着いたな。それでも不思議と退屈ではないんだ。君の傍は穏やかで、ただこの時が愛おしい。ジジくさいって?はは、言うじゃないか。
……君、この先も、俺を傍に置いてくれるか。君となら、何処までも共に行ける。いや、今の俺には、君と共にあることしか考えられない。
だからどうか、そのすっかり細くなってしまった皺だらけの指が力尽きるまで。最期まで、共に。
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周年記念。

轟 (2019/11/17)

「ネコチャンになりたい」
「どうした急に」
「急じゃないです轟くん、君が超プリティーベイベーキュートな毛玉ちゃんをそのお膝に抱えてから小一時間は経過しました。畜生の分際で轟くんの膝を占領するとはなんたる身勝手おこがましさ自由の権化可愛いな畜生畜生だけに轟くんとネコチャンという組み合わせが可愛すぎるわそんなんずるいわ写真撮っていいですか」
「……おお」
「(パシャー)いいですよねネコチャンは(パシャー)その愛らしいフォルムゆえに誰にだって体を許しても許容されるのですから(パシャー)この寒い時期はよくすり寄ってきますけど轟くんは特になつかれてますよね(パシャー)やっぱり個性の影響でしょうか(パシャー)可愛いな〜うらやましいな〜どっちもな〜」
「……」
「(奇行過ぎて引かれた)そろそろ体も冷えてきましたし先に戻りますね…」
「待て、寒ぃならもっとくっつけばいいだろ」
「……ほぉん??」
「要は俺にくっつきたいってことじゃねぇのか、おまえ?」
「ハッ?あ、いや、それはそうですねモチロン」
「ほら(ポンポン)」
「アッ!?オッ!?待ってヤバい急に来られると無理ですヤバいごめんなさいヤバいヤバいアァァアーーーー!!」
「どうしてぇんだ……」

大包平 (2019/03/03)

「あかりをつけましょフンフフフーン。はいこれお雛様だから一番上」
「任された。……主はこのような衣に興味あるのか?」
「興味……と言われると、んん、まあなくはないです。人生に一度くらいは着てみたいかも?」
「フン、随分豪奢な着物だが……この大包平の主とあらば、衣に負けているようでは務まらんな」
「はあ……」
「なんだその微妙な反応は!俺に不満でもあるのか?」
「不満というか、褒めてるんだか貶してるんだか分からないようなこと言うから。はいこれ三人官女」
「な、貶めるなどあるものか!お前は俺の主だ、他でもない俺が認めている!」
「はあ、それは一応褒めてるってこと?んで結局何が言いたいのさ。はい次五人囃子」
「……」
「右大臣と左大臣……あれどっちがどっちだっけ」
「……貸せ」
「ありがとー。あとは下の段と……飾りを……」
「……」
「出来た、いやー立派立派、君の背が高くて助かったよ。さーて乱ちゃん呼んでこよっかな」
「待て、問うておいてそのまま去る気か?!」
「あー……で、何だって?」
「……お、お前がこのように着飾るのなら、この俺に劣らぬ美しさだろう。その隣に並び立つのも悪くはない」
「……んふふふ、着てほしいってんならそう言いなよ。まあ着ないけど重そうだし」
「貴様、俺に此処まで言わせておきながら!」
「はっはっは、機会があれば検討します」

爆豪 (2019/02/14)

「どわーなんだこのダンボールの山?!」
「バレンタインのチョコぉ?!」
「数日前から少しずつ届いてはいたが……当日にこれ程来るとは」
「轟焦凍様……爆豪勝己様……轟……爆豪……轟って体育祭の影響すげぇな」
「オイラ宛もあるか?!」
「爆豪、このダンボール全部お前宛てみてぇだぞ」
「ケッ知るか」
「オイオイ女子からの気持ちを無視すんなっ……て俺宛だー!!ッシャア!!」
「オイラは……?」
「……、……」
「うお!ここで開けんなって、ダンボールごと部屋持ってけっ……て?」
「……」
「一つだけ取り出して……」
「やる」
「残ったダンボールを峰田に放り投げて……行っちまった……」
「あれだ、例の彼女からのやつだろ」
「ッカー、一途だなぁオイ!!」
「クソ、施しなんてオイラは……オイラは……ありがとうございますチョコぉ!!」

轟 (2018/11/26)

「俺は吸血鬼ショート。おまえは毎日のデスクワークに疲弊したOL。サービス残業でこんな時間に一人帰路に着いたのが運の尽きだ。大人しく俺に血を吸われろ」
「状況説明ありがとう!助けてー暴漢ー!!」
「吸血鬼だ。暴れなけりゃ注射みてぇなもん……ガヅッッ」
「えっ」
「……硬ぇ、牙が通らねぇ」
「わお……」
毎日のデスクワークで凝りに凝った肩のお陰で助かった。嬉しいような悲しいような。

轟 (2018/11/18)

せっかく轟くんと一緒にやって来たiアイランドだったのにヴィランのせいでめちゃくちゃになった。雄英の皆となんとか掌握されたセキュリティシステムを解除して、ヴィランの親玉はオールマイトがやっつけてくれたけど……ドレスもビリビリだ。レンタルだったのにどうしよう……
ふわりと肩に何かが掛かった。このグレーのジャケットは、轟くんが着ていたものだ。
「ありがとう轟く……おわぁ!」
振り返ったら半裸の轟くんが立っていた。中に着ていたシャツは"個性"でボロボロになったらしい。轟くんの鍛え抜かれた見事な腹筋が朝日に照らされて煌めいてあばばばば。
「ここここれは轟くんが着たほうが良いと思うな!!」
「お」
慌てて着せてもらったばかりのジャケットを突き返した。しかし素肌の上からジャケットを羽織った轟くんが爆誕してそれはそれで大変だった。

長義 (2018/11/15)

「この本丸の山姥切は、俺ではなくあの偽物だというのか……」
「いやまんばちゃんは偽物じゃないよ写しだよ。というか山姥切国広のこと呼ぶにはまんばちゃんが手っ取り早いんだよ、国広ったって初期実装時点で三振りいたしうち一振りが既に相棒から国広って呼ばれてるし分かりにくいじゃんフルネームは長いし」
「そういうメタな話ではなく」
「せやな」

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でも何処かの本丸では山姥切国広より山姥切長義が先に実装されてるのかもしれない。それはそれで考えると地獄。

轟 (2018/11/14)

「それなんだ?手に持ってる丸い……」
「え?アイス、食べたことない?」
「ああ」
「じゃーあげる、美味しいよ。もう一個取ってくるからハイ」
「お……どうやって食うんだ」
「端っこをちょってやってちょこちょこ食べるんだよ」
「……」
「(丸いアイスチマチマ食べてる轟くん可愛いな)あ、それ最後の方になると溶けて一気に出てくるから……」
「ん゛うっ」
「(言ったそばから爆発した)大丈夫轟く……」
「溢れちまった……」
「(轟くんの赤い舌の上に乗った白濁した液体が唇を伝って手の平に零れ……)……ふん゛っっ!!」
「!?」
「いやちょっと煩悩を祓おうと」
「そうか……鼻血出てるぞ」
「これ煩悩だから大丈夫(?) ティッシュ取ってくるね」

轟 (2018/11/06)

発端はヒーロー達が集うパーティ会場だった。久しぶりの顔ぶれに頬を綻ばせ、近況から世間話まで様々な話に花咲かせた。そんな中でも気になったのはあの二人。高校時代から近いような遠いような微妙な距離感で双方からちょくちょく相談されていたものだ。卒業してから中々顔を合わす機会もなかったらしく、久しぶりに会った彼等は酷くぎこちなかった。いつもマイペースな幼馴染の恋愛相談なんてだけでも驚きだったのに、今の彼は更に珍しく挙動不審だ。折角再会出来たのだし背中を押してやろうかと考えた時、事件は起こった。
あの子には許嫁がいた。それをパーティ会場で聞いた時、幼馴染の顔からすっと血の気が引いたのを見た。会話を終えてあの子から離れた幼馴染の肩を叩いて美味しいワインを勧めてみたけれど、手に取るだけで口を付けようとはしなかった。憔悴しきった姿を見て、ふと横切った気持ちにぶんぶんと顔を振る。励ますために、久しぶりの面子と会話しようよと腕を引っ張ったとき、突然パーティ会場が吹き飛んだ。
事件だった。あの子が攫われた。武装集団が会場に雪崩込み、ヒーロー達をあっと言う間に取り囲んだ。鈍色の銃口を向けられた時、絶対絶命だと思った。けれどあっと驚くような方法で、ヒーロー達はピンチを切り抜けてしまった。沢山の襲い来るロボットを薙ぎ倒し、群がるヴィランを吹き飛ばし、人質の保護もスマートに、あっと言う間に主犯のヴィランを追い詰めた。攫われたあの子だってヒーロー、ただ捕まっているだけじゃない。追い詰められて自棄になったヴィランがマシンを暴走させようとしたところ、瞬時に拘束を解いてマシンを無力化した。その鮮やかさたるや、戦場に咲く可憐な花のようだった。
けれど――ヴィランはもうひとつ兵器を隠し持っていた。事件が解決したと気が緩んだ瞬間、ヴィランが高く掲げた手の中には小型の爆弾。反応に遅れた私達の中で、唯一飛び出したのは幼馴染。爆風に霞むあの子に向かって腕を伸ばして、二人は黒煙の中に消えた。
それから――
会場を襲ったヴィランは元A組のヒーロー達によって倒され、攫われたあの子も無事に脱出した。死者もなく、負傷者も最小限に抑えられた。ヴィランのせいで台無しになったパーティが再び催されて、大いに盛り上がった喧騒の中、そっと抜け出した影。それに気付いたのは、私ともう一人。
「追いかけないの?」
壁の花になっている彼に声を掛ける。躊躇する理由は想像出来た。ヴィランと通じていた許嫁が逮捕されて、きっとあの子は少なからず心にダメージを受けている。そんな時に慰めに行くなんて、と考えているんだろう。でも私には、ずっと傍で二人を見てきた私には分かる。
「馬鹿、あの子は轟を待ってるんだから」
だから行ってきなよと背中を押す。
「昔っから二人とも鈍感すぎて、見てるこっちが疲れるよ」
大袈裟に肩を竦めてみせると、幼馴染は、轟は、少しだけ眉を下げて、それからまっすぐ前を向いた。高校の頃は首を傾げてばかりだったくせに、随分と大人になったものだ。自分の気持ちも相手の気持ちも受け止められる大人に。
ありがとな、と残して轟は走り去った。スーツを翻し、浜辺で一人佇むあの子の元へと行くのだろう。あの二人なら大丈夫だ、きっとどんな困難も乗り越えた素敵な関係になる。ああ、それはとても素晴らしいことだ。
「さよなら、轟」
だから、私の目から零れ落ちる涙も、すぐに止まる。

爆豪 (2018/10/10)

「ヴァッ?!か、かっちゃん泣い……泣いてます??」
「……うっせ、ズビッ」
泣いてねえと鼻声でぼやきながらかっちゃんは目元を乱暴に擦った。いやいや泣いてますやん……ええ……意外すぎてどうしていいのか分からない。
我々はレンタルしてきた映画を見終わったところである。実話を元にしたヒーロー映画、年老いた老人が自身の過去を語るところから始まる。彼が経験した壮絶なヴィランとの戦い、その中で育まれる恋人との愛、そして物語終盤で明かされる衝撃の真実……それを受けて尚ヒーローとして立ち向かう主人公、そして語り終わった老人は最後に微笑み、眠るように生を終える、といった具合の話だ。アクションシーンはド派手で爽快、運命に絡め取られた登場人物達の織り成すストーリーも重厚で、静と動のメリハリも素晴らしく、何よりそれを全て背負ってきた老人の背中が感動を誘う。私も何度か涙腺が緩んだ。緩んだけれども、隣でぐずついてるかっちゃんを見た瞬間涙が引っ込んでしまった。映画なんてアホらしいとか鼻であしらわれると思ったのに。実際観るまでにめんどくせぇとか散々悪態は付かれたけど。
はあーでもそっか、かっちゃんにとってヒーローってのはリアルな目標だもんな。オールマイトという憧れを失って、その時の気持ちも思い出させてしまったかもしれない。うーん、話題作で面白そうってチョイスしたものだったけど悪いことしたかな。申し訳ないと視線を送ってみる。
「ジロジロみんなや」
うん、べそかきながらも元気だから悪いって程じゃなさそうだ。それにしても……泣き顔珍しいアンド可愛い。やだ……かっちゃん可愛い……
「ごめんねかっちゃん……涙が止まるまで胸を貸そう」
「いらんわ死ね」
ヘイカモーンと両手を広げたポーズを取るもあしらわれてしまった。思いっきりそっぽ向いたかっちゃんの背中を、行き場を無くした両腕でホールドした。振り払われなかったからそのままでいいってことだ。よしよし。

元就 (2018/10/09)

10月31日、それはハロウィンの日だ。
浮ついた雰囲気に流されるままに、高校生である私達はよく連むメンバーで集まってハロウィンパーティを開くことにした。各々が仮装をして会場に集合してお菓子を頬張り談笑し賑やかな夜を過ごしている中、私は考える。
ハロウィンにおける最大の楽しみといえば、「トリックオアトリート」につきる。
お菓子をくれなきゃイタズラするぞ。とんだ脅迫文だけどハロウィンではこれが罷り通るのだ。ネット上の漫画とか小説とかでお菓子がなくて男に迫られる女の展開とか、よく見たことがあると思う。
ここで、今回のパーティには普段からそういう集まりに全くのらない元就君が、無理矢理巻き込まれる形で参加するということを知ってほしい。元親くんと鶴ちゃんに両脇を拘束されて半ば引きづられる形で玄関を潜ったのを遠目から確認している。
これはまたとないチャンスなのだ。
普段から元就くんに口で負け頭で負け体力ですらも負け負けな私が、元就くんに一矢報いることが出来るかもしれない。
イベント嫌いな元就くんは、ハロウィンだからってお菓子なんて持ってこないだろう。しかも無理矢理連れて来られては尚更準備しているはずがない。
部屋の隅でイライラしている元就くんの前に颯爽と現れ、言ってやるのだ「トリックオアトリート」と。ハロウィンにおいてこの呪文は絶対的な効果を持つ。元就くんがお菓子を持っていない限り、私は彼にイタズラの限りを尽くすことが出来るのだ。この日のためにあらゆるイタズラを考えてきた。積年の恨み…今晴らさん!
***
さて、この部屋の中に元就くんがいる。帰ろうとすれば全力で止めに来る高校生達が鬱陶しくて帰るに帰れない、けれど祭りへの参加を断固拒否している元就君は、この部屋で一人さみしく過ごしているはずだ。
扉を開けたらどんな反応するだろう。とりあえず睨まれるかな。鬱陶しいって顔されるな、うん。でも、私がトリックオアトリートって言ったらどうするかな。びっくりするかな?呆れるかな?慌てた顔なんて見れた日にゃ、一生ネタにしてやるんだから!
よし、ノブに手を掛けて…めいいっぱい引いた!
「元就くん、トリックオ…おおおおお?!」
扉を開けた途端緑の発光する何かが迫ってきて身体に巻き付いて尚且つ踏み入れた足元で謎の仕掛けがビリビリしてそれが爆発した瞬間現れた緑色の宙に浮いた丸い壁に挟まれてビタンビタンしてたら元就くんの影が見えて咄嗟に手を伸ばしたら触れた瞬間それが爆発した。私は死んだ。嘘、死んではいないけどボロ雑巾のように床に落ちた。
そしてその頭を踏みにじる足が一本。
「貴様程度の考えなど、読めぬと思うか」
この声もこの足も、元就くんのもの。
元就くんは私の企みなんてまるっとお見通しだったわけだ。床と足に挟まれた私の顔の前に、個包装の飴玉が落ちてきた。
「先に手を出したが、聞くまでもなかろう。貴様は己が被る事まで頭が回らぬからな」
…えーっとつまり、トリックオアトリートと呪文を唱える前にイタズラを実行したが、お前は自分が尋ねられた時の為にお菓子の用意なんてしていないだろう、と言いたいらしい。さっきのアレがイタズラだと。イタズラって言うほど優しいものじゃなかった気がするんだけど。
いやでも確かに、私は元就くんにあげるためのお菓子なんて持ってない。パーティ会場に山程用意してあるんだから、わざわざ持ってくる必要はなかったのだ。それにひきかえ元就くんはお菓子の準備はちゃんとしていて、さらには元ネタはよくわからないけど全身緑の甲冑に身を包み仮装までしている。これで私が「仮装してないからトリックオアトリートは無効だ」と文句を言うのも防いでいる。元々参加する気はさらさらなかったはずだけど、参加するはめになってしまったときのことも抜け目なく考えていたのか。不貞腐れて引きこもっていたわけじゃなくて、この部屋で準備していたのだ。仮装と、私が来たときのイタズラを。…完敗だ。
私が意気消沈したのを察してか、ようやく元就くんが足を退けたので、埃を払って起き上がる。
「気は済んだか。毎度毎度飽きもせぬものよ。貴様の祭り好きは理解出来ぬ」
いつもの悪態は笑って受け流して、改めて元就くんの仮装姿を眺める。長細い兜と大きな肩当。見れば見るほど変わった姿だけれど、不思議と元就君に良く似合っていた。
イタズラという名の復讐は失敗したけれど、元就君は仮装してるしお菓子をくれたし、トリックオアトリートだってしてくれたし、なんやかんやで一緒にイベントを楽しめているんじゃないだろうか。
「ね、元就君。一緒に広間に行こうよ」
「貴様は阿呆か。我が何故この部屋におると思う」
「…私を迎撃する為?」
「貴様のみに限らぬ。馴れ馴れしい鬼や姦しい巫供が来ようとも、彼奴等と共に騒がしい祭に身を投じようとは思わぬ」
つまり、この部屋でぼっちがいいと。
「んー…じゃあ私もここにいるよ!せっかくのハロウィンだし、元就君と一緒に過ごしたいな」
「阿呆め。貴様が居れば我が静謐なぞ尽く葬られるわ。さっさと居ぬがよい」
阿呆って二回も言われた。
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数年前から眠っていた書きかけのハロウィンネタ。
ハロウィンも近いのでお蔵出し。オクラだし。

轟 (2018/09/11)

季節の変わり目は体調を崩しやすいとは言うが、こうもあっさり風邪を引くとは。体調管理も仕事の内、こんなんでヒーローなんてやって行けるのだろうか。
「ゆっくり寝とけ」
「ごめんね轟くん……ズビズバー」
体温計を見て冷えピタを貼り替えてくれた轟くんの優しさは、弱った心にほろりと効く。
「食欲はあるか?」
「あんまりないけど……何か口に入れときたいかな」
「分かった」
「ちょっと待ってろ」と一言残して轟くんはキッチンに消えた。傍にいないだけでなんだか心細い。風邪ってのはつくづく厄介……
どんがらがっしゃーん!!!
「?!」
ばぎゃん。ジジジ……ボン!!ガチャーン!!!チャリンチャリン……
「ななななにごと?!」
何が起きたヴィラン襲来?!しょんもりしている場合ではない。体調不良も押し退けてベッドから飛び上がった。
「轟くん何が……ゴッホゲホォ!!焦げくさ!!煙たいっ?!」
「どうした。風邪引いてんだからちゃんと寝てろ」
「いやそっちこそどうした?!いつからキッチンはキャンプファイヤーになった?!」
轟くんは爆発にでも巻き込まれたのかという出で立ちで火災現場の中心地に立っていた。片手には鍋、片手には卵のカラだったもの。どちらも消し炭になっている。黒煙巻き起こるキッチンはまるで戦場だった。いやキッチンを戦場と例えることもあるけどここは料理漫画ではない。
「卵がゆってあんだろ。あれでも作ろうと思ったんだが、どのボタン押しても火が出ねえんだ」
慣れない料理器具と格闘した轟くんは電子レンジを爆発させ、コンロを炎上させ、キッチンを火の海と化した。どうしてそうなった。
色々言いたいことはあるが。
「……そのコンロIH」
「あいえいち?」
はてと首を傾げる轟くんは、暫くキッチン出入り禁止にしよう。

轟 (2018/09/10)

「へっへっへ…ガスが効いてきたようだな」
「な、体の力が…」
「このガスはなぁ全身の力は愚か"個性"すら封じる特殊ガスなのさ…勿論おじさんには効かないぜへっへっへ」
「や、やめて…」
「ふひひ、そんな怯えた目をして可愛いじゃねえか」
「やめろ…そいつに手ェ出すな…!」
「ひひひ…勇敢な台詞だなぁ流石は雄英生。だがおまえはそこで指をくわえてるんだな…」
「い、いや…」
「クソッ動け、動け!!」
「うえへへへ…」
「や……

やめて!!!!轟くんに手を出さないで!!!!!!」
「は?」
「は?」
「いくら轟くんが可愛いからって!15歳のふわふわほっぺとすべすべお肌とあどけなさの残る顔をしてるからって!切れ長の涼しげな目もとにほのかに色気を感じるからって!苦しげに寄せられた眉と無造作に乱れた髪が欲情を誘うからって!日々の特訓で鍛えられた筋肉としかしまだ幼く不安定さも残る未完成な体が力無く晒されてるからって!そんな乱暴するなんて!!エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!!!」
「いや、おじさんの狙いはお嬢ちゃん……」
「ハア??!!!!?!こんな轟焦凍を前に手ぇ出さないとか目ん玉腐ってんのか?!?!!??!??!!おまえはそれでもモブおじさんかオオン????!!!!??!!!?!?!」
「ええ……」

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夢主=あなたなりオリキャラなり男主成り代わり動物傍観友情なんでも可能性が無限大のこの世界で僕はモブおじさんにだってなれる
※この話は轟くん×夢主←モブおじさんです

轟 (2018/08/25)

私の村に昔から伝わるお話。小さい頃から親に聞かされ、村に住んでいる人なら誰もが知っている。村の墓地を抜けた先、小高い丘に立つ古城に、恐ろしい吸血鬼が住んでいる。乙女の血を求め夜な夜な森の向こうの街へ繰り出し、ひっそりと攫っている。何があっても近付いてはいけないと言い聞かせてくれた母の言葉を思い返しながら、私は土砂降りの中走っていた。急に崩れた天気に翻弄され、森を抜けて村への道を走る。ダメだ、この視界では道も満足に見えない。それに暗くなってきた。夜になると獣が出る。それまでにどこかへ避難しないと……
気が付けば、小高い丘の上にいた。雨で霞む中、大きな古城のシルエットが浮かび上がる。それ以外、麓の墓地も村の門も見えない。やむを得ない。生唾を呑んで、開いたままの門をくぐった。大きな庭は荒れ放題、あちらこちらに薔薇がツルを伸ばしている。歩きづらい庭を突き抜けて、大きな扉の前にやってきた。恐る恐る押してみるとサイズの割にすんなり開き、ぎいいと不気味な音を立てる。
「ごめんくださーい……」
中に広がるのは巨大な玄関ホール。正面に備わった階段の上には、これまた巨大な肖像画が掛けられている。が、ズタズタに引き裂かれていてそこに描かれた人物はよく分からない。豪奢なシャンデリア、装飾の細かいランプ、ホールを支える壁のデザインも美しく、想像の通りのお城だった。灯りのない薄暗い室内でも、風がない分外と比べてほのかに暖かい。しかし、人の気配はない。意を決して体を内側に滑り込ませて扉を閉めてみる。雨で冷えきっていた体が、風に煽られなくなってほっと一息……
「誰だ」
つこうとした喉がひゅうとなった。ホールに響いた男の声。次いでコツコツと鳴る靴音。階段をゆったりと降りてきた人影。手持ち用のランプを掲げて、その男はこちらを見下ろした。
さらりと流れる紅白の髪、涼やかな目元、薄い唇、白い肌。彼がこの屋敷の吸血鬼……?想像していたおどろおどろしい姿とはかけ離れ、ただ色白の青年に見える。驚いて声の出ない私を、左右で色の異なる双眸がじっと見下ろした。
「……!」
睨まれて、動けなくなった。青年に見えるだなんてとんでもない、私のような人間とは比べようのない強大な力を持っていると本能で察した。殺される。いや、血を吸われるかもしれない。何れにせよ彼が動いたその時、私の命が尽きる……そう感じる程の圧だった。
全身が硬直して、どれ程経ったのか。時間にすれば数秒だったのかもしれない。不意に彼が口を開いた。ああ、私はこれで終わるのか。短い人生だった……
「……俺の名は焦凍」
「………………はい?」
耳を疑った。名前?彼の名前を言ったの?かの恐ろしい吸血鬼が、屠るどこか名乗ってきた。訳が分からず口を開ける。
「相手の名を聞く場合は、まず自分から名乗るもんだと聞いたが……」
はてと首を傾げる吸血鬼。
た、確かに彼は最初「誰だ」と尋ねた。不審者を咎める言葉ではなく、名前を聞いたってこと?えっ何それ礼儀正しい……
「えと、私は……と申します」
思わずぺこりとお辞儀をしながら名乗ってしまった。ハッ、もしこれが相手の罠だったらどうしよう。私の名前を知った途端私の全身の自由を奪うとか。身構える私に、彼はまたも言葉を投げかける。
「広い城だが一人で住んでんだ。すぐに気付かなくて悪ィ」
「い、いえこちらこそ突然すみません。雨風が激しくて村まで帰れそうになく……」
って、礼儀正しい!!
突然家に上がり込んできた見知らぬ人間に対して掛ける言葉がこれ!親切か?!
「……そうか」
と、吸血鬼が階段の上から腕を伸ばした。反射的に体がびくりと縮こまる。しかしその腕はこちらには向かず、ホールから続く隣の部屋へと向いた。彼が指を弾くとパチンと子気味良い音が鳴って、突然隣の部屋の暖炉が燃え上がった。
「ひえっ?!」
「雨が止むまでそこで乾かしていけ。一晩経てば雨雲も無くなる」
親切……というか今のはなに?吸血鬼が指パッチンしたら暖炉に火がついた?
「ありがとうございます……貴方は一体」
「? 知らねえのか?」
「えっ……えっと、私の村ではこの城には恐ろしい吸血鬼が住んでるって……」
って本人に言ってどうする。逆上されたらどうしよう。今までの親切は気紛れってことも……
「違うな」
「ち、違うんですか?」
「俺は……悪魔だ」
「悪魔?!」
悪魔の方がヤバくないか?!いや吸血鬼も怖いけど、そうか悪魔だから甘言で油断させようと……?!
「分かったら俺には近付くな。そこは好きに使っていい。俺は上にいるから、上がってくんじゃねえぞ」
それだけ言って、吸血鬼……いや悪魔?は階段を登っていった。正体を明かしてぺろりと喰われるかと思ったけれどそんなこともなく、さっさと引っ込んでしまった。あれがこの屋敷の吸血鬼……いや悪魔……?でも青白い顔や黒いマントは悪魔と言うより吸血鬼と言った方がしっくり来るような……
「おい」
「ひいっ!!」
「体濡れてんだろ、これ使え」
暖炉の傍で暖まっていたら、突然背後から声がした。二階に上がったはずの彼がいつの間にか後ろに立っていて、こちらに白い布を差し出していた。
「あ、ありがとうございます……」
親切か。
おずおずと受け取る。すごいふあふあのタオルだ……
「人間は夜眠るんだろ。その辺のソファでも使え」
彼は夜行性なのか……
「使い魔でも飛ばせばいいんだが、今はあんま力が無くてな。生き血も飲んでねえし」
生き血を飲むのか……
「最近棺桶が傷んできて寝心地悪ィんだ。NPが回復仕切らねぇ」
棺桶で寝てるのか……
「朝になったら勝手に出て行っていい。俺は日光に弱いんでな」
「……やっぱり吸血鬼なのでは?」

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轟くんで吸血鬼パロ。
なんか色々あって夢主と交流するもなんか色々あって城に人間が押し寄せてなんか色々あって死にかけた末なんか色々あって駆け落ちする感じのなんか色々あるアレ。
気力があればもっとちゃんと形にしたいが……

上鳴 (2018/08/21)

「Oh…」
作りすぎた。元々実家暮らしで共働きの両親に代わりご飯の準備をしていたのだが、寮生活するようになって初めての自炊、分量がわからず案の定作りすぎてしまった。どうしようこの鍋から溢れんばかりの肉じゃが。ハンバーグも馬鹿みたいに沢山作ってしまった。おすそ分けしようにもみんなランチラッシュの食堂へ行ってるし、残ってる人もだいたい自分で用意するタイプだ。
「なんか美味そーな臭い……あれ、おまえ?」
「あれ上鳴、食堂は?」
「さっきまで寝てたらよー、置いてかれたわ」
ひどくね?とぼやく上鳴だったがもう時刻は夕方、昼寝にしては長すぎる時間だ。なるほど道理で寝癖が付いてるわけだ。
「あ、じゃあこれ食べる?作りすぎちゃって」
自分ひとりじゃ食べきれないしいいかも、と軽い気持ちで提案すると、片手で寝癖を押さえていた上鳴がめっちゃすごい勢いで迫ってきた。
「えっいいの?いいのマジで?!」
「お、おう……いいよ」
「イヤッホー女子の手料理!!」
そんなにテンション上げられるとちょっと照れる。いいから座っててと手で追い払って、味噌汁の味を整える。ご飯もそろそろ炊ける頃合だろう。おろし金で大根をおろし、ハンバーグの上にかけた。
「……なんかいいな」
テーブルでボケっとしてた上鳴がぼやいた。
「なにが?」
「エプロン姿でキッチンに立つ女子」
「うわぁ」
どこまでも脳みそが茹で上がってる上鳴に呆れつつ、肉じゃがとハンバーグ、味噌汁をテーブルに運ぶ。
「ご飯ももうすぐ炊けるからちょっと待ってて」
「あー……」
突然上鳴が頭を机に突っ伏した。なんだどうした妄想が頂点に達したのか。金髪を見下ろしていると、ちらりと視線を寄越した上鳴の、その頬が真っ赤になっていた。
「今のすっげーキた。なんかお嫁さんっぽくね?」
「は?」
何言ってんだか。というかお嫁さんってなんだその可愛い言い方は、なんかこっちまで恥ずかしくなるわ。
「いいからさっさと食べなさいよ」
「ご飯まだじゃん。てかお前の分は?一緒に食おーぜ」
「そう思うなら手伝いなよ」
ちょうどよくご飯も炊けたし。
まあなんだ、上鳴が美味しそうに食べるので、また作ってやってもいいかなとは思う。今度は最初から手伝ってもらおう。

轟 (2018/08/04)

「おまたせ!もうみんな揃って……る?」
若干名足りない気もするけど、結構な人数が集まってた。エンデヴァーさんに届いた招待状、の代理としてやってきた轟くん、の随伴としてやってきたわけだけど、ドレスなんて初めて着るのでなんだかとてもそわそわする。八百万さんが貸してくれたドレス、サイズが合って良かった。どことは言わないけれど。主にどことは言わないけれど。スーツやドレスに着飾った面々を見渡して、華やかな女の子達に目を輝かせて、ヤラシイ顔をしている峰田くんと上鳴くんをスルーしつつ、ふと轟くんと目が合った。わ、スーツ姿の轟くん、普段とまた雰囲気が違ってドキドキする。
「……」
「……」
………………というか、なんか、めっちゃ視線が刺さる。相も変わらずクールな顔の轟くんがひたすらこちらを見詰めてくるので、だんだん羞恥心が、そう、あの、とても、困る。
「……」
「……ええっと、どうかな?!」
無言の視線に耐えきれず、苦し紛れに口にすると、思い出したように動いた轟くんがひたすら真顔で「すげー可愛い」と言った。
「……アリガトウ」
真っ赤な顔でそれだけ絞り出したら、なんか満足げに頷かれた。なんでや。
周りのみんなが菩薩みたいな顔をしてるので穴を掘って埋まりたくなった。

爆豪 (2018/07/08)

「あ」
明日の授業で小テストがあったはずだ。
今日は実技訓練があってくたくたで、小テストの範囲をうっかりメモし損ねた。同じ階の女子は……今日は二人とも早目に寝てるはずだ。誰かいないか一階まで降りるか、他の階の女子に聞いて回るか。いやーどっちも面倒だ。エレベーターに乗るって行為がもうめんどくさい。
「よし」
ここは文明の利器、スマホの出番だ。タップタップと連絡帳を開いて、ターゲットの電話番号を押す。コール音が何度か響いて、やがてそれが途切れた。
『……おい、今何時だと思ってんだ』
「あれ?もしかして寝てた?」
『寝てた?じゃねーわ』
爆豪の悪態をつく声が元気じゃなくて、ちょっとかすれてる。机の上の時計を見れば、日付は既に変わっていた。
「ごめん爆豪、もうこんな時間だって気付かなかった」
『もういいさっさと要件言え。つまんねーことだと殺すぞ』
「いやー明日の小テストの範囲なんだけどさ、明日?もう今日か。どこだっけ」
『小テストォ?今から詰め込んだとこで無意味だろーが』
「そんなことないよ!今から徹夜でかかればなんとか、多分!」
『……』
電話の向こうであからさまな溜息が聞こえた。それから範囲を教えてくれたけど、ページ数を聞いて目をかっぴらいてしまった。
「そんな範囲広いの!?」
『るせぇ!電話口で叫んでんじゃねえ!!』
爆豪もめっちゃ叫んでるじゃん。とツッコミを入れている場合ではない。今からやっても間に合うか。何せ明日の小テストは私が最も苦手とする科目なのだ。ヤバいぞ私。
「ううー……死ぬ気でやるっきゃないか」
『……んで、それだけか』
「うん、範囲教えてくれてありがと。ごめんね起こしちゃって、おやすみ!」
『……』
爆豪が電話を切らない。もしかしてもう寝てる?
「爆豪?」
『……んだよ』
起きてた。電話越しの爆豪の声がくすぐったくて、ちょっと笑みが零れた。
「いやぁ、なんか不思議だね」
『なにが』
「だって、同じ建物にいるはずなのにさ、電話してるってなんか面白くない?」
『てめーが掛けてきたからだろが』
「そりゃそうだけど。私らの部屋ってお向いさんじゃん、距離で言えばめっちゃ近いのにねー」
『……くだらねー話してんじゃねえ。目ェ冴えた』
「ごめんごめん、じゃあもう切るね」
といって電話を耳から離そうとすると、そこから『待て』と声が聞こえた。
『今から降りてこい』
「ええ、なんで!?」
『目ェ冴えたっつっただろうが!教科書持って降りてこい。てめェ一人で詰め込んだところで無駄足なんだよ』
なんと、学力上位の爆豪様が教えてくださる?
「え、でも私今パジャマ……なんも準備してない」
『いいから来いやァ!寝たら殺す!』
殺意の高い声が鼓膜を貫いて、一方的に切られてしまった。うへえ、とにかく降りなくちゃ。カーディガンと、教科書ノート鉛筆その他……それと、二人で勉強というシチュエーションに緊張しない心。

鶴丸 (2018/05/27)

美しいひとを拾った。正確には、拾ったのは刀だけれど。
野ざらしになっていた抜身の刀を拾い上げると、ボロボロの姿の美しいひとが突然浮かび上がってきたのだ。それがどういう意味なのかは分からないが、そのひとの美しさに奪われてしまった、目も心も何もかも。私はこのひとに会うために生まれてきたのだと思う程。
だから、持ち帰った。
宝のように磨いて、大事に大事にしまい込んだ。暗がりに押し込まれても、美しいひと。どこかへ行こうとするので枷を付けた。元々力が出ない状態だったのだろう、細い四肢は簡単につながった。それでもなお、美しいひと。そのひとは、何もなかった私に生きる意味を与えてくれた。毎日美しいひとのために仕事へ赴き、毎日美しいひとの待つ暗い部屋へと帰った。美しいひと。美しいひと。美しい、美しい、美しい。
あまりにも美しいから気付かなかった。ふと見れば、美しいひとの輝きが失われていた。元々細かった手足がいっとうやせ細り、張りを失った肌は土気色に近い。かさついた唇が弱々しく風の音を立てるのを聞いて、漸く気付いた。
ああ、私はなんてことをしてしまったのか。私は、この美しいひとを、美しいひとを、取り返しのつかないことをしてしまった。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
「謝るくらいなら……この枷をはずしちゃくれないか」
かつての美しさを失いかすれた声でその人が言ったので、焦って枷にしがみつく。もたもたと鍵を差し込み、震える手でなんとか枷をとりはず、
***
「いやはや、驚かせてもらったぜ」
首から噴水のように血を噴き出すそれを見下ろしながら、鶴丸がぼやく。
「しかしこれ以上長居するわけにもいかないんでな。ついでにお前さんの力ももらったぜ、といっても聞こえちゃいないか」
肩を竦める鶴丸の、骨と皮だけの姿はなく、ひと一人分の生命力を取り戻していた。
「……さて、今頃主が探し回ってる頃かねぇ。この姿で再会すると驚いてくれそうだが……ま、取っておくか」
血色の戻った腕で衣を翻すと、盛大に浴びた返り血が衣から滑り落ちた。ばたばたと血だまりに跳ねる滴を気にすることなく、窓へ歩み寄る。そして、死体を一つ残して、鶴は夜闇へ飛び去った。

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現代遠征中にうっかり分断されて主からの供給も絶たれて死にかけていた鶴丸を偶然拾ったサラリーマンの話。

青江 (2018/04/01)

「好きだよ」
それぞれがそれぞれの任務に着いた後、書類整理もひと段落ついて一服していた時、不意に彼が呟いた。のどかな時間に投じられた言葉は、聞き流すにはあまりにも空気を乱す内容で、思わず顔を向けて聞き返してしまった。
「え……?」
お茶にしようと運んでくれた湯呑みを片手に、彼はこちらを見ていた。感情の読み取れない表情で、髪に隠れていない片目がじっと見返している。普段と違う様子に戸惑う私に対して、彼は徐に口を開く。
「好きだよ、主」
先程聞き間違いかと思ったものと同じ内容だった。それは、茶化すにはあまりに真っ直ぐな視線で、その言葉通りに受け取るのなら、つまり。
「……なんてね」
何か返答すべきかと言いあぐねている私に、彼はいつものようににっかりと笑みを浮かべる。
「今日は嘘をついてもいい日なんだろう?」
「え?あっ……エイプリルフール?」
壁に掛けたカレンダーは四月一日。つまり、先ほどの言葉は嘘だということか。彼は普段から意味深な物言いをするけれど、いつになく真剣な顔だったので焦ってしまった。
「も、もう。心臓に悪いんだから」
「ふふ、悪いね」

嘘だとは、一言も言っていないけれどね。

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なんかの理由で刀剣男士と結ばれることのない主と近侍青江。

鶴丸 (2018/03/14)

「主、今日はホワイトデイというんだろう?俺にピッタリの日じゃないか!」
「特に驚きもしない台詞だね」
「はは、そう言うと思ったぜ。さて、今日は一月前の君からの贈り物に返礼をする日だろ?こいつを用意したんだ、受け取ってくれるかい」
「ん、ありがと……これ、紅?」
「そうだ、君の唇に映えると思ってな。早速つけてくれないか」
「え、恥ずかしいな……まあいいけど」
「……」
「……」
「……」
「……はい、どうかな……」
「ああ……驚いたな、想像よりずっと綺麗だ」
「そ、それはどうも……っ?!」
「……驚いたか?」
「な、何するのいきなり」
「どうだい、俺も鶴らしくなったろう?」
「ああ……うん、驚いた。けど、塗ったそばから汚さないでよ」
「すまん……なあ、もう一度いいかい?」
「……ん」

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ホワイトデーってほぼ鶴丸国永の日みたいなもんでしょ(暴論)

鶴丸 (2018/02/14)

放課後、殆どの生徒が帰路につくか部活動に勤しんでいる時間。人のいなくなった教室で、頬杖をついてグラウンドを眺めていた。サッカー部や陸上部がランニングをしている掛け声や、校舎のあちこちから聞こえてくる吹奏楽部の練習音、裏の野球場から届くバットの音。それらを遠くに聞きながら、長いような短いような時間ぼうっとしていた。やがて大きな息を吐いて、重い腰を持ち上げる。いい加減帰ろう。今日はもう、まっすぐ家に向かおう。机の上に置いた学生カバン、その隣には小さな紙袋。中身は、誰かのものになる筈だったもの。いいや、これは自分で食べよう。どうせろくな出来じゃない。荷物を持って出口へ向かおう、というタイミングで、廊下から足音が響く。スタスタと歩く音はこちらに向かって来て、その主は開けっ放しの扉からひょっこり姿を現した。
「よっ。こんな時間にまだ教室にいたとは驚きだな」
白い髪、白い肌に金色の目。見慣れた姿の男子生徒がそこにいた。
「……鶴丸先輩こそ、なんでまだいるんですか」
「いやなに、今日は野暮用が多くてな。用といっても向こうの用件だったんだが」
話しながら教室に入った鶴丸先輩は、両手にたっぷりの紙袋を抱えていた。ああ、今まで色んな女子に呼び出されていたのか。相変わらずの人気具合に心中で溜息をつく。鶴丸先輩はとてもモテる。その見た目はさる事ながら、その性格や運動神経も人気の要因で、イベントの時ならず日頃から女子から告白されている、らしい。本人から聞いたわけではないけれど、そんな噂が立つほど好かれているということだ。
……だから私は、この人が嫌いだ。当たり前のように好かれて、腹が立つ。
そんな心境を知ってか知らずか、鶴丸先輩はニヤッと笑って近付いてきた。
「なあ君、今日が何の日か知ってるだろ?」
そして、わざとらしく私の持つ紙袋を指差した。
「……世間ではバレンタインとか騒いでますね」
鬱陶しいと睨むけれど、先輩は慣れたもんだと笑った。
「そうだな。ところでその紙袋はどうしたんだ、誰かに渡すつもりなんじゃないのか?」
「……」
それは、その通りだ。
あからさまにニコニコしている先輩は、もう既にもらう気でいる。
全く図星、これは鶴丸先輩のために用意したものだ。普段から料理なんてろくにしないのに、何を血迷ったか手作りなんてしてしまった。簡単おいしいと謳い文句の連なるレシピを見ても、出来上がったのは歪な形。味は正直よく分からない。ラッピングだってぐちゃぐちゃで、紙袋から出すのも気が引ける。
対して鶴丸先輩の両腕には、きらびやかな宝石が盛りだくさんだ。市販手作りごちゃ混ぜだけど、可愛らしい包装紙やクルクル巻かれたリボン、透明な袋から見える完璧な球体やハート型が見える。きっとこの日のためにお洒落した可愛い女子が顔を赤らめて渡したのだろう。
ああ、本当に。
「ムカつく」
「ん……?」
「先輩の見た目の良さが腹立ちます」
「お、おお。突然驚いたじぇ……そいつは褒められてるのか?」
「褒めてないです。先輩は、先輩はそりゃモテるでしょうね。カッコイイし何でもできるし愛想もいいし」
「なんだなんだ、怒ってるのか?」
むかむかした気持ちを吐き出すと、先輩は困惑していた。適当にからかって私からチョコを奪取しようとしていただろう鶴丸先輩は、予想外の反応に面食らっているのだろう。知るもんか、大いに困ってしまえ。
「怒ってます。先輩の人気に立腹してるんです。そりゃ先輩はすごいですよ、私だってよく知ってます。でも、そうじゃないんです」
こうやって先輩へ八つ当たりする自分に嫌気がさす。私が怒ってるのは、ちっぽけな自尊心からだ。嫉妬している、先輩の腕に抱えられたチョコレート達に。先輩は悪くないのに、チョコレート達だって、分かってるのに、止まらない。いやだ、頭が変になる。
「なっ、待て、茶化して悪かった」
膨らむ感情が水分となって両目からこぼれ落ちる。情けない、恥ずかしい、馬鹿馬鹿しい、もう理由が分からない。
「うる、さい。先輩のせいですけど口挟まないでください」
「あ、ああ……?」
「私は、先輩の見た目だとか、運動神経がいいからだとか、人気者だからとか、そういうんで好きになったんじゃないんです。先輩といる時間が、楽しくて嬉しいから、だから好きになったのに……先輩がそんなだから、私まで人気者に飛び付いたみたいになるじゃないですか。私が、誰よりも一番先輩のことが好きなのに、そんなにたくさんの想いの中に埋もれるのはいやだ。嫌です。先輩の、馬鹿ぁ」
涙でふやけた視界の中で、鶴丸先輩が頭をかいたのが辛うじて見える。
「あー……その、君、自分が何言ってるか分かってるかい?」
「分かって、ます。かっこ悪くてずびばぜんね」
「……いいや。しかし……なるほどそうか、そこまで言われちゃ俺も応えざるを得ないな」
頭をかいていた手を下ろして、先輩がまっすぐこちらを向く。その目が、ゆっくりと細められる。その顔が、柔らかく微笑んでいる。
「俺は君のチョコが欲しい。それ以外は全部不要だ、今から返しに行ったっていい。謝る、何だってする。だから……どうすれば君の気持ちをもらえる?」
急に優しくなった先輩に、やっぱり腹が立つ。普段はすぐ人をからかってくるくせに、ここぞという時に優しくなるのだから。
「……わざわざ返しに行かなくていいです。あと、今日は先輩の家に行きたいです」
「はは、相変わらず小心者だな君は。いいぜ、君もこいつの処理を手伝ってくれ」
「……めいいっぱい食ってやりますからね」

---
現パロ鶴丸先輩と小心者の後輩のバレンタイン。
ビビって渡せなかったチョコに自分でキレる。
小心者の君は、いつも予想通りのことをする。だが、時折俺の想像もつかないようなことをしでかすから、目が離せないんだ。

大包平 (2018/02/06)

ガラッ。
「うわ、アルコールくさ……ぐえっ」
「あるじぃぃ……お前は認めているんだろうなぁこの俺をぉ」
「重った……重たいっ、なんですかこの大きな子供は」
「はは、飲み比べに誘ったのはそれの方だぞ」
「"天下五剣より先に潰れるわけがない"と豪語していたんだが、見ての通りだ」
「鶯丸さん、見てたんなら止めてくださいよ……」
「なに、たまには酔い潰れるのも悪くないだろ」
「そうさな、主、すまぬが介抱を頼む」
「はいはい、三日月さんも飲みすぎないでくださいね」
「あい分かった」
***
「天下五剣がなんだ、俺は池田輝政に見出されたんだぞぉ」
「はいはい、ほら着いたから離すよ」
「主、おまえはどう思う……ヒック。俺の価値を理解しているか?」
「めんどくさい酔っ払いだなぁ……」
「おまえなら分かるだろぉ、俺が優れた刀だと」
「あーはいはい」
「はぐらかすなぁ!」
「もーなんだってそんなに……」
「……」
「……そんなに見詰めないでほしいなぁ……あー、貴方のことはそうだね、正直に言うと大変面倒くさい」
「な、んだと……?!」
「いちいち言動が高圧的だし、プライドが高いし、隊長にしなかったらすぐ文句言うし」
「ぐ、ぐぬぬぬ」
「細かいことも気にするし、天下五剣と直ぐ張り合うし、毎日訓練して頑張ってるくせに隠すし」
「む?」
「地味なこともよく気付くし、文句を言いつつちゃんと仕事するし、プライドに伴った実力はあるし」
「……」
「それにどんな刀よりも美しい、自慢の近侍刀だよ。まあ、甘えるのが下手なのが欠点かな」
「……ふん、酔っているから聞こえん」
「はいはい」
「酔っているから何度でも言うぞ。俺こそが最も優れたおまえの刀だと」
「はいはい、頼りにしてるよ……大包平」

轟 (2018/01/21)

普段から何考えてるのか分からないクールボーイ轟焦凍に彼女が出来た。出来たというか彼女がいた事実を知ったのが二学期のことだ。残暑厳しい九月の終わり頃に仲良く手を繋いで街中を歩いているのを発見した。轟の右手と彼女の左手がしっかり握られているのを見て、嫉妬と納得が同時に押し寄せたのを覚えている。翌日お前彼女いたのかと興奮気味に問い詰めればさらりと肯定され、イケメンの余裕に追撃を受けた俺は現在に至るまであらゆる手を尽くして可愛い女の子と仲良くなる道を模索したが未だにその成果は無し。イケメン爆発しろ。そして今目の前で再び悪夢が繰り広げられている。轟の後ろ姿、その隣には夏の終わりに見た女の子の姿。轟の左手と彼女の右手がしつかりと繋がって、冷え込んだ外でもアツアツだった。俺は冷えきっていた。傍から見ても二人の仲は良好、妬み嫉みも消え去る程お似合いだった。しかしそっと轟に身を寄せた彼女を見た瞬間その仕草の可愛さにやっぱり妬みが芽生えた。イケメンは駆逐されろ。
あ、つーか彼女轟で暖とってるのか……そういや夏は轟の右側にいたな。轟の個性便利すぎるだろ。
俺の個性でも可愛い女の子寄ってこねーかな。ダメだわダメな方向に妄想したわやめとこ。
---
第三者目線で轟くんで暖を取る彼女の話。

鶴丸 (2018/01/17)

私の祖先は偉大な審神者だった。その頃は我々の力も強く、顕現した刀剣男士は自力で肉体を維持できたという。今やその力は薄れ、魂を形に成すのも難しい有様だ。そんな私達を尻目に、重役という立場も知らんぷりで鶴丸様は今日も颯爽と屋敷を闊歩する。鶴丸様は初代審神者に顕現され、唯一今まで健在の刀剣男士。時間遡行軍との争いは激化する一方で、少しでも強力な刀剣男士を呼び出すために重要な情報源である彼に何かあっては大変なのだ。今日も鶴丸様を探す侍女達の声があちこちから飛んでくる。それをBGMに修行に励む私は、改めて書物に没頭しようとした。
「わっ!」
「わひゃあっ!!」
そのタイミングで机の下から飛び出してきたのは鶴丸様だった。文字通り飛び退いた私を見て、屈託のない笑顔を浮かべている。
「またですか、鶴丸様!」
「ははは、今回も良い驚きっぷりだったぜ!」
からからと笑う鶴丸様に、怒りも呆れもすっ飛んでしまう。鶴丸様は私を驚かせるのがお好きだ。何がそんなに楽しいのか、部屋を抜け出した鶴丸様はしょっちゅう私の部屋へとやってくる。そしてそのまま同然のように机の一辺に腰を下ろすのだ。
「勉強は捗ってるかい?」
「お陰様で、どこまで読んでいたか完全に見失いました」
「はは、すまんすまん」
本の内容もすっ飛んでしまったので、一旦休憩にしよう。本を閉じた私を見て、鶴丸様は待っていたと口を開く。ここ最近毎日のように鶴丸様がやってくるので、こうして休憩しながら言葉を交わすことが多くなった。今日も今日とて何気ない会話を続けているうちに、不意に浮かんだ疑問。
「鶴丸様を顕現なさった審神者……私の祖先は、どのような方でしたか?」
その問いは、単なる興味。私の実力では生み出せない、完全な形の刀剣男士その人に、それを生み出した人物について尋ねてみたくなっただけ。それを聞いた鶴丸様は、ふと遠くを見詰めた。少し目を細めて何かを考えていたのか、やがて口を開く。
「さぁてな、遠い昔のことだ……もう錆びついてしまったよ」
そう言ってはぐらかすように微笑むのだ。

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君の驚き方は主に似ているな。
主の子孫を見守り続ける鶴丸国永。

緑茶 (2017/12/26)

電子の海に溶けてゆく。意識も体も失われていく。それでもまだ、隣に立つ相棒の息遣いは感じていた。
「アーチャー」
「なんです?」
「最後まで、迷惑かけてゴメン。でも、我儘聞いてくれて、ありがとう」
「いいですよ今更、オタクがマスターになった時点で手が掛かるのは目に見えてたわけだし?」
最後の最後まで憎まれ口のアーチャーに、つい苦笑いをする。けれどまあ、らしいといえばらしい。
「ま、最後くらいは、俺も楽しかったですよ」
「……そう……そっか……」
非力な私は、アーチャーに闇討ちさせてここまで勝ち上ってきた。けれど、最後だけは、正々堂々勝負したかった。実力がなくても、勝ち目がなくても、彼とは真正面からぶつかるべきだと思ったから。アーチャーにも無理を言って、真っ向勝負を仕掛けた。元々斥候が得意なサーヴァントだ。堂々と戦うなんて苦手中の苦手なのに、ああ、なのに、隣のアーチャーはどこか晴れやかな顔をしていた。
ついに顔すら崩れて視界が失われた。海の底の暗闇へと誘われる。敗者は然るべき処置を。そこには何も無いのだろうか。
残念だな。今になってやっと気付けたんだ。
アーチャー、君の願いは。

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EXTRAアーチャーのマスター夢主。ダン卿のポジションを奪ってしまったことに気付いて苦悩する夢主と面倒事は勘弁だけど結局マスターに付き合うロビン。CCC通過後FGOの世界にトリップするまで考えたけど収集つかないのでボツ。

爆豪 (2017/12/25)

小さい頃はお遊戯会なんてものがあって、同じ地区に住んでいる子供たちが集まってクリスマスにパーティをしたものだ。
ガキ大将のかっちゃんはそういうところでも発言力があって、しばしば大人達を困らせていたのを覚えてる。そういう時は大体おばさんの雷が落ちてたけど。
小学校を卒業すると、学校では男女で別れて行動するようになって、かっちゃんと喋る機会も自然と減っていった。それでもずっと続けていたのは、毎年クリスマスのプレゼント交換。プレゼントと言っても、安いキーホルダーや手作りクッキーみたいな些細なもので、お遊戯会の延長でなんとなく続けていただけ。それも、受験前になると流石になくなってしまった。
高校は別、しかも雄英は突然寮制度を取り入れたから、この一年かっちゃんとは殆ど会ってない。
もう高校生だし、こういうのはおしまいかな。前にテレビで見たけど、雄英でのかっちゃんは凄く必死で夢に向かっていた。だから、もうおままごとはおしまいだ。私も私の夢を見つけていかなくちゃ。
「おい」
「!? かっ……ちゃん!?」
「るっせアホ」
なんてことだ、かっちゃんがいる。目の前に。相変わらず仏頂面で何故か常時イライラしてそうな顔をして。
ここは私とかっちゃんの中学校までの通学路、ちょうど二人が別れる路地。一昨年までは、ここでプレゼント交換をしてた。
「おい、チンタラしてんなさっさと寄越せ」
「へあ、あ、どうぞ……」
私の抱えていたクッキーを差し出すと、それは乱暴にひったくられる。それから、ずいっと目の前に突き出されたのは、可愛らしい包装紙。
「あ、ありがと」
キーホルダーにしてはちょっと大きくて軽い。
「開けろ」
「へ?」
「いいからさっさと開けろドアホ」
やたらせかされるので、かじかむ手で半ば破くように封を開けると、出てきたのは可愛い手袋だった。私の好きな色で、女の子っぽい模様が付いてる。これをかっちゃんが買ってきたのか。一昨年まではよく分からないキャラクターのキーホルダーだったのに。
その変化に感動してると、渡されたばかりのそれをひったくられ、問答無用ではめられた。
「おまえな、雪降ってる中で待つんならちったぁ防寒しとけ」
こんなに冷たくなってんじゃねえか、とマフラーでくぐもった声。
かっちゃんにはバレバレだった。手袋がちょうどボロくなって捨ててしまったのも、遅くなるまでここで待ってるつもりだったのも。
「……ありがと」
暖かい。かっちゃんが手袋の上から包んでくれてる両手も、体の奥も、ぽかぽかする。
「来年は家で待ってろ」
「迎えに来てくれるの?」
「いちいち聞くな」
「うん……へへ」
「なにニヤついとんだ」

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滑り込みメリー。
ところで本誌で仮免組の話が始まったってマジですかプロット練り直しだワーイ。

三日月 (2017/12/10)

天下五剣、国宝、人間から贈られた数多の称号。美しさと歴史的価値を備えた刀。長い刃生の中で、数多の人間、老若男女問わず褒めそやされてきた。人間の美意識には疎いが、誰もが自身を見て感嘆の声を漏らすのを見れば、己が美しいものだと言うのは理解できる。僅かに埃も舞わない場所に鎮座して多くの人間に向けられる視線を受ければ、自分は美しく価値のある刀だと、嫌という程自覚した。
だが、我が主だけはそうではない。
「戻ったぞ、主」
「おかえりなさい三日月宗近。早速御報告頂けますか?」
「ふむ、そうだな。あの時代にいた遡行軍は3組、いずれも6体で行動を取っていた」
「なるほど、こちらのデータとも一致します。大太刀が多かったようですね。向こうもなりふり構わなくなってきたということか……」
「それで主、今回の……」
「誉は蛍丸ですね。流石です」
「そうかそうか、それは何よりだ」
「……ふふ、まだ気にしてるんですか?」
「あいや、気取られていたか……ははは、どうにも参ったものだ」
図星だ。我が主と数日前、顕現して最初の出陣の際に言われた言葉。
"貴方の価値など知らない"
主にとって刀剣の歴史、美しさは評価の対象外だった。ものの価値に疎い主は、審神者として刀剣男士の"強さ"にのみ惹かれていた。自身の"価値"にあぐらをかいて奢っていたつもりはない。だが、これまでの誰とも異なる視線に戸惑ったのは事実だ。
"貴方が価値あるというのなら、私に分かる尺度で示してください"
主は、数多の人間から受けた賞賛を力として表してみせろと言った。
「なに、すぐに示してみせよう。これでも名のある刀だからな」
「ええ、それは楽しみです」
無知な娘は期待している。何も持たない己が価値を示す時を。それはそれで、面白い。

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この俺にそんな事を言うやつは初めてだお前面白いやつだな、の三日月バージョン。

鶴丸 (2017/12/07)

好きだ。そう言ったら、鶴丸は変な顔をした。
「だって、おかしいぜ君。刀の俺に恋情を抱くなんて」
淡々と言い聞かせるように語る。
ああ、そうなのか。鶴丸にとって私はおかしいのか。でも、この気持ちは本物だ。本当に鶴丸が好きだ。刀とか付喪神とか、そういう問題じゃない。だから、ああ、私、失恋したんだ。
「けどな、ああ、俺もおかしいんだ。その言葉が嬉しくて仕方がない。君の想いを受けたって事が、じわじわと胸を熱くするんだ」
悲壮感に包まれようとした私の耳に、語り続ける鶴丸の言葉が届く。鶴丸はまだ変な顔をしている。それは、言うなれば戸惑っていた。
「俺は刀だ。今まで刀として生きてきた。君は人間だ。俺とは異なる生き物だ。それなのに、どうしてだろう。この気持ちは、なんだ」
今度はこちらがぎょっとした。
淡々とした口調はそのまま、真顔に近い鶴丸の双眸から透明な雫が零れたから。
「好きだ。俺も、君のことが好きだ。一人のひととして、君が愛おしい。長い時の中で、こんな感情は今まで持ち得たこともなかった。ああ……暖かい、な。これは」
頷いて瞬きをして、鶴丸の涙が零れ落ちる。それがあまりに綺麗で、思わず掬いとった。頬に触れた指に鶴丸のそれが重なり、そっと目蓋を閉じる。
「君が俺を、ひとにしたんだな」
抱き締めて深呼吸を一つ。二つ分の鼓動が鼓膜を震わす。

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感情を知って初めて呼吸をする丸国永。
お互い好き好き言い合う甘いものを書こうとしたはずがどうしてかこうなった。

小狐丸 (2017/11/17)

「ぬしさま、ぬしさま、小狐丸は悲しゅうございます。何故私を無視なさるのです。私めはこんなにもぬしさまが愛おしいのに。ぬしさまが戯れに触れる小さな手も、緩やかに笑む柔らかな唇も、桜色の頬も濡れた瞳も全てが愛おしくて仕方がありません。貴女がこの小狐丸に触れることをお許し下さったことが、私にとってどれだけ幸福だったことか。だというのにぬしさまは、あの夜以来こちらを見てくださらない。何故でしょうぬしさま、私に至らぬ所があったと言うのならば直しましょう。ぬしさまの望むものがあるのならば差し上げましょう。ですからぬしさま、どうか今一度そのお顔をこちらに向けてください。ああ、ぬしさま」
「小狐丸よ、何をしている」
「これは三日月殿、お見苦しいところを。ですが私も酷く苦しいのです、どうかご容赦を。ああ、三日月殿、どうしてぬしさまは私を無視するのでしょう」
「はは、何を言っている小狐丸」

「主はそなたが喰らったではないか」

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はてそうだったか?
愛情表現が食事だった小狐丸。

大包平 (2017/10/31)

スー、スタン。
「大包平、菓子がないなら悪戯をするぞ」
「なんだ、戻った途端妙なことを……いや、南蛮の祭だったか。主から聞いているぞ。仮装して呪文と共に菓子を貰って回るというやつだろう。だがそれは子供型の役目じゃないのか?」
「なに、祭を楽しむのに大人も子供も関係ないだろう。それに俺達は刀だ。歳で言えばみんな老人だ。鶴丸なんて率先して仮装に行った」
「フン、くだらんな。どのような装飾を施そうと、俺の美しさこそが随一だと言うのに」
「それとこれとは別だと思うが……まあ、いいか。さて大包平、菓子をいただこう」
「菓子だと?そんなものは用意していない」
「なら悪戯だが……」
「いいだろう。だが、甘んじて受ける俺ではないぞ。いくら貴様と言えどそう易々と……」
「なに、大したことはしない。さて……ああ、部屋にいたお前はまだ知らないだろうが、今宵は皆仮装しているぞ。もちろん主もな」
「主……?数多の刀の将ともなれば、祭への参加も欠かさないことは当然だな。それがどうした」
「先程姿を見たが、なるほどあれは悪魔と言うそうじゃないか。随分と肌の見える格好だったが、最近はそういうのが流行りなのか?」
「なに……?」
「最近の人は多様な衣を着るものだが、今宵はさらに磨きがかかっているな。あの豊かな胸も尻も、薄布一枚では刀に触れればひとたまりもない……」
「な、なんだそれは!そんなに堂々と……じゃない!俺の主ともあろう者がそんな破廉恥な格好なんぞ、クソ!」
「見に行くつもりか?」
「見に行く、のではない!諫めに行くんだ!其処を退け!」
「フッ、まあ、言葉通りに受け取っておこう。だが、此処は通せないぞ」
「なんだと!?まさかそれが悪戯などと言うつもりじゃないだろうな!」
「ははは」
「この……!」
スパーン。
「随分騒がしいけど何してるの?」
「なっ?!」
「ああ主、もう用事は終わったのか」
「うん。せっかくのハロウィンだしお菓子作ったのでどうぞ……ってどうしたの大包平」
「う、鶯丸貴様……騙したのか?!」
「はは、これが悪戯というわけだ」
「くっ……それは卯月の祭りだろうが!」
「まあ、細かいことは気にするな」
「何の話?」
「何でもない!菓子を貰うぞ!」
「あ、どうぞ」
「聞いてくれるか主。大包平は主のもがふご」
「美味いじゃないか鶯丸も食え!大した話じゃない聞き流せ主!!」
「そ、そうなの?」

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ハロウィンなので。
イメージはドスケベ礼装2015版。

リーマス (2017/10/28)

私の初恋は、学校の先生だった。
目まぐるしく代替わりする闇の魔術に対する防衛術の先生。
私が五年生の時、そこに就いた人。
よれよれのシャツ、くたびれたジャケット、なんだか覇気のない姿。
でも、一度杖を握れば頼もしく、授業はとても面白くて、生徒想いで優しい人。
ルーピン先生は、あっという間にみんなの人気者になっていた。

いつからかは覚えてない。
気付いたら、私の中で先生への好き、が意味合いを変えた。
先生の授業が待ち遠しくて、偶然廊下ですれ違ったときが嬉しくて、毎月必ず体調を崩すのも心配で、先生のことばかり考えていた。
だから、先生が学校を去ってしまったときは、本当に悲しくて。
人狼だから、なんて、先生のひととなりを見ていれば、関係ないってよく分かるのに。
卒業してから再会できた時は泣いてしまうほど嬉しかった。
闇の勢力に抵抗するため、時には共に戦った。
先生と一緒にいるだけで、体の奥底から力が湧いた。
先生は、卒業した私を一人の大人として見てくれた。
お互いを讃えあって、支え合う間柄。
戦いは日増しに激しくなっていくけれど、とても満ちた時間だった。

──やがて先生は、私ではない人と幸せになった。
初恋なんてそんなものだ。
想うだけで幸せだった。胸が高鳴り、浮き足立った。あの頃の気持ちは嘘じゃない。
少しだけ寂しいけれど、先生の幸せを願った。
隣にいるのは、若くて綺麗な人。勇敢でお茶目で、きっと先生とよい家族になれる人。
だから、大丈夫。

──そう思ったのに。
決戦の地、満身創痍で転がり込んだホグワーツの広間。
あちこちで怪我をした人達が呻いている。
そして、閉ざした目を開かない人が、たくさん眠っている。
その中に、いた。
ルーピン先生が、青白い顔で眠っている。
その隣には、先生の家族になって間もない人。
冷たくなった二人は、もう二度と、隣にいる人に触れることもできない。
ああ、そんな……そんな、ことって。
先生、先生が幸せになるなら、それで良かったのに。
幸せを掴んだ矢先に、どうして。どうして。
二人の前で崩れ落ちる。涙が込み上げる。
声を上げて泣き叫んでも、もう戻ってこない。
私の初恋の人。

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こういう生徒居たんじゃないかなと。
なぜ殺たし。

轟 (2017/09/17)

扉の開く音がした。ここ最近、爆発や暴発でいつも騒がしい作業室が今日は静かで、すぐに気付いた。
「いらっしゃ……あ……轟くん」
扉を開けたのは、ヒーロー科の……焦凍くんだ。
「ああ」と短い相槌だけ打って室内に入る焦凍くんは、いつもは背中に背負っているベストを外して左手に持っていた。
「それ、調子悪いんですか……?」
「ああ……どうにも冷やす方が追いつかねえ」
私の椅子の前に置かれた作業台にベストを乗せて、焦凍くんは空いた椅子を引っ張ってくる。
「じ……じゃあ、見てみますね」
「頼む」
焦凍くんとは幼稚園からの付き合いだ。
家が近所で通う場所が同じだったという在り来りなもので、家族ぐるみの付き合い……というものはない。轟さん家は、家主があの人だし、近所付き合いは悪い方だった。焦凍くんも友達付き合いは少なくて、一人でいることが多かった。でも学校では優等生で、成績優秀将来有望なみんなの憧れだった。そんな焦凍くんが雄英ヒーロー科の推薦に受かったニュースは、学校中で持て囃されていた。そんな中で私も雄英に受かったなんて言い出せなくて、そっと鞄にしまい込んで中学校を卒業。
入学した雄英高校は、想像してたより遥かに大きくて目まぐるしいところだった。サポート科もまたヒーロー科みたいに専門的な内容に特化した授業が多くて、周りも優秀な生徒ばかりで、ついて行くのがやっと。それでも必死に勉強して、なんとかしがみついている。
留め具を外して中を検める。パーツを慎重に分解して、一つ一つ不具合がないか確かめる。
作業中、焦凍くんは無言でじっと手元を見ている。正直とてもやりづらい。
元々、作業を人に見られるのは好きじゃないけど、それが焦凍くんなら尚更だ。
……だって、ずっと好きなんだ。それこそ幼稚園の頃から。ずっと好きで、でも言い出せなくて、へっぴり腰の私には、焦凍くんと同じ道を歩む勇気もなくて。だから、せめて焦凍くんのそばにいれるようになろうと、温度調節の事だけ猛勉強した。ずっとずっと言えなくてこじらせてしまった気持ちのように、一つの事に特化するのは私の長所でもあって最大の短所だった。
焦凍くんが好きだ。でもずっと見てるだけだった。ちゃんと会話をしていたのも、ずっと昔の話。焦凍くんと一緒にいたくて雄英に入ったのに、いざ面と向かっても今更昔みたいに話せなくて。自信がなくて、敬語になって、言葉がなくなって、焦凍くん、きっと私のことも覚えてないって思っちゃうと、もう、目の前が真っ暗になる。
「なあ」
「……は、い?」
話しかけられた。いつも私の作業が終わるまでずっと無言の焦凍くんが、初めて口を開いた。
「おまえ、昔はそんなじゃなかったと思う……敬語とか」
「え……」
部品の一つ、温度センサーを持ち上げた状態で、その言葉を反芻する。
昔。昔。昔って、焦凍くんは覚えてた?私の、ことを。
だって、ずっと見てただけなのに。中学の時も、クラスが一緒になったときも、女の子が黄色い声を上げるから、焦凍くんに話しかけるのが躊躇われて。焦凍くんはどんどんすごい男の子になっていくのに、私はずっとぱっとしないまんまだったから、焦凍くんにとってそこらじゅうの生徒の一人に埋まってしまったと思ってた。
焦凍くんが私を見ている。手元じゃなくて、この顔を、まっすぐ。
「あ……え、え……その……」
作業、何してたっけ。持ち上げたままのセンサーを見て思い出す。動作確認、しなきゃ。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。なんだっけ、作業しながら、焦凍くんの言葉、返さなきゃ。でも、何を言えば、なんで、どうしよう、どうして?
「なんで……覚えて……?」
「なんでって……そりゃ、ずっと一緒だったし忘れるもんじゃねえだろ」

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鉄板幼馴染ネタ。昔は一緒だった幼馴染がどんどん成長していくから自信がなくなる夢主と夢主の努力をずっと見ていた轟くん的なネタが形になる前に力尽きた。

鶴丸 (2017/09/02)

「ちょっと、動かないでください」
「ああ、すまん」
「全く先輩はじっとしてくれないんですから」
「はは、退屈なのは苦手なんだ」
「でも、モデルになってくれると言い出したのは先輩の方です」
「そうだった、すまんすまん」
美術室の真ん中で、椅子に座ってじっとしている鶴丸先輩。
黙っていればとても見目の整った人だけれど、一度口を開くとどうにもギャップを感じる性格をしている。驚きと称して後ろから大声を掛けてきたり、扉を開けた瞬間飛び出して来たり、そういうところはあまり好きではない。
でも、先輩の人間離れした美しさは好きだ。先輩を写真に納めればそれだけで別世界を切り取ったようになる。インスピレーションを刺激されて、先輩をモデルにした絵を描こうと思った。先輩の美しさを中心に、それが一層映えるような小物を画面に散りばめたい。
先輩のスケッチをしながら、同じ画面に入れるものを考える。白い髪と白い肌、金色の目が生えるのは。
白い衣と、金の鎖、そして散りばめられた、紅。
「――!?」
「……ん、君、どうかしたのか?」
「い、いいえなんでも」
今、一瞬先輩が全く別の格好に見えた。その背景さえも変わったような気がした。集中しすぎただろうか。
「先輩、少し休憩しましょう」
「ああいいぜ。ああ、退屈で死んでしまいそうだった!」
ぐぐっと伸びをする先輩を見て、先ほどのイメージを思い出す。羽衣のように柔らかな衣装をまとった先輩。天女か鶴か、美しさが際立ちそうだ。描いてみようか。
「……何か思い出したかい?」
「はい?」
「いや、なんでもないさ」
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美術部審神者と転生鶴丸。

切島 (2017/09/02)

「肉倉がやられましたか……ですが彼は四天王の中でも最弱」
グロテスクな個性を持った士傑生――肉倉を制した男子三人の前に現れた女子生徒。制服からして同じく士傑生徒。士傑の個性が解けて動き出した他の受験生達を一瞬で"個性"で行動不能にしたらしい。
無表情を限界まで極めたようなポーカーフェイス。
「テメエも潰しに来たってか?返り討ちにしてやるよ」
好戦的な爆豪が手のひらで小爆破を起こす。
が、女子生徒は興味無いとツンとしている。
「嘆かわしいですね、雄英生ともあろう者がそのような物騒な物言いを」
「アア!?」
表情を変えずやれやれと頭を振る女子にキレた爆豪。宥める切島に「わかっとるわアホ!」と声を荒げる。そこら中にいた受験生達を行動不能にした個性の正体が分からない以上、迂闊に近づけない。そんな彼らに対して女子は右手の人差し指を向ける。
「爆豪さん、私が興味があるのは貴方ではありません」
その指がスススと切島にスライドした。
「そちらの……切島鋭児郎さんです」
「俺?」
「ハア!?」
「ええ、体育祭の試合、私も中継で観戦しておりましたが、貴方と鉄哲さんの試合、とても楽しませていただきました」
言葉の割にその視線はぶれることなく眼前の切島を凝視し、表情もピクリとも動かない。他校の女子生徒に切島が声を掛けられたという事実にショックを受けた上鳴だったが、その女子の顔が全くの無表情すぎて逆に同情し始めた。
「あなたのように熱い心を持った殿方はとても興味深いです。私の個性とどちらが強いか……確かめてみたくなります」
その言葉と共に両腕を真横に伸ばした女子。するとその腕を何かが覆い始める。
「氷?」
轟の個性で見慣れた氷塊が、彼女の腕に纏わりつく。その様は、氷のガントレットのようだ。
「ではまずは、堅さ比べと参りましょうか」
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士傑生二年生クール女子と熱血硬派切島くん。
切島くんに勉強教えたりしてほしいけど学校の距離遠すぎて無理では……

緑谷 (2017/08/15)

「焦凍」
後ろから掛けられた声。それは隣の轟を呼んだ声だった。
誰だろうかと振り返った緑谷の眼前を通り過ぎたのは、足。
パァン!と小気味の良い音がして、その足は轟の頭……をガードした腕に当たった。
「えええっ?!」
めくれ上がるスカートもお構い無しに振り上げた足。雄英高校の制服。間違いなくここの生徒。ちなみにスカートの下にはジャージ。
その目は轟だけを睨んでいて、隣の緑谷は視界に入っていないらしい。
「あんたも雄英だったんだ……しかもヒーロー科の推薦枠だって?さすが"No.2の息子"は違うね」
「……何の用だよ」
轟は慣れているのか、努めて静かな口調で返す。
少女は何となく見覚えのある顔立ちだ。
忌々しげに轟を見ていたが、ようやく緑谷に気付いたらしく足を下ろした。
「なに?オトモダチ?へーえ、天才児焦凍くんはその才能ゆえ天涯孤独だと思ってたのに、まっさかオトモダチが出来てたなんてなー」
「おまえ……」
その口調は完全に煽っている。
轟と彼女の関係性は不明だが、あからさまな悪意には流石に黙っていられない。
「あの、突然なんですか!いきなり手を上げる……というか足を上げる?なんて!」
「あぁ?はー、オトモダチもお人好しだこと。ヒーロー科ってのはみんなこうなわけ?やだやだ」
煩わしげに手をひらひらと振る少女に、さらに食い下がろうとしたところで、轟から静止がかかる。
「いいって緑谷。こいつは……姉貴だ」
「姉……お、お姉さん?!」
「……双子のな」
言われてみれば、轟と彼女の顔立ちは似ている気がする。少女の髪は染めたような色をしているが、瞳の色は轟の左目と同じ蒼だった。
「あっははアネキ、アネキだってさ!姉だなんて思ってもないくせに。ま、アタシもだけど」
「なら突っかかってくんな。もういいだろ、行くぞ緑谷」
「ええ……」
双子の姉に背を向けた轟と、その少女を交互に見る緑谷。二人の間が険悪なのは明らかだが、仮にも血の繋がった家族を無碍にしていいのだろうか。
お構い無しに歩き去ろうとする轟の背中に、追い打ちをかける少女。
「お父さんの言いつけ通り、ヒーロー科に入れてよかったですねぇ」
「!」
緑谷の顔から汗が吹き出る。
父親、それは轟にとっての禁句だ。
その一言で足を止めた轟が、食いしばった歯の隙間から絞り出すように反論する。
「親父はもう関係ねぇ。……おまえもだ」
「ハッ、どうだか。アンタは結局ヒーローになるんだ。あのクソ男の思い通りに!アンタが何を思ってようが、それが外から見える事実だ。アンタは"第二のエンデヴァー"だ」
「……」
轟の拳に力が入っている。
緑谷もどうしていいのかわからない。なぜ彼女はこんなにも轟に突っかかるのか。この二人になにがあったのか。
「アタシはアンタを超える。あの男の"最高傑作"のアンタなんてぶっ壊してやる!」
轟が振り向いた。その顔は、完全に怒っている。自分から置いていった双子の姉に大股で歩み寄り、乱暴に肩を掴んだ。
まさか手を上げるつもりでは。先に手、というか足を出したのはあちらだけれど流石にそれはまずいのでは、と止めに入ろうとした緑谷に届いた轟の声。ドスの効いた一言。
「おまえに出来るかよ。"無個性"のくせに」
「!」
「……ッ、アンタの、せいじゃん。アンタがアタシの個性を奪ったんだ!アンタが、アンタさえ居なけりゃ!!アンタのせいでアタシは……」
少女は喚きながらも、耐えきれずへたりこんでしまった。
「……悪ィな緑谷。行くぞ」
「え、あ……うん」


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轟くんの家族な夢主を考えるならやっぱり双子の無個性かなぁ無個性となるとコンプレックスマシマシだろうなぁ轟くんもお父さんも大嫌いだろうなぁでも見た目も性格もお父さんそっくりの野心家だろうなぁお家を飛び出したりしてそうだなぁ……と思ったら一番共感しそうなのは緑谷だなぁと。
どちらかと言うと轟夢なのかもしれない。

鶴丸 (2017/08/08)

※特殊設定

恋人が帰ってきた。
まるで別人のようになって帰ってきた。
私の初恋の人で、一度振られた後に、なんやかんやあって結ばれることになった人だ。
彼が音信不通になってもう三ヶ月になる。
それまでは頻繁に連絡を寄越し、新しく就いた仕事についてだとか、同僚についてだとかいきいきと話していたのに。
ぷっつりと連絡が途絶えたと思ったら、突然ふらりと現れた。
どこに行っていたのか、どうして連絡をしてくれなかったのか、酷く心配したことを涙ながらに訴えても、彼はただ謝るばかり。理由もろくに話してくれない。
そして、もう会えないと突き放されてしまった。
あまりのことに泣き喚きながらすがりついても、彼は去ろうとする足を止めてくれない。
どうして、せめて理由を教えて。
すまん、俺からは話せない。
そんなことってあるだろうか。私は貴方からしか聞けないのに。
私に原因がある訳でもなく、愛想が尽きたわけでもないという。
確かに愛していたという。
ならば、それならば、どうして、どうして!

パキン。

私の顔の真横に、刃が突き立てられていた。
その刃が貫いたのは、見たこともない異形の妖怪。
彼が伸ばした腕に握られた日本刀は、彼の胸に空いた穴から引き出されていた。
彼の体に大きな穴が空いている。
古いもので、傷口はとっくに乾いていた。
「見られるつもりは無かったんだが……こうなっては仕方ない」
彼の体が喋る。
刀を握る手に塵のようなものが集まり、彼の腕を覆い始める。
「君の恋人は……俺の主は死んだ」
全身に広がった塵が皮のように被さり、彼の姿を覆い隠す。
「主の最期の命により、この体を借りてここまでやってきた」
見る見るうちに形を変え、姿を変えゆく恋人の体。
そこに立っていたのは見たこともない真っ白な青年だった。
「俺の名は鶴丸国永。どうだ、驚いたか?」
まるで別人のような恋人は、正しく別人だった。

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本丸が襲われて鶴丸以外皆折れて、審神者自身も重傷を負いこのままでは全滅というところで、審神者の力がないと肉体を維持出来ない鶴丸に体を明け渡すことで受肉的なことをして、現世に渡って遡行軍殲滅しろって命を出して死んだ審神者さん。審神者さんがあんまりにも恋人の惚気話聞かせてくるので死んだってことを告げずとも別れは告げてやらんとなと会いに来た鶴丸くん。
DADA