仮免試験・控え室
バキン。 「!」 「み、見えるようになった……」 何かの破壊音の直後、ノイズ混じりの液晶のようだった視界がクリアになる。 忍者衣装に身を包んだ受験生達が一斉に顔を上げた。 瞬きをしたりきょろきょろと辺りを見渡して、自分の視覚が正常に戻ったことを確認している。 「こいつだ。あの雄英女子が投げた」 黒い忍者服の受験生が、ひしゃげた球体の機械を忌々しげに持ち上げた。 「くそ、やっぱり体育祭から成長しているか」 「まだ遠くへは行っていないはずだ、探せ!」 赤い忍者が号令を掛け、忍者集団は一斉に疾駆する。 流れる視界の中、黒い忍者は建物の陰に見えた人影を捉えた。 「!」 物陰から飛び出したのは、先程遭遇した雄英の女子生徒だった。 右腕を大きく振りかぶったゆめがその手に握っているのは、先程破壊したものと同様の球体。 「そこか!」 即座に地面に手をつき、金属の棒を叩きつけた。 派手にぶつかった音と、立ち込める砂埃。 コンマの差で、砂塵の中から球体が飛んでくる。 「二度も同じ手を喰らうか!」 即座に反応した黒い忍者が、宙を飛ぶ球体を金属で貫いた。 一瞬視界に走ったノイズもあっけなく消える。 「あいつを仕留めれば残るは轟だけだ。俺が――!?」 煙が晴れたそこに、ゆめの姿は無かった。 砂塵の向こうに揺らいだ人影は、確実に金属に拘束されていたはずだ。 「何処に……」 「後ろ、轟だ!」 動揺する黒い忍者に鋭い声が飛ぶ。 入り組んだ工場の路地から、氷と炎が膨れ上がるように向かってくる。 水の"個性"を持つ忍者と、巨大化の"個性"の忍者が対応する。 派手に割れた氷が炎に煽られ水蒸気と化し、黒忍者の視界を奪った。 「チッ……」 仲間達は轟の方へ向かったようだが、黒忍者に轟の姿は見えない。 ゆめの姿も見付けられず、黒忍者は舌打ちをする。 その時、水蒸気が大きく揺らぎ、破るようにゆめが飛び出した。 腕を伸ばして迫る少女。 黒忍者は素早く身を屈めた。 「させるか!」 手をついた地面から飛び出した金属が、ゆめの胴目掛けて走る。 だが、彼女を捉える寸前、その姿は水蒸気の中に消えた。 「!?」 驚愕する黒い忍者。 水蒸気の向こうでくぐもった声が聞こえたが、視界は一向にクリアにならない。 再び揺れた水蒸気、垣間見えた少女の姿に、今度こそと黒い忍者が金属を伸ばす。 「がっ!」 風を切って伸びた金属塊は確かに何かを捉えた手応えがあった。 だが、それを確かめようにも水蒸気が邪魔をする。 ……いや、違和感がある。 あの氷塊が全て気化したとはいえ、これ程立ち込め続けるのはおかしい。 「くっ……!」 黒忍者を襲う炎。 金属の板を出現させ、咄嗟に壁を作った。 対面して改めて感じる轟の規格外の"個性"。 立て続けに迫る炎と氷が、思考を中断させる。 先程までの連携では確かにこちらのペースで運んでいた筈なのに、いつの間にか後手に回っていた。 「おい、さっきから何をやってる!」 不意に飛んできた仲間の怒号。 靄に覆われ見えづらいが、赤忍者がこちらへ向かっているらしい。 ゆらゆらと浮遊する水蒸気の中に、複数の影。 「……!?」 どれが赤い忍者だ。そして残るどれかが雄英女子か、あるいは轟…… 晴れない視界、掴まらぬもどかしさが黒忍者を焦らせる。 「……ッ!」 一瞬の差、最初に現れた影は、忍者服ではなくヒーローコスチューム。 咄嗟に伸ばした金属塊がその人物を掴み、勢いよく壁面に叩きつける。 今度こそ、捕らえた。 ――だが。 「なッ!!」 打ち付けられた衝撃で気絶しているのは、赤い忍者だった。 動揺する黒忍者は、"個性"を発動する手を止めた。 そのタイミングで水蒸気が音もなく晴れる。 そこには――金属に捕らわれ、ご丁寧に上から氷で覆われた仲間達の姿が浮かび上がった。 黒忍者が自らの"個性"で捕えていたのは、全て仲間だったのだ。 幻覚。 恐らくこの水蒸気も、ちらちらと見えた影も全て。 仲間達の姿にゆめの姿を重ねていたのか。 「……いつから!?」 「最初から。貴方が私に"個性"で金属を伸ばした時から」 動揺した黒忍者が挙げた声に、背後から返答があった。 冷静さが失われた黒忍者は、意識の向くままに振り返る。 「体育祭の状況、ちょっとは分かってもらえました?」 対するゆめは、余裕ぶって肩を竦めてみせた。 「貴様ッ……」 黒忍者が行動するより早く、ゆめがその足を強く払った。 バランスを崩した黒忍者が一瞬宙に浮く。 その瞬間、氷塊がその体を包み込んだ。 「!!」 接近していた轟による拘束。 宙に浮いた体が金属に触れる事は愚か、完全に手も足も出ない。 「……ッ……!」 氷の中でどれだけ暴れてもピクリともしない。 終わる。試験が終わってしまう。 黒忍者の心身に、冷たいものが流れ込んだ。 「……終わりだな」 「うん!」 小さく息をついた轟に、ゆめが安堵したように笑いかける。 「なんとかなったね……」 「今日が初めてってわりには余裕そうだったな」 「いや、そう見せてただけだよ……緊張したぁ」 黒忍者の目の前で行われる会話。 まるで緊張感のない安心しきった声。 胸を撫で下ろすこの少女は、初心者のような発言をした。 「あとはこれをターゲットに当てるんだよな」 「そうだね。えーっとボールボール……」 ガッチリと固められた氷の中で、悠長にポケットを探るゆめの姿を映す。 黒忍者の中でふつふつと湧き上がる感情は、怒りだった。 黒忍者にとって、二度目の試験だった。 絶好のロケーション、連携の取れた仲間達と、練りに練った対策。 雄英高校はその名に相応しく、毎年実力派が揃っている。 そこさえ落とせば勢いに乗り、合格まで駆け抜けられる。 そう笑い合って挑んだ試験だった。 だのに、普通科の女子生徒、自分より二つも下の、経験も乏しい人物のせいで、あろう事か同士討ちをしてしまった。 「当てたら溶かすんで、動かないでください」 轟の左腕が、器用にターゲット付近の氷だけを溶かす。 どれだけ四肢に力を込めても、氷の拘束はびくともしなかった。 「クソ……こんな、こんな所で。こんな負け方なぞ……!」 実力は確かに持っていた筈なのに、それを出し切る前に封じられた。 力負けしたわけではなく、"個性"だって轟にも劣らなかった。 幻覚で惑わされてしまっただけで、終わってしまった。 「卑怯な……!」 荒ぶる感情のまま、ぎろりとゆめを睨む。 ゆめはその言葉に目を見開いた。 傷付いたような顔をして、口を開きかける。 しかし何も反論することなく、ふいと視線を逸らした。 ぐっと固い表情で目を伏せるゆめ。 その様を見た瞬間、黒忍者の感情が爆発した。 「俺はまだ……ッ!!」 手の中に隠し持っていたボルトにありったけの"個性"を込める。 一瞬の間に変形したボルトは、鋭い針のように氷を突き破った。 「っ?!」 油断していたゆめの頭部目掛けてしなる金属。 避ける間もなく直撃。 硬く短い音が反響した。 「綾目!」 声を発したのは轟。 大きく仰け反ったゆめの額から赤い雫が飛ぶ。 ひび割れた氷は、しかし砕けるまでには至らない。 悔しさに顔を歪めた黒忍者の視界で、ゆっくりとゆめの体が弧を描く。 倒れる体を支えようと、轟が腕を伸ばした、その時。 「――ハッ」 背中を撫ぜる冷笑。 悪辣さを孕んだその嗤い声は、傾いたゆめの口から。 急激に下がった温度に、轟の肌がぞわりと粟立つ。 怒りに身を任せていた黒忍者でさえ、一瞬全てを止めた。 傾き続けるゆめの体が、突然ばねのように縮む。 背中を反って地面に手をついたゆめが体をぐんと伸ばし、反動で飛び上がる足が黒忍者の顎を打った。 「カ……ッ」 容赦のない一撃。 脳を揺らした黒忍者は、あっけなく意識を手放した。 眼前で起こった出来事に、あっけに取られる轟。 ゆったりと立ち上がったゆめは、無感情に黒忍者を見下ろす。 「卑怯ってのはどっちのことやら」 抑揚のない声だった。 能面のような顔で佇んでいたゆめが、不意ににたりと口角を釣り上げた。 「クハッ」 ゆめの喉が引き攣るような嗤い声を漏らす。 伸ばしたままの腕も忘れ、轟は目を見張った。 ――あの時と同じだ。 林間合宿、毒霧に囲まれた森の中で。 冷たい狂気を孕んだ"野心顔"。 つい先ほどまでの、初めての実戦の後に見せた初心な気配など一つもない。 まるで別人のような―― しかしそれは突然に、歪んだ笑みは一瞬で消える。 糸が切れたように、ゆめの体は今度こそくずおれた。 「……ッ」 硬直していた轟だが、少女の体が地面に投げ出される直前、なんとか受け止める。 「……う」 一瞬意識が途切れていたようだが、抱えたゆめがにわかに身じろぐ。 薄らと目蓋を持ち上げたゆめの唇が、ゆっくりと動いた。 「あ、れ……?」 おぼろげに轟を見上げたゆめの瞳から冷たさは消えている。 膝をついた轟に抱えられている状況を飲み込んだ途端、「ほうあ!?」と奇声を上げて猫のように飛び上がった。 わたわたと周囲を見回すゆめ。 氷の中でぐったりしている黒忍者、その手から伸びる金属、額に滲む血を確かめて、合点が言ったと手を叩く。 「あそっか、この人の攻撃に当たっちゃったんだ!ごめんね轟くん!」 ほのかに頬を赤くして恥ずかしそうに謝罪するゆめからは、先程の邪気はすっかり身を潜ませていた。 どういうことだ。 一体今のゆめに何が起こっていたのか。 先程の様子まるで無かったかのように振る舞うゆめに、轟の中で疑問がわき上がる。 「綾目」 「へ?」 轟がゆめの肩をがしりと掴む。 真っ直ぐに貫く視線に、ゆめはたじろいだ。 「さっきのはなんだ?」 「さっきの……?あ、私の"個性"、金属を通して発動できるんだ。だから黒い忍者さんの伸ばした……」 「そうじゃねえ」 「……そ、そう。ええっと」 黒忍者へどうやって"個性"を発動したかの説明を遮る轟。 困ったように口を噤んでしまったゆめは、本当に分かっていない様子だ。 ――覚えていないのか、この短時間でさえ。 「綾目、おまえ……」 『えー現在通過者53名出ました。あと半分』 轟が更に問い詰めようとした時、アナウンスが流れた。 「もう半数……轟くん、先にターゲット当てちゃおう!えと、心配掛けたみたいなら後から医務室に寄るよ」 ボールを取り出したゆめが、轟の手をそっと退ける。 今は試験の真っ最中、今も会場中で受験生が戦っている。 他の事に気を裂いている場合ではないと理解している。 理解しているが、納得し切れない。 だが、元気だと笑って見せるゆめを見ては、それ以上追及できなかった。 *** 二人の忍者にボールを当てたところ、ターゲットからのアナウンスで控え室に向かうように促された。 轟くんと別れて医務室に立ち寄った後、控え室へ向かう。 最初に分断された時はどうなることかと思ったけど、運良く轟くんと合流出来て良かった。 中々上手く連携出来たんじゃないかな! 初めてのヒーロースーツ、初めての必殺技、上手く行ったし! 思い返して、思わず頬がゆるっとなる。 けど…… "卑怯な……!" 私の"個性"を卑怯だと言った、黒い忍者の人。 "アイジャック"、発動した対象の視覚をジャックする。 確かに、轟くんや緑谷くんみたいな、分かりやすい"個性"ではない。 力押しは出来ないから、相手を惑わせてその隙を突くような戦闘スタイル。 それは……私の"個性"は、弱くて、卑怯なんだろうか? ――違う。 私の"個性"は、弱くなんてない。卑怯なんかじゃない。 この"個性"はお母さんから受け継いだすごい力だ。 この力でお母さんみたいに、誰かを助ける人に。 でも、ヒーローになるには、これじゃ駄目なの……? 悶々としながら控え室の扉を潜る。 先の戦闘はもちろん、色々と疲れたので休憩したい。 控え室の扉を潜ると、色んなコスチュームの人がそれぞれ過ごしている光景が目に入った。 奥でターゲットを外してから、手近なテーブルからコップを拝借して、ペットボトルのお茶を注ぐ。 冷たい液体が喉を潤す感覚にほっと息を吐く。 轟くんはどこだろ―― 「綾目さん!!」 「んぶ!!」 飲み込んだばかりの液体が逆流しかけた。 後ろから大声で私を呼んだのは、夜嵐イナサくんだった。 元々体の大きな人だけれど、ヒーローコスチュームのマントやパイプでさらに大きく見える。 士傑高校のかっちりした学帽も相まって、雪国の軍人さんみたいなコスチュームだ。 「綾目さんも通過したんスね!お疲れっス!!」 「……うん、夜嵐くんも通過してたんだね」 汚れた口元を拭きながら、笑顔を作ろうとして口の端がひきつった。 いきなり声を掛けられて動揺したのもあるけれど、夜嵐くんへの苦手意識が表情筋を固くする。 「雄英の人とは戦えなかったスけど、熱い戦いだったっスよ!!」 「そ、そうなんだ……」 どう返答していいのか分からず、当たり障りのない笑みで濁す。 自分の戦いについて熱弁する夜嵐くんは、どうやら一番最初に通過した人だったらしい。 ということは、一人で120人を倒したというのは夜嵐くんだったのか。 雄英の誰かが巻き込まれてないといいけれど。 一応パスは繋げたままなので、ヘルメットに触れる。 マップを表示させても、中心のものも含めて点は二つしか映っていない。 この近くには轟くん以外いないみたいだ。 チカチカと点滅するマップを映し出したシールドに、夜嵐くんが食い付いてきた。 「それ"個性"っスか!? 体育祭観てて思ったけど、俺、綾目さんの"個性"あんま知らなかったっス!」 「あ、うん、そうだね」 夜嵐くんにはあまり"個性"は見せていなかった。 夜嵐くんだけじゃなく、中学の同級生とは殆んど関わらないようにしていたし。 興味深そうにぐいぐい突っ込んでくる夜嵐くんのテンションにたじろいでいると、マップに新たな点が浮かんできた。 点の数は4つ。 それは真っ直ぐ私の方角、つまり控え室に向かっている。 入口から姿を現したのは、八百万さん、耳郎さん、梅雨ちゃん、そして障子くんだった。 「あ、みんな!」 これ幸いと夜嵐くんの追求から身をかわして駆け寄った。 「綾目、もう通過してたんだ」 「うん、えっとターゲット外すキーが奥にあるから案内するね! ごめん夜嵐くん、失礼するね」 「あら? あちらでしたら案内がなくとも……」 「いいからいいから」 「ケロ……」 ハテナを浮かべる面々の背中を押してその場を離れた。 夜嵐くんは別段気にした様子もなく、腕を振り回しながら「次も頑張ろう!!」と大声で送ってくれた。 うん、悪い人ではない。悪い人では…… 「轟も通過していたか」 ターゲットを外し終えた障子くんが複製腕で視線をやった先は、壁際の椅子に腰掛けている轟くんだった。 あんなところにいたのか轟くん。 轟くんは紙コップ片手にじっとしている。 ……というかじっとこっちを見ている? そういえば、さっきの戦闘の後も何だか煮え切らないって顔をしてたし、知らぬ間に何か仕出かしちゃっただろうか。 元々轟くんはソロで行くつもりだったわけだし、お邪魔してしまったから怒ってるのかも。 四人が轟くんの方へ向かうので、後ろからついて行く。 「お疲れさま轟ちゃん」 「轟さんも通過していたんですのね」 「まあな」 声を掛けられた轟くんは、普段通りに言葉を返した。 杞憂だったかな?と思った矢先、轟くんが口を開く。 「あいつ、おまえの知り合いだったか」 「夜嵐くん?中学の同級生だよ」 「修学旅行とかでこっちに来たことはあるか?」 「えーと、修学旅行は……違うね」 「そうか……」 ぽつりと呟いた轟くん。 さっきの今で夜嵐くんと何かあったんだろうか。 中学時代の夜嵐くんをちょっと知っているので、轟くんと何事か起きてもおかしくはないかもしれない。 推薦入試の時には会ってるはずで、トップの成績で入学辞退……いや、考え過ぎかな。 *** 試験終了間際、A組は全員一次通過を果たした。 「綾目さんも通過したんだ!よかった」 「うん、緑谷くんもお疲れ様!」 緑谷くんと共に喜びを噛み締めるのもつかの間、アナウンスと共にモニターに映し出されたフィールドが、突然爆発した。 どよめく受験生達の前で、フィールドに現れたのは老若男女の無数の人々。 要救護者のプロ、HUCの人々を助ける救助演習が次の試験だった。 10分休憩の後に開始するらしい。 簡単な説明を終えると放送は止み、ざわめきはやがてつかの間の歓談に変化していった。 救護かぁ……知識としては備えてるけど、実践となると経験が少ないな。 A組の皆なら、授業で実践もしてるのかな? 少し離れたところでは、瀬呂くんが上鳴くんと峰田くんに声を掛けて何かを話していた、と思ったらすごい勢いで二人が緑谷くんに掴みかかった。 士傑生徒の女子を指差して騒いでいると、その女子がニコニコと緑谷くんに手を振ったので、二人はヒートアップする。 その流れでやってきた士傑生の皆さん。 全身フサフサの男子生徒が、爆豪くんに声を掛ける。 どうやら爆豪くん達は、さっきの試験で士傑生に絡まれたらしい。 「雄英とは良い関係を築き上げていきたい。すまなかったね」 「良い関係……?」 「良い関係……とてもそんな感じではなかった……」 峰田くんと緑谷くんが同じ言葉を異なるニュアンスで呟いた隣で、私もぽろりとぼやく。 「良い関係……」 士傑高校は雄英と並ぶ名門校、仲良く出来れば学ぶことも多いだろう。 けれど。 不意に目があった夜嵐くんが、ニカッと笑いかけてきた。 ただただ真っ直ぐな笑顔が突き刺さって、悪いことをしていないのに目が泳ぐ。 しかし、突然夜嵐くんの笑顔が消えた。 視線は私から外れ、別の所を見詰めている。 不思議に思って視線を辿ると、そこにいたのは轟くん。 「それでは」 そうこうしているうちに話は終わったらしく、士傑生の皆さんが離れ始めた。 そのタイミングで轟くんが動いた。 「おい坊主の奴、俺なんかしたか?」 夜嵐くんにストレートな疑問をぶつけた轟くん。 対する夜嵐くんは、大きな体でゆっくりと振り返る。 「……ほホゥ」 その声は冷たく、無表情に努めている顔は、隠しきれない嫌悪を孕んでいる。 「いやァ申し訳ないっスけど……エンデヴァーの息子さん」 「!?」 「俺はあんた"ら"が嫌いだ」 うわあ……。 好き嫌いのはっきりしている夜嵐くんが、はっきり轟くんを"嫌い"と言った。 いや、轟くん"達"を。 「あの時よりいくらか雰囲気変わったみたいスけど、あんたの目はエンデヴァーと同じっス」 夜嵐くんは体格が良いし目つきが鋭いから、睨まれると凄みがある。 視線を受けた轟くんの表情が、単純な疑問から少しの不快へと変わった。 その直後、士傑の先輩に呼ばれた夜嵐くんが大声で答える。 夜嵐くんが去った後も、轟くんは眉間にしわを寄せながら佇んでいた。 2018.09.24
DADA