職場体験・最終日
「全ては正しき社会の為に」 光届かぬ路地裏で、ヒーロー殺しが佇んでいる。 その手には刀。周囲にはヒーローの屍。 「俺を殺していいのは本物の英雄だけだ!!」 血濡れの刃を振るって男は叫ぶ。 「偽物は正さねば……誰かが血に染まらねば……!」 動けない。 体が石のように固まっていた。 ヒーロー殺しがこちらに来る。 奴の個性なのか、気圧されたのかも分からない。 一歩一歩が重圧を生むかのようで。 「貴様も、粛清対象だ」 血走った目が見下ろす。 振り上げた刃が、振り下ろされ―― 「!!」 思わず飛び起きた。 息は乱れて、全身汗でぐっしょりだった。 眠ってたのか…… ベッドの側に置いたスマホを探り、ホームボタンを押す。 浮かび上がった数字は午前3時を示していた。 ここは保須市の総合病院。 一応日付は変わっているので、ヒーロー殺しステインとの戦いの翌日になる。 ……あの後、立ち上がった飯田くんの活躍で、ヒーロー殺しを取り押さえることが出来た。 結局私の体が動くようになったのは終盤だけで、轟くんに投げられたナイフをかばった飯田くん、に更に投げられたナイフを蹴飛ばしたくらいだ。 飯田くんと緑谷くんによる一撃と、更に追撃を喰らって動かなくなったヒーロー殺しを縛り上げ、大通りへと出た。 そのタイミングで続々と集まってきたヒーローたち。 その中には緑谷くんの職場体験先の人もいて、そのやり取りに安堵したのもつかの間。 あの翼を持った異形のヴィランが飛来して、緑谷くんをさらった。 一瞬の出来事で誰も対処できないまま、みるみるうちに上空へ逃げていくヴィラン。 その場の全員がまずいと思っただろう。 でも、問題はその後だった。 攫われた緑谷くんを助けたのは……ヒーロー殺しだった。 隠し持っていたナイフで縄を切り、ヒーローの頬に落ちた翼のヴィランの血を舐めとり、落ちてきたところで躊躇なく頭を突き刺した。 その残忍さもさる事ながら、人質を取られた事態に焦るヒーロー達。 そこへエンデヴァーさんも駆けつけ、交戦体制に入ろうとしたところで―― 「……ッ」 思い出すだけでも震え上がる。 あの迫力は、執念という言葉では収めきれない。 誰も動けなかった。 エンデヴァーさんでさえ。 ヒーロー殺しの気迫は、あの場にいた全員を、深く蝕んでいた。 目的不明の異形のヴィランと、"本物"のヴィラン。 "個性"の使い方と、ヒーローとしての行い。 昨日の出来事は私にとって初めてのことばかりで目まぐるしく、そしてなにより、ヒーロー殺しの最後の姿が脳裏にこびりついて離れなかった。 *** 結局ろくに眠れないまま夜が明けてしまった。 検温や朝食を済ませて、ぼんやりと昨日のことを思い返す。 ヒーロー殺しに切り裂かれた肩の傷。 ジクジクと痛みが続くものの、処置を受けて綺麗に縫い合わされていた。 改めて振り返ると、相当危ないことをしちゃったものだ。 ヒーロー事務所の職場体験中とはいえ、まだ学生だし、監督役の言いつけも守らなかった。 エンデヴァーさんはなにやら忙しそうにしながらとりあえず病院に待機しろの一言だけだったけれど、あれは相当ご立腹のようだし、先生やおばあちゃんにも何を言われることか…… 成績に響くんだろうか。ヒーロー科への編入が遠のいたらどうしよう。 相手が相手だけに、メディアが大々的に取り上げて大騒ぎされるかもしれない。 うう、トラウマ…… コンコン。 ノックの音。 扉が開いて、ヒーロースーツの人が顔を覗かせた。 確か飯田くんの職場体験先のヒーロー。 四人部屋の扉側のベッドにいた私を見付けるとちょいと手招きする。 「?」 呼ばれるままにベッドを降りて、廊下へと出ると、緑谷くんのところの……グラントリノさんと、背の高い男性が……男性……犬?! ああ、そういう個性か…… 「綾目さん、だったね。こちらは保須警察署署長の面構犬嗣さん」 「しょ、署長?!」 「初めまして。これから君達に少し話したいことがあるんだワン。煩わせてすまないが、少年達の部屋に集まってくれないか」 ワンって言った。ワンって言った。 しかし署長がわざわざ来るだなんて、いよいよとんでもないことを仕出かした感が出てきた。 私の明日はどっちだ。 ハラハラしながら廊下を渡って、別の病室前に辿り着く。 こちらも四人部屋で、昨日緊急入院した雄英ボーイズ達の話し声が漏れ聞こえる。 そろりと扉をスライドして、中を覗いた。 轟くんと、緑谷くん、飯田くん。 それぞれベッドの上に座っている。 体のあちこちに巻かれた包帯、特に飯田くんの怪我が目立つけれど、皆元気そうだった。 「おはよう皆」 「綾目」 「あ、綾目さ……」 こちらに気付いた面々が声を掛けてきたタイミングで、スルリと部屋に入ったグラントリノさん。 「おおォ起きてるな怪我人共!」 「グラントリノ!」 緑谷くんがグラントリノさんの姿を目に留めた途端、背筋がピンと伸びた。 続いて入ったマニュアルさんに気付いた飯田くんも姿勢を正す。 「すごい……グチグチ言いたい……が、その前に来客だぜ」 グラントリノさんの言葉を受けて部屋に入る面構署長に、それぞれの反応を見せるA組男子達。 緑谷くんがわかりやすく驚いているのでちょっと共感。 それから、面構署長の"少し話したいこと"が始まった。 *** 話が終わって少し経った今。 診察を終えて先生から受けた話では、無茶な動きをしなければすぐに塞がるだろうとのこと。 あとは通院して経過観察となったので、退院手続きが完了するまでの間、気分転換にロビーへ来ていた。 自販機で紙コップのジュースを購入して、適当なソファに腰掛ける。 そして、ため息を一つ。 面構署長の話は、私にはまだ重いものだった。 免許未取得者の個性による武力行使は規則違反。 署長の計らいで、その事は公表されずに済むことになったけれど…… 少しだけ割り切れなかった。 ヒーロー殺しを捕えた功績が、大人の事情で消えてしまうから。 私のことじゃない。私はちっとも動けなかったから構わない。 でも、他の皆は間違いなくヒーロー殺し捕縛の功労者だ。 それなのに、世間の誰にも賞賛されないのは……誤解、されるということだ。 規約違反はもみ消されるから、ヒーローへの道は変わりなく続くだろう。 その時、皆の行いは誰にも知られないんだ。 ただヒーロー殺しと見えてしまった不運な高校生として語られるだけ。 それは、お母さんが受けた侮辱と同じじゃないのか。 公表すれば罰せられる。だから、飲み込まなくちゃいけない。 それに……ヒーロー殺しの言葉が頭の奥で反響している。 オールマイトのような"正しきヒーロー"に固執した男。 あの男と邂逅した時は、救うべき人を前に躊躇したところを指摘されたけど、不当な評価に不満を持つのも、あの男の言うヒーローが持つべきじゃない"私欲"になるんだろうか。 何もできなかった悔しさや、ヴィランに抱いた恐怖も。 私がなりたいと思った"ヒーロー"は、そんなものを持たないのだろうか。 ヴィランと対峙して、誰かを救おうとして、初めて気付いた。 自分が目指していたはずの"ヒーロー"が分からなかった。 ヒーローって、なんだろう。 昨日までの体験が浮かんでは消えていく。 エンデヴァーというヒーロー。 街の中で出会ったヒーロー。 飯田くんが憧れたヒーロー。 ヒーロー殺しが渇望したヒーロー。 緑谷くんが影響されたヒーロー。 そして、轟くんの…… どれが正解なのか、何が正しいのか分からない。 頭がモヤモヤしたまま、テレビ画面を虚ろな目で見ていた。 ロビーに備え付けられた大きなテレビでは、ちょうどエンデヴァーさんの会見映像が流れていた。 『エンデヴァーヒーロー殺し捕縛』なんて文字が映っているけれど、当のエンデヴァーさんはとてつもなく不服そうな顔をしている。 エンデヴァーさんもまた、不当な評価を受けてしまったわけだ。 記者が巻き込まれた高校生について質問した時、眉間のしわが更に深くなったのを見た。 げっ、ごめんなさい。 ……そういえば、職場体験はまだ続いてるわけだし、退院したらエンデヴァーさんのところに戻ることになるのかな。 というか戻って大丈夫かな。 エンデヴァーさんはヒーロー殺しを捕まえただけじゃなく、その他のヴィラン達も倒している。 多少街のものを壊してしまったり、相手取ったヴィランも命に別状なしとはいかなかった。 あれだけ猛威を振るったヴィラン相手だから手加減なんてしてられなかっただろうけど、命があるのとないのでは事務処理に取られる時間もかなり違うらしい。 ちょうどニュースの内容がエンデヴァーさんの活躍に切り替わる。 ニュースキャスターの後ろに映し出された、壁が高温で溶けた跡や、地面に残った焦げ跡の映像。 それを示しながら、エンデヴァーさんが壁を走ったとか、ヴィランの頭を超高温で炭化させたと解説する専門家。 流石のNo.2はその活躍を絶賛されている。 ほうほうそれは……見たかった!! あの規格外の化け物を倒しちゃうなんてすごい。見たかった! あのメラメラしてるブーツ、歩きながら超高温にもできるんだ。 壁を走って翼のヴィランにも飛びかかるなんて、見たかった、なあ!! くっと唇を噛んで悔しさに絶える。 もはやただのファンでしかないけどあんなに近くにいたのにその活躍を目にできなかったのが残念すぎる。 あの時はそれどころじゃなかったとかは別問題だ。もはや職場体験中だとかも今は置いておいてほしい。 ヒーロー志望として学ぼうが、父親としてのエンデヴァーさんを垣間見ようが、やっぱりファンはファンなのである。 く、や、し、い!! 悔しさに身を震わせていたので気付かなかった。 傍に人が立っていたことに。 「おい……大丈夫か綾目」 突然名前を呼ばれてビクリと揺れる。 顔を上げれば、病衣姿の轟くんが紙コップ片手に立っていた。 「あっ?!……と、轟くん」 「どっか痛むのか?なら病室に戻って看護師を……」 「あっいやそういうわけじゃなくて!全然大丈夫、大丈夫です!!」 不自然に焦る私は相当変だったろうけど、轟くんはそれ以上つっこむことはなく「そうか」と一言だけこぼして隣に腰掛ける。 仮にも職場体験中に何を考えてるんだとか思われなくて済んだ。 というか何をしに来たんだろう。 「えと、轟くんも気分転換?」 「いや……病室まで行ったんだが、居なかったから探した」 「え、何か用事だった?ごめん」 「用って程じゃねぇが」 言葉を置いた轟くんが紙コップを口に運ぶ。 それから改めて口を開いた。 「車で飯田のこと話した時、覚えてるか?」 「え?……あ、初日の?」 職場体験一日目、保須市へ移動する車内のことだ。 そういえばあの時、轟くんは何か言いかけていた気がする。 「あん時おまえ、堅苦しいこと考えてただろ。飯田の込み入ったことに首突っ込むのはよくねぇとか。で、そのせいでヒーロー殺し相手に動けなかった」 「う……そ、その通りです」 それは、昨日からずっと気にしていたことだ。 ヒーロー殺し自身にも指摘されてしまったこと。 轟くんにまでバッチリ言い当てられてしまった。 そんなに分かりやすい顔してたのかな。 いや、そもそも轟くんには迷惑かけたり自分の考え話したりしてたし、想像できたのかもしれない。 「体育祭がきっかけなんだろ。俺が原因みたいなもんだから、気にすんなって言おうとしたんだが……なんか違うと思ったら、上手く言えなかった」 「轟くんはなんにも悪くないよ!というか……そうだね、なんか違ったんだと思う」 体育祭で轟くんのデリケートな部分を引っ掻き回して、その反動で頑なになったと思っていたけれど、それだけじゃない。 今回の事件を振り返って、さっきも考えていたことが浮かんでくる。 "救うことを躊躇するなど言語道断……貴様も偽物だ" "余計なお世話はヒーローの本質なんだって" "なりてえもんちゃんと見ろ!!" "俺が折れれば、インゲニウムは死んでしまう" ヒーロー殺しの言葉や、皆の行動を見て感じたことがあった。 私との違い。 ヒーローを目指す者としての心構え。 A組の皆にあったものが、私にはなかった。 「私が最初にヒーローを目指したのは、私の個性を証明するため……私は、ヒーローを手段として選んだ」 ヒーローになりたいから目指したわけじゃなかった。 それからがむしゃらに突き進んでここまで来て、一度ぽっきり折れてしまった。 再スタートを切れたのは、お母さんへの気持ちを思い出したから。 でも、お母さんはヒーローじゃない。 今の私は"ヒーローの理想像"がない、宙ぶらりんの状態だ。 「ヒーローってどんなものなのか、わかってなかった。ファンとして憧れたり、すごいなって思うことはしても、ヒーローらしく在るにはどうするべきかって考えてなかったんだ」 「……」 「ヒーローってなんだろう……」 ため息交じりにこぼした疑問。 じっと耳を傾けていた轟くんが、ふと答える。 「免許持ってるやつ」 「いやそうだけど、うーん!」 確かにその通りだけど。 そういうことではなく。 頭をワサワサかき回し始めた私に対して、轟くんは考えながら言葉を紡ぐ。 「……俺個人の話だが、一番最初に憧れたのはオールマイトだった。あの人みたいなヒーローになりてえと思った。……思い出したのは最近だが」 オールマイトに憧れて。 轟くんにもそういうのはあったんだ。 オールマイト。平和の象徴、誰もが認めるNo.1ヒーロー。 憧れる人は沢山いて、ヒーロー志望なら目標にしてる人も大勢いるだろう。 オールマイトが、"理想のヒーロー像"ということだろうか。 ヒーロー殺しもオールマイトを強く意識していたけど…… でも、轟くんの次の言葉はそれを否定した。 「けど、誰もがあの人みたいになれるわけじゃねぇし、なる必要もねえ……と思う」 「……」 「ヒーロー名乗るのに必要なもんなんて、言っちまえば免許しかねぇんだ。プロ見たって色んなヒーローがいる」 ……確かに。 この3日間でヒーローの役割のことを考えていたけど、それだけじゃない。 ヒーローとしての在り方そのものも、様々だ。 唯一無二の平和の象徴や、上昇志向マシマシなヒーロー、自分の出来る範囲を守るヒーロー、名誉や人気のために活躍するヒーロー…… 「ヒーローの基準なんて人それぞれだ。大事なのは、自分がどう思ってどうしたいかじゃねえのか」 「……!」 自分がどうしたいのか。 ヒーロー殺しの言葉で動揺していた。 責められて、私はヒーローとしての何かが足りないと思った。 でも、ヒーロー殺しの価値観はあくまで一つのヒーロー像。 そして、緑谷くんの目指すところも、飯田くんが継いだものも、轟くんが進む先も、それぞれのヒーロー像だ。 免許を持ったプロにだって、色んな人がいる。 それは、一人ひとりがヒーローについて考えて、導き出した結果だ。 「だから……おまえはおまえのなりたいヒーローになりゃいい」 「受け売りだが」と付け加えた轟くん。 その言葉は胸の奥にじわりと広がった。 「私の、なりたいヒーロー……」 それは……お母さんみたいなヒーローになりたい。 そう思って職場体験に挑んだ。 お母さんみたいに、この個性で誰かを安心させてあげられるように。 「憧れた人はヒーローじゃなくて、まだヒーローがどういうものかよく分からない……なりたい"ヒーロー"は、これから形作らなきゃいけない」 歩き出したと思ったら、早速つまずいてしまった。 個性のことも、ヒーローのことも、まだまだ中途半端だ。 「それでも……目指していいのかな。なれるかな、ヒーローに」 「なれる。おまえはもう、自力で"個性"の使い方を変えた。それだけの力があるってことだ。今更外野に何言われようが変わらねえだろ。それに……飯田を助けようとしたお前は、ヒーローらしいと思う」 「……!」 轟くんは認めてくれていた。 私の努力や、個性を。 私の行動を。 なんというか、嬉しかった。 そうか。私、行けるかな。 何故か出来る気がしてくる。 「……ありがとう」 嬉しさと気恥ずかしさが混ざって、なんだかへんてこな笑みが零れた。 「別に。おまえ、妙なところで真面目だからな。あんま考えすぎんなよ」 「それ、麗日さんにも言われたなぁ……」 頬をかく私を見て、轟くんの表情がふと和らいだ。 轟くんには助けてもらってばかりだ。 轟くんだけじゃない、色んな人に迷惑掛けたり、助けてもらったりしてた。 自分の力のなさを痛感するけど、それと同時に仲間の存在のありがたさを感じる。 だから、私の"ヒーロー像"は…… *** 病院を退院した後は、エンデヴァーさんの事務所に戻っていた。 勝手な行動を取ったこととか、肝心な時にエンデヴァーさんとのパスが切れてしまったことなど、案の定しこたま怒られてしまった。 けれど、個性の新しい使い方、遠隔での情報伝達は評価された。 そしてなんと、雄英高校で充分経験を積んだ後は、事務所のサイドキックとしてスカウトしてもよいと言ってもらえた。 No.2のサイドキックなんて、実際のサイドキックからも聞いたけど、とても良い経験になるだろう。 それだけ私の個性を買ってくれていたらしい。 「その個性ならば俺の事務所の弱点をカバーできるからな。……だが、君はお母上を目指しているならば、ヒーローにこだわる必要はなかろう」 職場体験最終日、事務所のエントランスでエンデヴァーさんと向き合っている。 まだタジタジしてしまうけれど、がんばってエンデヴァーさんを見上げる。 苛烈さを纏った瞳は、真っ直ぐにこちらを見ていた。 エンデヴァーさんはエンデヴァーさんの考えで、事務所の強化を図っている。 その上で、こちらの意思も考慮してくれている。 なら私も、私の考えを返そう。 「そうですね……でも、やっぱりヒーローになりたいんです」 ヒーロー以外の道。 一番落ち込んだ時、お母さんへの憧れを強くしたとき、お母さんと同じ仕事に就くという選択肢を考えなかったわけじゃない。 でも、今は違った。 今は、ヒーローになりたい理由があった。 「母のように誰かを安心させられるような人になりたい……それが私の目標です。でもそれだけじゃなくて。今は、共に目指してる仲間達と、肩を並べられるような人に……ヒーローに、なりたいです」 その言葉を聞いたエンデヴァーさんは不服そうな、呆れ半分といった顔をしていた。何を子供じみたことを、といった感じだ。 言っててちょっと青臭すぎたとも思う。 でも、それでいい。 それが今の私に見える目標だ。 憧れたのはお母さん。 でも、今の私がヒーローになりたいと思う理由は、沢山の人に助けられたからだ。 おばあちゃん、麗日さん、飯田くん、緑谷くん、エンデヴァーさん、学校の先生、出会った人々と……そして、轟くん。 その人達に、胸を張れるようにありたい。 「そのために、私、もっと強くなります。身も心も強くなって、出来ることを沢山増やして……私の目指すヒーローを探します」 麗日さんも言ってた。 出来ることが増えたら、視野が広がる。 だから、私のやりたいことをやろう。その中で、理想のヒーロー像を見付けられるように。 「好きにしろ。……一つ教えてやろう。君のお母上は仕事柄個性をあのように使っていたが、さらに機能を拡張した技があると言っていた。個性のバリエーションを求めるなら参考にしろ」 「技……?」 「詳細は知らんが、映画のようなものだと言っていた」 映画……? よく分からないけれど、これもエンデヴァーさんからのヒントだ。 お母さんの仕事での使い方は分かったけれど、ヒーローとしての使い方はまだ道があるのだろうか。 それは、もしかしたら弱点の対ヴィランをカバー出来るかもしれない。 「ありがとうございます!」 勢いよく礼をする。 また道が見えた。 まだまだ遠い道のりだけど、いろんな人のお陰でなんとか進んでいける。 迷惑掛けたり、気にかけてもらったり、感謝してもしたりないなぁ…… 「フン。せいぜい励むことだ」 そっけない言葉を残して、エンデヴァーさんは事務所へ戻る。 No.2ヒーロー、エンデヴァー。 事件解決数は最多、しかしその性格ゆえ支持層が極端なヒーロー。 私にとって、ファンとして憧れるヒーローで、尊敬する先達者。 その大きな背中を見送った。 *** 事務所から少し離れたところで、轟くんが壁にもたれて待ってくれていた。 「終わったか」 「うん。おまたせ」 「……なんか言われたのか」 「ん?」 轟くんが私の顔を見ている。 「ニヤついてるぞ」 「え、あー、いやぁ……エンデヴァーさんはすごいなと。事件直後で色々大変だったろうし、めちゃくちゃ迷惑掛けちゃったけど……叱るところは叱って認めるところは認めてくれたし、アドバイスまで貰えちゃった。個性もかっこいいし、迫力あるし、やっぱりすごいと思う!」 「……」 轟くんの目が遠いところを見ている。 ヒーローとしてのエンデヴァーさんと向き合ったとはいえ、嫌いな人の話を聞かされて楽しいはずがないだろう。 申し訳なくなって、まくし立てていた口を閉じる。 別の話題……ああ、そう言えば。 「轟くん、助けてくれてありがとう。まだお礼も言ってなかった」 「いや。ありゃ俺の力だけじゃねえし、おまえだって飯田を助けただろ」 「うーん、私はほぼ動けなかったし……なんていうか、本当に危なかった時に駆け付けてくれた轟くん、すごくかっこよかった。ピンチに現れるって、まさにヒーローだよ。それに、轟くんの個性も初めて近くで見たから、ちょっと感動しちゃった」 「……そか」 あの時は、本当に感動した。 タイミングの良さもあったかもしれないけど、暗がりで煌めく轟くんの炎が綺麗で、力強くて、思わず肩の力が抜けてしまった。 なんだか感想言っただけみたいになってしまったけれど、感謝してるのは本当だ。 轟くんにも、緑谷くんにも、飯田くんにだって。 あの場に居合わせたプロヒーローや、エンデヴァーさんにも…… 「あっ!エンデヴァーさんにサイン貰っとけばよかった……」 「……結局そこに行くのか」 「アッ」 職場体験が終わる。 --- 後書き。 これにて第二章はおしまいです。 轟くんとの接点を増やしながら夢主にとってヒーローとは(哲学)的な話がしたかった。あと個性のランクアップもやはりバトルものとしては欲しいところ。これは夢小説ですが。 難産でした。書いてる途中で色々脱線しまくりとっちらかってしまったので、そのうちサイレント修正するかもしれません。 これからやっと夢要素入れられそうです。ここからが本番。 2017.08.20
DADA