プロローグ
扉を開けると無数の人集り。 容赦のないフラッシュ、突きつけられるマイク。 何故こんなにも人がいるのか分からなかった。 泣きじゃくる私に投げかけられる言葉、言葉、言葉。 フラッシュでクラクラする視界、耳に届く雑音。 大人達が私に向けたのは、興味、同情、好奇心。 助けてよ。 助けてくれないのなら、放っておいてよ。 こんなにも悲しいのに。 こんなにも怖いのに。 どうして誰も助けてくれないの。 どうしてみんな、わたしを囲んで見下ろすの。 こんなの、こんなの、 おかしいよ。 *** 一定のリズムで鳴り響く電子音が鼓膜を揺らし、意識は現実へと蘇る。 暗がりの中モゾモゾと腕を伸ばせば耳障りなアラームの鳴り続けるスマートフォンに指先が触れた。 アラームを止めるついでに画面を確認する。 朝の7時。 通知が数件。 今日は4月、入学式の日だ。 体を起こして大きく伸びをする。 カーテンを開ければ差し込む朝日。 眩しくて瞬きをすると、やがて目が慣れる。 窓の外の大通りを行きかう車や歩行者を眺めながら、その流れの先を見やる。 姿は見えないけれど、この道の先に、これから通う学校がある。 雄英高校。 それが私の入学した高校の名前。 簡単な朝食をすませたら顔を洗って着替える。 真新しい制服に袖を通し、鏡の前で最終チェック。 タイは曲がっていない。寝癖もない。 「……よし」 ワンルームのアパート、扉を開けて振り返る。 「行ってきます」 誰もいない部屋、机の上に置いてある写真立てに声をかけた。 そうして私は、高校生としての一歩を踏み出した。
DADA