休暇
気疲れか知恵熱か、帰宅と同時に高熱を出してベッドに倒れた。
熱で意識が朦朧として、上手く頭が回らない。
一人暮らしだと水分補給もままならない。
おばあちゃんのところに居た時は、調子が悪いとすぐに誰か駆け寄ってきたものだ。
騒ぎを聞きつけたおばあちゃんは、病人をベッドまで運ぶとそのまま騒ぎ続ける子供たちをあやしに行ってしまう。
そばで看病するのは年長者、専ら私の役目だから、私が寝込んだときは我慢しないといけなかった。
ちびたちが騒いでおばあちゃんの雷が落ちるのを聞いて笑ったっけ。
でも、もっと昔、助けてくれた人がいた。
おぼろげな記憶で思い出す。
咳き込む私の頭を撫でる手のひら。
優しい微笑みと、ぬくもり。
私の一番大好きな人。
「お母さん……」
ああ、そうだ。お母さんだ。
小さい頃風邪を引いた私をかいがいしく看病してくれた人。
幼稚園の迎えに来てくれた人。
毎日のご飯を、お風呂を、世話してくれた人。
思い出すと止まらない。心細さに胸が詰まる。
話したい。今までのこと、これからのこと、どうしたらいいのか。
色んなことを話したい。
全部、全部聞いて欲しい。
お母さんに会いたい。
***
翌日、体育祭後の二連休。
下宿先のマンションのドアを開けて、外に飛び出す。
下がりきらない熱にちょっとふらついたけど、なんとか歩いて駅まで向かった。
電車の窓の向こうで流れる景色を眺めながら、思い返すお母さんのこと。
入学してからずっと張り詰めていたから、思い出に浸る余裕もなかった。
昔から頼ってばかりの人。
ずっと味方でいてくれる大好きな人。
お母さん、私、あなたに会いたい。
はやる気持ちを抑えきれず、なぜか無性に泣きそうになりながら。
電車に揺られて数時間。
辿り着いたのは、お母さんがいる病院。
広い駐車場の奥に建つ、大きな建物。
おばあちゃんのところに住むようになってめったに来れなくなってしまったけれど、この外観は覚えてる。
大きな総合病院の、広い受付に赴いて面会の手続きを済ませる。
エレベータで上の階へ。
廊下を歩いて曲がり角の直ぐ先。
部屋番号と名前を確かめて、ドアノブに手を掛ける。
深呼吸を一つ、心を落ち着かせてから大きなスライドドアを引いた。
初夏の日差しが穏やかな風に揺れるレースカーテンを透かす。
大きな個室の白いベッド。
その上で、ゆっくりと呼吸を繰り返す女性。
腕に繋がる点滴、身じろぎ一つしない姿。
「久しぶりだね、お母さん」
よかった。その姿に変わりはなかった。
前に会ったのはいつだっけ。
去年は受験で忙しかったから、一年以上前になるのかな。
なにから話そうか。
私ね、目標だった雄英高校に入学できたんだよ。
ヒーロー科は落ちちゃったけど、普通科でトップの成績だった。
お母さんと同じ高校、同じ学科だよ。
そこでヒーローになるために、すごくすごくがんばった。
でも、いつからだったんだろう。
やり方を間違えちゃった。
道を外れたことに、ゴールさえ見失ったことに気付かないまま、ここまで来てしまった。
体育祭、一生懸命がんばったつもりだったけど、そもそものやり方がダメだった。
負けちゃったんだ、私。
ろくな活躍してないし、きっと観客も私をスカウトしようなんて思えないだろうな。
ああ、自分で言ってて涙が出るや……
負けた直後なんてズタボロになっちゃって、閉会式までずっとウジウジしてた。
我ながら情けないや。
なんにもなくなっちゃった。
積み上げてきたもの全部、壊れてしまった。
でも、お母さんがここにいる。
ずっと眠ったままでも、何にも答えてくれなくても、ここで呼吸をして、温もりをくれる。
小さい頃の記憶。
優しいお母さんの声。
大きな手で頭を撫でて、私をあやしてくれた姿。
その優しさが、たまらなく好きだった。
ああそうだ。
私の原点。
それはあなただ、お母さん。
ファンとして見惚れるエンデヴァーとは違う。
私の憧れ、目標の人。
私にとってゴールとなるのは、お母さんだったんだ。
暗雲立ち込める空に光がさすように、スッと思考がクリアになる。
ずっと見失っていた。
でも、ようやく戻ってきた。
「私……お母さんみたいなヒーローになりたい」
そうだ、そうだよ。やっと思い出せた。
幼心に憧れた、働くお母さんの姿。
誰にも分け隔てなく慈しみを与えるその様は、お母さんによって笑顔を取り戻した人たちを見ると、まるで魔法使いのようだと思ったものだ。
誇らしかった。
憧れていた。
私もああいう風になりたいと思った。
お母さんと同じ個性を持っていたから。
お母さんが、なれると笑ってくれたから。
お母さん、私に勇気をください。
ここからやり直す勇気を、あなたみたいに誰かのために戦う勇気を。
眠るお母さんの手を、きゅっと握る。あたたかい。昔と変わらない温もり。
ああ、まだまだ半人前だな私。
お母さんがいないと、ろくに歩けやしないなんて。
でも、もう大丈夫だ。勇気はもらった。
もう一度、一からやり直そう。
目じりにたまった涙を拭って立ち上がる。
「また来るね」
声を掛けても返事はない。
変わらず呼吸を繰り返す姿を、もう一度記憶に焼き付ける。
扉を開けて廊下に出ると、病室の中はもう別世界のように見えた。
またね、お母さん。
そっと扉を閉じる。
さあ行こう。
廊下を踏みしめ歩き出す。
ヒーローになるんだ。
お母さんみたいに、誰かを笑顔に出来るヒーローに。
負けたなら考え直せ。
今のままじゃだめだ。方法を変えなくちゃ。
もっと違った方法で、ヒーローになる道を探さなくちゃ。
エレベーターが降りてくるのを待ちながら考える。
私の原点、お母さん。
私が目指すべき姿はそこにあった。
たどり着くために、何をすべきか。
より明確に目標を細分化するのも大事だけど、その前にしておかないといけないことがある。
まずは今までの自分を改めて、迷惑を掛けた人にお詫びしたい。
おばあちゃん、クラスメイト、A組の3人、普通科男子、そして――
ピンポーン。
上の階からエレベーターが降りてきて、横スライドの扉が開く。
「お」
「え」
デジャヴ。
中に人がいた、までは想定内。
でもその人物は想定外。
「ととととどりょっ、轟くん?!」
まさに考えていた人がそこにいたのでおっかなびっくり大焦り。
しかも噛んだし。恥ずかしくて死ねる。
「……乗らねぇのか?」
キョドる私と正反対に、ドアの開くボタンを押しながら冷静に声をかける轟くん。
そうです降りてくるのを待ってたんでした。
「の、乗ります!」
慌てて滑り込むと、轟くんが押さえていた指を離す。
静かに閉じた扉、下降するエレベーター。
「……」
「……」
無言。
とても気まずい。
密室に二人きりになるなんてすぐに予想できただろうに、焦りすぎだぞ私!
いや、むしろ偶然会えたのは好都合。
轟くんが謝りたい筆頭の人物なわけで。
どうすればいい?
なんて言えばいいんだろう。
空回りする思考を必死にめぐらせるうちに、あっという間に1階に着いてしまった。
開いたドアから出て行く轟くん。
え、ちょっと待ってまだ何も言ってない!
「あの、轟くん!えっとあの、その、謝りたいことがあって!」
半ば叫んでいた。
振り返った轟くんと目が合ってから気付く。
違う、謝ってどうする。それはただの自己満足だ。
「あ、ちが。許してほしいとかじゃなくて。ごめ、あ、やっええとなんていうか」
ダメだ、思考がまとまらない。
何を喋っているのか分からないまま、ただ言葉を羅列してるだけだ。
「……とりあえず、どっか座るか」
***
轟くんの圧倒的な冷静さに救われた。
病院の中庭に並ぶベンチに腰掛けて、とりあえず調達した飲み物を口にする。
冷たい液体が喉を通る感覚に、ちょっと落ち着いた。
隣に腰掛ける轟くんをちらりと盗み見る。
自販機で買った紙コップを抱えてじっとしていた。
「……」
「……」
ふたたび無言。
うう、このままではどんどん話し辛くなるぞう。
なにか言わなくちゃいけないけど、言いたいことがまとまらない。
「えっと、轟くんはなんで病院に?」
微妙な距離感に緊張が拭えないまま、当たり障りのないことで沈黙を回避しようとした。
轟くんは一度こちらを見て、再び手元の紙コップに視線を戻す。
「……お母さんの見舞いに」
うん。私が悪かったです。
そうだよね、体育祭の怪我はリカバリーガールのお陰で綺麗に治ってるし、病棟のエレベーターで降りてきたのを考えても誰かのお見舞いだよね。
そして高校生くらいの年頃じゃ十中八九家族のお見舞いだよね!
「ソ、ソッカー」
お父さんをあれだけ煙たがっていた轟くんのお母さんが入院中とか色々と思わざるを得ないというか。
ああもうバカか私は完全にやぶ蛇だ。
轟くんも再び沈黙してるし。
会話を続けなければ……
「じ、実は私もお見舞いでして……お母さんの」
「綾目の?」
意外そうに呟いて、轟くんがこちらを向いた。
「うん。私のお母さんも、ここに入院してる」
反応を貰えたこと胸を撫で下ろして、必死に言葉を続ける。
「お母さん、私がちいさいときに事件に巻き込まれちゃって……」
轟くんの目が少し丸くなった。
いきなり事件なんて言われたらそうだよね。
思えば、これを誰かに話すのは初めてかもしれない。
私のお母さんを襲った事件。
両親と娘の平凡な家族を襲った悲劇、なんて新聞で取り上げられたのを今でも覚えている。
今から10年ほど前のあの日、いつものように幼稚園に迎えに来てくれたお母さんと手を繋いで家に帰った。
夕飯の準備をする音を聞きながら、遊び疲れた私はうたた寝をしていた。
突然、強い風が吹いた。
記憶の中の私は突風に煽られ、カーペットの上を転がっていた。
何が起きたのか分からなくて、怖くなってお母さんを探す。
でも、さっきまでキッチンに立っていた後ろ姿は忽然と消えていた。
いない。
お母さんがいない。
呆然として、思い出したように辺りを見回して、やがて大声で泣き出しながら母の面影を求めて飛び出した。
不審に思った近隣住民が警察に通報して私は保護されたけれど、母は見付からなかった。
孤独と不安に苛まれた私をさらに襲ったのは、立て続けに起こったヴィランによる事件。
どんな個性なのか掴めない、まるで魔法のような手口。
そこには、母の個性が関与していた。
母はヴィランに拉致され、強制的に個性を行使させられていた。
母を操っていたのは、証拠も殆ど残さず、無差別に破壊を繰り返す愉快犯。
なんとか本拠地を突き止めた警察がヒーローと共に強行突破を図り、母を保護した。
でも、その時には既に、母の意識は戻らなくなっていた。
目立った外傷もなく、恐らくは個性のキャパシティを超えた使用を繰り返したのが原因。
それから母は、ずっと眠ったまま。
「私、元々はこっちの方に住んでたから、お母さんもここの病院に入院してる。お母さんの知り合いのヒーロー……おばあちゃんが、身寄りのない私を引き取ってくれてからはずっと関西の方で暮らしてたんだ」
だから、久しぶりに会えてよかった。
毎年おばあちゃんに連れられてここまで来ていたけど、1人で来たのは今日が初めてだ。
ここで一息つくと、またしんみりした空気になる。
そりゃそうだ、なんでこんな重たい身の上話しちゃったんだろう。
お詫びのつもりだったのかもしれない。
バカだな。他人の事情はその人のものだって思い知ったばかりじゃないか。
轟くんも何を言えばいいのか分からない、といった顔だ。
「ええと、ここまではなんていうかただの世間話?世間話ではないけど……とにかくあんまり気にしないで」
両手を振って笑ってみた。
「いや、それは無理だろ」
ごもっともです。
ズバっと言い切ったけど、非難してるわけじゃない。
轟くんは黙ってこちらを見ている。
真っ直ぐ向けられた視線は、体育祭の時とは変わっていると感じさせた。
それがどういうことかは分からないけれど、今は話を続けてもいいらしい。
「ええと……事件直後は連日慌ただしくってね。もう凄かったよ、家にたくさん人がきて」
玄関のチャイムに震える手でドアノブを回すと、突然フラッシュが焚かれて沢山の人間に囲まれた。
事件を聞きつけたマスコミが、一人になった私の心中を聞き出そうと押しかけてきたんだ。
一人ぼっちになって可哀想。
お母さんが帰ってきてどう思ったか。
これからどうするのか。
非道なヴィランについてどう思うか。
お母さんを救うのに時間が掛かったヒーローについて。
「バカだよね。たった5歳の小さい子に寄ってたかってマイク突きつけて」
でも、一番耳に残ったのは、一つの質問。
"お母さんと同じ個性で、怖くない?"
その言葉を誰が言ったかなんて分からない。
でも、それを聞いたときに胸の内から膨らんだのは、どうしようもない怒りだった。
私の個性がお母さんと同じだと、どこで知ったのかは知らない。
でも、それがなんで"怖い"になるのか。
同じ個性だと、ヴィランに狙われるから?
お母さんのように酷いことをされるから?
ふざけるな、馬鹿にするな。
名前も知らないやつらが、どうしてお母さんの力を評価できる!
お母さんは、その個性を使ってみんなを助けることができるすごい人だ。
お母さんと同じ個性なのが誇らしくて、嬉しくて、早く同じようになりたくて。
ずっとずっとそうして生きてきたのに、お前達はお母さんの個性が"敵に利用されるだけの無力な個性"だと思うのか!
許せなかった。
怒りが止まらなかった。
家族をなくした寂しさよりも、可哀想と同情する世間が許せなかった。
連日放送されるニュース、ドキュメンタリー番組。
母の個性を解説して、いかに逃げるのが困難な個性か語る専門家。
母を救い出したものの、悔しげにもっと早く救えていればとカメラに嘆くヒーロー。
"母子を襲った悲劇、受け継がれた悲運の個性"
そんな文句を見た時は、掲載雑誌を燃やしてやりたいくらいだった。
「誓ったのは、その時だった。"見返してやる"って。私の個性を、私のお母さんをバカにした奴らに、目に物見せてやるって」
もしかしたら、この時から踏み外していたのかもしれない。
母を連れ出しても、その後の私達を助けてくれなかったヒーロー。
無力だと断じたメディア。
奇異の目を寄せてくる人々。
その全てに、自分の力を見せ付けてやる。
この個性は無力なんかじゃない。
誰かに助けられることでしか生きていけない個性じゃないと。
私自身が"ヒーロー"になって、証明してみせる。
話して、思い出した。
一番最初の憧れはお母さんだった。
でも、ヒーローを目指したきっかけは怒りだった。
「小さい私は単純だったよ。今でも浅はかな考えしか出来てないかもしれないけど。でも、お母さんに会って考えた。思い出した、最初の気持ちを」
お母さんみたいになりたい。
それが私の原点。
そこに戻るためにすべきことがある。
過去の過ちを認めて初めて、やっと前を見ることができる。
ふと、視線を手元に戻す。
遠い過去を思い出そうとして、ずっと遠くを見詰めていた。
記憶の螺旋に落ちていくのは、幻を見るような感覚だった。
長い長い旅路を終えて、ここに戻ってきた。
大きく息を吸って、吐き出す。
そうして改めて隣の人に顔を向けた。
「轟くん」
目の前の少年は、真っ直ぐにこちらを見ている。
彼に向かって、深く頭を下げた。
「体育祭の時は、ごめんなさい。私が話した事情みたいに……あなたにはあなたの事情があったのに、それを利用するような真似をした。許さなくていい。でも、前に進むためにけじめを付けなくちゃいけない。轟くんの気が済むならなんだってする。だから……」
「綾目」
ただ一言、名前を呼ばれた。
そっと肩に手を置かれて、頭を上げるよう促される。
見上げた轟くんの目は、昨日よりずっと澄んでいた。
憎悪に濁った瞳ではない、きっと本来の彼の輝き。
憑き物でも落ちたような表情で、ゆっくりと言葉を吐き出す。
「確かにあの時はイラついた。けど……もういいんだ、今は少し、考えてるところで」
考えてる?
よく分からないけれど、轟くんはとにかく謝らなくて大丈夫だと繰り返す。
頭にハテナを浮かべる私になんと言おうか探しているようだ。
やがて肩に置いていた手を降ろして、一言。
「俺も悪かった」
「え……?」
轟くんが頭を下げた。
待って、なんでおかしい。
謝ったのは、謝りたかったのは、謝らなくちゃいけないのは私の方だよ?!
「と、轟くん?!」
慌てる私に顔を上げた轟くんが向き直る。
ぽつりぽつりと探るように言葉を並べていく。
「今まで、ただ親父が憎かった。だからお前が奴のファンだって言うのが信じられなくて、認めたくなくて、耳を塞いで否定した」
体育祭の戦い。
頑なまでの氷結は、エンデヴァーだけじゃなくて、私にも向けられたもの。
「情けないが、緑谷に言われて気付いた。俺の個性は俺のもので、左を封印するってのは違うんだってな」
左手を見詰める轟くん。
「俺は何にも見えちゃいなかった。親父のことも、俺自身のことも……お母さんの、ことも。ずっと囚われたままだった。なのに、緑谷のやつがめちゃくちゃやって、全部ぶっ壊しちまった」
緑谷くん。
そうか。緑谷くんはあの時、轟くんを救おうとしたんだ。
そして、私をも救おうとして声を掛けた。
"君が助けを求めてたから"
ああ、すごいな……
緑谷くんは、あんなボロボロになっても、成果が評価されなくても、もう既に、自分なりに誰かを救わんとしてたんだ。
殻を破られた轟くんは、お母さんに会いに行った。お母さんやお父さんと何があったのか多くは語らなかったけど、轟くんはそこで何かを見つけ出したという。
個性、夢、両親……自分自身と向き合うための何かを。
「ちゃんと見てみようと思う。親父が……お前が憧れるNo.2ヒーローが、どういうやつなのかって」
頭ごなしに否定して悪かったと、轟くんは謝罪した。
「ううん、私こそごめん……ってまた謝っちゃった」
「……フ」
あ、轟くんがちょっと笑った。
そんな顔もするんだ。
ぶつけ合って、砕かれて、立ち上がって、謝りあって。
張り詰めていた心が緩和して、少しずつ溶け合う。
見失ったもの、忘れていたものを拾い上げて。
「お互い、スタートラインに立ったばかりだね」
「そうだな」
「私、頑張るよ。今度こそ間違えないように、お母さんみたいなヒーローになれるように」
「ああ、俺も……ヒーローになるために行く」
目標を掲げて、歩き出す。
ゴールはそれぞれ異なるかもしれない。
でも、共に歩む仲間として、戦友として、励まし合うことくらいは許されるだろうか。
「一緒に進んで行こう、前に」
応えるように轟くんが微笑む。
それを見て、私も、何も気負わず笑えた気がした。
色んな想いが重なり合って、絡み合った体育祭。
それぞれの答えを得て、休日が明ける。
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後書き。
第一章はここまでです。
夢主と轟の出会いと、夢主のヒーローへのこだわりについてと、夢主と轟のそれぞれの答えを書きたかった。書けてますかね。
ここからやっと動き出します。
2017.07.15